盗賊の洞穴
お正月って過ぎるの早いですよね。
子どもの頃は長く感じましたが。
「ほれ、此処だ」
ランドルフに案内されたのは森深くの岩が沢山ある場所だった。
俺達が此処にいるのはリンネ・ペッタン・コアストリッドからの依頼だった。例の密猟者と繋がりがある盗賊団、"暗闇に潜む闇鯨"を討伐するのを手伝って欲しいとの事だった。
真摯に説明して、頭を下げるリンネの姿を見て無下にすることは出来なかった。
「あれが密猟団の根城か……」
「これは分かりづらいですね。周りにある木々もそうですが、岩肌が立体的に重なりあっていて側からは穴がある事すら気付けません。更に、街道にもほど近い事が寧ろこんな近くに密漁者達の本拠地があるはずないという心理を逆手にとっています」
俺もアイリスちゃんも巧妙に隠された隠れ家に舌を巻いた。
洞穴を根城としているのだが、この辺りは立体的な岩が重なりあって、自然と同化して側からは気づくのは困難だ。
「しかし、良く此処を見つけられたな。密猟者から根城の位置が割れたとはいえ、最初は探すの大変だったろ?」
「まぁ、俺は『盗賊』だし『暗殺者』程じゃないが気配を消す事なんて簡単だ。更には獣人だしなぁ。身体能力の基礎はアンタらより上だね。特に臭いを辿ればこんなもんよ」
「獣人は基礎能力では普通の人を上回ってますからね。更には種族ごとに特化した五感とかもありますからその理由は分かります。特に、ランドルフ殿はジャママ殿と同じく狼であり、嗅覚に優れていたのでしたら必然かと」
エドアルドの指摘は理を得ていた。
ランドルフも頷く。
「おう。まぁあとは俺達は外に逃げ出す盗賊がいないか見張っておくぜ。お嬢様の指示に一人として逃すなってあるからな。流石にそろそろ真面目にやらなきゃクビなんだわ、俺」
「なら常に真面目に働けば良いじゃない」
「そんなのヒノハだけで十分だ。俺はゆったり、ブラブラと過ごしてぇ。自由気ままに生きたいのよ」
「なら、なんであの人の下についてるのですか? 矛盾しているのです」
「あー……。お嬢様には恩がある。それだけだ」
何処と無く、照れた感じで頭をかくランドルフ。踏み入った話
「あぁ、そうそう。何か非常事態があればその鈴を鳴らしな。そしたらこっちとしても一応洞窟に入る奴決めて複数人で応援には行ってやるからよ。だから死ぬんじゃねぇぞ」
「心配してくれるのか」
「そりゃ、本来なら俺らがやらなきゃいけないことだからな。それを代わりにしてくれるアンタらには頭が下がるし、出来る限りの事はする。当たり前だろ?」
「……うん。そうか。ありがとう。じゃあ、後は任せなよ」
「おうよ。ふてぇ野郎どもをふん縛っちまいな」
「やっぱり見張りは居ないのね」
「天然の隠れ家ですから、寧ろ見張りを置けば居場所を把握される可能性があるという事でしょう。とはいえ、それはあくまで入り口までの事。恐らく内部は罠や待ち伏せといった類の物が沢山あるでしょう」
「エドアルドの言う通りだ。慎重に進もう」
本来ならこういった罠を解除する為に『盗賊』の職業のランドルフに着いて来て欲しいが彼にはこの場の包囲という役目がある。
もしも、何処からか逃げ道があったのならば逃げられた密猟者を捕らえる為にランドルフみたいな手練れは必要だから無理だろう。
だが最善は一人も逃すことなく盗賊団を捕まえることだ。
だからこそ、慎重に進まなければ。
「アヤメさん、少し待って貰えますか?」
俺の袖を引っ張ってアイリスちゃんが止める。
どうしたんだい、と尋ねるとアイリスちゃんは指先を舐めて掲げる。
「……やっぱり風が流れている」
「風が?」
「はい、僅かにですが感じる事が出来ます」
俺はアイリスちゃんの言いたい事がわかった。
空気の流れがあるということはつまり、別の入り口或いは出口があるという事だ。
「ランドルフ殿の話では周囲を見ても他の入り口は確認出来なかったとの事ですが」
「隠し通路って奴じゃない? 幾ら見つけ辛い天然の隠れ家でも、入り口が一箇所しかなかったら火あぶりとかで攻められたら終わりじゃない」
「成る程、道理ですな」
「アイリスちゃん、どんな風に流れているかわかるか?」
「ちょっと待って下さい……【風の精霊よ、我が言霊に込められし願いを聞いてください。吹きゆく風を頼りに、地形を把握せよ、風の乙女の道筋】」
ふわりと微かな突風が入り口から洞窟内部へ向けて吹いた。
「どうだい、アイリスちゃん?」
「……ちょっと、内部の構造が複雑なのと今感じた魔獣が思ったよりも多くてかき消されてたりして細かくは把握できませんでした。けど、風の精霊によると外から大きく回った所に確かに別の入り口があります。それで、アヤメさん。どうしますか?」
「どうするとは?」
「外の方々に伝えるのも手ですけど、わたしとしてはもう片方の方からも突入するのも手だと思います。恐らく、そっちからは攻めて来るだなんて考えもしないでしょうから」
成る程。
隠し通路からも攻めるということか。
アイリスちゃんの意見にエドアルドも賛同する。
「アヤメ殿、アイリス殿の言う事も一つの手かと。どの道我々全員が内部に侵入しても、中は入り組んで狭い可能性があり、直接対峙出来る相手の数は絞られるでしょう。現にこの入り口でも私が前に出れば、盾と槍が災いして後方からの援護はほぼ不可能になります」
「エドアルド。……確かにそうだな。なら、ランドルフに事情を話して別の方にも人を向かわせよう。問題は俺たちがどう分けるかだが」
「あの、でしたら分け方に提案があります」
アイリスちゃんが手を挙げた。
「それで、何で此方が選ばれたのかしら?」
ジャママを引き連れて洞窟の外を沿って歩くアイリスの後ろには怪訝そうなキキョウがいた。
「だってぼっちの力は氷による魔法攻撃じゃないですか。洞窟という閉鎖空間で、しかも前衛職と一緒に戦うだなんて無理ですよ。確実に前の人が被弾します。ぼっちも、そんな繊細な事は無理ですよね?」
「何よ! 信用してないって訳!」
「ふふっ、冗談ですよ。アヤメさんも、そして不本意ですがわたしも貴方の事は信頼しています。だから、頼りにしてますよ」
「な、何よ。今度はうってちがって殊勝なこと態度。ふふふーん、任せなさい。此方が相手なら誰であろうとゴミみたいなものよ」
機嫌良さげに歩くキキョウ。本当にチョロいですねという言葉をアイリスは飲み込む。
<ガゥッ>
「ぼっち、ジャママがこっちだと言っています。わたしも、不自然な風の流れを感じました」
「わかったわ」
そのままアイリスの案内で隠し通路に辿り着いた。だが傍目からは岩の壁にしかみえない。
「此処ですね。微かに隙間があります」
「本当にあるの?」
「ありますよ。けど狭いですね。何処かに岩を動かせる仕掛けがあると思うのですが……」
しかし探しても見つからない。どうやら巧妙に隠されているらしい。
「今更だけど態々中に入らないで、此方が入り口から氷で凍らせれば盗賊なんて一網打尽じゃないかしら?」
「その場合中にいるであろう動物もアヤメさん達も一網打尽ですね」
む、と眉を顰めるキキョウ。
遅まきながらもその事に気付いたのだろう。
「わかってるわよ……。それで穴は見つかったけどどうやって侵入するのよ? 正面からはアヤメとあのカチコチ騎士が突入したから盗賊の目はそっちに行ったと思うけど。穴もここのは狭くてとてもじゃないけど入れないわ。仕掛けも見当たらないし。多分、中ならしか開かない仕掛けなんでしょうね」
「それなら既に考えているのです」
アイリスはフードから袋を取り出し、袋の中からパラパラと何かを取り出す。
「何それ」
「植物の種ですよ。……ラディーチェの樹の種。これなら大丈夫そうです」
そのままなるべく穴の奥に種を置くとそこに手のひらを当てる。
「【種に宿りし精霊よ、わたしの声を聴いて、願いて、請いて、成長してわたしたちを守る屋根となってください】」
埋め込まれた種が一気に成長して、巨大な根っこが現れて洞窟の土を押しのけたのだ。結果、アヤメたちが侵入した洞窟の入り口と変わらぬ大きさの新たな入り口が出来上がった。
「さ、これで通れますよ」
<クゥン>
「強引ね」
「効率的と言ってください。植物の力を舐めないでください。森で種を食べた鳥が人の町で糞をしてそこから大樹が出来たなんて話もあるくらい植物は強いのです。この程度の洞穴に新たに入り口を作るのくらい造作もないのです」
「それくらい土精霊魔法でも出来るんじゃないの? てか、最初から土精霊魔法使えば態々《言の葉》貴方なら精霊魔法も使えるでしょ?」
「その二つは永続性に難がありますからね。精霊さんも貰った分だけの仕事をしているだけなので。仕事が終われば後は元通りです。後から解除されて生き埋めになるのは嫌です」
「なるほどね。ふふん、此方なら半永久的に氷をその場に留めることが出来るわけ。ちみっ娘と違って、精霊の力なんか借りずに魔力そのものを変質させて氷を作っているからね! どう? すごいでしょ?」
「あー、はいはい。スゴイデスネー」
「何よその言い方! ちょっと聞いてるの!?」
「聞いてますから静かにして下さい、気づかれちゃいます」
不満を露わにしつつもキキョウも、反響する洞窟で騒ぐのは悪手だと気付いているので押し黙る。
洞窟内は生温く、湿気に満ちている。天井には点々と光る目があることから多数の蝙蝠も住み着いている。
いずれにせよ長くはいたくない。
アイリス達は足音を立てたり滑ったりしないように慎重に進む。やがて、微かな話し声と灯りが見えた。
「ジャママ、どうですか?」
<カゥッ>
不自然な風の流れだと気付かれる可能性がある。此処は聴覚と嗅覚に優れるジャママに任せる。ジャママは小さく吠えた。
「……ぼっち、ジャママによるとここから先五人くらい人が居ます。やれますか? というかやってください。その為に一緒に来たんですから」
「人使いが荒いわね……はいはいわかったわよ。【濃霧の氷息】」
ふっと、キキョウが息を吐き出す動作をすると白い霧が瞬く間に盗賊のいる場所に広がっていった。
筆者の他作品、「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」と「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」も最新話投稿しています。下記から飛べますので是非ともお読み下さい!
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