不可解な現象
著者の別作品「おっさん船医ですが処刑されました。しかし生きていて美少女美女海賊団の船医やっています。ただ、触診をセクハラというのはやめて下さい。お願いします」も更新致しました。
興味のある方はぜひお読みください↓
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倒した魔獣たちが消えていく。
その光景に驚く俺たちに対して、シルは冷静に話す。
「大丈夫。これがこのダンジョンに住む魔獣の特徴だから。倒された魔獣は、姿が消えて、"不純なき魔石"だけが残る」
シルの言う通り、魔獣の姿が消えるとそこには透明な魔石……"不純なき魔石"だけが残った。
「これ、あの時見たのとおんなじだ」
「話にはお伺いしておりましたが、実際に見て尚信じられませんな。まさか魔石だけを残して魔獣の姿が消えるとは……」
俺と一緒に"不純なき魔石“を見ていたフィアとエドアルドが目を丸くして魔石を凝視する。
実際、俺も目の前で見て尚、信じられなかった。
「姿が見えなくなるだなんて。なら、さっきのは一体……"不純なき魔石"が本体だったというのでしょうか?」
「だが、実体はあった。俺の剣は、確実にあの魔獣を斬り裂いた」
「受け止めたあの力が、嘘だとは思いたくはありませんな」
「あたしも殴り合ったけど、確かに質量を感じたよ。あれが、一切残らず消えるだなんて信じられない」
アイリスの呟きに、直接的に魔獣とぶつかり合った俺たちは、一概に先程の魔獣との攻防が実体を伴ったものだと告げる。
「……そもそも、この魔獣何処から来たんだ?」
「え? アヤメさんどういう意味ですか?」
俺の言葉に、アイリスが首を傾げる。
「考えても欲しい。確かにこの魔獣は妙だ。だけども、生きているとするなら必ず何処かで生活をしていたはずだ。だが、あれだけの数が誰の目にも見つからず、俺たちの前に現れた。それが不可解だ」
「それは確かにそうね。それも、あいつら明らかに同種じゃなかったし」
俺の言葉をキキョウが肯定する。これが同じ魔獣達ならばまだ納得は出来た。リーダーとなった個体が群れを率いるというのはよくあることだ。
だが、明らかに別種同士が徒党を組んで襲い来るのは異常だ。魔獣の大行進と呼ばれる現象ならばあり得るが、あれは何かしらの理由で住処を追われた魔獣が大移動することによって人里に現れる現象だ。
先程の魔獣達は何かに追われてと言った感じではなかったし、今の状況とは、似ても似つかない。
「にいちゃん、それは答えが出ないよ」
「何?」
「魔獣はいつの間にか生まれている。そして、それが別種であろうと、争うことなく、人に襲いくる。それが此処の常識だよ」
常識、か。確かに俺よりも長くこの灯都に居たであろうシルは、数はともかく、別種魔獣達が現れたことに驚いてもいなかった。
「そもそも、現れた魔獣達は普通に山とかに棲息しているよ。でも、このダンジョンにいる奴らだけが、何故か倒したら魔石を残して消えるんだ」
「お待ちを。それは果たして同種として良いのでしょうか?」
「そこまではわからないけど、でも同じだと冒険者ギルドは判断している。だって、姿形の特徴とかは全く同じだから」
ますます、混乱してきた。
姿形は同じなのに、ダンジョンに住む魔獣だけが"不純なき魔石"を残して消える。どういうことだ?
こんな時、ユウとメイちゃんがいればある程度知恵を絞って憶測を語ってくれたりしたんだが……。
「……そもそも、あれは本当に魔獣なのでしょうか?」
『自然の調停者』であるエルフ。アイリスからしても違和感を拭えないのだろう。だけど、それに対する明確な答えを得ることは今はできないだろう。
「確かに気にはなるけども、あれこれ考えるのは帰ってからでも良い。今は、目の前のことに集中しよう」
「左様ですね。先のように、また魔獣の群れが襲い来るかもしれませぬ」
俺の言葉に、エドアルドが同調する。実際、ジャママがいるとはいえ思考に集中し過ぎて警戒が疎かになるのは得策とは言えない。
「上層は危険は少ないって聞いたが、気を引き締めた方が良さそうだな」
相手は生き物だ。
これまでがそうだからと言ってこれからもそうだとは限らない。
俺は力強く、柄を握りしめる。
「気を付けて進もう」
その後は予想に反して、というべきか。
あれから多くの魔獣が襲い来ることはなかった。
シルの土地勘と情報、ジャママの獣の勘により殆ど最初のような奇襲を受ける事なく、俺達は第一階層を突破した。
第ニ階層、通称"蔓延りの間"に降りた俺たちはそこでまた別の光景を目にした。
「これは、さっきと比べて開けた空間だな」
第一階層と比べても格段にわかるほどに、第二階層"蔓延りの間"は空間が広がっていて、視界にはちらほらと魔獣と戦っている冒険者達の姿も見えた。
「大きくて視界の良いところですね……アヤメさん、もっと奥に進むんですか?」
「いや、今日はよそう。初日から深入りするのはあんまり良くない」
その後、第二階層の入り口近くを探索するだけで今日は終えることにした。
まだ行けるんじゃないかという意見もあったけど、初めての探索で深入りは危険という俺の言葉とエドアルドの諫言もあり、余裕を持って俺達は本日の探索を終えた。
◇◇◇
とある酒場。
周囲には盛り上がる冒険者達が、今日の武勇や報酬を語り合い、酒を飲んで騒いでいる。
そこで俺達は丸いテーブルの席についていた。テーブルの上には"不純なき魔石"を換金した金貨が積み重ねられている。
「一日探索するだけでこれほどの大金が手に入るだなんて! これだけあれば、旅で不足しちゃった塩と胡椒も……ううん、いざという時の保存食だって沢山買えちゃいます!」
「"夢と欲望のるつぼ"だったか。確かにこれだけのお金を見るとそう呼ばれても不思議じゃないな」
キラキラと目を輝かせてアイリスは積まれたお金を一枚とって光にかざす。
あの魔獣の襲撃は予想外だったが、怪我の功名と言うべきか同時に沢山の"不純なき魔石"を手に入れた俺たちはかなりの金額を手にすることが出来た。
「お金がいっぱいだね! こんな大金見たことないよ!」
「正直此方はまだ人の世の経済とかよく知らないけども、それでもかなりの金額でしょ、これ」
「左様ですな。私はもっと大金を見たことがございますが、一日の収穫量としては破格の賃金かと」
「え、何それ自慢してる?」
仲間たちも目の前の大金に普段よりも饒舌に言葉をかわす。エドアルドの言葉にキキョウがツッコミを入れるが、彼は元一国の騎士団長でもあっただけに、より多くの金を見たことがあるらしい。
まぁ、それは俺もだけど。
そしてアイリスだが、彼女は意外とお金に関してはしっかりしている。昔聞いた物々交換が主流のエルフだけども、俺を追って来る時に学んだらしい。そして持ち前の技術で薬を作って、渡り歩いて来たらしい。
「そうだ、シルさん! 今日はありがとうございました!」
「別に大丈夫だよ。それが仕事だから」
「報酬を渡さないといけませんよね。えっと、アヤメさん。これくらいでどうですか?」
「あぁ、良いと思う」
「えっ」
俺はアイリスが提示した金貨を見て頷く。得た金貨を人数で割った分だが、シルはちょっと驚いた顔をした。
「こんなに、もらえないよ」
「なんでですか? シルさん、今日わたし達を案内してくれたじゃないですか?」
<ガゥッ>
「でも、おれ戦っていないよ」
シルは受け取ろうとしない。確かに、ダンジョンに潜る最中にシルは戦ってはいなかった。けど、それは役割が違うのだから当たり前だ。
けどシルは戦わなかった自分が、これだけ多くの金貨は受け取れないと固辞している。どうやら意思は硬いようだ。困ったなと思っていると、アイリスがシルと瞳を合わせて口を開く。
「シルさん、己のできる事を最大限にする。それも戦いなのです。貴方はわたし達の為に、ダンジョンという未知の領域を案内してくれました。今回わたし達がすんなりと進めたのだって、シルさんが過去に得た知識を活かしてくださったおかげです」
「おれのおかげ……?」
「そうですよ? 戦ってはいないといいましたが、それは違います。これは貴方が前に命をかけて戦って得てくれた情報に対しての正当な報酬なんです。だから、受け取ってください」
まさかアイリスの口からそんな言葉が出るなんて。
俺は感動していると、隣で聞いていたエドアルドが口を開く。
「アイリス殿、成長致しましたな」
「何か覚えがあるのかい?」
「えぇ、"進化しせし獣"の時に色々と」
どうやらあの言葉はエドアルドの受けおりらしい。
無表情が常のエドアルドだが、ほんの少し感嘆した様子では話を聞いていた。
シルはアイリスの言葉に悩んでいたようだが、やがて金貨を受け取った。
「……わかった。なら、ありがたく頂くよ」
「はい! どうぞ受け取ってください」
笑顔で頷くアイリス。シルは少し照れくさそうだった。
「さて! 報酬の話は済んだことだし、食事にしようか」
「あっ……だったら、おれ席外すよ」
「ん? 一緒に食べないのか?」
「だって……おれ、獣人だし……」
「そんなこと、気にする必要はない。この灯都に住む人達にとっては、そうかもしれないが他所から来た俺達には関係のないことだ。それに、友人を排斥する気だなんて、俺達にはないよ。そうだろう?」
俺の問いかけに、皆は頷いた。
「それに、俺はきみの話も聞いてみたい。だめか?」
「……へへ。変なの。でも、そういうことなら、一緒に食事させてもらうよ」
ここで初めて子どもらしい表情をシルが浮かべた。
「そうですね、でしたら先ずは食事を頼みましょう。うーん、これとかどうですか? お肉好きですもんね、ジャママ?」
<ガゥッ!>
「この辺り暑かったから冷たいのが食べたいわ。ないの、そういうの?」
「お待ちなさい。初めから脂っこいものや冷たいものを食べると胃がびっくりいたします。手始めに野菜かスープといったものから食べるべきです」
「やっくん、細かい」
アイリスがジャママやキキョウと共にメニューを楽しそうに確認したり、フィアに細かいと言われて、若干エドアルドがショックを受けたような顔をしていた。
俺はその様子を俺は見つめる。
その光景は、昔見たユウとメイちゃんと一緒にいた時を彷彿とさせ、懐かしさと寂寥感が胸の中を通り過ぎる。
「ははっ」
「アヤメさん? 頼まないんですか?」
「あぁ、うん。頼むよ。そうだな──」
料理自体は『勇者』時代の披露会での方が豪華ではあったけれども。
このひとときは豪華絢爛な城での宴なんかよりもずっと楽しかった。




