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番外編5の3 王の苦悩


 ユウとルヴィンの稽古から後日。


 玉座の間にて、三人の人物が何やら会話をしていた。


 一人は現太陽国ソレイユ、国王テュランノス・ディグニティ・オルグレン・ソレイユ。

 側に控えるは『焔光《プロミネンス》近衛騎士団』が団長、ルヴィン・オールマイティ・ルーキフェル。


 そして最後、一人の足腰が悪く杖を携えた老人。


「本当にそんな事をする必要があるのですか! 貴方様は今の状況をわかっておられるのですか!」

「そう荒くなるな、大臣。それにわかっているとも。それでも、余は必要だと決断したのだ」

「しかし! 今この状況で勇者殿を我が国からすぐに出立させる意味があるのですか! 外を見たでしょう! 歓喜に沸く市民の姿を!」


 彼の名はアヴァル・エーレ・マイン。

 太陽国ソレイユにおいて宰相の地位の座につく老人である。彼は今、テュランノスへ上申を行なっていた。


 彼が語る内容は内容は、ユウ達が次に向かう場所"白夜の街プルギス"についてである。


「だからこそだ。今、『真の勇者』のユウ・プロターゴニスト殿の名声はかつてない程に高まっている。僅か三ヶ月で『迅雷』を降し、『砦城』を撃退したのだから。今だからこそ、彼には鼓舞してもらいたいのだ」

「確かに我が国の支援をこれまで以上に得られる可能性があるのはありがたいと。しかし、民の安心と引き換えにすべきことなのですか!?」

「その不安は他の国の人々も感じているのだよ。だからこそ、必要なのだ。希望はあると。『真の勇者』は存在すると。彼らの心に一筋の光をもたらせねばならぬのだ」


 太陽国ソレイユ。

 初代勇者ファンダシオン・スールヤ・ソレイユが建国した大国。

 他の代の勇者が軒並み子孫を作らなかった中、唯一勇者の血を引く一族がいる国。彼らは皆優秀で全てが『王』として国を導き、或いは別の分野で才能を発揮した。


 魔王が倒されれば、聖剣を封じる『光聖(こうせい)の間《ま》』と呼ばれる莫大な霊脈を持つこの国はとても富んでおり、王族の天賦の才も合わさり他国を寄せ付けないほど大国だ。


 それ故に、人類の守護者としての趣きが強い。

 中でも勇者は人類全て(・・・・)の希望なのだ。決して、独占など愚かな事はしてはいけない。そんな事をすれば、各国から反発を招く。


 それに勇者自身も望まない。


 その事が強くわかっているからこそ、テュランノスはユウを長くこの国に留めようとはしなかった。


 息を荒げるアヴァル。


 しかし、やがてテュランノスが撤回することがないと悟ると宰相に相応しい静謐な雰囲気に戻る。


「声を荒げ、失礼致しました。既に決定しているのであるのなら、私が騒ぎ立てた所で意味はありますまい。なら、『砦城』を撃退して出来た猶予で一刻も早く新たな陣地の構築に励むとしましょう」

「……すまん。迷惑をかける」

「謝らないで頂きたい。王たる者、胸を張ってくだされ。これが私の仕事ですから」


 失礼しますと左大臣は王の間を後にする。

 その姿を見送ったテュランノスの深く息を吐く。


 やがてアヴァルと入れ替わるように女神教の司祭アテノール。


「失礼。お呼びになられて参りましたが……タイミングが悪かったですかな?」

「いや、問題ない。よくぞ、参られたアテノール殿」

「えぇ、このくらい何ともありませんよ。テューラ(・・・・)」


 その言葉にテュランノスは気恥ずかしげに、椅子を座り直す。


「その名はやめてくだされ。いつの話をしているのですかな。余はもう成人であるぞ」

「おや、失礼。私にとっては、勉強を教えた子は皆等しく可愛い子達であるからして」


 穏やかに笑うアテノール。

 その様子を見てはテュランノスも、強く咎める気はない。


「アヴァル・エーレ・マイン殿でしたか。前王(・・)の時から変わらず宰相としての地位についているのですな」

「彼は優秀だ。だが、それ故に迷惑をかける。しかし彼の代わりはいないのだ」

「それはまた、私の身にも覚えのある話ですな。それで、本当のところはどのような策略で勇者様方を後方に下げたのですかな? 一司祭としては興味があります」

「ふっ、貴方にはお見通しか。一応機密なのだがな。……策略などと言う大層なものではない。ただ、これではいけないと思ったのだ」


 テュランノスは語る。

 今の人類の危機的状況を。


「魔王軍の脅威は増している。日夜人々は、その恐怖に怯えておる。それ故に、その恐怖を払う事が必要なのだ」

「であればこそ、『真の勇者』の存在は必要不可欠では? 彼の存在は『迅雷』討伐だけでなく、『砦城』撃退まである。彼が在りというだけでこの国は照らされます」

「先も申し上げたが、わが国だけ(・・・・・)が照らされては意味がないのだ。ただ一箇所だけで無事で他がなくなればどうなる? そうなれば未来に残るのは緩やかな衰退だけだ」


 太陽国ソレイユは間違いなく大国で強国である。

 優れた技術、肥沃な大地、有能な人材、全てが揃っている。


 だが、たった一国で魔王軍と戦えるかと問われれば否、である。


「私もそうは思うがな。魔王軍の動きが気にかかる。あれだけ同時多発的に人類に対して攻勢を仕掛けてきたにも関わらず、『砦城』を撃退されて以来沈黙を保っておる」

「奴等も多大な損害に余裕がない、と考えるのはあまりに楽観的過ぎますか。確かに妙ですな」

「そうだ。そもそも、奴等の幹部の数は八。半数にも満たない者達を撃破した所で、優位なのは彼方(あちら)に違いない。無論、戦局が良くなっているのも事実だ。だが、それゆえに危い。故に余裕が出来た今こそ人の結束を固めねばならん」

「テューラ、君は一体何を急いでいるんだい? 君らしくない」


 柔らかに問いかける言葉。

 テュランノスは昔アテノールに勉強を教わった時を思い出す。


「ヴァルドニアという国を知っておるか? 」

「ヴァルドニアですか? ふむ……確か南方の山々に囲まれた国でしたかな?」


 アテノール司祭は確かにそんな国があったと記憶している。


「左様。最も今は王政ではない。この三ヶ月程前に前王であるヴェルメが反乱軍により討たれその後元大臣のピエールを中心としながらも新たな政府を作り上げた。貴族と平民が共存し、二つの院を作り互いに協力し合う体制だという」

「それはまた、珍しいですね。基本的に国とは王を頂点として貴族の方が優位に構築されるのですが」

「元々はピエールが穏やかな性格である事で二者の間に立ち、仲介しておるそうだ。おかげでスムーズに事が進んでおると聞く」


 その事自体は喜ばしい。

 人と人が協力し合える体制が出来るのであれば、これほど良いことはない。


「だが問題は一度この国の王が魔族(・・)によって操られていたということだ」

「魔族(・・)に?」


 アテノールは疑わしい声を上げる。


「例の商業都市リッコへの魔王軍の侵攻といい、ないとはいいきれん」

「例の『(・)氷(・)霧(・)』(・)の(・)襲(・)撃(・)ですね」


 そちらは聞き覚えがあるのか、先程よりもわかりやすくアテノールは頷く。


 商業都市リッコに『氷霧』のスウェイが襲来したと。


 太陽国ソレイユの友好国を『迅雷』と『炎獄』が襲来し、その隙に背後の流通の要である商業都市リッコに現れたらしい。


 もし此処を落とされれば太陽国ソレイユは後方の国々との連絡が取れなくなり多大な被害を被ったに違いない。


「その話はその都市にいる教会からの連絡で私も聞き及びました。どうやら『氷霧』のスウェイが現れたと。しかし、その街の冒険者達によって撃退されたと」


 八戦将が現れたのなら、勇者がいなければそこの国に手立てはない。滅びの道を辿るはず。


 だがそうはならず、スウェイは撃退された。


「そうそう、それでその八戦将を撃退せしめた冒険者達は、昇格したのですかな? それほどの実力者。是非とも我々と共に人類の守護者になって貰いたい」

「いや、《光星(アストライアー)》への打診もあったそうだがそれを拒否したらしい。理由はわからんがな」


 かつてアヤメと共闘した冒険者。

 バディッシュ、ミリュス、ランカ。


 自分達の手柄ではないと知ってる彼らが辞退しただけである。また彼らはアヤメの事を強く語る事もなかった。理由は彼があまり名を広めようとしていなかったから。それに対しての義理立てだ。


 そして、だからこそ八戦将を撃退した事を広める事もなかった。本人達が辞退している以上、形式的にも無理に祭り上げる事が出来ないのだから。


 よくも悪くもかつての2代目勇者の意向を強く引き継いだ冒険者ギルドは、冒険者の意思を重んじるのだ。そこに無理に迫ればよくないことをテュランノスはよく理解していた。


 そもそも、あれが本当に魔王軍のスウェイであったかも疑う声もある。実際にスウェイ本人と相対した人の数があまり多くないのも原因だろう。それ故に、確信も持てないまま八戦将を撃退したなどと広める訳にもいかない。


 もしスウェイが生きていて都市を襲撃すれば、人類の衝撃は計り知れない。


「話を戻そう。これらの事例から、魔王軍の狙いは我が国より後ろの国々や街を襲う事だと思う。それを踏まえ、私は八戦将『氷霧』の襲撃とヴァルドニアの事、事実ではないかと思っている」

「国王様。商業都市リッコの襲撃は兎も角、ヴァルドニアは自らの国の恥を魔族に擦りつけようとしている可能性の方もなくもないかと。このご時世、寧ろそのような意見の方が我が国でも多数占めています」


 沈黙を保っていたルヴィンも、流石にテュランノスの言葉に諫言(かんげん)を呈《てい》する。


「わかっておる。だがな私は一度ヴァルドニアの国王と会ったことがある。もはや遠い昔のことではあるがな。その時の彼は誠実で、そして何より国を守る為の意思というものが見えた。当時の私にはなかったものだ」

「王ともあろう方が信じるなど余り褒められることではないと愚考致しますよ」


 ルヴィンの言葉に苦笑いを浮かべる。


「言ってくれるな、ルヴィン。だがな、人が人を信じねば一体誰を信じるのだ?」

「私見ながら、女神かと。彼女は太古より我々を『神託』により見守ってくださっています。アテノール様もそのようにお考えでは?」

「我々は女神様の御心までは知ることが出来ません。出来るのは女神様の心を測り、そしてそれに沿えるように尽力するのみ。与えられた役割(・・)をこなすだけでございまする」


 女神教の教え。

 女神オリンピアは常に人を見守り、その人にあった職業(ジョブ)と『称号』を与えてくれる。


 故に全ての人々は女神オリンピアの子であるという考えである。


「流石、女神教のトップの司教は敬虔(けいけん)深いですな。……もし魔族が背後の国々に潜んだとすれば、それは恐ろしい事だ。我が国は前後から責められ瓦解しうる。無論奥の手はあるがそれは即ちこの国の危機そのものということになる。それだけは避けたい」

「我が国が滅亡すれば実質的に魔王軍は橋頭堡を確保した事になりますな。さすれば、世界の危機となりますな。ゴラァムは滅び、ソドォムも国としての機能は瓦解し、その他魔界に近い国はこの国のみになりもうした。無論、我々は奴等の闇からこの国の光を守る所存でございます」

「ははは、頼もしいな」


 ルヴィンの言葉にテュランノスの頼もしさを感じる。


「其方がそう言ってくれるなら安心だ。勇者は世界の希望。だからこそ、他の国々にもその希望を照らす必要がある。我々だけが独占してはいけないのだ。先の失敗を繰り返してはならぬ」

「……例の『偽りの勇者』のフォイル・オースティンですか」

「そうだ。フォイル・オースティンだ」


 前聖剣所有者フォイル・オースティン。

 人類史において、勇者の名を騙った反逆者。


 そしてその一党であったメアリー・スーとグラディウス。彼らは凄惨なら最期を遂げた。


 いく先々で市民諸共焼き尽くしたこの国の貴族の娘であるメアリーは、最期には市民に殺されたと聞く。その事実に微かにだが、貴族も恐れを抱いた。なので新たに貴族に所縁がある者がユウのパーティにはいない。


 グラディウスも『獅子祭』で優勝する程の実力者だったが力のみを信じ、弱き者は見下すというか考えは民を虐げあらゆる不和をもたらした。特に家族を無意味な囮にされた者の恨みが凄まじかった。


「兄上(・・)は……前王は失敗を起こした。強さのみを指標とし、人格に問題がある者を勇者の仲間とした。人は、彼らを通して希望を見出すというのに」


 前王は失敗を起こした。

 フォイルを『勇者』として祭り上げた彼は、助ける国は自らに理があるか、得であるかのみで判断し、フォイルの向かう先に優先順位をつけた。確かに非協力的な国もあったが、それでも先を見据えるのであれば助けるべきであった。


 魔王軍との前線に近い国は、応援を頼んだがトワイライト平原防衛を注視し、救援を無視。


 結果幾つかの小国が飲まれた。更には友好国であるソドォムとゴラァムも滅び、あるいは滅びに近い被害を受け今や最前線に立つ国は太陽国ソレイユのみだ。


 未だに魔王軍との戦争は続いている。

 八戦将を討ち取り、優勢に見える人類側もその実、かなり不安定である。それこそ、『勇者』がいなければ均衡(きんこう)すらしないであろう。


「私は、かの者には私も出会った事があります。人々を救うという決意を抱えた青年。そして何処か、そう、何かを悟っていた様な顔でした。幾ら女神からの『神託』であり、『偽りの勇者』とされようともあのような最期ーー」

「やめよ、ルヴィン。司祭の目の前だ」

「いいえ、王よ。此度の事は、我々女神教でも疑念に駆られた者がいました。無論私もその一人です」

「と言うと?」

「つまるところ、女神オリンピアへの猜疑心(・・・)」


 思わずギョッとしてテュランノスもルヴィンもアテノールの顔を見る。


 まさか女神教の最高権力者たるアテノールがそのような事を口にするとは思わなかったのだ。


「『真の勇者』と『偽りの勇者』。何故同じ時代に二人の勇者(・・)が存在したのか。その理由がわからないのです。しかし、我々女神教が『神託』を誤《あやま》るとは思えないのです。当時彼の『神託』を告げた者は高齢で既に亡くなってしまいましたが、その際に受けた『勇者』という『神託』は本当だったはず。それがたとえ『偽りの勇者』であろうと聖剣も、初めに抜くことが出来たのは彼自身です」


 聖剣は『勇者』しか抜けない。

 それは人類史の常識。されどフォイルは聖剣を扱ってみせた。本当に偽物であれば触る事すら出来ないはずなのに。


「彼の心意気、信念、実力を顧みるに十分に勇者足る素質があったのでは思うのです。ですが、彼は違った。ならばなぜ、一度とはいえ女神は選んだのか。その心がわからない」


 彼は語る。


 『神官』とは『神託』を通して女神から職業(ジョブ)の選定と称号を与える。


 そう、告げるだけだ。

 女神オリンピア自身の心情がわからない。


「……歳をとると様々な事を考えてしまいます。それが最善だったのか、果たしてこれで良かったのか、と。こんな事を言えば、私は女神様を疑う背信者として他の信徒に殺されてしまいますが」

「いや、良い。よくぞ胸元を開けて話してくれた司祭よ。私はそれが何より嬉しい。確かに、フォイル・オースティンは死ぬには惜しい者であった」


 例え本当の勇者であろうとなかろうと。

 ある程度前線を抑えてくれたのも事実だ。実際、トワイライト平原では数多くの魔王軍を退け、国を救い、『爆風』も討ち取っている。


 それだけに残念でならない。

 もしフォイルとユウが一緒になって健在なら、どれほど頼もしかったか。


 それこそこの国を背負える両翼になれたかもしれない。


 だが現実として『偽りの勇者』としてフォイル・オースティンは世界から嫌われた。そうせざるを得なかった。


 庇うことなど論外。そんな事をすれば、正当性が失われる。彼は『勇者』を驕る不届き者であるとしなければ、この世界の常識は根底から崩壊する。女神は絶対、だからこそ、彼女が選んだ勇者は人々にとって希望なのだと信じられるのだから。



 魔王軍の脅威に弱き人が耐えられるのは女神を信じているから。

 女神すら間違えるのであれば人は一体何を信じれば良いのだと。



「魔王軍……人類の天敵。奴らは纏まっておる。人類の絶滅という点に関して奴らの認識に齟齬はない。魔王という柱の元、魔族、魔物という化け物どもが人を滅する為だけにその力を振るう。一元化された暴力など脅威以外の何者でもない」


 人類根絶。それだけを目標に力を振るう人類の敵。


「だが我らはどうだ?」


 獣ノ庭園(プライド)の獣人達はその血みどろの歴史から縄張り争いで常に内乱が起き、月帝国とは元は別れた王族の末裔の国、つまりは初代勇者の血を引く一族の国であるが折り合いが悪い。


 魔導国家マキナと大魔法国ペンタグラムは敵対関係にある。


 その他国家も魔王軍に対しては協力関係であっても、その他長きに渡る鍔迫り合いで本当の意味で背中を預けられるとは言い難い。


 魔王軍がまた現れるまでの200年の間に人は人を敵として争ってきた。その歪みが今魔王軍という脅威を前にしても影響を及ぼしている。


「我が国の消耗は大きい。トワイライト平原では今尚多くの私の国の民が死んでいく。ソドォムとゴラァムも実質的に滅びた以上もはや援軍の当てもない。他国は日和見、或いは自国だけで精一杯。余り我が国に支援を出す余裕がない。魔法国家ペンタゴンだけはその成り立ちから今だに支援を行ってくれているが……やはり魔法使いそのものの数が前線では足りぬ。向こうも学生を戦場に出すのだけは断っている。あぁ、出来うる事なら『真の勇者』殿には離れて欲しくない。だが読み違えれば人類そのものが破滅する」


 太陽国ソレイユはこの国だけで纏まるしかない。幸いにも国民の士気は高い。人類の守護者として、勇者に作られた国の末裔としての心意気もある。

 

 それ故に、己らだけで魔王軍と相対するという風潮を生み出してしまっているが、それもまたどうしようもないことだ。


「我々は王族は初代勇者様の末裔(・・)、その誇りと使命にかけて人類は守る。わかってはいる。わかってはいるが……」


 その為に守るべき民を擦り減らす。まだ若い命を、未来ある人の命を散らしていく。


 二律背反。矛盾。


 くそったれ。


 王は悪態つきたくて仕方ない。

 だがついても現実は変わらないのだ。


「……ルヴィン無理をしてもらう。勇者殿が居なくなる間、何としても魔族の侵攻は阻止して貰わねばならん。宰相達と協議しトワイライト平原で何か怪しい動きがないかつぶさに観察しておいてくれ」

「御意に。我らが誇りにかけて」

「アテノール殿。貴方方神官には瘴気を防ぐのと、不安がる民に寄り添ってやって欲しい。文官たちにも協力させて、なるべく民に優しくしてやって欲しい」

「えぇ。女神様の名の下に、我々も尽力を尽くしましょう」

「これは総力戦だ。王家も蓄えた金は出す。貴族達にも出させる。我々は負ける訳にはいかぬ。我々の照らす光を絶やす訳にはいかぬのだ」



 忠臣の二人ーー片方は教会からの使者だがそれでも信頼に足るーーを見送った王は深く玉座に背凭れる。



「抗ってみせるとも。例え後に国民を悉くすり減らした愚王とも呼ばれようとも余は最期まで抗おう。何故ならば私は『王』としての称号を賜ったのだから」



 太陽国ソレイユ。

 

 王族は歴代にて女神から『王』の称号を賜り続けた勇者の末裔。


 その中でも傑物テュランノス。


 前王ーー彼の兄を自らの手でもって殺し一部の国民からは『(・)簒(・)奪(・)王(・)』(・)とも呼ばれる太陽国ソレイユの国王。


 彼が王となった時、『聡明王(そうめいおう)』と女神からその称号を授かった事で、殆どの貴族から反対はされなかった。民からの、大きな混乱はなかった。


 無論。それは前王に不満があったのは確かだ。

 しかし、それ以上に彼が女神から王たる資格ありと認められ、称号を授かったのも大きい。それほどまでに称号は重い。


 しかし彼自身はその称号を疎ましくも思っていた。


 何故ならば自身は親族ーー兄殺しをした大罪人。

 兄は愚かだったかも知れない。だがそれでも兄は兄なのだ。かけがえのない兄弟だったのだ。


 だが彼は選んだ。

 国の為、民の為。

 彼は兄を殺しこの国の王となった。


 されど彼は苦悩する。

 国を守りたく王となったのにその礎である民に犠牲を強いることに。

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