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EP9 ダンジョンマスターのお仕事④


ダンジョン建国計画は頓挫したが、収入アップの為にダンジョン拡張が必須である事に変わりはない。


「まずは月50万を目指しますけど、元手が足りないので段階的にダンジョン拡張していく感じですね」

「では、どのように拡張していくかが大事ですね」


拡張の為の元手が有限である以上、無計画な拡張は財政破綻の切っ掛けになる可能性があった。


レグニルスの個人的な欲望だけで言えば、マンション部分を拡張して性的なサービスをしてくれる店舗を創りたいが、レグニルスの冷静な部分がまだ早いと欲望を押しとどめていた。


「今考えている案は二つ。一つはマンションを14階から15階に拡張、新しい2階を追加して防衛ラインを構築する。二つ目はマンションの敷地を拡張する案、城の外堀のイメージです」

「一つ目の案はダンジョンの防衛力向上、二つ目は索敵能力の向上が目的かな」

「ええ、現在の索敵はダンジョンコアに頼っていますけど、基本的にダンジョン内しか索敵出来ませんから」


ダンジョンの核であるダンジョンコアには幾つかの機能があり、その中にダンジョン内の情報を把握する機能がある。

この機能があるからこそ、ダンジョンマスターは自身のダンジョンに外敵が侵入した事を察知出来るのだ。


「外敵を察知した時点で、前庭に侵入されてますからね。安易に外に出られません」


前庭は庭園として整備し、噴水まで設置している。

散歩やお茶を楽しみたいが、楽しんでいる最中に外敵に侵入されたら攻略者と鉢合わせしてしまう危険性があった。


基本的に余計なリスクを避けたいレグニルスとしては、そのリスクを考えただけで外に出る事に二の足を踏んでしまう。


好きで14日間も引き籠っていた訳でなく、きちんとしたリスクマネジメントの結果なのだ、と心の中の誰かに言い訳していたのはレグニルスだけの秘密だ。


「そういう事であれば、索敵能力強化を優先した方良いと思うよ。まだ現在の防衛ラインを突破された訳では無いし、あのパチンコはそう簡単に突破出来ない」

「まあ、普通のダンジョン攻略者が500万分の魔核なんて持って無いでしょうからね」

「その前のMMORPGも、クリアするまで何ヶ月かかることやら」

「全BOSSモンスター及び全MVP BOSSモンスター、計200体を討伐がクリア条件ですからね」


改めて自身のダンジョンが誇る防衛ラインを思い返してみると、中々に凶悪な防衛ラインになっている。


特にMMORPG。

ソロのダンジョン攻略者は突破不能なのでは無いだろうか?


そもそもプレイヤーは最大30人だ。アイテム集めもままならないだろうから、救済措置としてアイテム課金、勿論ガチャだ、の導入を検討しても良いかもしれない。


「そう簡単に現在の防衛ラインを突破出来ないだろうし、突破に時間がかかるモノばかり。最悪、パチンコの500万で新しい防衛ラインを構築する事も可能です。コーチのアドバイス通り索敵能力強化として、ダンジョンエリアの拡張を最初の目標にしましょう」

「エリア拡張でマスターの望む収入アップも実現されますし、ダンジョン内を転移出来る能力も考慮すれば前庭の安全性は飛躍的に向上されますね」


ダンジョンコアの能力の一つ、ユニット配置。

ダンジョンマスターを含む、ダンジョンマスターの配下モンスターを転移能力で自在に移動させる能力だ。


能力が高性能な分、転移出来るのはダンジョン内だけ、転移に使用する魔力コストが高い、発動までに数秒の溜め時間がある、といくつかの欠点があるので使いどころに迷う能力ではある。


現状では、前庭にいる時に外敵に侵入されると溜め時間の関係で安全なマンション部分に転移出来ず、ダンジョン外にモンスター討伐に出向いた場合は圏外で使用不可、前庭に外敵が侵入している状態でダンジョン討伐から帰宅するとレグニルス自身も外敵がいる前庭に入らないと転移不可、と色々と使えないシーンがあった。


しかし、外堀としてダンジョンエリアを拡張すれば、外堀部分に外敵が侵入した時点で察知出来るので前庭から安全に退避出来るし、仮に外出中に外敵が侵入しても転移可能エリアが広ければ安全なマンション部分への転移出来る。


「よく考えたら、安全保障上も防空識別圏は領土の外側で設定した方が良いですよね」

「索敵範囲という意味では、当然外側で設定して領土への侵入前に察知した方が良いでしょう」


外敵の侵入を早期に発見出来れば、実際に外敵に侵入される前に対策を行う事が出来る。

転生特典を持っているとは言え、戦闘能力には不安がある現状を考えれば、早期発見からのマンション内への即時退避が一番生存率が高いように思われた。


改めてレグニルスは最初のダンジョン拡張は索敵能力の強化、すなわちダンジョンエリアの拡張にしようと心に決めた。


「to be(あるべき姿)としては、ダンジョン侵入一日前にはダンジョン攻略者を捕捉したいんですよね」

「ダンジョンコアのレベルが上がれば、所謂レーダーが設置出来ますよ。レベルが上がるまでは、ダンジョンエリアの拡張で対応するしかないですね」

「おお、レーダーがあるんですね。偵察衛星とかは無いんですかね?」


レーダーという文明の利器に目を輝かせ、さらに自身が理想とする索敵能力を得る為のツールを渇望するレグニルス。


レグニルスの理想としては、ダンジョンが存在する島全体と周辺海域、大陸の東側にある主要な港を索敵範囲としたい。


ダンジョン攻略者は徒歩での移動が基本となるので、偵察衛星での索敵は難しいかもしれない。


しかし、このダンジョン攻略には最低500万円分の魔核が必要となる。

魔核の質にもよるが、一般的に流通している魔核の単価はソフトボール程度の大きさで一個5,000円。

500万円に換金するには1,000個必要な計算だ。


ソフトボール1,000個を運ぶなら当然馬車を使うだろうし、辺境への遠征なので食料もそれなりの量が必要となる。


そうなれば物資を運搬する馬車は複数台になり、偵察衛星での索敵も可能になるだろう。


そして、いざダンジョンエリア内に侵入すれば、ダンジョンマスターの権限でさらに詳細な索敵が可能になる。


理想としては島全体をダンジョンエリアとする事なのだが、それには膨大な元手、それこそ日本の借金を一括返済出来るような額が必要となる。


「残念ながら偵察衛星は無理です。本当に必要なら自分で開発するしかないですね」

「下町ロケットのドラマを見たくらいじゃ、打ち上げ出来ないだろうなぁ」


そもそもバルブにスポットが当たっていたドラマで、肝心のロケット本体が話題になっていなかった。

寧ろレグニルスとしては反射炉の方が作れそうだった。


「それより家電売り場でドローン買って、偵察に活用した方が良いのかな」

「それは止めた方が良いでしょう。この世界の創造神はプラスチックがお嫌いですから」

「土に還らないモノが嫌いな、自然原理主義者なんだっけ」


レグニルスがマンション型ダンジョンを希望し、マンション内部にスーパーや家電、ホームセンターなどを設置しようとした際に問題になったのが、この世界の創造神の方針だった。


若く理想に燃える創造神としては、自然に循環しない工業製品を嫌っていた。

特に、この世界では活用されていない石油由来の製品は目の敵にされている。


さらに言えば機械を使った大量生産を嫌い、職人による手作りが至高と考えている神様なのだった。


「まあ、神様としては綺麗な花壇を維持しているのに、神様的に雑草を植えられたら困るのは理解できる」

「下手に雑草を繁殖させてしまうと、起こるのは管理者による駆除ですからね」

「コーチ、それって所謂ノアの箱舟とか、バベルの塔とか、ソドムとゴモラとかのアレですよね」


コーチは微笑みで返すが、レグニルスは下手に雑草、石油製品、を広めると駆除(神罰)が起こる事を確信した。


「一応は僕のダンジョン内ならOK貰ったけど、ダンジョン外に石油製品が流出したら問題だからなぁ」

「100%ダンジョン内の飛行に限定出来ればドローンも活用出来るのでしょうが、操作を誤ってダンジョン外に出たらアウト。仮に墜落したドローンが、野生モンスターによってダンジョン外に持ち出されてもアウト。まだダンジョンエリアも狭いのでドローンの運用は困難でしょう」


具体的な神罰の内容までは分からないが、不要なリスクは回避したかった。

リスクを回避する以外にも、コンプライアンスが重要視される社会で働いていたレグニルスとしては、一度交わした約束は破りたく無かった。


「索敵能力については継続的に検討するとして、まずは外堀エリアかな」

「今はマンション型ダンジョンですが、数年後には都市型ダンジョンになってそうですね」

「良いですね、都市型ダンジョン。マンション部分を江戸城として、城下町まで作ってみたいですね」


現状では江戸城本体部分にあたるマンションしか無いが、レグニルスの最初の目標は内堀、外堀に囲まれた江戸城に近かった。


まずは前庭を含めてマンション型ダンジョンの境界を囲っている柵を内堀とし、その外側の土地をフィールド型ダンジョンとして取り込む事で外堀を形成する。


こうすれば外堀エリアにダンジョン攻略者が侵入した時点で危険を察知出来るので、ダンジョンマスターの転移で安全な場所に逃げられるので内堀エリアまでなら安全に活動出来る。


あとは徐々にダンジョン外側の土地をフィールド型ダンジョンとして拡張していく。

そうすれば安全に活動できる範囲が広がっていくだろう。


どんどんアイディアが出てくるレグニルス。

真面目な考えの他、江戸といえば吉原だ、とも考えてしまうレグニルス。


どうやら肉体が若返った事で性欲も強くなっているようだった。


「フィールド型ダンジョンに前庭の鍵を隠して、ダンジョン攻略者に探させるのも良いかも。何十年後になるか分からないけど、北海道くらい広いフィールドから鍵を探させるって最高の嫌がらせだよ」

「広さは我が力なり、ですか」


必要な鍵を複数にして、鍵に有効期間とか設定したらダンジョン攻略者も嫌がるだろうな。


そんな事やらせるゲームがあったら、自分は絶対にクソゲーと断定して買わないだろう。

脳裏でそんな悪だくみをしているレグニルス。


彼はダンジョン攻略者を撃退して収入を得る気は無いので、ダンジョン攻略者が嫌がるダンジョンにする事でダンジョン攻略者の分母を減らす事を考えていた。


「参考までにお聞きしますが、ダンジョン防衛力の向上案は?」

「センター試験です。それと記述テストの二本立てを考えていました」

「…勿論、問題は日本語ですよね」

「当然です。試験期間はセンター試験二日、記述式テスト一日の計三日。最終的にパーティーの7教科平均点が700点以上、記述テストは5教科の平均得点が400点以上でクリアにする予定です」

「英語のテストもあるんですね。日本語だけでも異世界の言語なのに、さらに英語という異世界言語のテストを行う。マスターは本当に鬼ですね」


センター試験は母国語が日本語の学生が受験しても、文系、理系の違いはあるが、7科目合計の平均は550点程度なのだ。


それなのに異世界の言語というハンデを背負っての、7科目合計700点以上でクリアという条件。

しかもパーティー平均という事で、1人だけ700点を取っても意味が無い鬼畜な設定。


コーチには、レグニルスが絶対に先へ進めさせないという確固たる意志を示しているように思えた。

ちなみに、センター試験で7教科700点取れれば、東大の足切りを突破出来るレベルだったりする。


「それとセンター試験ですからね、開催は1年に1回です」

「開催日以外に2階に侵入したダンジョン攻略者はどうするのです?」

「受験勉強してもらいます。有料ですが、予備校も用意したいと思います」


最低500万円、この世界の平均年収50年分を消費して2階に侵入しても、待っているのは1年に1回開催されるセンター試験。

嫌がらせここに極まり、コーチが内心ドン引きしても仕方ないのかもしれない。


「それとクリア条件はパーティーの平均点ですからね、途中で死亡、又は怪我などで受験出来ない方は0点です」

「…もしかしてオートロック開錠時にパーティー登録させるのは、その為の布石ですか」

「ふふ」


センター試験は英語と国語が200点満点なので、7教科の満点は900点になる。

仮に4人パーティーのうち一人が脱落した場合、残りの3人全員が満点を取っても平均点は675点。

クリア条件の平均700点を達成出来ないのだ。


「なんか致死性が高い罠とか試練は設置するコストが高いんですけど、センター試験は致死性が0なんでコストが物凄く安いんですよ」

「ああ、危険度でコスト計算されますからね、まさに盲点ですね」


ダンジョンに設置する罠や試練は攻略者を撃退し、魂を回収する事を想定している。


そういった想定なので致死性が高ければ高いほど、設置する為のコストが高くなる。

このコストがダンジョンを作成する神様の収入になるのだが、それはまた別の話だ。


「コストの算出方法が難易度に代わる前に作りたいと思います」

「しかし、記述式テストが良く許可されましたね」

「建前的にはダンジョンコアにたどり着く可能性が0にならなければ問題無いですから」


ダンジョン作成のルールとして、ダンジョン攻略者がダンジョンコアにたどり着く確率を0にしてはいけないルールがある。


例えば入り口を作らない、入り口を極端に小さくして物理的に通れなくする、などはルール違反となる。


しかし、入り口を600メートルある壁の上に作る、などは壁をよじ登れば部屋に入れるのでルール的にOKとなる。

この場合、壁を登れない、はダンジョン攻略者の能力不足、道具の用意不足という判断になる。


何故このようなルールがあるかと言えば、ダンジョンマスターは魔力を元の世界に送るという役目の関係上、基本的に異世界人がなる。


つまり、ダンジョンがある世界から見ると、ダンジョンマスターは異世界からやって来て魔力を奪っていく侵略者となってしまう。


当然、現地人からの反発は必至で、場合によっては現地の神からも反発がある場合もあるのだ。


ダンジョンはその世界の神が建設を担当するのだが、不落のダンジョンを建設してしまうと批判の矛先が建設した神にまで及んでしまう可能性があった。

所謂、売国奴などの批判だ。


このような批判を避ける為、「ダンジョンに文句があれば攻略してみれば」、「攻略出来ないのは貴方達が無能だからです、私(建設した神)は関係ありません」という建前になっているのだ。


「しかし、マークシート方式なら確率的に0では無いですが、記述式では無理では?」

「その為の予備校です。予備校という救済手段があるからOKされました」


その救済手段も、受講料として一人当たり月額10万円を計画しているレグニルス。

社会人として、サービスには適正な対価を設定せざるを得ないのだ。


「この世界とても識字率が低いですし、四則演算が出来るのも極一部のエリート層のみなのですが」

「…複数年受験勉強頑張れば、きっとクリア出来ますよ。それに無理なら出直す選択肢もあります」

「このダンジョン、一回外に出たら最初からやり直す仕様だったよね?」

「…もう一回500万円お支払いですね」


その前にMMORPGがあるので、普通のダンジョン攻略者は心が折れるだろう。

クソゲー中のクソゲー、それがマンション型ダンジョンの真実の姿だ。


「そういえば、私のステータス関係の話してませんね」

「ああ、それは後日で良いですよ」

「予定では【聖騎士】目指しますけど、やっぱり【近衛騎士】とか、【魔法騎士】とかの方が良いとか無いんですか?」


レグニルスが挙げた【職業】は前提となる下級職を3つ要求する、騎士系の特殊上級職だ。

ちなみに【騎士】も近接戦闘系下級職を2つ要求する特殊上級職だが、要求される下級職の数が多いのでより上位の特殊上級職となっている。


「最終的にどの【職業】になるにしても、今は素振りですから」

「…何時まで素振りなんです?」

「魂に刷り込まれるまでです」


コーチの言葉と共に、卓上時計からアラームが鳴った。

休憩時間終了を知らせるアラームだった。


「いや、もうちょっと休憩を」


トレーニングスーツはレグニルスの意思を無視し、彼の愛剣を手に素振りを始めてしまう。

レグニルスにとっての悪夢の時間は、こうして再開したのであった。





次回はメイドさん回。

更新予定日は9/15 15時予定です。


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