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EP37 魔境大乱 ウケツガレル命⑥

(作者がサボったせいで)更新が遅くなり申し訳ありません。

亀執筆続けていたら一万文字弱の分量になっておりました。



(その願い、聞き届けましょう)


フォレストウルフが光りとなり、レグニルスと一体化して数秒。

その様子を黙って見ていたリッチは、鑑定スキルによりレグニルスを観察し続けた。


「ふふ。まさか、ここまで盛り上げておいて強化イベント失敗?」


そう、リッチの鑑定結果に変化は見られない。

レグニルスは新たな【職業】を得た訳でもなく、新たな【スキル】も獲得していない。


「まさに、犬死ね」


自身の勝利を疑っていないリッチにとって、この戦いはタダの遊び。

故に敵であるレグニルスのパワーアップも、アニメや漫画で描かれるようなイベントでしかなかった。

そして、そのイベントが失敗に終わった事にリッチは失望していた。


「いや、ちゃんと変わってるさ」

「?」

「魂に刷り込まれるまで、か」


レグニルスは生前の生活リズムを維持する為、月曜から金曜日の5日間、9時から18時まで仕事をしている。

ただし、仕事と言っても侵入者が滅多に訪れない辺境にあるダンジョンマスターなので、行っている業務の殆どはトレーニングだ。

そして、レグニルスはトレーニングの大部分を素振りに費やしていた。


そんなレグニルスはコーチに問いかけたことがある。

曰く、何時まで素振りを続けるのか、と。

その時のコーチの答えが、その動作が魂、体に刷り込まれるまで、であった。


「あの鬼コーチ、本気で魂に刷り込ませるつもりだったのか」


レグニルスには見えるが、表面的な部分しか鑑定出来ないリッチには見えないモノ。

それは、魂に刻み込まれた奇跡。


この世界に転生して4ヶ月。世界にレグニルスが刻み込んできた軌跡であり、我が子を愛するフォレストウルフが世界に認めさせた奇跡でもある。


-----------------------------------------------

※( )内の数字は上昇値

基本情報

名前:レグニルス・レイル・レナグレイルス

種族:人間

性別:男

年齢:18

階級:男爵

合計レベル:43

種族レベル:8

職業:【剣士】レベル10 、【司祭】レベル7

未装備:【槍士】レベル1

特別職:【ダンジョンマスター】レベル5、【貴族】レベル5 、【聖人】レベル5、【引き籠り】レベル3


保有スキル

基本スキル:

なし


固有スキル

【不老】レベル2

【ダンジョンコア操作権限】レベル4

【貴族の誇り】レベル4

【カリスマ(クラスC)】レベル2

【神の祝福】レベル3

【精神攻撃耐性】レベル3  (※領域内でのみ有効)

【剣術】レベル3 (New) 

【身体能力強化】レベル3 (New) 

【足裁き】レベル2 (New) 

【魔力操作】レベル2 (New) 

【回復魔法】レベル1 (New) 

【聖属性付与】レベル1 (New) 


ユニークスキル

なし


剣士スキルポイント : 30

司祭スキルポイント : 9


返済状況

借金残高1975万円


ダンジョン収入

25万7千/月


所持金

1万円 

------------------------------------------------


「お前は何を言っている?」

「簡単に言えば、お前と同じステージに立てるようになったってことさ」


この【スキル】が使えるのは、まさに奇跡だった。

他の【スキル】はレグニルスが必死に磨き続けて来た結果であったが、リッチに対抗する為の【スキル】をレグニルスは磨いた覚えが無い。

そもそも、使えるようになったのは数分前で、使用したのも2度しかない。


そんな【スキル】がレグニルスの魂に刷り込まれた。

その結果を奇跡と言わずに何と言うのか。


【聖属性付与】スキルを使い、剣に聖属性魔力を付与する。

レベルが低い為、離れた相手に聖属性魔力を付与する事は出来ないし、付与できる魔力も先程までよりも低い。


しかし、レグニルスの剣にやどった光は確かな勝利への輝き。

絶対者であるリッチと同じ勝負のステージにレグニルスが上がった事を証明する輝きである。


「馬鹿な! 何故?」

「言っただろ、奇跡だって」


剣に宿った聖属性魔力を前に、リッチは驚きを隠せない。

聖属性魔力を付与する為のスキル、【聖属性付与】は確実にレグニルスから奪い去っている。

現にレグニルスを鑑定しても、【聖属性付与】を始め全てのスキルが奪われていた。


「私が見れないと言う事は、固有スキル?」

「正解。魂が擦り切れるまで剣を振って来た成果さ」


スキルには大きく二つの種類がある。


【職業】に起因する基本スキル。【職業】レベルが上がる事で手に入るスキルポイントで誰でも取得出来る他、本人の努力次第ではレベルアップ時にボーナスとしてスキルの取得が出来る。

比較的容易に取得出来る反面、【鑑定】スキルで習得情報が他者に盗み見られる、【強奪】スキルなどで奪われるなどのリスクがある。


【特別職】や種族に起因する固有スキル。こちらは起因する【特別職】や種族のレベルが一定以上になれば取得出来るスキルだ。

基本スキルに比べると取得難易度が上がる為、レベルの低い【鑑定】スキルでは鑑定する事は出来ず、【強奪】スキルなどで奪う事も出来ない。


これらの違いは基本スキルと固有スキルの性能の優劣では無く、スキルが宿る対象の違いによるものだ。

基本スキルは肉体に宿り、固有スキルは魂に宿る。

そして、魂の操作は文字通り【神の領域】であるため、その領域に踏み入れないモノには奪う事は出来ないのだ。


「あのオオカミの力か?」

「まあ、そんなところだね」


固有スキルの習得は魂の操作なので、習得にはどうしても神の力が必要だ。

通常は【特別職】のレベルがあがった際にルーチンワーク的に取得又はレベルアップリクエストが担当神に送信。

その後、承認ワークフローが流れ、承認された者に固有スキルは与えられる。


今回のレグニルスの固有スキル取得は、この通常ルートの外側で行われた。

レグニルスだけの力では無い。

フォレストウルフが【魂の継承】を行う事で、無理矢理に神とのチャネルをこじ開けたのだ。


そもそも、【魂の継承】は己の魂を誰かに与える行為だが、当然それは神の仲介によって行われる。

フォレストウルフは神の仲介を利用し、レグニルスの固有スキル習得の承認フローへリクエスト要求を無理矢理提出したのだ。


「これで同じステージで戦える!」


聖属性魔力により神々しく輝く愛剣を振りかぶり、レグニルスは一気にリッチとの距離を詰める。

ありえない奇跡を目の当たりにしたリッチは反応が遅れ、レグニルスの一撃を防ぐ事が出来ない。


「っぐ!」


リッチから漏れる苦悶の声に、レグニルスは攻撃の効果を確信した。


効いている。

ならば、やることは一つしかない。

振り下ろした愛剣を切り返し、リッチに追撃の二撃目を叩きこむ。


「甘く見るな、チート野郎!」


リッチは奇跡の衝撃から立ち直り、切り返されたレグニルスの剣を杖で受ける。

そして斬る為に接近してきたレグニルスに触れ、必殺の精神攻撃を仕掛けた。


「マンション太郎舐めんな!」


売り言葉に買い言葉。

リッチの精神攻撃を【精神攻撃耐性】スキルの力で耐え、レグニルスは聖属性魔力を付与した拳でリッチを殴り返す。


「瘦せ我慢を!」


殴られたリッチもすぐさま殴り返す。

どちらかと言うと魔法職のリッチの拳なので、レグニルスに物理的なダメージは殆どない。


しかし、その攻撃の本質は精神を一瞬で破壊する事にある。

レグニルスよりも格上のオークを一撃で屠る威力には、耐性スキルがあるレグニルスでも無傷とはいかない。

ゲームで言えば、HPに10のダメージ、と言ったところか。


「っは、どっちが!」


確実にダメージを受けているが、レグニルスは止まらない。

片手半剣、両手でも片手でも扱える剣、である利点を生かし、聖属性魔力を付与していない右手だけでリッチに斬りかかる。


「っぐ」

「二刀流は最強!」


二刀流で有名な某黒の剣士のように、高速の連撃を仕掛ける。

右手の斬撃の勢いのまま、聖属性魔力を付与した左の拳を叩きこむ。


物理攻撃、魔法攻撃に強力な耐性を持ち、殆どの攻撃を無効化してきたリッチ。


しかし、アンデッドモンスターであるリッチにとって聖属性魔力は毒。

耐性スキルにより致命的なダメージは避けているが、生命活動の源である暗黒属性の魔力が中和されることは、血液を失う事に等しい。

一撃のダメージ量は無視出来る範囲だが、ダメージを受けている事実を無視する事は出来ない。


「剣二本持って無いだろ!」


受けたダメージを悟らせないようリッチは吠えると、自身の足元から影の槍を生み出しレグニルスを刺殺せんとする。


精神攻撃の効果が弱いが故の切り替えではあったが、レグニルスにとっては影の槍の方が危険度が大きい。

耐性スキルのある精神攻撃と違い、影の槍は当たり所によっては致命傷にもなってしまうからだ。


「すぐにス〇ーバースト・ス〇リームでボコボコにしてやるから黙ってろ!」

「っは、にわかめ。〇・イクリプ〇を知らないのか」

「原作で殆ど使ってないマイナー技だろ?」

「二刀流最上級スキル舐めるな」


影の槍を避ける為に大きく距離を取るレグニルス。

そして始まる言葉の応酬。

交える言葉は下らない物だが、本人達はいたって真面目である。


「さっきから思ってたけど、お前ってオタク?」

「そうだけど、これでも女の子なんだからお前は止めて」

「あ、スイマセン」


お前呼ばわりされたリッチが不機嫌な声で抗議すれば、元社会人としてセクハラが怖いレグニルスは反射的に誤ってしまう。


心の中で、骨なんだから分かるか、と毒づくが口には出さない。現代社会において、この程度のリスク管理が出来なければ(社会的に)生き残っていけないのだ。


「やっぱりオバ〇信者なんです?」

「いくらアイ〇ズ様が好きでも、自分からリッチにはならないわよ」

「ですよね~」


現代日本で生き、特殊な趣味が無ければ伝わらない会話をするレグニルスとリッチ。

交わした言葉は少ないが、両者はお互いが同好の士であることを察し始めていた。


「同郷みたいだし、ローリング土下座リバースで謝れば苦しまずに殺してあげるわよ?」

「そこは普通の土下座で良いだろ、なんでエクストリーム土下座?」

「見る前に死んじゃったから、一度生で見たくて」

「一般人は通常土下座も生で見ないよ!」


普通の土下座でさえコンプライアンス的にアウトなご時世である。

若手中堅社員としてそれなりの経験があるレグニルスも、通常土下座を生で見た事は無い。

通常土下座のさらに上、究極と呼ばれるエクストリーム土下座を見る機会は皆無であった。


「そもそも、何で俺が謝る前提何だよ」

「それじゃ、苦しんで死ぬの?」


リッチに謝罪すると言う事は、レグニルスが己の負けを認めるということ。


少し前ならその選択肢も選べたが、フォレストウルフの献身を考慮すればその選択肢はあり得ない。

これが、しがらみか、と内心考えつつ、レグニルスは強い言葉を返す他に選択肢が無かった。


「っは、謝る必要なんか無い」

「そう。それじゃ、死になさい」


そのリッチの言葉を合図に、闘いの第二幕が開演された。

リッチは自身の影から生える槍を六本に増やし、生み出した影の槍をレグニルスに向かって打ち出す。


「ワンパターンだな!」

「そうかな?」


打ち出された影の槍を避けるレグニルスだが、レグニルスが槍の穂先を避けた瞬間、影の槍は姿を変えた。

柔軟性を手に入れた影の槍はレグニルスに絡まり、その動きを阻害する。


「ちょっ、男の触手プレイに需要はないから!」

「ここにあるさ」


動けないレグニルスにリッチは駆けより、その勢いを乗せた拳をレグニルスの鳩尾に叩き込む。

そして、叩き込んだ拳を引き戻すことなく、グリグリとレグニルスの鳩尾を責め立てる。


そのリッチの行為に、物理的な攻撃力は無い。

触れ続ける事で、レグニルスに対して常時精神攻撃を行っているのだ。


「耐性スキルで軽減している見たいだけど、常時触れていればダメージも累積するでしょ?」


リッチの精神攻撃は、一瞬でも触れれば相手の精神を破壊する恐るべき一撃だ。

その一瞬でも効果のある精神攻撃を、相手に触れ続ける事で継続的に行う。

耐性スキルによりダメージを最低限に抑えているレグニルスでも、毎秒10のダメージを受け続ければ何れは無視出来ないダメージとなるだろう。


「そんなに触れてて良いのかよ?」

「なに?」

「こう言う事さ」


レグニルスの鳩尾を抉っていたリッチの拳が爆せる。

自身に触れるづけるリッチの拳に対し、レグニルスが聖属性魔力を付与した結果だ。


「っぐ!」

「っは、ざまあ!」


片手を失ったリッチの集中力が乱れ、レグニルスを拘束していた影の槍が消失した。


自由を取り戻したレグニルスは追撃を行いたかったが、継続的な精神攻撃によるダメージは既に無視出来ない領域となっている。

その為、レグニルスは倒れ込まないだけで精一杯。リッチを攻撃する力は残っていなかった。


しかし、それはリッチも同様だった。

高レベルの耐性スキルでダメージを防いでいるだけで、元々リッチは肉体派モンスターの様に頑丈ではない。

どちらかと言えば、肉体的には脆弱な後衛タイプなのだ。


「しぶとい!」

「それはこっちのセリフよ」


共に満身創痍の一歩手前。

ゲームで言えば、HPバーが両者共にイエローに変わっている。

それも、後一歩でレッドゾーンというような状況であった。


「全く、忌々しい」


この状況に、リッチは明らかに苛立っていた。

格下のレグニルスに苦戦している状況もそうだが、自身の敗北が近づいていることを悟っているからだ。


レグニルスとの勝負は、このまま消耗戦を続ければ恐らくリッチがギリギリ勝利するだろう。


しかし、この勝負はリッチとレグニルスとの一対一では無い。

先程から気配を消している、姫とレグニルス VS リッチの闘いなのだ。


姫一羽ではリッチの足元にも及ばないが、聖属性魔力を付与出来るレグニルスとのパーティーとなれば話は別だ。

レグニルスに意識を集中しすぎれば、気配を消して隙を伺っている姫に足下をすくわれる可能性が高くなる。


頑なに姿を見せない姫を見つける為、リッチは時折アサシンラビットを攻撃しているのだが、仲間が傷ついても姫は姿を現さない。


「ホントに、忌々しい!」

「大事な事だから二回言いましたって?」

「…このオタクマジで氏ねば良いのに」

「いや、殺しに来てる人に言われても」

「氏ねって言ったからセーフでしょ」


レグニルスとくだらない会話を続けながらも、リッチは油断なく周囲の気配を探り続ける。

気配を消し続けている姫を探すが、やはり見つける事は出来ない。


リッチは戦闘巧者という訳では無く、チートスキルをガン積みで強者になったタイプなのだ。

当然【索敵】スキルを保持しているが、探している姫に似た気配(アサシンラビット)が多すぎて姫を捉える事が出来ないでいた。


「なあ、ここでお互い手を引くって選択は無いかな?」

「あのフォレストウルフの犠牲を無駄にするつもりかい?」

「それを言われると辛い」


異世界に来てから初め出会った、話の合う人間。

見た目が骨なのが欠点だが、直接顔を合わせなくてもコミュニケーションを取れる方法は色々ある。

マンション内限定だがネット環境は完備されているし、現代日本で利用出来るSNSなどは全て利用出来るのだ。


それに、レグニルスは会話に飢えているだけでなく、会話が成立する相手を殺める覚悟を持てないでいた。


これまでもモンスターを屠って来たが、それは全てレグニルスと意思の疎通が出来ない存在だった。

差別といえば差別なのだが、レグニルスの気持ちは揺らいでいた。


「・・・彼女の覚悟を考えれば、勝利を妥協するのは裏切りだよな」


話の合うリッチを殺したくないという感情と、己の命を犠牲にした母狼への義理。

見事な板挟み状態である。


「そうだね、もっと良く考えた方が良い」


レグニルスが悩む時間を使い、リッチは己が勝利の為に思考し続ける。

気配を消している姫は捉えられないが、姫に聖属性魔力が付与された気配も感じられない。


スキルポイントで【聖属性付与】スキルを取得した際は、レグニルスは直ぐさま姫に聖属性魔力を付与していた。

しかし、今はリッチから身を隠してる為か、聖属性魔力の付与をギリギリまで遅らせているようだ。


また、リッチ自身に聖属性魔力を付与する攻撃も先程の一回のみで、それ以降は付与される気配は無い。


…射程が短いのか?

レグニルスの行動を分析していたリッチは、一つの結論に至る。

それはスキルポイントで取得した時より、【聖属性付与】スキルのレベルが低いのではないか、という結論だった。


魔法系スキルはレベルにより威力、射程、効果範囲などが変わる。

そもそも、固有スキルとして【聖属性付与】スキルを取得しただけでも奇跡。

リッチに奪われる前と同じ、レベル3で取得出来るほどのご都合主義ではなかったのだ。


「でも、こいつは…」


現状分析を続けるリッチに対し、レグニルスは思考の迷路にはまり込んでいた。

フォレストウルフの仇を討つのか、同じ転生者としてリッチの手を取るのか。


それは異世界で初めて誰かの犠牲の上に命を繋ぎ、そして初めて同じ世界の同胞と出会ったレグニルスにとって、答えの出せない問題であった。


「そう、精々悩めばいいのさ」


悩みは心の隙を生む。


先程までのレグニルスはリッチの行動に対して最適解を返せば良かった。

逆に最適解以外の行動を選択すれば、それはレグニルスの敗北に直結する。

集中力を高めたレグニルスはリッチの行動を察知し、それに対する最適解を出し続けた。

先程までは、問題に対するたった一つの答えを導き出すだけでよかったのだ。


しかし、最適解を導き出すという一つの事に集中すれば良かった状況は終わり、リッチの行動に対処する以外の選択肢が取れるようになってしまった。


リッチを討つのか、討たないのか。


単純な二択だが、その答えを導き出す為の労力はレグニルスから集中力を奪い去る。

今までのレグニルスには、『勝ちたい、死にたくない』という願望しかなかった為に、一つの選択肢に集中することが出来た。


しかし、同じステージに立ち勝利を意識したことで、レグニルスの心の中に『リッチと親しくなりたい』という欲望が生まれた。

勝利を意識したからこそ生まれた、レグニルスの欲望。その欲望はレグニルスに二者択一を迫る。


悩みがレグニルスの集中力を削いでいる事は、相対するリッチには手に取るようにわかった。

それは特殊能力などではなく、リッチ自身が過去に似たような経験で失敗しているからだった。


・・・さて、どうするか。

レグニルスが集中力を切らしている事を察したリッチは、自身でも気が付かないうちに思考を始めていた。

リッチにとって、レグニルスと和解する選択肢が全く存在しない訳では無い。

しかし、それは可能性がゼロでは無いというだけで、数値としては限りなく低い。


リッチにとって、優先するべきは借金の返済。

彼女は闇金に借金して、返済に四苦八苦している身の上なのだ。

同郷だからと言って、それだけの理由で仲良し小好しにはなれない。


金がないのは首がないのと一緒なのだ。

既に彼女の首は骨しか残っていないが。


だからこそ、リッチにレグニルスと和解する選択肢は選べない。

彼女は攻撃しか選ばない。


が、それは攻撃一辺倒という訳でもない。

ワザと間を取り、レグニルスが思考の迷宮に囚われる時間を与える。

そういう姑息な手をリッチは選択した。


思考の迷宮に迷い込んだ獲物を狩る。

それがリッチの結論。現状のまま戦闘を継続しても十分に勝てるが、より楽に勝てると思う選択をリッチは選んだ。


しかし、そのリッチの選択がレグニルスに勝機を与える。

目の前の相手を敵として倒すか、和解して友となるか。

そんな心の中の問いに対し、レグニルスは僅かな時間で答えを出した。


「ボコって仲間にする!」


人間、自棄になると迷わず第三の選択肢を選ぶ事がある。

黒でもなく、白でもない選択。どちらも選択するという強欲な選択。


「こういうご都合主義を実現する為のチート! 何れはマンション太郎と呼ばれる男のチート力を見せてやる!」


レグニルスの魂の叫びを聞き、リッチは間抜けにも敵に悩みを解決する時間を与えてしまった事を悟った。

より楽に勝とうとした代償だが、それが己の敗北に直結する事は無いと瞬時に判断する。

まだ負けていないなら、彼女のすることは一つだった。


「黙れ初心者! こっちこそ将来リッチ花子と呼ばれる私の力の前に沈め!」

「うっさい! お前なんか骨子で十分だ!」


両者の気迫が爆発し、己の全ての力を振り絞る。

レグニルスは残りの魔力を全て聖属性魔力に変換、聖属性魔力を纏ったレグニルスは神々しい輝きと共に全身を武器へと変化させる。


対するリッチも暗黒属性魔力を全身に纏い、レグニルスの聖属性魔力に対応しようとする。

少しでも生命活動の源である暗黒属性魔力の中和を遅らせ、接近してきたレグニルスを影の槍で仕留める心積もりだ。


先の先を選択したレグニルス、後の先を選択したリッチ。

リッチの魔力を先に中和するのか、魔力を中和される前にレグニルスを仕留めるのか。

そのような勝負になる、そうリッチは思っていた。


レグニルスの後光のような輝きが、レグニルスから分離する光景を目撃するまでは。


「なっ!」


もちろん、レグニルスから後光が分離した訳ではない。

レグニルスの背中から飛び出した一羽のウサギ。それが分離した後光の正体。


「何時の間に!」

「俺がグダグダ悩んでたら、何時の間にか背中からおど、応援してくれてた」


レグニルスが思考の迷宮に迷い込み、そんなレグニルスを見てリッチがより楽に勝てる道を模索していた時、両者の意識から消えた存在がいた。

それは常に存在を消して来た彼女の功績が実った瞬間であり、勝利への決定的な道筋が生まれた瞬間だった。


レグニルスは背中の姫と自身に聖属性魔力を付与。

姫に聖属性魔力を付与すれば、その輝きでリッチに姫の存在を気が付かれていただろう。


しかし、レグニルスは自身にも聖属性魔力を付与する事で、姫に付与した聖属性魔力の輝きをカモフラージュしたのだ。

木を隠すなら森の中、をレグニルスは実践したのだ。


「そんな、馬鹿な」

「私を甘く見たお前の負けだ」


驚愕により効果的な行動を取れないリッチに対し、姫は無慈悲に耳を一閃する。

聖属性魔力を付与された姫の耳は、何の抵抗も感じさせぬままリッチの体を両断した。


勝利を求めずに途中で浮気した者、楽に勝利を求めた者、そして純粋に勝利を求め続けた者。

勝利の女神は、愚直なまでに己のみに愛を囁き続けた者に微笑んだ。


「…慢心しすぎたかな」


身体を両断されたリッチは、静かに己の敗北を噛みしめていた。


己の敗因は明らかだった。

相手のミスを察知し、そのミスをさらに拡大させようと欲をかいた。

その欲が姫を見逃すというミスに繋がってしまう。


「…何処の英雄王だよ」


命の炎が燃え尽きる寸前のリッチに対し、レグニルスは呆れた声で応じるのだった。

先程までのリッチであれば冗談で返したのであろうが、レグニルスの軽口に答える者はいなかった。


「さて、ここからはチートの時間だ」



長かったマンション太郎 VS リッチ花子の闘いが決着。

…ラストアタック主人公じゃないよね、というツッコミは無しの方向で。


なんか家の主人公、不意打ちからのバックアタックなど主人公ムーブが足りて無い気がする。



さて、何はともあれ、これで週末のガルパンを心置きなく楽しめる。

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