一段落の帰路。おこ鈴狐
ダリオとベル先輩、三人で並ぶ帰路でもやはりそのことに関して話題が上がる。
「ライアン、やっぱり退学処分になったそうだ」
「そりゃあ学校でアレだけの問題を起こせばそうなるッスよねぇ。これでアルフと先輩も因縁つけられることはなくなったから一安心だな」
「だといいけど」
「おおい、不穏なこと言うなよ転入生」
ライアン・レイヴェルトは社会的な地位を失った。当分は狭い部屋と不味い飯で暮らす羽目に遭うだろう。そして、彼もまた何者かの傀儡に過ぎなかった。
まだ事件は解決した訳ではない。氷山の一角が見えただけだ。
『小僧、オメェには今後も調査を続けて貰うが構わねぇな?』
『と言うと、今後は近辺を重点的に調べる形式になりますかね』
『いや、まだそっちの路線が無くなったと決めつけるのは早いと思うがね』
『まさか、彼だけではないと?』
『可能性はゼロじゃねぇ。それだけの話だ』
『……分かりました』
『やり方はオメェに任せるよ。ある程度の責任はとってやる』
『善処はしますよ』
そんな仔細については、自分の中に抱えておこう。二人は平凡な世界に生きる住人。せめてこの生活が脅かされないように、天朧とアルフとしての自分で上手く立ち回れるように精進するのみ。今回は運が良かったが、次もそう上手くいくとは限らない。
「そういえばアルフ、真噛はどうしてるんだい? 最近何の話も聞いていないけど」
「あー、それは……」
今此処で呼び出すとしても、大きくなった狼の姿では説明も大変だし、人型では論外だろう。
いないということにした方が都合が良いかも。
「あの子とは先日、契約破棄を求められて別れたんだ。そのライアンの件で警察の人に保護されてると思う」
本人が知ったら強く否定するだろうなぁ。ごめん真噛。二人にとっては過去の精霊獣と思って貰うのに必要な話なんだ。
人間不審のままで、俺に気を許したことを知らない二人は納得した表情を見せる。
「そうか……残念だったな」
「ああ。特にアルフにとっちゃあれほどのモフモフと離れ離れになるのは堪えただろ? というか、何かした?」
「待って。その意味分かりたくないんだけどダリオ」
まだその話を引っ張るか。だからそういう嗜好を持っている訳では無いのに、まだ勘違いが解けない。
「気を取り直して。じゃ、今日は何処に寄り道する? ゲーセンは……」
渋い顔したベル先輩が腕をバッテンにする。リベンジまでに充電期間を要するそうだ。俺もからっきしな腕前で、虚しい敗北を繰り返して散財をするのは辛い。自然な流れでその提案は却下された。
「うーん、だったらカラオケ?」
「ボクは歌が下手だからなぁ、遠慮する」
「翠音みたいな音を操る精霊獣を付き従えているのにダメなんですか」
「失敬な。例えばダリオ、君の精霊獣は空を飛ぶ」
「そうっスね。黒羽は燕ですし」
「かといって運動は君自身の得意分野なのかい? そして契約してからその分野に何かしらの恩恵があったかい? 走るのが早くなったとか跳躍力が増したとか」
「……ないッスねー」
「そういうことだよ」
相当な高位の精霊獣でもなければ、契りと共に精霊力を連結させたからといって当人に何かしらの影響を及ぼすことは早々無いそうだ。
そういえば、俺も鈴狐の恩恵があるのだろうか? もしかしてあの数年間の鍛錬について来れたのは、彼女のおかげだったりするのかな。
「じゃあ何するよー。代替案ぼしゅー」不服そうに口を尖らせるダリオ。
「無難に喫茶店へ行くのはどう?」
俺はそう提案する。周辺の店舗は地理情報を抑えるがてらにいくつか知っている。問題は何処がオススメなのかというところなのだが。
「そういうことなら良い店を紹介できるよ。パスタの美味しいところをね」
「んーまぁ、そこでダベるのもたまには良いか」
「鈴狐もそこに行くよね」肩に乗っている小狐に俺は聞いた。
しかし、彼女はむすっとした表情でご立腹。まだ昼間に起きた羅角さんとの口喧嘩が尾を引いているらしい。
俺はその小さな頭に手を置いた。そして、彼女の調子を真似する。
「わっ」
「まぁまぁ、気持ちを切り替えて行こうよ。鈴狐らしくないぞ」
そういえば、俺の方からこうして撫でるのは初めてかもしれない。毛並みはとても柔らかだった。
『なぁお前、アイツに相応しくないと自分でも自覚してんじゃねぇの?』
今になって羅角の言葉が追想される。たとえそれが本意の言葉で無かったにしろ、俺自身には省みて思うところがあった。
彼女を呼び出すべきだったのは、俺以外の人間だったのだろうか。俺は本当は必要無いんじゃないのか? 自信と言える物が少ない俺には、答えを出せずにいる。
「折角皆で楽しいこと考えてるんだ。ぷりぷりしてたって損するだけだよ」
「んふふ。ありがと♡」
やがて、手の中に収まる鈴狐の口からコロコロと鈴を転がすような微笑が聞こえた。
向こうの方からも手のひらにすり寄る感触が伝わる。俺にとって鈴狐はかけがえのない存在だが、彼女に俺は必要なのだろうか。
いや、やっぱりそれを決めるのは俺でも他人でも無い。鈴狐がどうしたいのか、そこに委ねる。今、俺がいることを求められているのなら、それで良い。
「確かにそうだねぇ。ごめんね、柄にもなく不機嫌なままで」
「そういう日もあるさ。美味しいものでも食べよう」
「うんっ」
後で真噛にも何かあげなくては。自分達だけ食べるのも悪いし。カルパスとビーフジャーキーがお気に入りだったから、沢山買って帰ろう。
他愛ない雑談をしながら、斜陽の光を浴びて街を歩く。
その傍らで夕陽に照らされた狐の姿は、かつてのように金色に光を反射させていた。
入学編 了
次の番外回を挟んでこの章が終わります




