編入します。 其の二
・・・悪趣味。
私は目の前にある扉を見て、そう呟きそうになった。
副会長と共に来た扉のさきは、理事長室へと繋がっている。
私が悪趣味、といいそうになった理由。それは・・・。
まるで成金な家のようなキンキラとした色のプレートにでかでかと『理事長室』とかかれてあるからだ。
叔父さん、こんな趣味してたっけ?
ちらりと副会長を見てみると彼はなんとも思わないようだ。まさかとは思うけど、いくら金持ちだからってこれが当たり前とか言うなよ・・・。あ、私も一応金持ちなんだった。
コンコン、という扉をノックする音で私は前を向いた。
少ししてからどうぞ、という高すぎず低すぎない、中性的な声が聞こえた。
「失礼します。神崎さんをお連れしました。」
その言葉と共に開かれた扉の中へと副会長に続いて入った。
なかにいたのはカッコいいよりも綺麗、というのがふさわしい風体のした青に近い黒色の女子の私から見ても羨ましく感じるサラサラな髪をした美形がいた。
その目は緩やかに円をえがいている。
「お疲れ様、下村君。生徒会室に戻って例の件について、どう対象するか決めたら教えてね。」
「はい、わかりました。それでは失礼しました。」
そう言って副会長は理事長室から出ていく。
と、同時に紅蓮が目の前に現れた。
「・・・天狗と人間のハーフか?」
「流石だね。その通りだよ」
紅蓮の問いに答えた理事長・・・藍山 昴さんは私の方を見た。藍山というのは母の旧姓だ。
昴さんと会うのは、一年半ぶりだ。
親はなんだかんだいって何度かヨーロッパに押しか・・・いや、会いに来てくれたが昴さんとは全く会っていなかった。
「お帰り、葵。」
その言葉に、帰って来たという感覚が今さらになって広がった。
私はフードを脱ぎ、小さく微笑んだ。
「・・・ただいま。昴さん。」
* * *
「え?ってことは、生徒会が巫女姫の存在を知ったのって今日だったの?」
「あー、うん。まあ、そうだね・・・。」
なんたることだ。
巫女姫発覚イベントが今日だったなんて。そういえばあのゲーム、日時とか凄いあやふやにしていた記憶があるぞ・・・。
「だから私が電話した時やけにバタバタしてたのね。」
「そーいうこと。」
「ふーん・・・。で、生徒会の情報ってこの前送ってきた資料となんらかわりないのよね?」
「あぁ、それに関しては問題ないよ。」
あ、資料っていうのはただ単にゲームの攻略キャラとかわりがないのか知りたくて頼んでおいたのだ。
「・・・それにしても葵、大丈夫なの?」
「ん~?何が?」
いつの間にか紅蓮が用意してくれていたクッキーと紅茶を口に含みながら聞くと、昴さんは顔を歪ませながら言った。
「ほら・・・。生徒会の子達にばれないように巫女姫の護衛をするっていうやつ。」
なんだ。そんなことか。
実は私、母に学園内では護衛が出来ないからかわりにやってくれないかと頼まれたのだ。
「別に平気だよ。私が無理そうな時とか、鍛練の時は紅蓮に任せる予定だし。」
「だけど・・・。」
「調子が悪そうなときは強制的に休ませるから大丈夫だ。」
「ならいいけど・・・。」
「お母さんが3年間ずっとはさすがに難しいから、ばれたときはばれたで構わないわ、って言ってたし。なんか文句言われたら藍山家の名前使ってもいいって言われてるし、大丈夫だよ。」
昴さんは昔っから過保護だからな。
まあ、子供の頃私が昴さんの目の前で妖にでかい怪我を負わされたところを見たからだろうが。
責任感が強いからな、昴さんは。
「何かあったら頼りにしてるからね、昴兄さん。」
「!・・・はぁ、葵には敵わないなぁ。頑張ってね、葵。無理はしないように。」
私はその言葉にそっと微笑んだ。
「さて、では次はおまちかねの制服だよ。」
どことなく楽しそうに言う言葉に別に待ち構えたりしてないけど、と言わないでおくべきなのか・・・。
そう思っていると昴さんは私の目の前に移動して、大きな紙袋を手渡してきた。
ちらりと中を見ると中には女物の・・・ではなく、男子用の制服が入ってた。
ちなみにこれ、発注ミスとかではなく私が昴さんに頼んでおいたものだ。
女子用はスカートがヒラヒラとしてもしもの時の移動に邪魔だから、という理由で男子用にしてもらったのだ。ちなみに昴さん、抗議なく発注してくれました。
「これ、上にパーカー着てもいい?」
「・・・まぁ、いいよ」
私は礼をいうと、フードを深く被った。
「そろそろ寮にいくね?」
私が目をくばませて(フードで見えてないだろうけど) そう聞くと、昴さんは私に地図を渡してきた。
「寮の一階に寮管室があるから、そこでカードキーを貰ってね。寮の二階はスーパーや雑貨屋、家具屋があって、三階は娯楽室が充実してるよ。四階は食堂になっていて五階から寮室になるから。で、生徒会と風紀は一般寮とは違う、特寮といわれている別の寮にいるから、余程の事がない限り接触できないはずだから。あと、特寮には一般生徒は近づいてはだめという暗黙のルールがあるから。」
・・・全部、知ってるよ。とはさすがに言えなかった。
「うん、わかった。ありがとう、昴さん。また明日、学校に行く前に少し寄ってくね。」
「今じゃだめなのかい?」
「今でもいいけど、そしたら時間が長引くだろうから・・・」
「そうか。なら、また明日ね。」
「うん。昴さん。また明日。」
私はそういい、理事長室を後にした。
・・・あ、昴さんに扉の趣味が悪いっていうの、わすれてたわ。
小説情報見たらまだ少ないけれど何人かにお気に入り登録をしてくれているみたいでうれしいです。
これからも頑張って投稿していきますね。