第26章「たとえ空が崩れ落ちても……跳ぶな!」
ロープが切れ、ヒュオマが落下する……
彼に最後に残されたものは、ワニに頭を喰らわれる直前に響き渡った、あの恐ろしい叫び声だけだった。
アレスはキヨシの口から手を離し、険しい表情で言う。
「たった七秒……」
……
「予想より短い。」
キヨシはようやく衝撃から我に返る。
そして、憎悪のこもった目でアレスを睨みつけ、短剣を抜く。
「この野郎!」
叫びながら、アレスへ向かって走り出す!
アレスはそれに気づく。
そして、正確な動きでキヨシの腹部を強烈に蹴りつける!
キヨシの身体が、数歩先まで吹き飛ぶ。
キヨシは激しく咳き込みながら、地面から起き上がろうとする。
そして、顔を上げた瞬間――
目の前には、アレスの剣があった!
アレスの顔には、恐ろしい眼差しが浮かんでいる。
「規則が禁じているのは、他者への攻撃だ。」
「自分の身を守ることじゃない。」
キヨシは怒鳴る。
「じゃあ、さっきお前がやったことは攻撃じゃないとでも言うのか?!」
アレスは皮肉な笑みを浮かべる。
「俺はただ……」
「お前が余計な愚行を犯すのを止めただけだ。」
キヨシの顔から血の気が引く。
「お、お前……」
「お前……」
だが、やがて何も言えなくなり、口を閉ざす。
アレスはもう彼には構わず、その場を離れる。
その間にも――
残った者たちは次々と跳び、ロープからロープへと身体を振って進んでいく。
やがて、キヨシも彼らの後を追った。
まるで……
アレスへの恐怖が、あの沼地に対する恐怖を上回ったかのように。
アレスは、次々と跳んでいく彼らを見つめる。
そして、呟く。
「愚か者ども……」
その様子を見ていたヒカリは、アレスをじっと見つめる。
アレスもその視線に気づく。
振り返り、虚ろな瞳で彼女を真っ直ぐに見据える。
そして、口を開く。
「それで、お前は……」
「なぜ跳ばない?」
「俺があいつのように、お前を殺すのが怖くないのか?」
ヒカリは、しばらく黙っていた。
やがて、少しだけ顎を上げる。
アレスを真っ直ぐに見返し、皮肉な笑みを浮かべる。
「地獄にかけて……」
「あなたは私を、どれだけ馬鹿だと思っているの?」
「今まで見てきた限り……あなたは、くだらない理由で他人を恨むような人間じゃない。」
「言い方を変えるなら……あいつを殺したことも、キヨシに暴力を振るったことも、結局はあの人たちを怖がらせて、跳ばせるためだったんでしょう?」
「それに……あなたは、危険を冒すことを恐れる人でもない。」
「それなのに、今まで跳んでいない。」
「それが意味することなんて、一つしかない……」
「あなたは……何かを確かめるのを待っている。」
「正確には……」
「何かの災厄が起こるのを待っている。」
「そして、おそらく……あなたは、それが何なのかをよく分かっている。」
ヒカリは、道の脇に立つ巨大な木へ視線を上げる。
そして、長い間そこを見つめる……
アレスは彼女の視線を追う。
顔を上げ、その巨大な木の高い場所へ目を向ける。
そして、再び視線を下ろし、ヒカリを見る。
目を、わずかに細める。
何も言わず……
一定の歩幅で、彼女へ向かって歩き始める。
一歩。
また一歩。
その足音が、ヒカリの耳の奥へ響き渡る。
ヒカリは、激しく震える手を背中に隠した短剣の柄へ置く。
ほんの一瞬……
自分という存在が、どれほど小さなものなのかを思い知らされた。
彼は、まったく別の次元にいる……
ヘクターのように遠すぎて、理解することすらできない存在ではない。
だからこそ、余計に恐ろしい。
近すぎるわけでもない。
恐怖を抱かずにいられるほどではない。
彼は――
彼女の理解が届く、その限界の最果てに立っていた。
胸を突き破りそうなほど激しく脈打つ心臓。
押し殺した呼吸。
そして、短剣を握ることすらできないほど震える両手。
そのすべての中で――
すぐ隣まで歩いてきたアレスの声が、彼女の耳を貫いた。
「どうやら……お前は気づいたらしいな。」
「この状況なら……」
「たとえ空が崩れ落ちても、跳ぶな!」
ヒカリの目が、衝撃に大きく見開かれる。
その言葉を言い終えた直後――
アレスが、凄まじい速度で石壁へ向かって駆け出す!
そして、大きく跳躍する!
壁を足で蹴り、その反動で上方へ跳ぶ。
一本の枝を掴む!
そのまま素早く身体を引き上げ、木を登る。
そして――
あっという間に、木々の中へ姿を消した。
ようやくヒカリは、その場に片膝をつくように崩れ落ちる。
激しく息を切らす。
まるで、呼吸するという行為そのものが、途方もなく苦しい作業になったかのように。
そして、掠れた声で呟く。
「天にかけて……」
「なんて存在感なの……?!」
「あの目……」
「底のない奈落……」
「一瞬……この世界のあらゆる法則が、あの人にとっては何の意味も持たないように感じた。」
「もし、あの瞬間に……どんな些細な理由であれ、私を殺そうと思っていたなら……」
「きっと……一切の躊躇なく、殺していた。」
「これほどまでに、自分の命が脅かされていると感じたことは……一度もない。」
「でも……何より奇妙なのは、あの言葉……」
ヒカリの脳裏に、アレスの言葉が蘇る。
「たとえ空が崩れ落ちても、跳ぶな!」
「本当に……」
「あの災厄の危険から、私を守ろうとしたの?」
「それとも……」
「私がここに立っていること自体が……」
「彼の仮説の一つを試すための、ただの別の実験なの……?」
その思考を――
木々の遥か上方から響き渡った、巨大な鐘の音が遮った!
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