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New world  作者: 巻Salmon
同じ景色
21/21

日常:始まり5

「バケモンかよ」

ライザーは思わず呟く。

真っ向勝負を避け、持久戦を選択したが決定打がない。

体力には自信があったが、相手がはるかに上回るようだ。

どう考えても燃費のいい戦い方をしているわけではないのに、衰えが感じられない。

火力不足。

分かってはいたはずの欠点が突きつけられる。

「無茶するしかねぇか」

そう言ったライザーの顔は笑っていた。


「しぶとい」

フェリスは呟く。

戦いにおいて今までに感じたことのない苛立ちを覚えていた。

圧倒的強者に挑むときとは違う、勝てるはずの相手に勝ちきれない。

今まで正面からの戦いにしかしてこず、こういった戦法をとってくる相手には出会わなかった。

このようなやり方がある事も知っていた。

自分の経験の少なさが露呈する。

「やるじゃん」

反面、湧き起こる何か、不思議な高ぶりがあった。

「…クィンスターは美しく戦う」

魂に刻んだその言葉を吐き出すようにつぶやくと、力がこみ上げてくる。


ほぼ同時に決まった2人の覚悟、決着を付けるため、力を込める。

フェリスは今出せる最大の魔力を練り上げる。身体が熱くなり、蒸気を発する。周りすべてを焼き尽くすつもりで、解放させる準備をする。

離れた距離から、気配を消し、様子をうかがっていたライザーの頬に冷や汗が伝う。

相手が力技で決着を狙う事は予想出来たがそれを遥かに超える。

本来鈍感なはずの自分の感覚でもひしひしと伝わる。

まるで、断崖絶壁の縁にでも立たされているような感覚、恐怖ともう一つの感情、しかし覚悟は揺らがないかった。

この化け物に唯一勝てる道筋を見つけたのだ。それを実行しない手はない。恐怖などこの高鳴りがかき消してくれる。

その後の事など気にしない。

手のひらサイズの銃を構える。相手を警戒しつつ、やり慣れた手つきで4本の銀色の棒を銃口に取り付ける。

一撃必殺。

大技の隙をつく。


2人はタイミングを計る。

決着までの時間は長くない。

この刹那の時間を楽しむように、フェリスは笑っていた。戦うときだけに得られる高揚感、出来ればずっと味わっていたがそうもいかない。何故なら決着があればこそのこの感覚なのだ。


しかし、この純粋な感覚にノイズが走る。

ヘビが伝うような、得体の知らない瘴気が流れ込んでくる様な肌触り。

思わず顔をしかめる。

やや遅れてライザーも同じ感覚を味わっていた。

ハッキリとした嫌悪感だった。

「良いところで…、」

フェリスは呟く。

ゆっくりと何かが近づく、存在を隠しもせず、ズルズルと何かを引きずる音をさせながら。

「なんのよう?」

自分が積み上げてきたものを上から潰されたような、得難い苛立ちを、現れた闖入者に向ける。

「あら、怖い顔」

闖入者は呑気にそんな事を言った。

フェリスから向けられた敵意にも全く動じた様子がない。

その虹色の瞳は全てを吸い込む様である。

片手には襟首を掴まれたソウがいる。

フェリスは怒りを隠しもせず、殺気を招かれざる客に向ける。彼女は今にも発火しそうである。

「もちろん、やめさせに」

あざとく人差し指を唇に付ける。

「邪魔しようってわけ?」

フェリスの瞳から光が消えた。

出来るのか?とでも言わんばかりに挑発的な表情で。

生徒会長は、そのフェリスの問には答えなかった。

「これから何をするつもりだったのかな?」

フェリスの威圧に屈するどころかそれを上回る気配で飲み込む。だが、フェリスのそれとは質が違う。

「ちっ」

僅かに硬直したあと、やや冷静になったフェリスは気持ちの矛を収める。そしてバツが悪そうに、目をそらす。

「そこの彼も」

ピンポイントで一つの方向を見る。

見られた場所と寸分たがわぬ場所から、ライザーが現れる。

降参したように両手を挙げながらこちらに近づく。

会長は2人の様子に満足すると、フッと息を吐く。

すると、周りに広がっていた、嫌な空気が消える。

「二人ともやり過ぎ」

二人は押し黙っていた。

「ここがどういう場所か知ってるはずだよね?」

高圧的でないにも関わらず、妙な迫力がある。

言われた二人は言わんとしている事を理解しているのか、気まずそうにしている。

「熱くなりすぎ」

そう言いながらフェリスを指さす。

「そんなもの人に向けちゃ駄目だよね」

ライザーの持っている銃を指差す。

「駄目だよ」

それだけを言った。

まるで聞き分けのない幼子をし付けるような余裕だった。

「あした、生徒会室に来ること」

二人を交互に見る。

余計な事は言わずともそれで伝わる。


「嫌だと言ったら」


フェリスの火は消えていなかった。

最高の時間を邪魔された事、その怒りは簡単には収まらない。

それはライザーも同じ様で、会長の目を真っ直ぐ睨んでいた。

「無理やりにでも」

虹色の瞳孔が大きく開く。

その瞬間周りの全てを見えない何かが包む。

「出来るの?」

2人は怯まない。

それぞれ構える。

「簡単だけど?」

次の瞬間身体が硬直する。

いつの間にか足元から伸びていた木の根が二人を縛り上げる。

「な!?」

鋭くとがった木の枝が2人の目前に伸び、脅すように直前で止まる。

二人は息を飲む。

何もできず、何も気が付かなかった。

会長は笑いながら指をゆっくりと振っていた。

「待ってるねー」

そう言うと、すぐに拘束を解く。

驚愕する2人を見ると微笑みかけ、踵を返し、ヒラヒラと手を振りながら、場を去る。

その人物を2人は黙って見送っていた。

「…俺、必要あった?」

ズルズルと引きずられていく、ソウの言葉が聞こえてくる。

「ソウ君も明日来るんだよ?」

「え!なんで?!」

そのまま消えていくのを見送りながら、2人は同時にため息をついた。

完全に興が削がれた。

「決着、つけるからね」

それだけ言うとフェリスは立ち去る。

「気が乗ったらな」

それは本心だった。

試せる事は試したし、もうあまりメリットがない。

決着をつけるのにこだわったのは、熱くなっていたからだ。ライザーは己の未熟さを痛感する。

それでも、きっといずれは決着をつけることになるのだろう、その前にもう少し自分を高めなければと思う。

ライザーは木々の間から狭い空を見上げた。



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