日常:始まり5
「派手にやってんなー」
聞こえる轟音と、所々から上がる火煙、揺れる木々たちはその戦闘の激しさを物語っていた。
二人が林のなかに入りしばらくが経つ、よく体力が持つものだと感心する。
「あいつ、あんなに強かったんだな…」
一人が呟く。
この学園において争いは日常茶飯である。
世界中から才能ある力を持つものが集まり、その才を磨く。その過程では衝突が生まれ、力を誇示、あるいは試したくなる。自らが人より優れていると証明しようとする。
強きものが勝者となり、得て、弱いものは従い、搾取される。人口のほとんどが若くまだ未熟な学生であるこの場所では特にそれが顕著である。ここは社会の縮図である。
放っておけば永遠と戦い続けるのだろか?
緩急をつけて聞こえてくる戦いの音は、その激しさを物語る。
「アホらし」
思えば、なぜ自分が律儀に付き合わなければならないのか?
強敵を前にした2人の目の輝きは同種のものだ。
自分とは違う。
別の種族だ。
そんな連中に付き合ってはいられない。
「後は、任せたわ」
アホ面で雁首揃えて、見えない戦闘の終わりを間抜けに待つ連中相手にそれだけを告げると、立ち去ろうとする。
しかし、一歩踏み出した時に、抵抗を感じる。
後ろから、服の裾を掴まれる感覚、後ろに重心が動く。
何だこいつは、と思いながら、それを振りほどこうとするが、しっかりとつかまれたまま離れない。
まるで硬い鎖にでも繋がれているようだった。
こちらの力を逃すように、上手く掴まれ、振りほどけない。離すつもりが無いらしい。
少しの間、その攻防を続いた。
しつこい。
多少意地になり、無理やり外そうと強引に掴まれた手を掴む。
「ん?」
違和感がある。
華奢な手だった。
まるで、女性のような。
掴まれているのが、さっきまで一緒にいた周りのむさ苦しい男どもの誰かだと思っていたのだが、それとはちがうようだ。
嫌な予感がした。
「いい加減にしやがれ!」
つかんだ手をそれなりの力を入れ、引き剥がそうと試みるが、結果は変わらなかった。
「何なんだよ一体!」
諦めて、振り向く。
「げ…」
思いがけずそこにた人物はニコニコと呑気に手を振っていた。
「…会長」
「やっほ」
キラキラと長い髪を輝かせ、相変わらず何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。
「いつからここにいやがった」
自分同様に驚く、周りに目配せをするが、その誰もが首を振ったり、手を振ったりと、否定の意思を示す。
「ひどーい、人を化け物みたいに!」
こちらの質問には答えず、わざとらしく頬を膨らまし、あからさまに怒りを表現している。
「…似たようなもんだろ」
その様子に何かを言う気が失せた。
その間もまだ裾の手は離してくれていなかった。
神出鬼没な、学園の生徒会長はこちらの反応など意に介さずに、緩急をつけて鳴る向こうの戦闘音の方向に目を向けている。
「派手にやってるねー」
奇しくも自分と同じ感想を言った。
次の音が鳴るまでその方向を黙ってみたいたが、次の大きい音を合図に口を開く。
「あれ、止めなくていいの?」
全てを分かった上で言っている、嫌な笑みだった。
「俺が止められるとでも?」
即答する。
俺の答えなどわかっていたのか、無視して話を続ける。
「毎年この時期になると、トラブルが多くなるんだよねー」
話の脈絡など無く突然の話題が始まる。
こちらの反応などどうでもよく、独語の様である。
「皆、力を試そうとしてる。若くて力のある子や名門の生まれの子たちが集まるんだもん、当然よね。それで力の格付けが終わるまでだいたい、二ヶ月くらい。毎年同じようなものかな?まあ、放っておけば落ち着くんだけど、中にもそうもいかない事もあってね」
こちらを見つめ直し、笑う。
「同級生同士だけじゃなく、中には先輩や、私たちにも手を出そうとする子達もいる」
私達とは生徒会の事だろう。
生徒の頂点に立つ生徒会、力を示そうとする連中にはちょうどいい標的だろう。
「職員の方たちからも頼まれてね、今後、大事にならないように目立つ子は何人か目星を付けることにしてるの。大体毎年10人前後くらになるかなー」
そこまで勝手に話を進めると、突然間を空ける。
嫌な間だった。
「今年は優秀だよね」
なんの事かわからなった。
「今年は、三人だけだった」
妖しく目が光る。瞳の奥の虹色の輝きは得体が知れない。
こちらの心の奥底を覗き込まれるような不快感がある。
「トラブルの報告件数も例年より少ないしね」
「そうなんすか」
自分とは関係のない話に真面目に付き合うつもりも無く、そっけなく答える。
「今年って、結構名前が知れてる子の入学が多いらしくてね、職員の方も警戒してたのに、拍子抜けでさ」
なんだか逃げているような気がして、目を逸らせないで逆に見つめ返す。
「でもさ、大きいトラブルは多いんだよね。何でだろうね?」
理由は分かる。だが口にしない。
何故なら相手もそれを分かって聞いているのだ。
「一人は、特科で誰彼構わず暴れまわる、界隈では有名な一族のお嬢様。」
指を上げ数を示していく。
「二人目は、技術科で、実力は劣るはずなのに特科の生徒でも遠慮なく戦っちゃう、有数の財閥の御曹司」
間違いなく今そこで暴れている二人だ。
話を聞き流しつつ、そちらの方向に目をやる。
「最後はあなた」
その言葉に向き直す。
「なんだって?」
会長は俺のリアクションがさぞ満足がいくものだったのか、満面の笑みである。
「とりたてて目立つものが無いのに、何故かいつもトラブルに関わっている普通科の男子」
「俺だけ弱くないか?」
ほかの二人に比べて明らかに個性が弱い。
「なぜ俺?」
思い当たる節が無かった。
「私が名前を上げたからね」
「おい」
理不尽なものを感じ、否定の意思を込め睨みつける。
「でも、今回もやっぱりいるよね」
その言葉には何も言えなかった。
客観的になれば、納得こそいかないが確かに怪しい。
「この島の生態系ってちょっと特殊みたいでさ、貴重な植物とか生き物が、多いんだって。だからこの島自体が特殊な保護区になってる。入学の時聞いたよね?
」
もはや、諦めるしかない。
「二人が暴れてるあの場所もそう」
そこに指をさす。
「止めなきゃ同罪だね」
多くは説明せずともそれで理解した。
「嫌な、脅しだ…」
大きく、長く溜息をつく。
その態度を肯定と受け取ったのか行ってこいと言わんばかりに頷く。
「俺が行っても変わらないぞ」
無理だと思いつつ、そう言ってみるが、許してはくれない。
「…分かった。行くから、とりあえず離してくんない」
そう言うとようやく、掴まれていた服の裾の手を離されるのだった。




