日常:始まり5
「まさか、そのまま逃げてないでしょうねー!!」
林に逃げ込んだライザーからの応答はない。
そんな状況でも、フェリスに油断はない。
そのまま逃げるような相手ではないと、この短い時間でもわかる。
気配はある。
きっと何かしてくる。
そう思った矢先だった。
こちらに向かってくる何か、かわすのは容易い。
自分を通り過ぎるとそれは落ちる。
何の変哲もない木の枝だった。
殺傷力は低いが弾丸のように飛んできたそれは、普通の投擲では成し得ない直線的な軌道だ。
その後の追撃はない。
またも静まり返る。
こちらを仕留めるためのものではない。
相手の意図は分かる。
「いいわ、乗ってあげる」
どう考えても、誘っている。
罠を仕込むことも容易いだろう。
間違いなく、相手は仕掛けが得意なタイプに見える。
相手にとって有利な状況。
だか、何があろうが関係ない。
勝つ事も大事だが、今はそれ以上に大事な事もある。
そのために、罠だろうがなんだろうが、相手の得意なフィールドて戦う。
勝つだけではなく、意味のある勝ちを得る。
フェリスはゆっくりと林に向け、歩き出す。
カウントダウンの如く、一定のリズムで歩く。
それに合わせ木々も引き締まるように音を消していく。
素晴らしい緊張感の中、やがて辿り着く。
次のリングに。
躊躇いもなく、そこに入る。
相手からアクションは無い。
「来てやったわよ!」
静まり返った中、その声は響き渡る。
まわりを見渡す。
感覚が研ぎ澄まされていく。
違和感は見逃さない。
そこからする僅かな草の音、それに即座に反応する。
何かが、体の脇をかすめる。そして地面に突き刺さる。
それは、彼が持っていた銀のナイフ状の物だった。
「来たわね!」
次の瞬間、あらゆる方向からそれが飛んでくる。
寸前のところでかわし続ける。
先ほどとは真逆、攻守が入れ替わる。
3次元の攻撃、出所の予測がつきにくい。
確かに相手の気配は感じる。目の端に姿は写るが、捉えきれない。
更に、気配とは別に所々から飛んでくる銀のナイフ、限りあるはずの攻撃手段を直接、あるいは磁力のように魔力を使い引き寄せて回収しながら、それが尽きないように立ち回っている。
それらが完全に計算されつくされた動きだとすれば、かなりのものだ。
今までに会ったことのないたいぷの、強者、力技だけではない。
見たときに覚えた直感に間違いなかったことに、喜びが溢れ出す。
こいつ、多分同じ人種だ。
そう感じた瞬間、フェリスは力が更にみなぎるのを感じた。
体内のマナを活性化させ、魔力を高める。
自らの反応速度が増していく。
徐々に体も慣れてくると、相手の動きも見えてくる。
それに合わせ牽制に炎も飛ばす。
まだ遅い。
相手に当たる気配はない。
フェリスは無駄な動きをやめ、最低限かわすだけにし、相手を捉えることに集中する。
視覚と直感、両方に頼り、目線で相手を追う。
そうすると少しづつ、相手の位置が予想できるようになる。
相手の動きは変幻自在で上下左右からキリがなく襲ってくる。
恐らく先ほど使っていた魔導具でそれを可能にしているのだろう。
大したものだ。
こんな動きを続けていれば、すぐに体力は尽きるだろう。待っていれば勝てる。だが、それを決着とするにはつまらな過ぎる。
いや、その前に何か仕掛けてくるだろう。
相手の一手を待つのもいいが、それは性に合わない。
だから無理にでも仕掛ける。
魔力を高めた効果で身体能力は遥かに上がっている。
今なら、相手の動きに合わせられる。
止まらない相手の攻撃を避けながらも、タイミングを図る。
相手に隠すように、拳を握り、炎を纏う。
僅かに熱さを感じるが、気にしない。
状況が目まぐるしく変わる戦いは面白い。
まさに燃え上がる。
僅かな違和感。
来る!そう思った次の瞬間だった。
大きな草の音、それは、背後からした。
油断はなかったが、それでもわずかに遅れる。
自分から仕掛けるつもりだったが、相手が早かった。
決定打が無いのだから直接打って出る。少し考えれば分かる事だ。
今回は道具を飛ばしてくるだけじゃない。
背後を取られた。
事前の覚悟と、高まった反応速度で、無理やり体をひねり相手に対処する。
恐らく完璧に捉えたと思っていたのだろう、それが反応された事に驚いたのか、相手の動きが若干遅れた。
そのおかげで相手の動きが見える。
研ぎ澄まされた感覚から、視覚情報がコマ送りとなり進んでいく。
相手の手には魔導具、バチバチと電気を帯びている。
それが目前に向かってくる。
身体が勝手に動いていた。
全自動のように出てくる自分の拳、炎を纏い、相手にに吸い寄せられる。
ほぼ、同時の事だった。
それぞれに互いの手は寸前で空を切る。
そして同じ様に体勢を崩し、片膝を立てる。
すぐ立ち上がったのは、フェリスだった。
「やるじゃん」
その言葉にライザーは笑う。
「悪いな」
その言葉にフェリスはハッとする。
「喰らいな」
気がついた時には遅かった。
四方から雷撃が襲う。
フェリスの反応は間に合わず、全てを受け止めてしまう。
先手を取ったのはライザーだった。




