日常:始まり5
ライザーは即座に体勢を立て直すと、矢継ぎ早に跳んでくる炎を間一髪の所で避け続る。
ジリジリと後退していく。
攻撃は無尽蔵で、目の端に映るフェリスの顔は、楽しそうに笑っていて、狂気じみていた。
「どうしたの?まだまだ行くよー!」
その言葉に偽りは無く、きり無く炎が飛んでくる。
にも関わらず、声や、動きに疲れは見えない。
それどころか、徐々にボルテージが上がったように、飛んでくる火のリズムがどんどん上がり。勢いも増す。
しかしながら、疲労は見えない。
短いスカートを翻しながら、それは優雅に、舞うように。
「ふざけやがって」
思わず漏れた言葉。
ライザーは、猛攻を間一髪かわす中でも冷静さを失わない。
彼の長所は分析である。
最早彼にとってのアイデンティティとも言える。
それが出来なくなると言うことは自分を失っているということ。
どんな難解な状況でも、そのゴールへのルートを探る。
ずっとそうしてきた。
相手が怪物だろうが関係ない。
ライザーはその怪物を一閃のごとく睨む。
それが見えているのかいないのが、怪物は口角を上げる。
後退しながらも、相手の射程を測る。
「なるほどね」
フェリスもその意図を読む。
「無駄だけどね」
フェリスは左足を踏み出し今まで以上に大きく振りかぶる。
すると先程の倍ほどの大きさの炎が掌に立ち上がる。
「い、く、よ!!」
振りかぶるフェリスの動きに合わせ、炎が投げられる。
その威力は想像に容易い。
ライザーはその動きに舌打ちすると、後方の林に逃げ込む。
まるで獣が顎を開け、捕食者対象に襲いかかるように、ライザーに向かってきた炎は、逃げ込んだ林の木の一つに当たると、その表面を僅かに焦がし、散り消える。
僅かな間が空く。
「おーい、出てこないの?」
今の数十秒の攻防で、ライザーの息は上がっていた。
体力に自信がないわけではないが、それとは無関係な所に、この疲労の正体はある。
なぜだが思わず笑いがこみ上げる。
自らの中を満たす感覚、少ない魔力器官が沸き立つ。脳内物質で満たされるのを感じる。
ただの気まぐれのつもりだった。
今の状況に至ったことに後悔はない。
むしろ逆。
自分が立ち向かっている相手は明らかに自分とは違うモノ、その少女の見た目に騙されてはいけない。
獰猛な獣、あるいは特大の重火器。
しかも思考し、追い詰めてくる。
「越えてやる」
強者を倒すことの高揚感は何物にも得難い。
自信はある。
昔から追い詰められると頭の回転が増す。
被虐性に志向が傾いているわけではないが、まともでは無いと思う。しかし、得難い長所だ。
森に逃げ込んでから相手の追撃は止んだが、長くは持たないだろう。
おそらく、相手は気の長い方では無い。
次の手を打ってくるまでの時間は僅かだろ、それまでに考えをまとめなければならない。
自分が潜む木々の間を縫って炎を飛ばすほど、あの炎の操作性が高い訳では無い。離れていく距離に応じて勢いが増される炎は、その距離に対し適切なエネルギー量が使用されているわけではなく、その威力から過剰に魔力を乗せているように思う。
遠距離戦はできるが得意ではない。
それがライザーの出した結論だった。
これからの指針を決めたライザーは短く息を吐く。
覚悟は出来た。
静かに気を待つ。




