48 ゲーセンなう! そのいち!
「よぉ~し、それじゃ次は思い切り遊ぶよー!」
「おー!」
買い物を終えてハイテンションな黒音に合わせて、あまなちゃんも元気な相槌を打つ。
財布に決して軽くないダメージを入れられたものの、元よりこうなることは予測していたためまだ余裕はある。
ともあれ黒音の先導で俺達がやって来たのはゲームセンター。
ショッピングモールのゲーセンコーナーとだけあって、多種多様なゲームが目白押しとなっている。
既に遊んでいる人も多くいるため、ゲーム機から発せられる大音量と重なってここらだけライブハウスのように賑やかだ。
学生の頃は慣れていたが、久しぶりに来ると中々やかましいなぁ……。
「おとおっきーっ!」
経験のある俺や黒音と違い、初めてゲーセンに来たあまなちゃんはあまりの音のデカさに耳を塞ぐだけでなく、余程堪らないのか目も閉じていた。
別に目は閉じなくてもいいのだが、いきなり大きな音が聴こえるとビクッとするアレと同じようなモノだろうと察する。
この状態じゃ声を掛けても聞こえるか分からないので、黒音が耳を塞いでいるあまなちゃんの背を、転ばないようにゆっくり押していくことで誘導していく。
まずはこの音に慣らす必要があるよなぁ……クレーンゲームとかから始めるか。
ハッキリ言って上手いわけじゃないが、ここは大人として何か取ってあげたいところだ。
だが選ぶにしてもあまなちゃんの身長では中の景品が見えないなぁ……。
そう思い、耳を塞いだままのあまなちゃんに目線を合わせて声を掛ける。
「あまなちゃん、ちょっと抱っこするけどいいかな?」
「うん!」
手の平越しでもしっかりと聞き取れたようで、自分の声を伝えられるように大きな声で返事をしてくれた。
許可を得たのであまなちゃんの脇腹に手を添えて、ゆっくりと抱き上げる。
配達業で鍛えられた腕力を以ってすれば、普段の荷物と比べても6歳の女の子は実に軽い。
急に目線が高くなって驚いたようだが、俺の顔を見ると安堵したように笑みを向けてくれる。
可愛い。
そのまま腕に座らせるような抱え方に替えると、あまなちゃんも落ちないように胸元に手を添えた。
「あまなちゃん、どれを取って欲しい?」
「ん!」
抱っこで見えるようになったケースの中を見てもらい、取って欲しい品を尋ねると物欲しそうな眼差しを浮かべてある一点を指した。
そこには、丸くて白い体に大きなフォークが刺さっているキャラクターのぬいぐるみが……いやいやナニアレ?
なんかのマスコットかゆるキャラなのかな?
「あ、だいふくちゃんだ。最近人気あるんだよね~」
「そういう名前なんだ、アレ……」
初めて見る珍妙な生物(?)に戸惑いを隠せないでいると、黒音が当然という風に教えてくれた。
何だか流行に置いて行かれている気がするが、ここでそれを気にしても仕方が無いと意識を切り替える。
今はあのぬいぐるみをあまなちゃんに渡せるように、クレーンでキャッチすることだけ考えよう。
空いている片方の手で100円玉を取り出して投入。
軽快な音楽と共にゲームが始まった。
さぁ、華麗に景品を掴み取ってみせようか……!
──そう思っていた時期が俺にもありました。
どうしたって、とにかくアームが弱くて取れない!!
もう2000円分になるのに、一向に取れる気配がないんだよ!!
元から1回で取れるとは思ってなかったとはいえ、これは流石にヘタ過ぎる!!
あまりに残念過ぎる自分の手際に自虐をしている間に、アームがぬいぐるみのストラップ部分に引っ掛かり……わずかに揺らしただけで掬い上げることなくあっさり抜けてしまった。
ちくせう……。
「お、おにーさん。あまな、おにーさんががんばってくれただけでもうれしいよ?」
「だ、だだ大丈夫だ! 今度こそ! 今度こそ間違いなく完璧に取れ──ああああああああまた外れた!?」
あまなちゃんに気持ちだけ受け取ると言わせてしまったことが余計に拍車を掛けて、完全に意地になって挑んだ20回目の挑戦もあえなく失敗に終わった。
だっせぇ……。
「はぁ、バカアニキが無様晒すのはもう見てらんないっての」
「何だと黒音!? そこまで言うならお前がやってみるか? 取れるもんなら取ってみろってんだ!!」
「取れなかった人が言うセリフじゃないし、最高にダサいよそれ」
うるせぇよ、なんでわざわざ追い討ち掛けるんだよ!?
呆れた様子の黒音の言葉に苛立ちを感じるものの、負け惜しみ染みた言葉がダサい自覚もあるので口に出して反論できなかった。
そんな歯痒い思いをしながらも、黒音と選手交代する。
いつになく真剣な眼差しの妹を期待半分で見守るが、結論から言うと……。
──アイツ、1発で取りやがった。
嘘だろ……俺の2000円はなんだったんだ。
心無しでもなく軽くなった財布から哀しみを感じる視線の先には、ぬいぐるみを抱えて嬉しそうにするあまなちゃんと、誇らし気にドヤ顔を披露する黒音が映る。
あまなちゃんはともかく、妹の表情には何とも腹が立つ。
その黒音は笑みを崩すことなく俺の肩に手を置き──。
「大体のクレーンゲームって、一定の金額まで投入されるとアームが強くなる仕様らしいよ」
「は……?」
「だからアニキが後一回だけ粘ってたら取れたかもだね~」
「お、お前……!」
もし黒音の明かした仕様が本当なら、俺の2000円は黒音の1回を確実にしただけと言いたいのか。
無駄じゃなかったとはいえ、それだけで徒労感が拭えるはずも無い。
「アニキの2000円は、無駄じゃなかったんだよ……プフッ」
「──よろしい、ならば戦争だ……!」
黒音はわざとらしく悲し気な表情を──いや、口元が緩み切ってるせいで余計に煽ってるように見える。
当然、俺はキレた。
この生意気な妹に目に物を見せてやることにしよう……!
「だいふくちゃん、やわらかーい」
一触即発な俺達を他所に、あまなちゃんはだいふくちゃんのぬいぐるみをギュッと抱き締めていた。
ちょっとそこ変わってくんねぇかなぁ~、だいふくちゃん。
ここまで読んで下さってありがとうございます。
次回も明日のお昼の12時に更新します。
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