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真・恋姫†夢想~朱霊伝~「六人目の大将軍」  作者: 羅貫厨
4章・朱霊+陶謙÷徐州=騒乱
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〜徐州騒乱〜曹嵩と張闓

「……曹嵩殿、この戦でどうなされますか?」


「そうだねぇ……。どうしようか?」



 郝萌が独断で施した策により既に勝ちが見えた戦。


 そんな中、張闓が静かに曹嵩へと言葉を投げる。


 投げ掛けられた問いに返す曹嵩の言葉は飄々とした物であったが、その視線は城壁に吊るされた一族の亡骸に向けられたままであった。


 張闓には曹嵩の考えている事が手に取るように分かる。


 曹嵩に迷いは無い。


『どうしようか?』と言う曹嵩の言葉。


 これは『どうやって一族の仇をとろうか?』と言う物だ。


 ヘラヘラしているが、その視線が城壁の上に現れた敵の指揮官と思しき姿を捉え、スッとその目が細められた。


 進軍して来た徐州の軍勢をその目で確認する為に出て来たのだろう。


 迎撃の為に指示を飛ばしているのが分かる。



「死地へ向かわれるのであれば我らがその道を作りましょう。幸いにも某れがしの直属は血路を開くに特化しております故」



 自身が死地を望む張闓と言う男。


 彼は曹嵩がこの戦で果てるつもりである事を理解していた。



「……ただ、貴殿は全てを失った訳ではありませぬ。生きて御息女の側に身を置き、いずれ生まれ来るだろう新しき命をその腕に抱くと言う選択も出来ます」



 理解はしていた。


 だが、まだ死ぬには早いのでは?と投げ掛ける。


 そんな張闓の言葉に曹嵩は笑った。



「私の奥さんは素直じゃないけど、とっても淋しがり屋さんでねぇ。あんまり遅くなるといじけちゃうから。

 まあ、寂しがりなのは私もなんだけどさ。君は新しく生まれて来る命をこの腕に抱くと言う道を提示してくれたけれど、その未来に彼女はいない……。

 私には彼女のいない日常なんて考えられない。

 多分、生きていればいつかは彼女のいない日常にも慣れるんだろうけど、そんな日常に慣れてしまうのはなんか嫌でねぇ」


「……然様ですか。既に心が決まっておられるのであれば異論はありませぬ。我らもお供致しましょう」



 死に臨む決意は変わらぬと判断した張闓。


 雇い主が果てるのであれば、雇われた者として共に果てる事を褒美に望んだ。


 しかし、そんな張闓に対し曹嵩は首を横に振った。



「ここは君の死に場所としては相応しくないよ。君が死地を求めている事は知っているが、その命は私の様に死に行く者にでは無く、生きようとする者の為に使うべきだ」


「…………」



 その曹嵩の言葉に張闓は返す言葉を見つける事が出来なかった。


 そこへドスドスと足音を響かせながら陶謙が現れた。



「クハッ!なんだテメェら?随分とシケたツラしてんじゃねぇか」



 ガハハと笑いながらバシバシと曹嵩と張闓の背を張る陶謙。



「おや?そんな顔してましたかねぇ?」



 そんな陶謙に対し心外だとばかりに曹嵩は苦笑しながら肩を竦めた。


 酒の席で盃を酌み交わしている時と変わらない陶謙と曹嵩のその姿。


 それは張闓には理解出来ない姿であった。



「しかし、まさか武尊どのよりも先に逝くことになるとは思ってもみませんでしたよぉ。人生は何が起きるかわかりませんねぇ」


「クハッ!まあ、乱世だからな。こんな事もあらぁな」


「ですよねー」


「ま、先に逝ってろや!そう遠くねえ内に俺も逝くだろうしな!」


「まさか!貴方はそんな簡単にくたばる御人じゃありませんよ。武尊どのは少なくともまだ三十年は生きますって。そんな簡単にくたばれるならとっくにくたばってるでしょ」


「クハハハハッ!ちげぇねえ!!」


「武尊どのには華琳ちゃんの後見役もお願いしたいですしね」


「はぁん?んな面倒くせぇことやってられるか!そんなモンは志牙にやらせとけや!」


「えぇぇ……。どうせこの先暇持て余すでしょ!?少しくらい良いじゃないですか!?」


「んな暇ねえよ!ただでさえ志牙から羅馬から妙なモン仕入れろって無茶振りされてんだぞこっちは!!」



 ギャーギャーと騒がしい二人の姿は、これから死に臨む者と送り出す者には見えない。


 ふと、張闓の脳裏に噂で聞いた話が思い起こされた。


 それは、朱霊と劉辯の関係。


 殺す側と殺される側。


 にも関わらず二人の姿は仲の良い友人であったと。


 状況は違えど、送る側と見送られる側。


 陶謙と曹嵩の関係は聞いた噂に近い物だと感じていた。


 そんな中、瑯琊の城の城門が開き紺碧の袁の旗を掲げた兵が吐き出される。



「張南!馬延!焦触!奴らを蹴散らすぞ!!」


「うるせえよ張凱!仕切ってんじゃねえよ!」



 陶謙らが寡兵であると見て、数を頼りに押し潰そうと野戦を仕掛ける算段の様である。



「うん。予想通り出て来たね。敵の指揮官はまだ城壁からこっちを窺っているみたいだ。彼の首を冥土の土産としようかな。

 ……張闓どの、露払いを頼んでも良いかな?」


「……御意」



 瑯琊の城から吐き出される袁成軍を前に、曹嵩の言葉を受けた張闓が配下の兵団に指示を飛ばす。



「敵将の周囲を片付けよ。他は陶謙殿と陥陣営に任せて構わぬ」


「はっ!」



 張闓から指示を受けた『死にたがり』の兵たちが迫り来る袁成軍を前に行動を開始。


 飾り気のない簡素な漆黒の布地に、血の色を彷彿とさせる深紅の『張』の字の将旗を掲げ、曹嵩の為に血路を開かんと突撃した。


 この動きと掲げられた将旗に、城に残っていた袁成軍の将の顔色が変わった。



「黒の布地に深紅の張……っ!?ま、まさか『死にたがり』か!?」



 どうやらこの将は張闓の事を知っていたらしい。


 常て死地を求め、各地で数多の戦場を渡り歩いた『張闓』と言う男。


 自身の命を顧みぬその苛烈で激しい武は敵した者全てを恐怖に叩き落とし、『死にたがり』として恐れられた。


 そして、その直属の配下の兵も『死にたがり』である。


 死地を求め命を顧みずに斬り込んでくる死人の兵団。


 それが張闓の率いる傭兵団の主力だ。


 味方の為に一人でも多くの敵兵を道連れにしようと狂気を纏った刃を振るう彼らのその在り方は、敵した者達からすれば恐怖其の物。


 かなり異質な存在だがこの様な兵が弱い訳がない。



「こ、これは不味いんじゃないのか……?」



 城壁の上で戦場を見遣りながら危機感を募らせる袁成軍の将。


 その目に味方の袁成軍と陶謙率いる徐州軍が激突するのが見えていた。



「敵は寡兵だ!押し潰せぇぇぇ!!」


「行け!行け!行けえぇぇぇ!!」



 数を頼みに城を打って出た袁成軍。


 物量で徐州軍を飲み込まんと攻撃を仕掛ける。



「敵を曹嵩殿に近付けるな。我らは城までの道を切り拓くだけで良い」



 対し、張闓率いる傭兵団は曹嵩を守る様に一塊となり敵陣の中央突破を狙う。



「我らはいつも通りに殺る!狙うは敵将の首よ!!」


「「「応ッ!!」」」



 その両脇から『陥』の文字を掲げた騎兵四部隊が動きを見せる。


 それぞれが敵将を食い破らんと怒涛の突撃を開始。



「兵の練度は高そうだが、馬鹿みてぇに突っ込んで来るだけか……。向こうの将は頭がねぇな」


「だから雑魚だって言ったじゃねーすか」



 敵陣の突破を狙う張闓の傭兵団に追従するは陶謙の部隊である。


 つまらんとばかりに溜息を溢す陶謙を相手に、参謀役の郝萌が肩を小さく竦めた。



「おらおらぁ!掛かって来いやぁぁぁぁ!!ぐぴゃっ!?」


「死ねぇぇぇぇ!!あべし!?」


「ひゃーっはっはっはあああぁぁぁぁ!!ぐはあっ!?」


「ミナゴロシ!ミナゴロシィィィィ!!あびょっ!?」



 寡兵の徐州軍を相手に群がる様に攻撃を仕掛けた袁成軍。


 圧倒的な物量で押し潰せるはずだったこの戦は、



「敵将・張凱、成廉が討ち取った!」


「焦触…?うーん、弱くね…?取り敢えずおいちゃん頑張ったわ!」(宋憲)


「よし。勝ちました!!」(侯成)


「チッ、雑魚が調子こいてんじゃねーよ!」(曹性)



 陥陣営の部隊長達が一瞬で敵将を斬り捨てた事で指揮系統が麻痺。


 烏合の衆と化した袁成軍は、張闓の部隊の中央突破を許し、追従していた陶謙率いる元呂布隊の兵に蹴散らされるのであった。


 これに度肝を抜かれたのが、城壁から戦場を見ていた指揮官の将である。


 圧倒的な物量の差があったにも拘らず、徐州軍はその物量差をものともせず蹴散らしたのだから。



「な、なんなんだ奴らは!?死にたがりもヤバいが、他の連中も桁違いじゃないか!?」



 北海に逃げ帰る事も考えた指揮官であったが、逃げた所で追いつかれるだけだと判断。


 籠城戦の構えを見せた。


 郝萌の巡らせた策に袁成軍はものの見事に嵌っていた。


 数日後、北海を奪取した甘寧率いる徐州水軍と下邳から後詰として曹豹が到着。



 瑯琊の城で籠城する袁成軍は絶望に落とされるのであった。



 袁成軍は見誤ったのだ。


 徐州軍の強さを。



「は、ははははは………。終わった……。我らはもうダメだ……」



 徐州軍に包囲された事で進退窮まった袁成軍の指揮官。


 彼はその名を『季雍』と言った。


 史実では袁紹を裏切って公孫瓚に寝返り、袁紹の命を受けた朱霊の家族を死なせる原因を作った人物である。


 この世界線での季雍は、悪童と呼ばれていた頃の袁基の手下であった。


 季雍だけではない。


 陥陣営の部隊長に斬って捨てられた四人の将。


 彼らも季雍と同じで悪童時代の袁基の手下であった。


 だからこそ、北海の袁成軍は朱霊の治める徐州を攻撃したのである。


 荀彧と荀攸を巡り、朱霊が袁基を襲撃した一件。


 あの一幕の中に彼らはいた。


 徐州を攻撃したのは、彼らの下らない復讐の為だった。


 曹操と朱霊が激突した今、手薄になった徐州を朱霊から奪ってやろうと……。


 曹嵩の家族や親族はそれに巻き込まれたのである。



「曹嵩殿。各部隊の配置が完了。いつでも行けますぞ」



 籠城を決め込んだ季雍を自らの手で討たんとする曹嵩。


 包囲していれば季雍は勝手に自滅するのだが、愛する妻と親族を殺された曹嵩は自らの手で季雍を葬る事を望んだ。


 その為、張闓は曹嵩の為に決死隊を結成。


 瑯琊の城を攻撃する手筈を整えた。


 そして現在、陶謙が巨大な鉄槌を肩に担ぎ、城門へ向けゆっくりと歩を進めていた。


 陶謙はその膂力だけならば呂布にも匹敵する豪の者である。


 固く閉ざされた城門を、陶謙がその膂力と鉄槌を以て粉砕しようとしているのだ。


 季雍とて見ているだけではない。



「おい!奴を近付けさせるな!!矢を射掛けるんだ!!」



 兵に命じ矢を射掛けさせるが、陶謙が無造作に槌を振り回すだけで発生する暴風が飛来する矢を吹き飛ばす。



「ふ、ふざけんな!!ふざけんなふざけんなふざけんなああああああああああ!?

 なんなんだよ奴らは!?ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ

 !!」



 窮地にある季雍は発狂した。


 逃げ場など何処にもない。


 刻一刻と迫る絶望の足音。



「クソが!!どれもこれも全部アイツのせいだ……!袁基のクソが俺達を裏切りやがったから……!!」



 季雍らと袁基の間に何があったのかは不明だが、常て悪ガキ仲間であった彼らは袂を分けていた様である。


 尤も、季雍が現在ピンチに陥っている事に袁基が関係している筈もなく、全ては季雍らの自業自得なのだが。


 降り注ぐ矢の雨を物ともせず、遂に陶謙が城門の前に陣取る。


 ジャリィッと大地が踏みしめらる音が響き、振りかぶった鉄槌を城門へ叩き着けんと歯を食い縛る陶謙。



「ォォォォォォオオオオオオオオオオオオァァァァアアアアアアアッッッ!!」



 裂帛の気合いと共に振り抜かれた鉄槌はいとも容易く城門を粉砕。


 風通しの良くなった城門を曹嵩を先導する様に駆け抜けて行く『死にたがり』達。


 最後まで将を守らんと立ち塞がる并州兵と死にたがりの兵が激突。


 激しい交戦状態に突入した。


 そんな中で張闓は曹嵩を守りながら季雍のいる城壁へ続く道を切り拓いて行く。



「く、来るな!来るなァァァァ!!おいお前らさっさと俺を守れェェェェ!!」



 追い詰められた季雍。


 血し走った目を大きく開き自分を守れと并州兵に怒鳴りつける。



「将がこれでは付き従う兵は溜まったものではないな」



 醜態を晒す季雍を目に張闓が呆れた様に言葉を溢す。


 同情は禁じ得ないが、敵は敵。


 季雍を守る并州兵を容赦無く斬り捨てる。


 遂に自身を守る兵がいなくなり、震える手で牽制する様に剣を突き出し近寄らせまいとする季雍。



「そうだねぇ……。今は乱世。いつ誰が命を落とすか分からない世の中だけれど、こんな人間に妻や一族、瑯琊の民が殺されてしまうなんてね……。

 キッチリとケジメはつけさせて貰うよ」



 腰に履いていた剣を抜き、ゆっくりと季雍に詰め寄る曹嵩。



「ググ……、く、クソが来るんじゃねえェェェェ!!」



 追い詰められた季雍が敗れ被れで曹嵩目掛けて突進。


 手にしていたその剣が深々と曹嵩の胸を貫いた。



「は、はは……っ、ははははははっ!!お、お、俺に近付くから……だっ!ば、馬鹿な奴だ!ざまあ………あが……っ!?」



 最早自分が何を言っているのかも分からなくなっていたであろう季雍。


 自棄を起こしたまま曹嵩を嘲笑っていたが、顎から脳天に掛けて曹嵩の剣がその頭を貫いた。



「みんな、仇は討ったよ……」



 季雍を討った曹嵩がその場で崩れ落ちた。



「曹嵩殿、見事でした」



 その姿を目に、張闓が労いの言葉を投げた。



「張闓殿ありがとう。ついでにすまないが、介錯を頼んでも良いかい?痛みが無いせいか、少し時間が掛かりそうなんだ」



 曹嵩は礼と共に最後の願いを口にした。



「御意」



 その願いに短く応えた張闓。


 覇王と称された少女の父。


 妻や一族の者を失い、妻の居ない日常を拒んだ男。


  その最後は穏やかな笑みを浮かべた物であった。



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