Ⅷ「私、将来紅さんみたいになりたいです。」
あれから2週間経った。私はその後、赤目さんを始めとして、禅さんや白さん、壱さんとも修行をした。それぞれ教え方も教えることも違う。俊敏な身のこなし方、反射神経の鍛え方、体力をつけること、持久力など、必要なことをそれぞれ私に叩きこんでいく。
「...姫、お疲れ様」
今日もそんな、淡々とした赤目さんの合図で修行は終わる。やっぱり未だ、刀は当てられない。
「ひめのんお疲れ様やで!!」
コップいっぱいに冷たい水をつぎ、持ってきてくれる白さん。水滴のついたグラスをうけとり、ぐっと一息で飲み干した。美味しい。散々しごかれたあとでからからな喉に水分が行き渡った気がした。
「......てんどん、あれからひめのんどうや?」
「あんまり。...のびない」
「やっぱ女と男で違うんやろかね...」
お二人共、声を潜めているつもりかもしれませんが、聞こえてますけど。なんか妙に落ち込む。このメンバーが飛び抜けているだけじゃないかと最近は思うが、やっぱりそういう風にいわれるのはな...なら日常に開放してほしい。
「おい!天!黒!藤咲家族がもうすぐ来るそうだ!」
と、壱さんが入口前から声を張り上げている。二人共、嬉しそうな様子。
「...今日は酒だな」
「紅ちゃんまた美人になってんやろなぁ...」
目的は違うみたいだけれど。
「...あの、藤咲さんって...?」
「ああ、ひめのんはじめてやったね。」
「藤咲は暗殺の名門。こことは違って、家業としてやってる場所...」
「別の暗殺者ですか!?」
「んー、なんちゅーか...家系はそうだったんやけどな...」
聞くところによると、藤咲家は家業で、その長女である紅さんという人が当主をつぐはずだったのに、本人が拒否。従兄弟である碧さんという方に譲り、現在は幼なじみの方と結婚し、普通の家庭として、娘を育てているらしい。うん、複雑。で、藤咲家と懇意にしている此処に、暗殺者という立場ではないけれど、時々遊びに来るらしい。
「おおぅ...なんというか、凄いですね。」
「勿体無いんやけどなぁ。紅ちゃん才能はぶっちゃけ次期当主ちゃんよりあったしなぁ...」
「...姫も、話を聞いてみるといい。...参考になる筈」
「こんにっちはー!壱くん元気してた?」
「ああ。」
「......これ、いつものシャンパンとか色々。」
「いつも有り難う」
玄関前に行くと、明るくて綺麗な女の人と、静かで優しげな、白髪赤目の男の人。白髪赤目。.........。
「......姫?」
「あ、あかんわ。またフリーズしておる。ていっ」
ぱこんっ。軽く頭が叩かれて、ようやく気づく。
「ははは白さん!白髪赤目ですよあの人!というかあの美人さんもよく見れば瞳が紫じゃないですか!ってうわぁぁあの小さい子はお二人の娘さんですか!?可愛すぎますっ!!」
「......姫...」
若干引いたような表情を見せる赤目さん。しかしそんなの知らない。一人で興奮していると、
「お、姫。いたか、藤咲夫妻。紹介するぞ、こい。」
「はははははひっ!!」
夫婦の二人が表情を和らげてこちらを見ている。非常に恥ずかしい。目の前までくれば、空気に圧倒される。凛としていて、格好いい。
「姫ちゃんだよねっ!菊くんからよーく聞いてるよっ!!」
「...僕は藤咲空。彼女は紅で、こっちは紫。よろしくね。」
明るくてハキハキとした紅さんととてもしっかりしていて優しい空さん。そして、とても可愛らしい紫ちゃん。理想的な家庭だった。微笑む3人からはふんわりした雰囲気が漂っている。
「姫です。よろしくおねがいしますっ!」
「あらっ、姫ちゃんってば、気合が入ってるわね。ふふっ、夕食にしましょう。」
菊さんの声で、玄関で迎え入れていた全員が広間へとうつりだした。
「紫、入るよっ!...あいさつは?」
「おじゃまします!」
可愛い。
紅さんの隣を陣取り、様々な話を聞く。紅さんの話は面白かったし、空さんとの馴れ初めも実に甘かった。周りはもう結構なお酒が入っていて、暗殺者とは思えない程ぐでんぐでんに酔っ払っている。壱さんなんかは一杯目で早速落ちて、ぐっすり眠っていた。紫ちゃんも隣で寝ているので、妙に微笑ましい。
「妹さんもいらっしゃるんですか?」
「うん。双子の妹と、その下の妹。二人も特別上につきたいわけじゃないみたいで、当主従姉妹に譲っちゃったけどね
。」
そういう紅さんの顔は優しげで、姉妹を大事にしている様子が伺えた。ふと、最近心の奥底に閉まっていた兄が浮かんだ。
そういえば、彼女なら、私の修行を終わらせる方法が分かるかもしれない。
「あの、私今、修行をしているんです。」
「ああ。修行。みんなが通る道みたいだね。」
「二週間もやっているのに、木刀を当てられなくって。...私の武器は、ないのでしょうか?女だし、やっぱり、...。」
瞳を伏せる。顔すら見れない。紅さんはしばらく黙ったあと、にこりと微笑んでくる。
「確かに、男の人に、しかも専門でやってる人に腕力とかでなんか、ボクたちは太刀打ち出来無いね。」
「...やっぱり...」
項垂れる私。しかし、彼女の結論は違った。
「けど、姫ちゃんは大きな才能に、大きな武器があるじゃない。...女の子なら確実にもっているモノ。ホントは従姉妹のがこういうの詳しいんだけど、きっとキミなら出来る筈。」
私は彼女に、ある秘策を教えてもらった。それは、きっとここの誰にも負けない、大きな刃。
「ばいばいみんなっ!またくるねーっ」
「ばいばい!おにいちゃん、おねえちゃん!」
翌日、紅さんは帰っていった。ブンブンと勢い良く手を降って、車に乗り込む。帰り際に、空さんも「じゃあね」と微笑んでくれた。
「.............」
帰ったあと、名残惜しく門を見ていると、菊さんが隣に立っていた。菊さんはにこりと微笑み、私に聞いてくる。
「どうだった?姫ちゃん。いい話を聞けたかしら?」
「私」
「ん?」
「将来紅さんみたいになりたいです。」
「あらあら」
おにいちゃん。私、憧れの人が出来たよ。
紅さんや空さんは、別作「世界を○○する話。」のキャラクターです。彼女たちがもしこじれずに大人になっていたら、という設定。読んでみれば紅さんと空くんのエピソードもたくさんありますが、こじれる可能性があるので、別キャラクターとして扱ってください。




