5th episode-8
「……よし!」
護衛軽巡に続いて対地駆逐艦が一隻消滅したのを確認して、上空のレアリーは手応えを感じていた。大物はまだ残っているが、数は少ない。
すでにクラウディアの戦隊はダスクメタリカ艦隊の中央を突破し、背面展開を開始している。
制空権もこちらが握っている以上、圧倒的優位にあることは間違いない。
「このまま押しきれれば……」
呟くレアリー。
だが。
『レアリー十翼長。応答願います。レアリー十翼長……』
不意に月界交信が届き、レアリーは眉を跳ねさせた。
「……あなたは?」
『ハッ! サファイアドラグーン所属、潜海艦部隊所属、カルナ竜士であります!』
潜海艦。海戦月瞳魔女の中でも特に強力な保護フィールドと、鋼の精神力によって銀海に“潜って”敵を警戒すると言う重要かつ過酷な任務につく魔女だ。
世界的に見ても人数が少なく、502にも二人しかいない。
そんな彼女からの連絡と言うことは。
「……増援、かしら?」
『……はい。数は少ないですが、重巡洋艦一、護衛軽巡一、対地駆逐艦二が接近中。まもなく浮上する模様』
カルナの報告に、レアリーが眉をひそめた。
「……分かりました。あなたはそのまま新たな増援が来ないか監視をお願いできないかしら?」
『了解です。引き続き監視を続行します』
本来ならレアリーにはカルナへの直接命令権は無いが、状況が状況ではあるし、502ではトップの三人の仲が良好なのでその辺りは緩い。
「クラウディア」
『聞いていた。せっかく包囲したが解くとしよう。挟撃されては目も当てられん』
「お願い、ね?」
クラウディアに応えながら、レアリーは戦艦型の放った赤い破壊光線を避ける。
海の要塞とも言える戦艦型ダスクメタリカの対空砲火は生半可なものではない。
「……綾乃が来るまで持たせるしかないか」
眼下でクラウディアの隊が包囲を解いたのが見えた。そこへ計ったように銀海が盛り上がり、四隻のダスクメタリカ艦が浮上してきた。
「来たわね。全機、敵艦に向け……」
レアリーが号令をかけようとした瞬間。戦艦型の船首が展開した。
それを見たレアリーは命令を変えて叫ぶ。
「っ!? 全機、散開!」
空戦月瞳魔女達は、返事を返しながら斜線から逃れ行く。
そして、戦艦型の船首に赤い爆光が光り輝いて、膨大なエネルギーが解き放たれた。
極太の赤い光の柱が、銀海を押し退け岸を抉る。
光に飲まれた樹木は、瞬時に炭化して消え去り、川は消失し、大地は巨獣の顎で掘削されたかのように新たな運河を作り出した。
「くあっ!?」
「きゃあっ?!」
綾乃率いるサファイアドラグーンの面々が、赤い光の奔流の余波を受けて悲鳴をあげる。
衝撃だけでこれだ。直撃ならどうなるか。
だが、冷や汗を流す部下をしり目に、綾乃は隻眼と口許に弧を描かせる。
「……くく、そうじゃないとねえっ!」
嬉しそうな声を上げた彼女に、部下達は顔をひきつらせるしかなかった。
さらに後方では。
『敵艦主砲発砲っ!!』
誰のものとも知れぬ月界交信が響き、陸戦脚の側面に出現させた光輪によって大地を疾駆する陸戦月瞳魔女達の耳朶を打った。
即座に魔女達が予想射線から退避する。
そして、破壊の奔流が彼女らの近くを通りすぎた。
「きゃあっ?!」
「うわあっ!?」
「くぅうっ!!」
「……やってくれるよん」
部下達のあげる声を聞きながら、白い戦脚と、白い鍵爪付きの腕甲、そして、口径八十八ミリの対ダスクメタリカ砲を装備したネイが、呟いた。
だがしかし、彼女らは誰一人として足を止めない。
増援接近の報は、こちらにも届いている。
スカーレットウイングの補給物資コンテナも預かっている以上、一刻も早く前線にたどり着かねばならない。
「みんな、急ぐよん!」
『了解ッ!』
ネイの号令に異口同音に応えた魔女達は、その速度を上げた。
そして、城の一室にて、勇樹達は、悠真を中心にして折り鶴を折っていた。
意味合いは異なるが、戦勝を願っての千羽折りである。
参加しているのは悠真を始めとして勇樹にシルヴィア。イルマにシアと、キキーモラにブラウニー達。
そして何故かレキも参加していた。
『おるー』
『おるー』
『おるー』
『おるー』
『キュイ?』
手のひらに乗るほど小さなブラウニー達が、全身を使って折り鶴を折る姿は微笑ましい。
さらには手足が無い精霊が、体を伸ばしたり縮めたりしながら器用に折っている姿は若干シュールだ。
手先が器用なキキーモラもせっせと折っている。
その隣ではシアは肉球付きの大きな指で器用に折っていく。
そして、イルマは機人ならではの精確さと速さで、みるみる内に折り鶴を“量産”している。
ちなみに彼女の折る鶴はクチバシが刺さりそうなほど鋭く、翼は触れたら切れそうなほど鋭利だった。
最後にレキは、意外なほど折れていなかった。502一の密偵方である彼女も、異文化の童遊びに苦戦していた。
ちなみにリコは、最初の一羽で挫折して、今は横になって尻尾を振りながら酒をかっ食らっていた。
「……意外と難しいですね」
折り上がったヨレヨレの折り鶴を手に、レキはため息をついた。
その様子に勇樹が苦笑する。
「馴れれば綺麗に折れるようになるよ」
「はぁ」
勇樹の慰めの言葉に、レキの兎耳がへにょんと垂れた。
少し可愛い。
と、精霊が折るのをやめて外を見る。
ブラウニー達にキキーモラ、イルマも同様だ。
そして。
『敵艦主砲発砲!』
唐突に響いた月界交信に、レキと勇樹、シルヴィアが立ち上がり、悠真が驚いて目を丸くした。
そして、彼方に赤い閃光が走ったかと思うと、それは瞬く間に広がり光の奔流となって迫った。
『っ!』
息を飲んだ音は誰のものか。それを掻き消すかのように、赤い光が城の脇を通過した。
大地を舐める破壊の赤光。
木々は瞬時に炭化して砕け散り、動物達は逃げる暇も無く焼失する。
小川とそこに棲む生物が瞬きする間も無く霧散し、その跡も周囲の大地ごと抉り取られ跡形もなくなってしまった。
大気を震わせる衝撃に叩かれて城そのものが鳴動し、窓が次々と砕け散る。
「うわっ?」
「きゃあっ!」
「キュイっ!」
「くっ!」
「こわいー」
「……」
光がら逃れるように体を伏せ、一斉に悲鳴をあげる一同。
ただイルマだけが、その光を凝視していた。




