5th episode-6
銀海を、黒い偉容が進む。
それは、あたかも巨大な城が進んでいるかのようだ。
全長二百五十メートル。
全幅六十メートル。
全高五十メートル。
戦艦の艦橋にあたる鐘楼に、女を象ったフィギュアヘッドを張り付け、威圧感たっぷりに白銀の波を蹴立てて進軍する戦艦型ダスクメタリカ。
周囲に対地駆逐艦や護衛軽巡洋艦、重巡洋艦を侍らせつつ堂々たる姿で岸に接近しつつあった。
その岸には、通常軍の警戒部隊が展開していた。
騎士軍のものと比べても三段は格が落ちる兵器群。それを以て、彼らは防衛線を張っていた。
『撃てぇっ!』
指揮官の号令を受けて、大口径砲が火を噴いた。
とどろく重低音。それを経て、音を曳きながら巨弾の群れが、敵軍へと襲いかかった。
遠目に見えるそれらの周りに、次々に水柱が立ち、いくつかの爆炎が上がった。
『やった!』
歓声が上がる。が、次の瞬間。
煙と水柱を蹴散らして、赤い光の柱が警戒部隊へと伸びた。
一瞬。
一瞬であった。ただのひと薙ぎで、警戒部隊の大砲群、戦車、騎士、兵士、魔術師。
千人は居た部隊が爆炎に飲み込まれ、部隊が展開していたその岸ごと消滅した。
その赤い柱は、戦艦型の甲板上から撃ち出されたものだった。
凄まじい威力。
502の航空魔女部隊が到着したのは、まさにその瞬間だった。
「……酷い」
誰が呟いたかもしれぬ言葉に、指揮官のレアリー・サウスウェイブはくちびるを噛んだ。
「……全機、仕掛けるぞ! 警戒部隊の敵討ちだ!」
『了解!』
レアリーの号令に応え、戦脚を履いた魔女達が、ダスクメタリカ艦隊へと襲いかかった。
「ネフィ! 新人と対地駆逐艦をやれ! クレネアの隊は、あたしと護衛軽巡だ! 海と陸が到着するまでに、戦艦型を丸裸にするぞ!」
「……了解」
「了解ですぅ~」
急降下をかけながら指示を出すレアリーに応え、ネフェルティアが新人三人を引き連れて離れた。
レアリーに続くのは、クレネアを始めとした六人だ。本来ならレキを含めた七人となるはずだが、彼女は特命を受けて城に残っている。
とはいえ、502所属の空戦月瞳魔女十二人中十一人の集中運用。
その戦力は一個大隊を越える。
空戦用の戦脚の先端に点る光のリングが推力を産み出し、腰にマウントした小型論理魔導機関が唸りを上げて魔力を空中から吸い上げる。
論理魔導機関から伸びた翼が空中制御を補助し、七人の魔女が機関銃を始めとする武装を手にして護衛軽巡に襲いかかった。
護衛軽巡型中型ダスクメタリカは、対空戦闘能力に特化したダスクメタリカだ。
本来なら三~四隻で護衛対象を囲んで防空網を形成するのだが、出島への攻撃に反応して戦力が整わない内に出てきたらしく、一隻しかいなかった。
となれば、これを仕留めてしまえばレアリー達が制空権を掌握できる。
戦艦型の防空能力はかなり高いが、護衛軽巡がいるかいないかでは、その脅威度は段違いなのだ。
その護衛軽巡の艦橋部分にある女性のレリーフが、ぐにっと首を上に曲げ、生気の無い瞳でレアリー達を見た。
たちまちの内に、護衛軽巡の船体各所から赤い光線が発射される。
槍襖のごときそれを、七人の魔女が隙間を縫うようにして避けながら殺到していく。
そして。
「撃てぇっ!」
レアリーの号令に、魔女達が手にした機関銃が、無反動砲が、ロケットランチャーが、ライフルが、火を噴いた。
魔術によって強化された弾頭が、護衛軽巡に次々に降り注ぎ、その黒い装甲を砕いていく。
「キィアァァァァアアッ!」
レリーフが金切り声をあげ、身をよじった。
「クレネアっ!」
「はい~」
レアリーの鋭い声にも、魚のヒレのような耳を持つ少女は、いつも通り間延びしながら答える。だが、その表情は真剣そのもの。
構えていた機関銃を論理魔導機関のラックにマウントし、両腕を広げた。
彼女の右目に魔法陣が浮かび上がり、金色の光を放ちながら回転し始める。
「『我、契約者たるクレネアが命じる。我に従いし水の精霊どもよ。我が元に集い、我が敵を撃ち抜け』」
右人差し指と中指を立てて顔の前に持ってきて、普段の間延びした口調からは想像もつかないほど素早く呪を唱える。
すると彼女の正面に宙空より現れた幾筋もの水流が集まり、水球を形成し、ねじれながら伸びゆく。
「『蛟槍ぅ~!』」
間延びしながら叫ぶクレネアに応えるように、捻れた水槍が護衛軽巡に向かって飛翔した。
本来なら一メートルほどの長さのそれは、月瞳によって強化され、十メートルの長さと二メートルもの太さとなって護衛軽巡に直撃した。
圧縮された水の、魔力強化と加速によって数百トンにもなるその威力に、黒い装甲が砕け散り、百メートルを越える船体がくの字にひしゃげた。
艦橋基部が破壊され、レリーフの足元に、ダスクメタリカのコアが姿を見せる。
が、まだ終わらない。
それほどの損傷をも修復せんと、露出したコアが光り輝き、傷が修復していく。
だが、この隙をレアリーは逃さない。
「全機! コアをっ!」
その声に何本もの火線が応えた。それがコアに集中し、ダメージを与える。
さらにレアリーが、右腕を突きだし、五指を敵に向けた。
その瞳に魔法陣が顕れ、金色に輝いた。
右腕に張り付いた、刺青のような魔術回路が鈍く光り、彼女の指先に火が灯る。
それが次々に射出されコアに降り注いだ。
まるで炎のマシンガンのようなそれは、一発一発の威力は魔力強化された銃弾の数倍に及ぶ。
四神の一柱、朱雀を継承する故に、炎の魔術との相性が良い彼女ならではの威力だ。
それらの攻撃を一身に受け、護衛軽巡のコアは砕けた。
パキィンッ!
と、澄んだ音が響き、レリーフが悲鳴をあげた。
「キィイアアァァァアアアッ?!」
その断末魔を残し、護衛軽巡型ダスクメタリカは、粉々に砕けて消えた。




