5th episode-4
頭にヘッドセットを着けたオペレーターのトカゲ少女が振り返り、金色の瞳で上司を見上げた。
「司令! 始まりました! 騎士軍二万、ダスクメタリカの出島、アイランド1へ進攻を開始。現在交戦中!」
「……とうとう始まったのね」
トカゲ娘の報告に、ネイは眉を寄せた。二万の軍勢はけして小勢では無い。しかし、出島を攻略するには戦力不足であると、ネイは分析していた。
「偵察部隊より入電!」
さらに別の猫耳オペレーターが声をあげる。
「何か!」
「南東部の出島、アイランド2からもダスクメタリカ部隊が出現しました! 現在警戒部隊と交戦中! 援軍を求めています!」
猫耳オペレーターの報告に、了解したと返したネイはわずかにうなずいた。想定していた通りのアイランド2反応。
対して城の全戦力を投入し、警戒部隊と協力してダスクメタリカを撃退する。
各通常部隊への根回しも済んでおり、連携に問題は無い。
ネイは全軍出撃の準備を整えるべく号令をかけようと口を開いた。
そのとき!
「緊急! 銀海警戒チームから入電! ダスクメタリカ部隊が浮上してきました!」
「!」
突然に上がったトカゲ娘の報告に、ネイは目を見開いた。
想定外。
まるでタイミングを計ったような敵の逆侵攻だ。
「規模は!」
鋭く訊ねる。トカゲ娘からの返事はすぐだった。
「対地駆逐艦、四。護衛軽巡洋艦、一。重巡洋艦一。え? 嘘……」
呆然としたような声にネイが訝しげになった。
「報告!」
「あ?! はい! 敵戦艦型大型ダスクメタリカ一!」
トカゲ娘の言葉に、室内が一瞬静まり返った。
が、それを打ち破るようにネイの声が響く。
「全軍第一種戦闘体勢! 501、503に緊急応援要請! わが第502統合戦闘団も全力出撃する!」
指揮官の命令に、オペレーター達は我を取り戻し、素早く仕事に戻る。
「了解! 第501統合戦闘団応答願います!」
「全軍第一種戦闘体勢発令! これは訓練ではない! 全軍合戦準備!」
「整備班! 全力出撃です! 準備願います!」
「守備隊は防御戦闘準備!」
室内は蜂の巣をつついたような騒ぎと化した。
その中で、ネイはひとりくちびるを噛む。
逆侵攻してきたダスクメタリカ艦隊は、大規模というほどではない。だが、中核となっているのが戦艦級大型ダスクメタリカであることが問題だ。
この敵は、全長が二百五十メートルにもおよぶ巨大さを誇り、その威容にふさわしく強大な火力と装甲防御力を備えている。
正直なところ、火力重視の魔女でなければ有効打撃を与えるのは難しいだろう。
さらに言えばこの大型ダスクメタリカは大地を艦首衝角によって砕きながら前進してくる。
つまり、銀海の境界を越えることのできる“侵攻用”の戦力だ。
そして、このダスクメタリカこそが、出島の基部となるダスクメタリカでもある。
「……来るわね。ここに」
つぶやくネイの表情は険しい。
502の駐留する基地、“城”は、ポイント3の手前に存在する。
ダスクメタリカの出島が三つ揃えば、それらを繋いだ正三角形の範囲が銀海に沈むことは先に説明した通り。その三番目のポイントへの最終防衛線が、この“城”なのである。
「ネイ!」
「何があった!」
司令室のドアが開け放たれ、レアリーと綾乃が飛び込んできた。
「騎士軍がアイランド1に仕掛けたわ。これに反応してアイランド2からも敵が出現。さらに正面銀海から戦艦型が出てきたわ」
「!」
淡々と説明したネイに、二人は息を飲んだ。
「501と503には援軍要請済みよ。アイランド1、2はあちらに任せます。私たち502は、正面に現れた戦艦型大型ダスクメタリカを中核とした部隊を迎撃します。スカーレットウイングは先行して牽制して頂戴。サファイアドラグーンも追従して迎撃に」
「了解」
「心得た」
ネイからの指示を聞いて、ふたりは司令室から飛び出していく。
「あちしも準備しないといけないねい。オリビア百楯長を呼び出して!」
「はいっ! 常設守備隊、オリビア百楯長。至急司令室までおいでください」
ネイの声にオペレーターが返事をして呼び出しにかかる。
その間にネイは月界交信を開始した。
『カテナ、聞こえる?』
『どうした? 隊長。全力出撃とのことだが』
反応は早かった。ネイ率いる陸戦部隊ヴァイスティーガー副長のカテナ十爪長だ。
角巨人族の彼女はネイが502の総司令を務めているため、実質的には彼女がヴァイスティーガーの指揮官と言える。
『戦艦型が出たわ。第三種兵装の使用許可を出します。準備を』
『! わかった』
『それからあちしも出撃するよん』
『なに?』
思わず聞き返すカテナ。
『戦艦型が出てきた以上こちらも最大戦力で当たるべきだよん。あちしの“白虎”を準備しておいて欲しいよん』
『……わかった』
答えてカテナは月界交信を切った。ネイは軽く息を吐く。
と、司令室のドアが開いた。
金髪ショートカットに碧眼の女性が飛び込んできた。
「ネイ? なんの用……」
「オリビア百楯長、“月瞳魔女”は全員出撃します。“城”の指揮をお願いするよん」
最後まで言わせずに指示を出すネイに、オリビアはため息をついた。
「……了解。指揮権を引き継ぎます」
敬礼して答えたオリビアに、ネイが答礼しながら片目をつむった。
そのままネイが司令室を出ていくのを見送ってから、オリビアは司令室に向き直った。
「よし! “城”の迎撃体勢を整えろ! ここが破られればローザリアの国土の四割が失われる。心してかかれ!」
「はい!」
オリビアの号令に、オペレーター達が異口同音に返事をした。
慌ただしさを増した“城”の様子に、部屋に戻された勇樹達は戸惑いを隠せなかった。だが、異状事態であることはすぐにわかった。
「……なんだか大変なことになってるみたいだね?」
「……だな」
「……どうなっちゃうの?」
険しい顔で外を見ていた勇樹の言葉にシルヴィアがうなずいた。悠真はシルヴィアに抱きついて震えている。
その姿に勇樹は痛ましそうな顔になった。
窓から振動音が響いてきて再びそちらを見れば、眼下を鋼鉄の箱が重低音を響かせながら移動しているところだった。
この基地に配備されている戦車だ。型式は古く、数も少ないらしいと聞いている。
リューナ達が戦っている相手、ダスクメタリカという敵に対してはほとんど戦力にならないと、勇樹達は教えられていた。
それすら引っ張り出さなければならない状況。
「……かなり、不味い状況かもね」
呟いた勇樹の言葉に、シルヴィアが眉根を寄せ、悠真は彼女にギュウッとしがみついた。
と、部屋の扉がノックされた。三人がそちらを見ると、廊下から声がかかる。
『ゆんゆんにシルりん、ゆまっち。あちし、ネイだよん。ちょっと良いかなん?』
聞こえてきたのは、第502試験統合戦闘団司令、ネイ・ウエストロードの声だった。




