4th episode-6
「よかったね悠真」
そう言って勇樹は悠真の頭を撫でようと手を伸ばした。が、そこには精霊が陣取っていた。
おまけに、
「!」
精霊は翼を広げて勇樹を威嚇した。
あっけにとられた勇樹にシルヴィアが笑う。
「あっはっは、嫌われてやんの」
「……うるさいなシルビーは」
無遠慮なシルヴィアに、勇樹は憮然となる。リューナも苦笑いしていた。
「ユーキさんは精霊魔法を覚えるのは大変かもしれませんね。その子は“光”の下位精霊ですから、他の属性と相性が良いのかもしれませんけど」
「……あまり期待しないでおくよ。精霊に無理強いはしたくないしね」
リューナの言葉に苦笑いした勇樹は、右の人差し指を曲げて、その背中で悠真の頬を撫でた。悠真はくすぐったそうに目を細めた。
これが猫なら喉を鳴らしていることだろう。
その様子をリューナとリュミナ、シルヴィアもほほえましく見ていた。
と、シルヴィアがハッとなる。
「……そういや精霊魔法って、どんなことが出来るんだ?」
「……そうでした。その説明をするつもりだったんでした」
シルヴィアの疑問に、リューナが苦笑いした。
咳払いして、立ち上がりながら居住まいをただす。
「んん。精霊魔法は精霊と契約し、その力を借り受ける魔法です。強引に力を抽出する技術もありますが、精霊達の反発を招いて結局大した力を行使できないのが普通ですね」
リューナが精霊魔法について解説し始めた。
「精霊は、その属性にあった力を振るえます。“火”の精霊なら火を灯し、物を焼き、体を暖めてくれるでしょう。“土”の精霊ならば大地の力で体を癒やし、石の硬さを与え、土壁で守ってくれるでしょう。そういった精霊ならではの力を以てあなたに力を貸してくれます」
そこで言葉を切り、勇樹達三人を見る。その顔に戸惑いはなく、すんなり受け入れているようだった。
「精霊魔法を使えるようになるには、契約が必要です。契約相手は下位精霊ではなく、中位、あるいは上位精霊を相手に行うものです。術者が精霊にお願いし、精霊が受け入れてくれれば契約は成立します。中には条件をつけてくる精霊も居ますから気を付けてくださいね?」
勇樹達はなるほどとうなずく。精霊魔法はあくまで精霊側の意思や都合が優先されているのだ。だからこそ、リューナはシルヴィアに良くも悪くも精霊次第と告げたのだ。
そして、精霊に好かれていると言う悠真のアドバンテージも大きい。精霊の都合に左右されやすい魔法だが、精霊に好かれているならば、その力を十全に振るうことも不可能ではないだろう。
歴史に名を残す精霊使い達はそうした者達なのだ。
「無論、精霊に力を貸してもらうにしても魔力は重要です。精霊に自らの魔力を分け与えることで、精霊は力を大きく増すのです。ですから魔導も大切なんですよ? 悠真さん」
「は、はい」
微笑むリューナに言われ、悠真は緊張ぎみに返事をした。
そんな悠真を見てうなずいたリューナが再び三人を見回した。
「精霊魔法に関してはこんなところでしょうか? 次は……」
リューナが黒板を見た。
「次は“召喚魔法”を解説しましょう。“召喚魔法”はその名の通り、様々なものを召喚します」
召喚魔法。
その単語を聞いて、勇樹とシルヴィアの目が、わずかに細まる。悠真も真剣な様子ではあるが、それは授業を聞く生徒の真剣さだった。
だが、勇樹とシルヴィアのそれは、抜き身の刃のごとき鋭さだ。
リュミナの左手は思わずわずかに重心を落とした腰に伸ばされていた。
しかし、姉のリューナは堂々とそのエルフらしからぬ豊かな胸を張った。
「……最初に言っておきます。あなた方を召喚した魔法も、この“召喚魔法”の区分に含まれます」
「姉上!」
「……」
「……」
「ふえ?」
リューナの宣言にリュミナか驚きの声を挙げ、勇樹とシルヴィアがリューナをにらむように見る。ただ悠真だけが、少し首をかしげていた。
リューナは勇樹とシルヴィアの殺気にも等しい鋭い視線を正面から受け止めながら続ける。
「……召喚魔法は、基本的には意思無き器物を呼び寄せる。あるいは意思在るものを呼び寄せる魔法です。呼び寄せたモノがその力を振るい、召喚者を助け、もとの世界に送還、つまり送り返されます。これは小召喚と呼ばれる魔法で、簡単なものでは契約した魔獣を呼び出して攻撃させることが出来ます。また、一時的に使用するモノを呼び出し、使用後に送還、などというモノもありますね」
リューナはにこやかに説明した。それを聞く勇樹とシルヴィアの様子に、姉の隣でリュミナは警戒心を露にしていた。
だが、当の姉自身は気にした様子も無い。
「次に、大召喚。これは、召喚した器物、生物をそのまま世界に留めます。複雑な手順と膨大な魔力、大掛かりな設備が必要となりおいそれと行使できません。そして……」
リューナは一旦言葉を切って小さく深呼吸した。
「……そして、ユーキさん達を召喚するのに用いられたのは、恐らくこの大召喚です」
息を飲む音が聞こえた。
それが誰のものかはわからない。
ただ、室内の空気が重くなった。
「……召喚法がわかってるなら、送り返せるのか?」
静かに、シルヴィアが訊ねた。リューナは、表情を歪める。
「……方法は解ると思います」
「帰れるのっ?!」
リューナの言葉に悠真が喜びの声を挙げた。が、勇樹とシルヴィアは、リューナから目を離さなかった。沈痛そうな表情に彩られた彼女の顔に、不安を感じたからだ。
勇樹が口を開いた。
「……けど、簡単にはいかない。そうなんだね?」
「……はい。大召喚は特定の個人を召喚するものではありません。世界の法をねじ曲げ、異世界の存在を呼び寄せるこの魔法は、ある程度の条件に乗っとって召喚するだけです。ユーキさん達の世界や、ユーキさん達自身を狙ったわけではないんです。そして、ユーキさん達を送り返すには、ユーキさん達の世界に送還法陣門を繋げる必要があるんです」
「……その世界がわからないってことか」
シルヴィアが嘆息しながら漏らすと、リューナが辛そうにうなずいた。
「……探すことも出来なくはないですが、異世界と言うのは無数に存在するんです。例えるなら見渡す限りの砂漠の砂の中から、たったひとつぶの砂粒を見つけるようなものです」
それはもうほとんど不可能と言って良いものだろう。
「……そ、そんな……」
悠真が消沈し、肩を落とした。




