4th episode-3
「……話を戻しましょう」
リューナが笑って告げる。が、その笑みはどこか硬い。
勇樹達は黙って続きを聞くことにした。
「世界に存在するすべてのモノに魔力はあります。しかしそれは、魔力に対して親和性を持つモノ以外は微々たるものでしかありません」
「さらに世界に存在するだけで魔力は消耗していく」
リュミナがリューナの言葉を引き継ぐ。
「このとき、その存在が活動的であればあるほど消費量は高まっていく。そして、魔力が枯渇すれば滅ぶ。まあ生命体なら“死ぬ”と言った方が正しいか」
リュミナの言葉に悠真が身を固くした。
その頭が、くしゃりと撫でられた。悠真が上目使いに見ると、それは義兄の手であった。
悠真が彼を見上げると、彼が安心させるように笑う。すると悠真の強ばりが解け、彼女は安堵するように笑った。
「……続けるぞ?」
「あ! は、はい!」
「す、すいません……」
若干とがめるような響きのリュミナの声に、悠真が小さく震えた。その様子にリュミナが顔をしかめながら口を開いた。
「消耗した魔力は補えば良い。外から補充することは可能だから、心配しなくとも良い」
リュミナは声色を和らげながら悠真に言う。
「補充の仕方も様々だ。食事、呼吸などによって体内に取り込んだものから魔力を得る事が一般的だな」
「“魔導”は、この魔力を得る事を言います。極論すれば呼吸も食事も“魔導”ですね」
リュミナからリューナへと解説者が戻る。
「それで、魔法の行使には魔力が必要となります。そうね、燃料みたいなものかしら? で、今までの話でわかると思うのだけど、魔法の行使には本来、生きていくために必要な魔力を消費しなければならない。太古の魔法は文字通り命がけだったそうです」
リューナの言葉に、生徒である勇樹達三人は喉を鳴らした。
その様子にリューナがクスリと笑う。
「ふふ、大丈夫ですよ三人とも。今はよほど強大な魔法でもなければ命に関わるほどの事はありません。というより、魔法を使うのに命がけにならないように産み出されたのが“魔導”というものですから」
「“魔導”は、この世界に存在する魔力を集め、一時的に私たちの体に纏わせる技術だ。今の時代において“魔導”無しでの魔法の行使はあり得ないと言って良い。だから命の危険は無い」
リュミナがそう言ったところで勇樹が挙手した。リュミナはそれに顔を歪めるが、ややあって促した。
「…………なんだ、カナザワ」
「はい。世界から魔力を集めるってことは、世界の存在が脅かされないんですか?」
勇樹の質問に、リュミナは感心したようになった。
「ふむ。確かに理屈の上ではそうなるな。いかに世界という存在が大きくとも、魔法の乱発は良くは無いと言われている。もっとも、行使された魔法の結果が生じた際に、魔力も生じるのだが」
「破壊からの創成、創成からの破壊。この世界を司る女神様がおっしゃるには、それは等価なんだそうです。魔法を使って消費した分の魔力は、その結果から生じる魔力量に等しいんですね」
リュミナから言葉を継いでリューナが言う。それにうなずきながらリュミナが再び口を開いた。
「とは言っても、我々が魔法を使って、生じる結果で我々自身の魔力が回復するわけでは無い。ただ世界に還元されるだけだ。だから一時的に世界から魔力を借り受けるのだな」
ふたりの説明に勇樹がうなずいた。
その様子にリューナもうなずく。
「それでは、“魔導”をやってみましょう。まずは魔力を体内に取り込むことから始めましょうか」
微笑むリューナに、勇樹達が『ハイ』と返事をした。
「まずは魔力を感じるところからやってみましょう。三人とも立ってください」
リューナの指示に従い勇樹達が立ち上がった。
「“月の魔瞳”を励起して、そのまま目を閉じてください」
言われるままに、勇樹達は“月の魔瞳”を励起する。その瞳に魔法陣が顕れ、ゆっくりと回転し始めた。
そのまま三人が目を閉じるのを確認すると、リューナも“月の魔瞳”を励起し、両腕を左右に広げた。
すると五人のいる部屋が淡い光に包まれた。
「これって……?」
「なんだ?」
「あったかい……」
勇樹達がめをつむったまま戸惑うような声を上げた。リューナは微笑む。
「これが魔力の感覚です。肌で感じたものを忘れないでくださいね? 目を開けて構いませんよ?」
リューナの言葉に目を開けた三人は息を飲む。
部屋全体を包むような淡い光。それは波のようにゆらゆらと揺れて幻想的だ。
「すごい……」
「おおー……」
「ふわぁ……」
その光景に、勇樹達は感嘆の声を上げた。さらに互いの体も光を伴っていることに気付いて不思議そうに眺める三人。その様子にリューナが笑いながらうなずく。
「魔力に干渉して可視化しました。よく見ておいてくださいね?」
言いながらリューナが目を閉じ、静かに深呼吸する。
すると、淡い光の波に流れが出来始め、彼女に集まっていった。すると、彼女の体全体が淡い光に包まれ始めた。
「……これが魔力を身に纏っている状態です。光って見えるのは可視化してるからです。普通はもっと濃く纏わなければ見えません」
リューナの説明を聞きながら、幻想的な光を身に纏った彼女の姿に見とれる三人。
「では簡単な呼吸から魔力を集めることをやってみましょう。そのままリラックスして、お腹の……おへその下辺りに両手を添え、深く息を吸ってください。魔力を感じることを忘れないで……」
リューナの言葉を聞きながら三人は目を閉じ深呼吸を開始する。
「呼吸によって得た魔力を、自分の意思で留めていきます。体内に取り込んだ魔力の感触に意識を集中して循環させて……」
リューナのアドバイスを聞きながら三人が魔力を身に纏っていく。淡い光が、徐々に勇樹達を包み始めた。
不意に、ヒュオッと鋭い呼吸音が響いた。
シルヴィアだ。
同時に彼女の体を包む魔力の光が濃く、強くなった。それを見てリューナとリュミナが驚くが、シルヴィアは自分の体を眺めて一人で納得していた。
「……あー、やっぱそうか。ユウ、“息吹”だ。そっちの方が効率が良い」
「そうなの?」
「え? なんの話をしてるんです?」
シルヴィアは勇樹にアドバイスする。それはリューナも知らない呼吸法。
戸惑う彼女をそのままに、勇樹も調息しながら“息吹”を開始した。
ヒュオッと鋭い呼吸音が響いた。それが丹田に集束し、仙骨を経て体内の気の循環へと繋がる。気の巡りが身体に行き渡るに連れ、純度の高い魔力も共に、勇樹の全身へとみなぎった。
その結果として、勇樹の体が纏う魔力の光が濃く、強くなっていった。
その強さに、リューナとリュミナは息を飲んだ。




