3rd episode-8
「……どうしてこんなことになったんだろう」
「往生際悪りぃなあ。覚悟決めろよ」
石畳を敷き詰めた広い部屋の端で嘆息する黒髪の少年に、準備運動をしている金髪の少女が呆れたように言う。
舞台は再び第502試験統合戦闘団根拠地、通称“城”に戻る。
その屋内にある闘場にて、黒髪の少年、金沢勇樹と、彼の従姉である金髪碧眼の少女、シルヴィア・K・クローヴィスはこれから始まる試合に備えて準備運動していた。互いに動きやすい服装に、胸当て。そして籠手と脚甲、肩当てを装備していた。
その二人の得物はと言えば、シルヴィアは両手に刀身の短めな木剣を一本ずつ持ち、さらに腰の両側には同じような木剣を二本下げている。対して勇樹は徒手空拳だ。。
二人とも武器や具足の重さなどを確認するように振るい、軽く体を動かしている。
「……うん。ちょっと軽いかな?」
「小手も脚甲も打撃を考えて無さそうだしな。しゃーないだろ? あたしの方は鉄芯が入ってるから重さはちょうど良いかな? ま、バランスはいまいちくさいから投擲は牽制かな?」
体を動かしながら二人で言葉を交わす。
正直に言えば、二人とも太刀と小太刀の扱いなら多少心得ているし、その他様々な武器の扱いに関して少なくない知識はある。
これは護身術を学んだ課程において、向けられる武器の特性を理解しなければ対処が難しいために身に付けたものだ。
また、その護身術の基礎となる古武術が重い具足を身に付けての組打ちを主眼に置いているため、具足の重量を利用した技なども存在する。
それら身に付いている武を活かすため、勇樹とシルヴィアは調整に余念がない。
一方で、勇樹達とは反対側には、リュミナとクゥリャが佇んでいた。
エルフであるリュミナは、その華奢な体躯を守るように、胸当てに肩当て、籠手と脚甲を身にまとい、右手に普通のサイズの木剣を持ち、左手にはひし形の木の板を持っている。いわゆるミディアムウッドシールドである。
一方でクゥリャはといえば、目立つ防具は胸当てのみ。他には革手袋にブーツのみで、猫属の獣人らしくしなやかで引き締まった肢体をさらしている。
手にする得物は刀身の長い大剣タイプの木剣だ。
二人とも軽く体を動かしながらも、勇樹とシルヴィアを観察している。
闘場を見下ろす観客席は満員御礼。野次馬根性丸出しの少女達が始まるのを心待ちにしている。その席の異世界人側の最前列に勇樹の義妹である金沢悠真は精霊を抱えながら座っていた。その隣には仲良くなった小人族の少女フォニとその姉妹達の姿があった。
「……お義兄ちゃんとお義姉ちゃん、大丈夫かなぁ……」
不安そうに呟き眉を下げる悠真。その手にフォニが触れる。
「……きっと大丈夫だよ」
気遣わしげなフォニの言葉に、悠真ははにかみながら頷いた。
「……うん」
答えてなお、不安は尽きない。悠真は勇樹とシルヴィアが護身術を使えるのは知っているが、どのくらい強いかは全く知らない。
たいして、リュミナとクゥリャは同じ年くらいだとはいえ兵隊さんだという。そんな人たちと試合とはいえ戦うことになってしまった義兄と義姉を案じないわけにはいかなかった。
一方でリュミナの姉であるリューナは複雑そうに闘場を見ていた。場所は両者のいる位置の中間。つまり真ん中だ。試合全体を漏らさず見ることが出来る良い席である。が、彼女自身は楽しむ気にはなれない。
リュミナの双子の姉として、リューナは彼女を大切に思っているし、ある事情からリュミナもリューナを非常に大事に思ってくれている。それは姉妹としてとても嬉しくある。
そして勇樹。
事故とはいえ、リューナのくちびるを奪った少年。
リューナにとってはそれだけでも特別なことだった。
それからわずかな間ながらに彼を観察したリューナは、異世界に召喚されたという異状事態に対しても非常に落ち着いて行動している勇樹に対して、好感を感じていた。
だがこの状況に陥って初めてリューナは戸惑った。
「……私、どちらを応援すれば……」
普段であれば、大事な妹を一も二も無く応援をしていただろう。
リューナは視線を勇樹へと走らせた。
豊満な胸の奥がキュッとなる。
リューナは勇樹が気になって仕方なかった。妹の剣の腕も知っている。滑走路では頭に血が上っていたようだが、今は落ち着いているようだし、あのときのように勇樹が優位に立てるかはわからない。
「…………どうか、怪我をしませんように……」
呟いて祈る。
それがどちらを案じての言葉なのか、本人すらわからずに。
『それでは! ファンタ大龍士、クウリャ龍士チーム対カナザワ、クローヴィスチームの試合を開始しますっ!』
左右にリュミナとクウリャ、勇樹とシルヴィアを並べ真ん中に立った審判役の綾乃が右手を挙げて宣言すると、観客席が大きく沸いた。
戦争の最前線。娯楽の少ない場所での“レクリエーション”の始まりである。
「さて、四人ともルールは分かってるわね?」
綾乃が訊ねると四人とも頷いた。その目は一瞬たりとも相手から放さない。
綾乃は大きく頷いて、闘場の端へと移動すると、深く息を吸い込みながら両腕を左右へと開いていった。
左右に隻眼を走らせ四人を見る。
『では、始めっ!』
パンっ!
綾乃が手を打った音が闘場に響き、試合が始まった。




