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3rd episode-2


「……そういう訳で二人には特訓を受けてもらいます」

「は、はあ……」

「はいぃ……」

「ドンと来いっ☆」

 アッシュブロンドの彼女の宣言に、答える声三つ。

「……?」

 首をかしげる。

 目の前に立つのは三人。

 勇樹。

 新人の少女。

 シルヴィア。

 アッシュブロンドの少女がうろん気になった。

「…………なぜあなたが居るの?」

「特訓とか楽しそうだからっ!」

 満面の笑みを浮かべて答えるシルヴィア。

 勇樹がため息を吐き。新人の子が、えー……。となった。

「……そう。普通楽しくはないと思うのだけど、あなたがそれで良いなら構わないわ」

「おう☆」

 アッシュブロンドの少女があきれたように言うが、シルヴィアは元気に返事をした。

「……改めて、私はネフェルティア・リコリッタ大翼士。よろしくね? ユーキ・カナザワにシルヴィア・クローヴィス」

「はい」

「はいっ!」

 ネフェルティアに言われ、二人はしっかりと返事をした。

 それを見てネフェルティアはうなずいた。そして特訓を免れた二人を見る。

「……ミユキ・シノノメ翼士補、ディアナ・ディアス翼士補。あなた達は残りのメニューを消化しなさい」

「りょ、了解!」

「了解です!」

 ネフェルティアに言われ深雪とディアナは姿勢をしっかり唯してから右肘を横に突き出すようにして指を揃えた右の手の平を右胸に当てる動作をした。それを確認してからネフェルティアも同じ動作をし、彼女が下ろしたところで深雪とディアナが手を下ろした。

「敬礼と答礼かな?」

「そうですよぉ?」

 勇樹がポツリと漏らした声に隣の新人娘が間延びしながら小声で答えた。勇樹はなるほどとうなずく。

「……ルディア・ルキフィス翼士補、ユーキ。私語は慎むように」

「も、もうしわけありません~」

「す、すいません」

 注意されてルディアと勇樹の二人が謝罪した。その様子にシルヴィアがわずかに頬を緩ませた。

「……では、特訓を……」

 ネフェルティアが特訓開始を告げようとしたところに、鈴がなるような声が響いた。

『……あらネフェルティア。新人教い……異世界人!』

 だが、その声の主は、勇樹の姿を認めると声に険を含ませた。その人物を見て、勇樹は小さく驚いた。

「……リュミナさん」

 リューナの妹であり、勇樹に切りかかるという手荒い歓迎をしたエルフの少女、リュミナの姿がそこにあった。

「気安く呼ばないでください! この破廉恥漢! と言いますか、なぜ私の名前を知ってるんですかっ?!」

 威嚇するリュミナに勇樹は困ったような顔になった。

「そ、それはリューナに……」

「また姉上をたぶらかしたのですねっ!?」

 リューナの名を出した瞬間、リュミナの眉が限界までつり上がった。なまじ整った顔立ちゆえに迫力もある。

 勇樹がどうしたものかと困り果てていると、リュミナの背後から見知った顔がにゅっと覗いた。

 小人コロット族のアーユだ。はかにニンヴやフォルト、フォニもいるようだ。

 思わず勇樹は目線で助けを求めてしまう。するとアーユが肩をすくめて、仕方ないなあという風に頭を振った。

「……戦隊長、そろそろ早朝訓練……」

『いいからやらせとけよ』

 アーユの声を遮るその声に、彼女は厄介な奴が現れたと顔をしかめた。

 勇樹はそちらを見やる。

 そこには、スラリとしたしなやかな肢体の少女が居た。

 栗色の髪から覗くのはピンと立った猫耳。長い尻尾をしなやかにゆらゆら揺らしながら近づいてくる猫の獣人シャプレー族の少女だ。その金色の瞳に警戒の色を露にし、勇樹とシルヴィアをにらむ。

 とはいえ、本気の殺気などに比べれば涼風程度だ。勇樹とシルヴィアにその手の脅しや威嚇はほとんど効果が無い。

「……だいたい、異世界人が城ん中を自由にうろちょろできんのが間違ってんだよ。魔術結界月の牢屋にでもぶちこんどきゃあ良いものを……」

 猫の少女の言葉に、さすがの勇樹も渋面となった。シルヴィアなどはその蒼い瞳で彼女をにらみ返している。

 それを見たネフェルティアは嘆息した。

「……彼らが基地内で自由に出来るのはレアリー隊長達の判断。あの人達の判断を疑うの? クウリャ竜士」

「……あの人達だって人族だ。判断ミスが全く無い訳じゃねえだろ?」

 ネフェルティアとクウリャの間に緊張が走った。本来なら大翼士であるネフェルティアの方が竜士であるクウリャの上官に当たるが、空と海という組織の違いと、502の規律の緩さが裏目に出ていた。

 訓練場に険悪な雰囲気が広がり、先に訓練していた面々も訓練を中断して成り行きを見守り始めた。

「……」

 勇樹はその状況に顔をしかめた。彼からしたら仲裁に入りたいところだが、問題とされているのは勇樹達自身の事だ。しゃしゃり出ればさらに拗れかねない。

 どうしたものかと勇樹が思案していると、新たな人影が訓練場に姿を表した。

『なにやってるんだ!』

 よく響く声は勇樹達のよく知る声だった。

 レアリーがリューナとレキを伴ってやってきたのだ。おそらくレキが知らせたのだろう。

 リュミナが顔をひきつらせ、クウリャが舌打ちした。

「姉上……」

「……ちっ、こそこそするしか能の無い売女ウサギがチクりやがったか」

「何をやっていると聞いているのよ? ファンタ大竜士、クウリャ竜士」

 レアリーが歩きながら再び問いただした。

「……ちょっとしたレクリエーションですよ。サウスウェイブ十翼長殿。ねえ? 戦隊長?」

「え?」

 クウリャがしれっと言いながらリュミナに同意を求めるが、堅物の彼女はとっさに理解できずに戸惑ってしまった。

 戦いにおいては勇猛果敢で判断力も決断力もある上官だが、生真面目でこういう場面に弱いのは困りものだ。

 クウリャはリュミナに聞こえないように舌打ちする。

 レアリーはクウリャをにらんだ。

「……レクリエーションね。とてもそうは見えなかったけど……?」

 言いながらレアリーは勇樹とシルヴィアを見た。勇樹はシルヴィアに目配せをした。

 それにシルヴィアが小さくアゴを引いた。

 それを見て勇樹はレアリーを見つめて口を開いた。

「……本当ですよレアリーさん。僕たち一般人が軍人のみなさんの胸を借りて交流しようってレクリエーションを提案されたんです」

 勇樹のその言葉に、ネフェルティアやルディア、クウリャとリュミナ達も驚いて目を丸くした。

 リューナがリュミナを見る。

「……本当なの? リュミナ」

「あ、姉上……そ、それは……」

 リューナの問いに、リュミナは口をつぐんだ。何より姉に対して嘘をつきたくないリュミナにはそれしか出来なかった。

 レアリーは勇樹をしばらく見ていたが、嘆息して視線を外すとクウリャを見る。

「……そうなの? クウリャ竜士」

「…………チ、そういう事らしいぜ?」

 忌々しげに舌打ちしながらも、クウリャは同意した。

 その事にレアリーは嘆息し、「わかりました。ただしレクリエーションだとしても、ウエストロード百爪長か東野百竜長の許可がなければ許可できません。この場は一旦私が預かります」と宣言し、一時的に場を納めた。


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