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2nd episode-11


 大騒ぎの食事会が終わり、夜も更け行く。

 最終的に寝泊まりする部屋を宛がわれ、勇樹はベッドに寝転んでいた。

 キングサイズのそれは一般的な感覚しか持たない勇樹にとっては、一人で寝るには広すぎるとしか思えなかった。

 そう、一人である。

 当たり前ではあるが、さすがにシルヴィアや悠真と一緒の部屋にはなれなかった。

 勇樹はぼんやりと天井を眺めていた。が、眉が寄って眉間にシワが刻まれる。

 瞳に宿るのは、寂寥、望郷、疑問。

 様々なものが、彼の胸中に渦巻いているようだった。

「……考えても、答えは出ないか……」

 目をつむり、息を吐く。

 滲むのは諦感。

 ひとりで思い悩むが故か、しばらく前とは打って変わってネガティブな考えに支配されているようだった。無理も無い。古流に連なる武術を習得していようが、体を鍛え上げていようが、やはり彼は十七の少年でしかないのだ。

 家族の温もりを知っているものが、それを失った時に感じる寂しさは、なかなかに重くはある。

 軽く息を吐いて身を起こす。

 ベッドから降りて、テラスへ向かった。

 部屋一つ一つにテラスとは豪勢だと思うが、城だからだろうか? まあ、気にしても仕方ないことではある。

 テラスから空を見ればすでに月がよく見えていた。

 天に輝く銀月。冷たい輝きを放つそれは丸い満ち月。

 元の世界と遜色無い輝きに、勇樹故郷を思い出す。

「……異世界だっていうなら、赤や青だったり二つ、三つあったりするものだと思うんだけどな……」

 ぽつりと呟いて視線を下ろした。

 湖に面した城は、脇に黒々とした森を備えていた。それはかなり向こうまで続いている。

 と、視界の中に白が踊った。樹から樹へと素早く飛び移るその姿は人の形。

「!」

 勇樹は思わず目を見はった。長い耳と白いロングヘア。月光を反射するそれは、煌めくように美しい。

「……レキ?」

 思わず漏らす。護衛だと言っていたのに身体検査を終えて医務室を出たら居なくなっていたレキ。食事の時も見かけなかったのだが、レアリーに問いただす暇も無かった。

 そんな彼女が夜更けに何をしていたのか?

 気にはなるが、まるで幻であったかのようにレキの姿は見えなくなっていた。

 一瞬、手に力が入った。

 だが。

「……やめよう。行っても森で迷うだけだしね」

 言い聞かせるように口に出す。

 だが、気にはなるのか、勇樹はしばらくテラスから森を眺めていた。

 と、部屋のドアがノックされた。それに気づいて、勇樹は移動しながら声を掛ける。

「はい、どうぞ」

『失礼します』

 機械音声マシンボイスが響いて、ドアが開くとそこにはメイド服をまとったちょっと変わった少女が居た。

 勇樹達の世話を任されている機人メタリカ族の少女、イルマだ。

 ほとんど人間と変わらない外観だが、骨格は金属製で内蔵は機械で出来ているらしい。他に区別しやすいように、額に逆三角形のプレートがある。

『夜分に申し訳ありません。ユマ様が……』

「お義兄ちゃん!」

 悠真がイルマの脇を抜けて飛び込んできた。続くようにシルヴィアも頭を掻きながらイルマに謝りつつ入ってきた。

「よう、ユウ。なんだか寂しくなったみたいでさ……」

 そう告げるシルヴィアにもわずかな憂いを感じ、勇樹は半ば納得した。

 悠真にとっては、血が繋がっていないとは言っても、今は勇樹だけが家族なのだ。

 悠真にして見ればシルヴィアは仲が良いと言っても、友達レベルの話だ。

 そして唯一の家族である勇樹と離されたことで彼と同じく寂しさが募ってしまったのだろう。

 また、シルヴィアも社交的な性格とは言っても、警戒を完全に解くわけにはいかない状況だ。不安が無いはずは無いのだ。

 勇樹は膝を着いて、半べそをかいている悠真に視線を合わせて笑みを浮かべた。

「大丈夫だ。お義兄ちゃんはここに居るよ?」

「……」

 勇樹の言葉に悠真がうなずく。勇樹は彼女を抱き締めてやった。

「なんだよーあたしも混ぜろよー」

 するとシルヴィアもやって来て、勇樹と悠真ごと抱き締めた。

 ふたりに抱き締められる形となって、悠真は目を丸くしたが、やがてその顔に笑みが生まれた。

「はははっ♪」

「ふふふ♪」

「あははっ♪」

 三人で笑う。ひとりでも欠ければ寂しくなるが、さんにん揃えば笑顔になれる。

 今、この時こそ彼らは暖かな家族だった。

「……イルマさん」

『はい』

 勇樹に呼ばれ、イルマが返事をした。抑揚の無い機械音声マシンボイスだが、不思議と嫌な感じはしなかった。

「今日だけ。今日だけ三人一緒に居たいんですけど……ダメですか?」

『……その判断は、私の裁量を越えます。サウスウェイブ十翼長にご裁可をいただいてまいりますので暫しお待ちください』

 そう言って腰を折ったイルマは、退室していった。

 それを見送った三人は顔を見合わせ笑い合う。

「じゃあ、今の内に色々話をしようか? 悠真」

「そうだな。義兄ちゃんのカッコ悪い武勇伝、色々教えてやるからな?」

「え?」

 勇樹の言葉にうなずこうとする悠真に、シルヴィアが横槍を入れた。それを聞いて勇樹が顔をしかめた。

「……やめてくれない? せっかく兄って認めてもらえたのに」

「バカ言え。格好イイところもカッコ悪いところも知っていての家族じゃねーか」

「うん。私も知りたい。ううん、私も話したい」

 勇樹の抗議を蹴飛ばしたシルヴィアに悠真が同調し、さらに自分の事も話したいと笑う。

 それを聞いて勇樹とシルヴィアは大きく頷いた。

 そして三人は、大きすぎるベッドに寝転がりながら自らの事を話した。嬉しかったこと、悲しかったこと、楽しかったこと。格好良い話もあれば、派手な失敗の話もあった。その度に笑いが起きたり、神妙にしたり、憤ったり。

 三人の話は尽きることはなかった。

 やがて、話し声が聞こえなくなり、三人分の寝息が聞こえ始めた。

 扉の外でそれを聞いていたイルマは、近づいてきた気配に左腕をナイフに変形させて構えた。その視線の先には雪のような白い髪に長い耳の少女。

「私よイルマ。お疲れさま」

 軽く笑い掛けてきた少女は、レキであった。

『レキ様でしたか。失礼しました。いきなり探知圏内に出現されたので迎撃体勢に入ってしまいました』

 そう言ってイルマは構えを解き、ナイフを腕に戻した。

「構わないわ。むしろそのくらいはやってもらわないとね」

『動いた密偵は捕らえたのですか?』

「ええ。結局二十人を越えたわね。まったく……」

 イルマに答えてレキは嘆息した。いかに男性初の“月の魔瞳”持ちだからといって、過剰反応しすぎなように思えたのだ。

「なまじ敵の居ない後方でふんぞり返ってるから、危機感がないのかもね」

『それに答えることは出来ません』

 レキの言葉にイルマがまっすぐ返してきた。レキは苦笑した。

「構わないわよ。……さて、私は警護の任務に戻るわ。あなたもガンバなさいな」

『ありがとうございます』

 レキに答えたイルマが頭を下げた。そして、イルマが顔を上げたときにはレキの姿はどこにも無かった。




 翌朝、一人の少女が、目の下に隈を作ったまま走るような速度で廊下を歩いていた。

 レアリーだ。

 悠真の心理状態を考慮して、三人同室を許可した彼女だったが、気が気では無く一睡も出来なかった。

 そして日が上ると同時にこうして様子を見に来たのだが。

「おはようイルマ。ヤってないわよね?」

『音声や熱分布等から判断して、行為は行われなかったと推測できます』

 イルマに確認するも、やはり不安は拭えないようで、レアリーは大きく息を吐いた。

「……レキ」

“覗きは趣味じゃありませんし、するしないは彼らの自由では? まあ、昨晩から今朝までそんな匂いも声もしませんでしたよ”

 どこからともなく聞こえた声にレアリーは口をつぐんだ。

 確かにするしないは勇樹達の自由だ。

 だが、ここで間違いが起きてしまうと、対外的には問題となるし、風紀の事もある。

 ただでさえ隊規を曲げて男である彼を本館に入れているのだから。

 だからレアリーは、自分の目で確認することにした。

「……イルマ、どいてちょうだい?」

『了解しました』

“……”

 あきれたようなレキの嘆息が聞こえた気がした。

 だが、確認せずにはおれなかったのだ。

「ユーキ君! 起きてる?! 入るわよ!」

 ノックもそこそこにドアを開ける。礼法には反するが、レアリーはすでに気にしていられなかった。

 部屋に飛び込むようにした入った彼女の見たものは……。

 悠真を抱き枕にしながらはしたなく大の字になって寝ているシルヴィアと、彼女に蹴り出されたらしい床に転がる勇樹の姿だった。

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