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第5章: レイの異変

束の間の平穏は、鋭い殺意によって切り裂かれる。

深淵から救い出した少女、レイ。彼女が手にした「影の刃」が向けられたのは、恩人であるはずのクロ(Kuro)だった。

背後に蠢く「口を縫い合わされた男」の影と、レイの悲しき裏切り。全てを見通す闇の主は、この絶望的な状況をどう「処理」するのか。

偽りの平穏が終わり、真の戦いの幕が上がります。

深淵転移の二夜後 ― 真夜中


森の洞窟の中の真夜中の空気は、生き物だった――湿った苔、冷たい石、そして残留マナのかすかな金属臭で濃密だった。外では、鉄木の森がぎざぎざした松の木々のシルエットを作り、その針葉は夜空の虚無に対する銀の短剣のように月光を捉えていた。洞窟の口の中では、影はただ存在するだけではなかった。それらは脈打ち、そこに休息する二つの魂の存在に反応していた。


クロウは石の床に横たわり、呼吸はゆっくりと規則的だった。観察者からすれば、彼は無防備な少年であり、その眠りは深く安らかだった。しかしクロウの精神は決して真に静かではなかった。眠りの中ですら、彼の地上での人生の条件付け――人間の相互作用をチェス盤として見ることに費やされた年月――は活動し続けており、周囲の移ろう空気を処理する潜在意識の層だった。


数メートル離れて、レイは薄暗がりの中で身を縮めて座っていた。銀の髪は青白い顔にかかってもつれ、目は、普段は柔らかな紫だが、今は震える不確かさの虚無だった。彼女は眠る少年を見つめ、右手を差し伸べていた。冷たく粘性のある魔法が、静かに指先の周りを渦巻いていた。それは主の魔法だった――彼が深淵から救い出した後に彼女に転移した、彼自身の“影核”の十パーセント。

今夜、それは寄生虫のように感じられた。重く、要求が多かった。

「ごめんなさい」と彼女は囁き、声はかろうじて息だった。「本当はしたくないの…したくないんだけど…でもあの人たちが…止めてくれないの…」


---


回想: 深淵の中で ― 数年前


あの人たちという言葉が引き金となり、彼女を記憶の光無き深みへと引きずり戻した。

深淵は火の場所ではなく、絶対の冷気の場所だった。時間はそこでは流れず、毒された水のように澱んでいた。レイは鎖の重みを覚えていた――骨そのものに融合しているかのように感じられた赤と紫の魔法の拘束具。彼女はただの器、東の魔王のオカルティストたちのプロジェクトに過ぎなかった。

その凍てついた虚無の中心に、一人の男が立っていた。彼は光を拒む影絵であり、その存在感は空気を鉛のように感じさせる圧力を放っていた。最も恐ろしい特徴は彼の顔だった。唇は銀の針金で無造作に縫い合わされ、目はまったく目ではなく、彼女の魂を直接見透かすかのような、憎悪の燃える残り火だった。

彼は口で話さなかった。精神で話し、言葉は骨の上で刃をこするような反響を残した。


「少年がお前を救いに来た時、小鳥よ、お前は彼と共に行くのだ」と声はシューと鳴った。「そして彼が最も無防備になった時、お前は彼を殺す。彼はお前の敵だ。彼は、お前が愛する世界を喰らい尽くす闇の主だ」

レイはその時泣き、声はかすれた。「彼は…私の救い主ではないのですか? 彼は私のために、闇の中へ手を差し伸べてくれたのに…」


男はしゃがみ込み、目の残り火を燃え上がらせた。「救い主? 奴は獲物を見る目でお前を道具扱いする捕食者だ。そして忘れるな、レイ…お前の養父母、テオとミラは…まだ生きている。彼らは私の庭園にいる。もしお前が私を裏切り――奴の心臓に刃を突き立てるのに失敗したなら――私は彼らの心臓を引き裂き、お前に見せてやる。何世紀もかけて死なせてやる」


彼女は喉が潰れるまで叫んだ。男は縫い合わされた唇の裏で微笑んだだけだった――グロテスクで、皮膚を引き伸ばす表情。

「忘れるな、子供よ。お前は私なしでは無に等しい。お前はただの、消されるのを待つ影に過ぎない」


---


現在 ― 洞窟


レイはあえぎ、空気の無い深淵に戻ったかのように肺が焼けた。両親の顔の記憶――彼らの温もりと優しさ――が、洞窟の入り口に座り太陽を見つめていたクロウのイメージと衝突した。彼は彼女を救った、確かに。しかし悪魔は一つの点で正しかった。クロウは世界を、恐ろしいほど臨床的な無感覚で見ていた。彼は人が「人」を見る場所に「効用」を見ていた。


彼女の手は震えを止めた。両親への恐怖によって鍛えられた生存本能が制御を握った。

「影の刃」と彼女は呟いた。


彼女の静脈の中の闇のマナが応答した。それは掌に凝集し、固まった黒曜石でできた湾曲した短剣へと硬化した。それは月光を反射しなかった。それを飲み込むかのようだった。この武器は文字通り、主の力の一部であり、標準的な魔法防御を貫通することができた。


彼女は立ち上がり、動作は流動的で無音だった。一歩…石はブーツの下で軋みさえしなかった。二歩…彼女は今や影の一部となり、彼女の“魂隠蔽”が意図を覆い隠した。


彼女はクロウの上に立った。彼は月光の中でとても幼く、脆く見えた。一瞬、彼女の決意は揺らいだ。しかしその時、心に母の微笑みが浮かび、縫い合わされた口の男の脅迫が戻ってきた。

彼女は短剣を高く掲げ、切っ先をクロウの心臓にまっすぐ向けた。抑えきれない最後の苦悶の嗚咽と共に、彼女は下方に突き刺した。


ガン。


その音はハンマーが金床を打つようだった。レイの腕は骨を揺るがす振動で跳ね上がった。絶対的だと思っていた影の刃は彼の皮膚を貫かなかった。それどころか、触れさえしなかった。それはクロウの胸の一インチ上に現出した、目に見えないきらめく障壁に当たって砕け散っていた。


「これは…?」と彼女は恐怖で目を見開いて囁いた。「絶対障壁? 眠っていても? 自分の魔法に対抗してですら…?」


クロウの目が開いた。それらは目覚めたばかりの少年のぼんやりした目ではなかった。深い紫の虚無であり、冷たく分析的だった。彼はひるまなかった。驚いた様子も見せなかった。


「いつ試みるかと思っていたよ、レイ」と彼は言い、声は平坦で感情を欠いていた。


「君は四十八分前から殺意を漏らしていた。脈拍は刃を召喚した瞬間に毎分140に達した。統計的に、君が行動に移せない確率はわずか4%だった」


レイは膝をつき、影の刃の残骸は煙となって溶けた。彼女は小さく感じ、『暗黒心理学』の達人の臨床的な視線に晒されていると感じた。


「知ってたの?」と彼女は喘いだ。「私に力を与えた…私がそれを使ってあなたを殺そうとするって知ってて?」


クロウはゆっくりと立ち上がった。彼が立ち上がると、洞窟の影は彼に従うかのように広がり、月光を呑み込んで、唯一の光は彼自身の目の輝きだけになった。闇の主のペルソナ、主は、もはや少年クロウの仮面の後ろに隠れてはいなかった。


「なぜ私を殺そうとした?」と彼は尋ねた。それは傷つきや裏切りの問いではなく、データの要求だった。


レイは壊れた。秘密の重み、深淵の圧力、そして家族への恐怖が、すすり泣きの奔流となって溢れ出した。「だって彼が捕まえてるの! 深淵の男が…私の両親を! あなたを殺さなければ、永遠に彼らを拷問するって! したくなかった…クロウ、お願い…私には選択肢がなかったの!」


静寂が洞窟に戻った、前よりも重く。クロウは無表情で彼女を見た。彼にとって、これは古典的な心理操作だった――情緒的アンカーによる強制。彼は地上での人生でこれを研究していた。強者がいかに弱者の愛着を利用して傀儡を作り出すかを知っていた。


「よかろう」と彼はついに言った。


レイはまばたきし、涙を頬から拭った。


「よかろう? き、君は…私を殺さないの? 私は君を殺そうとしたんだ! 裏切り者を排除する唯一のチャンスだったのに!」


「君を殺すのは資源の無駄だ」とクロウは答え、彼女を通り過ぎて洞窟の入り口へと歩を進めた。声は氷のようだった。「君はまだ役に立つ。しかしこれを理解しろ、レイ。私は許さない。忠誠心は二値的な状態だ。君はそれを破ることを選んだ。この瞬間から、君の地位は厳密に功利的なものだ」


彼は彼女の応答を待たなかった。冷たい夜の空気の中へと歩き出し、黒いローブが風にはためいた。


彼らが移動するにつれて、森は静かだった。レイは数歩遅れて続き、胸の内は別の種類の痛みで重かった。両親を救ったかもしれないが、闇の中で真に手を差し伸べてくれた唯一の人を失ってしまった。


「私…これを修復したい」と彼女は震える声で言った。「あなたが必要とする私になれるって証明させて。私の価値を示させて」


クロウは振り返らなかった。彼は地平線上の廃塔――マナ密度が最も高い場所――に向かって歩き続けた。


「どうやって?」


「あなたを彼のところへ連れて行かせて」と彼女は言った。彼女はほんの一瞬ためらった。「私は彼を止めたい。彼が死ねば、みんな安全になる。罠の中心へあなたを導く」


クロウは目を閉じ、危険性を計算した。罠だと分かっていた。塔にいる半魔人は、おそらくこの世界の歴史を操る秘密の悪役、「最初の英雄」の手先だろう。


「屠殺場に踏み込めと言うのか?」


「違う」と彼女は嘘をつき、声は必死の強さを帯びた。「操り人形芝居を終わらせたいの」


クロウは立ち止まり、肩越しに彼女を見た。かすかな、冷たい笑みが彼の唇に触れた――世界をチェス盤として見る闇の主、主の微笑み。


「よかろう。道を案内しろ、レイ。今夜、一体誰が誰を狩っているのか、確かめよう」


彼らが茂みの中に消えると、廃塔の頂上から一対の赤い目が見つめていた。縫い合わされた唇の半魔人は、近づいてくる少女の気配を見つめ、残り火のような目を期待に燃え上がらせた。


「来い、小さな影の主よ」と彼は思い、悪意は森のマナを通して波紋を広げた。「お前の魂を手に入れ、深淵で始まったことを終わらせるのを、長い間待っていたのだ」


---


✦ つづく…

第5章を読んでいただき、ありがとうございます!

裏切りすらも「計算内」として受け流すクロ。彼の冷徹な合理主義が光る回でした。しかし、レイを操る黒幕の存在が、二人をさらなる窮地へと誘います。

「クロの冷たさが最高にシビれる!」「レイの過去が切なすぎる……」と感じていただけたら、ぜひ下の**「★」評価やブックマーク**で応援をお願いします!

次回、ついに廃塔での決戦。闇の主vs縫い合わされた男。

絶望の先にある真実とは――。お楽しみに!

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