1182年2月 新しい武器
奥州平泉・優介邸
コケー! コッコココ!
優介は市場で鶏を買って、子供たちに世話をさせることにした。餌は雑草と米ぬかだ。生き物係り程度の養鶏なら幼子でもできる。
「お兄ちゃん、お寺に行って紙とお味噌を交換してきたよ。作り方も聞いてきた」
「これで麹が手に入った。忘れないよう。紙にレシピを書き留めておいてくれ」
味噌作りをキララに任せると、街の鍛冶屋へ向かった。
この店は鉄八という若者がやっている。平泉には他にも鍛冶屋はあるが、好奇心旺盛なところが気に入って選んだ。
「あんたがくれた木型に近い物が出来たぜ。これは何に使う物なんだい?」
「何にでも使える。そこがこの品物の肝さ。馬鹿売れすれば、お前は手下を数十人をかかえる鍛冶屋になれる」
「からかうんじゃねえよ」
鉄八は鼻で笑うと、再び鉄を叩き始めた。
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奥州平泉・伽羅御所
次の日、優介は試作品を持って秀衡を訪ねた。
庭で待っていると、回廊に吉次とともに秀衡が現れる。
「新しい武器を持ってきたそうだな。見せてみろ」
秀衡は試作品を手に取って眺めると、庭へ放り投げた。
「土を掘り返す鋤の刃の部分を鉄に変えただけではないか。これが武器か?」
「鋤ではありません。俺はシャベルと名付けています」
優介はシャベルを構えるように持つ。刃先を秀衡に向けると、吉次が前に出てかばった。
「刃の部分は前を尖らせており、敵を突けば深手を負わせられます。頭を叩けば気を失うでしょう。吉次さんが秀衡様をとっさに守ろうとしましたよね。武器と感じた証です」
シャベルを突き刺して土を掘ってみせる。
「簡単に土を掘ることができれば、戦を有利に運べます」
「戦? 開墾の間違いであろう」
「両用です。空堀を素早く作れば、騎馬の侵入を防げます。そして、開墾でシャベルの扱いに民が慣れれば、攻め込まれたとき、民も戦に加えることができます。日本最大の防衛力を奥州が持てるのです」
「日本最大……」
「すぐに返答いただかなくて結構です。あちらでキララが馳走を用意しています。食べながらお考え下さい」
キララの調理している場所に案内すると、秀衡が驚いた。
「これは、先ほどの――!」
「はい。刃の部分を取り外したものを使った料理です。こちらは鳥の脂身を溶かした油で鶏肉を素揚げしたもの。その隣が鳥の味噌焼きにございます」
「美味い! このような物を食うのは初めてだ! ほれ、吉次も食うが良い」
この時代に油を使う料理はない。鉄板焼きも。
最後の一切れを名残惜しそうに秀衡はつまむ。
「ちと、量が少なかったのう……」
――いいぞ。狙い通りだ。
「まだ、これで終わりではありません」
キララが鳥の油が残ったシャベルの刃に炊いた米と卵を入れる。炒飯だ。これで止めを刺す。
「ハフッ、ハフッ! これも、たまらん! 美味すぎる! わしは幸せじゃ!」
「京でも食べられない料理です。養鶏といっしょに広めれば、民もこの喜びを味わえます。秀衡様はさらに尊敬を集めることになるでしょう」
「――確かに民に受けそうだ。わしも、もう一度食べてみたい」
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優介たちが帰っていく後ろ姿を見て、秀衡が吉次に言った。
「シャベルを認めてやろうと思うが、吉次の考えはどうだ?」
「確かに便利な武器ですが、鉄をつければ大抵の物は武器になります。それよりも恐るべきは、優介の民を兵に変えるという発想です」
「我らを死の商人と言っておきながらのう。あやつのほうが酷い」
「はい、守るべき民に戦わせる。悪鬼、妖怪にしか思いつかない非道な考えです。思えば義経様は戦の訓練のとき、奇抜な発想で戦っていました。優介もまた戦の異才かもしれません」
「我らが作った偽物の英雄は、本物だったというわけか――」
「まだわかりません。優介を試してみてはいかがでしょうか?」
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奥州平泉・優介邸
数日後、吉次が優介に秀衡の意を伝えにきた。
「キララ、やったぞ! シャベル作りを認めてくれたぞ、しかも釜石の俘虜のうち、千人を使っていいということだ」
「やったね。お兄ちゃん。炒飯を、キララ飯って変えていい?」
「ああ。キララの名前をバズらせろ!」
キララと手を取り合って喜んでいると、吉次が言った。
「まだ話は終わっていませんよ。続きがあります。一カ月後に、泰衡様の軍と模擬戦を行ってもらいます。勝てば捕虜をもう千人解放しましょう。負ければシャベル作りは中止です」
「そんな! 俺は太刀も弓も扱ったことがないんですよ!」
「シャベルがあるでしょう?」
「いくらなんでもシャベルで――」
「武器になると言ったのはあなたです。断れば、秀衡様を騙した罪で罰します」
「いいじゃん。死ぬわけじゃないし。俘虜を解放できるチャンスだよ!」
「……やるしかないか」
――こうして俺は生まれて初めて、戦いに臨むことになった。




