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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女学園編
39/64

第37話 決着は一瞬で

 訓練場の観客席には、大勢の生徒が駆けつけていた。


 おそらくこれも、レティシアの仕業だろう。

 私の実力を見せつけるため、教員に噂でも立てさせたのかな。


 皆、出てきた私を値踏みするように見ている。


 ……こうして不意にエリスを探してしまう辺り、まだ離れきれていないんだな……と思う。


「カガミ……」

「……シア……」


 反対側からレティシアが出て来る。

 彼女は誰が見てもわかる通り、本気だった。

 目には覚悟が宿り、ただ一点──私だけを見ている。周りの観客のことなんて、一切視界に入っていないようだ。

 この決闘の真剣度で言えば、私は圧倒的に負けている。


 でも、この決闘に負けるつもりはない。


「まずは、この決闘を受けてくださったこと、心よりお礼申し上げます」


 レティシアはドレスの裾を摘み、優雅にお辞儀した。

 その動作は慣れていて、流石は王女様だと感心する。この動作だけで魅了される人も、中に入るのではないだろうか?


「あの約束、忘れていないよね?」

「ええ、もちろんです」


 あの約束とは、私が彼女との決闘をする上での条件のことだ。


「『絶対に手加減をしない。本気で殺すつもりで、一瞬も気を抜かない』」

「うん、覚えてくれているなら、大丈夫だ」


 満足して頷き、剣を抜く。


「……そちらの黒い剣は、抜いてくださらないのですか?」

「そんな残念そうに言わないでよ。シアも王族なら、この剣のことくらいわかっているでしょう?」


 アトラク・メレヴァ。

 これは破滅の剣だ。

 剣には魔王の魂が封印されており、使用するたびに魔王は使用者の心はアトラク・メレヴァに侵食される。その代わり強大な力を得ることはできるけれど、流石に今回は使わない。


 貰えるものは貰う。

 力が得られるのであれば、それに越したことはない。

 でも、命は別だ。

 それが危険に晒されるのであれば、例え欲深い私でも無闇に使うのは躊躇う。


「今回はエリスの剣で我慢してよ。……むしろ、これが私の全力を出し切れる」


 これに触れているだけで、側にエリスが居てくれている気がする。

 その安心感が、私を強くさせてくれるんだ、


「わかりました。残念ですが……いつかそちらの剣を抜かせることを、私の目標としましょう」

「ははっ、勘弁してよ」


 そうならないことを祈る。


 だってこの剣は、私が命の危険を感じた時にだけ抜くと決めている。

 レティシアに向けてアトラク・メレヴァを抜くということは、彼女と敵対するということだ。


「緊張は解けましたか?」

「……まだかな。でも、程よい緊張感だよ」


 そう言うレティシアこそ、緊張で震えている。

 頑張って隠しているみたいだけど、雰囲気でバレバレだ。

 ……まぁ、それは本人も自覚していることだろうから、わざわざ私が言う必要はないだろう。


「──さ、始めようか」


 剣を構える。


 まだそれだけのことなのに、レティシアの顔はキュッと引き締まった。


 それは彼女だけではなく、観客や審判、司会者までもが黙った。

 先程までの歓声が嘘のようだ。


「シア、もう一度聞く。覚悟はできてる?」


 レティシアは無言で頷いた。


「審判」

「──っ、始め!」


 開始の合図と共に動き出したのは、レティシアだった。


 彼女は口早に魔法の詠唱に入り、最初の実技の授業で放ったような氷の矢を空中に生成する。

 でもその量は、あの時の比ではなかった。二倍、いや三倍の矢の先端が、私を確実に射抜こうと狙いを定めている。


「これが私の、全力です!」

「……ありがとう」

「こんな状況で何を……」

「私との約束を守ってくれて、ありがとう」


 あの氷の矢達は、本当の全力なのだろう。

 友人を殺すための覚悟というのは、簡単にできるものではない。

 レティシアはそれをやってくれた。


「なら私も──本気でいかせてもらう」


 剣を横に振る。

 たったそれだけの動作で、無数にあった氷の矢が霧散した。レティシアと氷の矢との魔力回路を切断したためだ。


「なっ……!?」


 一度斬られた魔力回路は、修復が難しい。

 あまり戦い慣れていないレティシアでは、一瞬で治すことなんてできないだろう。


 でも、これで終わりではない。


「シア、防御」


 剣に魔力を纏わせる。魔族と戦った時に取得した『魔装』だ。


 上段に構え、精神統一。

 レティシアが魔力障壁を組み上げたのを確認して、一気に振り下ろした。

 私とレティシアの距離は、約10メートル。その程度の距離なら攻撃の余波が衝撃となって、全て斬り払える。


「──キャァ!」


 幾重にも張られた障壁は、ガラスが割れるようなけたたましい音を立てて崩壊した。

 衝撃波は勢いが衰えることはなく、レティシアの腹を斬り裂く。遥か後方に吹き飛び、彼女は壁に背中から叩き付けられた。


 その後、彼女が動くことはなかった。

 息はしている。気絶しているようだ。でも、お腹からはおびただしい量の血を流している。すぐに治療しなければ危険だ。


「ふぅ……」


 私は息を吐き、剣を鞘に納めた。


「早く治療を」


「っ、レティシア様!」


 後ろで控えていた医務班は、ハッと我に返ってレティシアに駆け寄り、担架に乗せて運んで行く。

 遠くの方で私達の戦いを観戦していた教員達が、慌ただしく動いているのが見える。


「し、勝者、ナンジョウカガミ!」


 歓声は湧かない。

 全てが一瞬の出来事で、誰も脳の処理が追いついていないのだろう。


 ……まぁ、こうなることはわかっていたさ。


 溜め息を一つ、私は静寂に包まれた会場を去った。

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