第36話 王女の覚悟
「さぁこれより、特生クラス同士の特別試合を開始いたします!」
増音魔法によって聞こえる司会の声。
それに続いて観客の雄叫びが控え室を揺らします。
──ついに、この時が来たのですね。
私、レティシア・オードヴェルンは閉じていた瞳をゆっくりと開きます。
思い出すのは、入学式前日のことです。
『お前のクラスに面白い奴を入れておいた。困っていたら助けてやれ』
お父様は食事の際にそんなことを言っていました。
私がどのような方なのです? と質問をしても、面白い奴としか答えは返ってきません。
あの人は面白いことがあれば、最後までタネを明かそうとはしません。私が会話の中で探ろうとしても、何も掴むことは出来ませんでした。
……そこは流石国王と言ったところでしょうか。
いつも隙だらけのように見えて、あの人に隙なんて全くありません。
私は諦め、どうせ明日にはわかることだと、それ以上は何も質問することはありませんでした。
その夜、私はお父様の言葉が気になって気になって、あまり十分に眠ることが出来ませんでした。
面白い奴……というのは色々と種類があります。
道化のように人を笑わせる仕事をしている方。
愉快な思考を巡らせ、人を驚かせる方。
行動が面白い方。
興味深い方。
そのどれを指しているのか、それをずっと考えていました。
結局、その答えは出ないまま入学式を迎え、私は眠気を我慢しながら新入生代表挨拶を無事に乗り切りました。
その後はお父様と軽く挨拶を交わし……たかったのですが、お父様が寂しがって号泣したせいで、少し遅れてしまいました。
急いで、しかし走るようなことはせずに教室へ向かうと、何やら騒ぎ声が聞こえました。
どうせどこかの気分屋が調子に乗っているのでしょう。……と、最初はそう思っていました。しかし、声の発生源はどうやら私の入る『特生クラス』にあると判明しました。
そして私は見つけたのです。
私のお付きで入学した者達に囲まれ、暴力を振るわれそうになっている少女。
彼女を見た瞬間、私は確信しました。
──この方がお父様の言っていた『面白い奴』なのだと。
その少女の名は『ナンジョウカガミ』。ここらでは見ない珍しい名前です。
彼女の腰に差さっているのは、二振りの剣。漆黒と純白という対になる剣は、見る者を魅了する不思議な魔力をしていました。
しかし、カガミは絶対に漆黒の剣を抜こうとはしませんでした。
私は一度「その剣をなぜ使わないのです?」と聞いたことがあります。
するとカガミは困ったように苦笑し、「これは私が本気になった時にしか使えないんだ」と言いました。
それは王国が誇る騎士隊の隊長、エリス様との約束なのだそうです。
純白の剣を贈ったのもそのエリス様だと言っていたカガミの表情は、とても嬉しそうでした。
私はカガミと仲良くなりました。
お父様が言っていたことがきっかけではありますが、私は個人的にもカガミのことを気に入っていました。
この子といれば、きっと私は強くなれる。根拠はありません。ですが、そうだと確信したのです。
カガミの力は凄まじいものでした。
私なんかでは足元にも及ばないような力をその身に宿し、異常と言わざるをえない少女。
……それなのに私の目には、彼女がとても弱々しく見えました。
気持ちが負けていると言えばいいのでしょうか。クラスメイトに何を言われようと、カガミは何も言い返しません。どんなに陰口を言われ続けても、困ったようにしているだけです。
どんなに心配をしても「大丈夫」と言われるだけ……。
ですが、本人が助けを必要としていないのなら、これ以上は余計なお節介と思われてしまうかもしれない。そう思った私は、ただカガミを見守ることしか出来ませんでした。
そして、恐れていたことが起こってしまった。
カガミが気絶し、医務室に運び込まれたと報せを受けた時、私は真っ先に彼女の元へ駆けつけました。
私は酷く後悔をしました。
「私は大丈夫だから、心配しないで」
そう言ったカガミは、とても弱々しく映りました。
──どうにかしてこの人を助けたい。
そう思いましたが、どうしていいのかわかりません。私は、言ってしまえば『温室育ち』です。こういったことには慣れていません……というよりも、初めてのことです。誰かと相談をしようと考えましたが、相談する相手がいません。
なので、私は考えました。
必死に考え、結局このような考えしか思い浮かびませんでした。
「ごめんなさいカガミ……私は、不器用なのです」
自嘲気味に笑います。
「レティシア様。準備をお願いします」
「…………」
「レティシア様?」
「……ああ、いえ……今、行きます」
係の者が私を呼びました。
それに従い、私は彼の後ろを歩きます。
「あの子は……どうしているのでしょう……」
ふと、私は呟きました。
私と本気で向き合ってくれるのなら、それは嬉しいことです。
緊張はします。カガミの言う通り、油断すれば死ぬかもしれません。
ですが、彼女と戦ってみたい。
そんな気持ちが私の足を戦場へと動かします。
あの人と戦うことで、私は強くなれる。
守りたいと思った人を守る。そんな力を得るきっかけになるような気がします。
私の身勝手な行動と自己犠牲に付き合わせてしまったことには、申し訳ないと思っています。
ですが、彼女はそれに応えてくれると言った。本当に優しい人です。
だから、カガミ……。
私は、あなたに勝負を挑みます。




