第35話 決闘の行方
決闘を申し込まれた。
誰に?
レティシアに。
どうして?
「私はずっと考えていました」
混乱している私に、レティシアは淡々と話し始める。
「どうすればカガミが傷付かずにいられるか。どうしてカガミは傷付くことになっているのか。……それは、あなたの力が認められていないからです」
「どういうこと……?」
「皆は、あなたがズルをして特生クラスに入ったと思っています。だから『調子に乗るな』『お前には相応しくない』『平民が尻尾を振った』……そんな心無いことを言われるのです」
「…………それは……」
レティシアの言っていることは正しい。
実際、私は入学に関しては何もしていない。ズルをしたと言われても、間違いではなかった。だから私は、何も言い返せなかったんだ。
「だから私と戦い、その力を証明すれば良い」
「それはちょっと飛躍しすぎじゃない?」
「いえ、違います」
私の言葉は、バッサリと切り捨てられた。
レティシアは、いつもの朗らかな笑顔を浮かべていなかった。
一国の王女らしく、私を射抜くような鋭い目線で睨んでくる。
……どうして、そんな顔をするのさ。
私がレティシアと戦う。
嫌だというわけではない。……それは、危険過ぎるんだ。
「私は手加減が出来ないんだよ!? もしかしたら、殺しちゃうかも──」
「覚悟の上です」
「そんな覚悟はいらない! なんでシアなのさ、他の人でも良いじゃん!」
「いいえ、ダメです」
「どう、して……」
「私が──王女だからです。自分で言うのはどうかと思いますが、私は天才と呼ばれています。そんな私を神聖な決闘にて倒せば、カガミも特生クラスに相応しいと誰もが認めるでしょう」
彼女の言っていることは正しい。
でも、それは天才と呼ばれた王女が、ただの平民に破れるということだ。
レティシアの評価を下げることになる。私なんかのために、彼女が犠牲になる必要はないんだ。
……それすらも、きっとシアは覚悟していると言うんだろうな。
彼女はとても強情だ。
一度決めたことは、絶対に曲げない。
だからこの決闘は、もうやることが決まっているようなものだ。
「それとも、私に負けるのが怖いですか?」
わかりやすい挑発だ。
先程からレティシアの手は、微かに震えている。
怖いのはそっちの方なのに、意地を張っちゃって……そんな彼女の気持ちを否定するのは、申し訳ない。
「……わかった。でも条件がある」
「なんでしょう」
「絶対に手加減をしないで。本気で殺すつもりで、一瞬も気を抜かないで。じゃないと、本当に殺しちゃう」
「私はそこまで弱くは──」
「約束して。私は友人を殺したくない」
「……わかり、ました」
冗談を言っているわけではない。
いつも魔物相手に戦ってきたせいで、私は手加減を知らない。
この前、初めて実技の授業をした時、私なりの本気半分で剣を振った結果、私は訓練場の壁をに深い傷跡を残した。もし本気でやっていたら壁を切り裂くだけでは終わらず、その直線上にある校舎にも影響を与えていたかもしれない。
その時は良い手加減が出来たと思った。
でも、それでもやり過ぎだと先生に言われてしまったので、私はその時になって「私は手加減が出来ないんだ」と悟った。
だから私は、レティシアにこの条件を飲ませた。
「それで、いつ決闘を?」
「今日です」
…………んん、幾ら何でもそれは急すぎる。
「勿論、教員方には許可を取ってあります。訓練場も抑えました」
しかも手回しは完璧ときた。
だから急遽、全校生徒は自習になったんだね。
なんか変だとは思ったんだけど、何か教員同士で重要な話し合いがあるんだろうなと納得していた。
まさかこんなことになっているなんて、想像もしていなかったよ。
「──カガミ。私は本気で戦います。あなたを倒すために」
レティシアは真剣な眼差しで、私を真っ直ぐ見つめてきた。
「前から気になっていたんです。お父様も、エリス様も、ロウリーおじさまも……誰もがあなたのことを褒めていました。魔族を一人で撃退したその力、どうか私に見せてください」
「…………わかった。私の本気を、シア──レティシアに見せてあげる。せいぜい頑張ってよ」
「はいはーい。話は纏まったようだねー」
私の同意を得たタイミングで、ミコ先生が教室に入ってきた。
「ミコ先生も知っていたんですね……」
「あはは……まぁ私が最初にレティシアちゃんから話を聞いたんだけどねぇ、いやぁびっくりしたよー」
「その割には楽しそうですね」
「あ、バレた? こう見えて私も元冒険者だからねぇ。争い事は大好きなんだよ」
「……さいですか」
私達は訓練場に連れてこられた。
控え室は別に用意してあって、今私は小さな部屋に一人だ。
「……なんか、大変なことになっちゃったなぁ」
私はベンチに座り、天井を仰いだ。
決意を新しくした次の日に、まさかこの国の王女様と決闘をすることになるとは思わなかった。
でも、これは良いきっかけになるのかもしれない。
レティシアは自分を犠牲にした。
自分への評価を下げる代わりに、私は特生クラスに相応しいのだと認めさせようとしてくれている。
どうしてそこまでしてくれるのかはわからない。
もしかしたら、ガイおじさんに何かを言われたのかもしれない。
理由がどうであれ、レティシアの目は本気だった。
なら私は、それに応えるだけだ。




