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転生少女は欲深い  作者: 白波ハクア
少女学園編
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第28話 自己紹介

「──おやめなさい」


 いつか来るだろうなと思っていたビンタは、後ろから伸びてきた手によって止まっていた。

 目を瞑っていた私は、そのことに気づくのが少し遅れてしまう。令嬢の呻くような声でようやく何か起こったのだと理解出来た。


「くっ、この、誰で──レティシア様!?」


 クラスのざわめきがより一層大きなものとなる。

 ……レティシア? 誰だろう?


 綺麗な白髪だ。

 顔は人形さんのように整っていて、今まで出会った人の中で一番可愛いかもしれない。

 その人が私を叩こうとしていた令嬢の手を掴んで、ニコニコと微笑んでいる。吹雪が室内に起こりそうな微笑みだ。それを見た三人の令嬢は同時に短い悲鳴を上げた。……ちなみに私も少しだけ怖いと思った。


「教室に入ってみれば何ですかこの騒ぎは。三人で寄ってたかって見苦しい」


「で、ですが、この平民が──」


「この学園にいる以上、平民も貴族も関係ありません。貴族と平民を差別する者は一週間の謹慎処分とする。と校則にもあります。……あなた達は入学初日から校則を破るのですか?」


「い、いえ……! そんなことありませんわ。ただ年の近い者同士戯れていただけです!」


「ええ、その通りですわ! いじめなんて私共がする訳ありません!」


「そ、そろそろチャイムが鳴りますわね。では、御機嫌よう!」


 そう言って三人の令嬢は教室を出て行った。

 ……特生クラスじゃないんかーい。と逃げて行く三人の背中にツッコミを入れたかった。


「私、いじめだなんて一言も言っていないのですけどね。……他に、文句のある方は居ますか?」


 さっきまで私を笑っていた人達が、サッと視線を逸らした。わかりやすい反応にレティシアさんは小さく溜め息を吐いた。そしてすぐに興味を失ったのか、私に体を向けた。


「大丈夫でしたか?」


「え、はい……その、助けてくれてありがとうございます。それと、すいませんでした」


「気にしないでください。それに、謝るのは私の方です。あれは私の取り巻き連中です。つまり、私の監督不行届です。本当に申し訳ありませんでした」


「えっ!? そ、そんな……私なんかに謝らないでください! 助けてくれて本当に感謝しています。なので、お互い様ということにして頂けませんか?」


「……ふふっ、面白いお方ですね。隣、いいでしょうか?」


 と言いながら、彼女はもうすでに私の隣に座っている。

 でも、流石に「もう座っているじゃないですか」とは言えず、仕方なく「どうぞ」とだけ言うと、彼女は嬉しそうに笑ってくれた。

 先程の凍えるような微笑みではなく、温かい微笑みで安心した。


「カガミ様……でよろしかったですよね?」


「はい。でも、呼び捨てで結構です。私に敬語を使うなんて……」


「では、私のこともシアと呼んでいただけますか? 勿論、敬語は禁止で。もうお互い会話した仲なのです。お友達はそういうものでしょう?」


 この時、私は悟った。

 ──ああ、この人は一度言い出したことは曲げないタイプだと。

 こういう場合、私が折れるまで話は進まない。


 でも、初日から友達が出来たのは嬉しい誤算だった。それに相手から言ってくれたんだから、嬉しさは倍増だ。


「…………わかった。私は南條鏡。カガミって呼んでね。にしても、どこで私の名前を?」


「あの王国騎士隊長と共に来訪し、国王の側近から祝福の言葉を送られた少女。しかもどうやら特生クラスのようだ。……結構有名ですよ?」


「──こふっ」


 血を吐き出したかと思った。それほど衝撃的なことだった。

 まさか噂の広まりがそこまで速いとは思わなかったよ……。


「わ、私はただの平凡な女の子です」


「あらあらご謙遜を」


 クスクスと女性は笑う。

 いや、本当に平凡なんです。どうしてガイおじさんもエリスも、みんな私のことを変に見るのだろう?


「うふふ……あなたは本当に面白いのですね。話に聞いていた通りです」


「話? 誰から?」


「私のお父様です」


「へぇ……どこかで会ったのかな……あ、冒険者ギルドの職員とかかな?」


「あ、いえ、そうではなく──っと、来たようですね」


 誰が? と聞く前に、教室の前側の扉が開かれた。


 結局、レティシアさんのお父さんが誰なのか聞けなかった。

 ……まぁ、後で聞けばいいか。


 入って来たのは小柄な女性だ。私と同じくらいか、それ以下の身長。

 でも、見た目に騙されてはいけないと私の勘が言っている。冒険者のヴィレッジさんくらいの迫力が滲み出ているのを感じる。今はそれを抑え込んでいるのかとても微弱だ。勘が何かを言わなければ、私でも気が付かなかったくらいに上手く隠している。


 あれが私達の担任の先生なのだろう。


「はーい、全員揃っているかな? 揃っているねー。うん、さすが特生クラスのみんなだ!」


 クラスメイト全員の視線を浴びても、一向に気にしていない様子の女性。

 座っている生徒達の顔を見渡し────


「……ん?」


 先生の視線が私で一瞬止まったように見えた。

 でも、彼女は何もなかったように色々と話を進めていく。なので、私も気のせいだったということにして先生の話に集中した。


 まずは先生の自己紹介から始まった。

 先生はミコというらしい。昔は冒険者として働いていて、結構強かったらしいけど二年前くらいに引退。それからは腕を見込まれてここの教師をやっているらしい。

 やっぱり、見た目からは考えられない年月を生きているらしい。昔は──とか言う辺り、私の二倍以上は生きているんだろう。

 

 先生の軽い自己紹介が終わり、次は今後の予定についての話に移る。

 授業が始まるのは明日から。でも、明日の授業は教材を使わないから手ぶらで登校して来ていいらしい。

 今日は入学式で疲れていることもあって、軽い自己紹介をして終わり。その後、自分の振り分けられた寮に向かい、届いているはずの荷物を整理しろと先生は言った。


「ということで、まずはナンジョウカガミちゃんから!」


「…………」


「あれ? カガミちゃーん?」


「……カガミ、呼ばれていますよ」


「ふぇ!? は、はひ……!」


 レティシアに肩をちょんちょんとされてようやく我に返った私は、慌てて立ち上がった。

 少し声が上擦ってしまったせいか、先生は笑っていた。ふと隣を見ると、レティシアも口元を隠して肩を震わせている。……恥ずかしい。


「はーい。元気なお返事ありがとね。じゃあ、カガミちゃんから自己紹介お願いねー」


「え、なんで私から……?」


「そりゃあ私が気になっているからだよ。他のみんなもそうだと思うけどなー?」


 やばい、エリス効果は教員にまで広まっていた。

 そんなに面白いことはないです。と講義をしたかったけど、指名されてしまったのならやるしかない。

 深く息を吸って、吐き出す。これで少しは落ち着きを取り戻せた。


「南條鏡です。遠くの村から来ました。頑張ります。よろしくお願いします!」


「えー、それだけー?」


「それだけ、です……」


「じゃあ。こっちから質問。王国騎士隊長とはどんな関係なの?」


 教師が人の事情に踏み込んでくるのか。

 でも、どうせなら今の内に変な誤解を解いておいた方が、後々面倒なことにならなくて済む。そう考えると先生ナイス質問だ。


「エリスとはマレリアの街で出会って仲良くなりました。一番の友達です」


「カガミちゃんはどうしてここに通おうと思ったの?」


「えっと……知り合いのおじさんにいつの間にか推薦されていました」


「へぇー、その知り合いは凄いね。普通、推薦は運よく通ったとしても特生クラスにまでは推薦出来ないんだよ?」


「そう、なんですか……きっと、凄く運がよかったんでしょうね……」


「それで? そのおじさんには何て言われたの?」


「え? ……その、知識を学ぶついでに、お前は常識を学んでこいと」


「──ぷっ、あはは! 常識を学べか。それは面白い!」


 先生が腹を抱えて笑う。

 その面白いことが現実になってしまっているのだから、私は全く笑えない。笑えたとしても引き笑いだ。


「はぁ……そうかぁ、常識をねぇ……色々と大変だと思うけど、頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


 やっと終わったと私は椅子にどっかりと座った。

 レティシアが小声でお疲れ様ですと言ってくれた。なんでだろう、とても安らぐ。


「それじゃあ次はカガミちゃんの横、レティシアちゃん……ああ、いや……別に紹介はいらないかな?」


「……いいえ先生。私もこういうのに憧れていましたので、やらせていただきます」


「そぉ? じゃ、お願いねー」


「はい」


 レティシアの動作一つ一つが洗練されていて、見惚れてしまうほど綺麗だった。

 どこかのお姫様かと思うほどだ。……そしてその予想はあながち間違いではないとすぐに知ることになる。


「レティシア・エル・オードヴェルンです」


 ──ん? んん!?


「王女という立場ではありますが、ここに居るのは皆同じ特生クラスの仲間です。どうか、私と仲良くしてくださいね」


 私の学園生活で初めて出来た友達は──この国の王女様でした。

なぜか王女様の名前がアナスタシアになっていた箇所がありました。他の作品と混ざった……!

うっかりミスが多すぎると反省です。

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