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第三団第一部隊に所属していた一人の青年は、感覚のなくなった脚を片手で押さえながら、地面に倒れ伏せる仲間の元へと這い寄る。だが、もうすでに事切れていた。
(なんで、なんでこんなことに……)
魔物を相手にして戦うということは、時に命に関わる場合もある。実際に任務中に大怪我を負ったり腕を失くしたり、殉職した者だっている。それが自分達に降り掛かるかもしれないことは十分に理解していた。
だが、こんな死に方はないだろう……
反撃する間もなく虫けらのように捻り潰され、捨身で打ち掛かっても傷一つ負わせられない。
対ドラゴン用に鍛えられた剣は、その規格外の外皮を前にして歯も立たず、突きを入れてやっとダメージを与えても、刃は煙を立てて溶けてしまったのだ。
第三団の四部隊、百二十人は壊滅状態にあった。ピクリとも動かない者もいれば、呻き声を上げながら踠いて苦しむ者もいる。
これだけ奮闘したにもかかわらず、魔物は一歩も動いていない。再び両眼を閉じて、沈黙を守り続けている。
その隙に、青年は方々に這いずり回りながら、息のある仲間に止血をしようと試みる。ビリリリ、と青年が布を引き裂いた瞬間、固いまぶたに覆われていた魔物の目が再び開かれた。
爛々と輝く獰猛な瞳がさまよい、手に布切れを持つ青年へと向いた。
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
血に濡れた大地に、一つの叫声が響き渡った。青年に向かって、魔物が一歩を踏み出したのだ。ズゥンと腹に響く地鳴りの後に、魔物は低い咆哮を上げた。
恐怖が限界を迎えた青年は意識を失いかける。
だがその瞬間、地を抉るような轟音と共に魔物の巨体が後方へと吹っ飛んだ。
「ギィアアアァア」
一拍遅れて、魔物が怒りに満ちた唸りを上げる。
そんな、馬鹿な。この怪物が吹っ飛ぶなどと、あり得ない。
自我を取り戻した青年は、その起因を突き止めようと首を廻らした。あの魔物が吹っ飛んだことで、直線に抉れた地面の軌跡をたどる。
立ち込める土けむりの中に、一つのシルエットが見えた気がした。しかし、それはまたたく間に掻き消え、再び魔物の叫びと爆発音に似た轟音とが一帯を制する。
一体何が起こっているんだ。
激しく吹き荒れる風のせいで視野は悪くなる一方で、その場に蹲る青年は、ただ困惑するしかなかった。




