8- 孤独への道 2
気付くと田安二曹はもとの場所に戻り私を見ながら陸曹らと大爆笑していた。
田安二層はこの日から仲間と露骨に嫌がらせをするようになった。
目の前が真っ暗だった。
その日は暑かった。
流れる汗と混じりあう涙を拭えなかった。
課業終了後、皆が食堂へ行く中、一人で営内のソファいた。
これまでの周囲の不可解な視線、点と線、記憶が穴を埋めるかのように繋がる。
あいつも・・あいつも・・あいつもだったのか。
あの日も・・あの時も・・あの瞬間も・・・。
中隊での立場にも溝が深まりそれまで親しくした上官らも露骨に避け始めた。
駐屯地での居場所はどこにもなくなった。
二年満期の時に兄から継続について尋ねられた。
「辞めたい。」私は応えた。
「そんな中途半端な精神で入ったのか?馬鹿野郎」。
兄から一喝された。
辞めたい理由は人間関係としか言葉にできず、ホモと言われているなど口に出来なかった。
自分らは母子家庭、しかも貧乏だった。
その貧乏を支えてくれたのが中学卒業後に自衛官になった兄の仕送りだった。
陸上自衛隊高等工科学校。
兄は多くの歴史を塗り変えた努力を貫く実力派だった。
兄ほどの優秀な人間はいままで会った事がない。
兄は時に父であり一生涯尊敬する人、目標の人だ。
兄の言葉は絶対だった。
俺ももう一度頑張ってみよう。
己を流されずに実直な勤務をすればホモだのこんな馬鹿げた噂など消えるのではと気持ちを一新して自分を諭し自衛官継続を決断した。
決めた以上は逃げれない。
そして地獄への第二幕が始まった。
継続を決めた営内。
誰にも相談さえ出来ない惨めな自分。
営内班の隊員らは普段と変わらずであるが…自分からその事を尋ねる事も出来なかった。
こいつらは自分が同性愛者ではないと解ってくれているはずだ。
そう信じて訓練を耐えた。