表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/40

地獄への決断

継続を決めた営内。

気付くと、安井二曹は元の場所に戻り、私を見ながら他の陸曹らと大爆笑していた。


この日を境に、安井とその仲間による嫌がらせは、隠すことのない露骨なものへと変わった。


目の前が真っ暗だった。


その日は、ひどく暑かった。噴き出す汗と混じりあう涙を、拭うことさえできなかった。


課業終了後、皆が食堂へ向かう中、私は一人で営内のソファに座っていた。


これまでの周囲の不可解な視線。点と線、記憶の欠片が穴を埋めるかのように繋がっていく。

(あいつも……あいつも……あいつもだったのか。あの日も、あの時も、あの瞬間も……!)


中隊内での溝は深まり、それまで親しくしていた上官らも、私を露骨に避け始めた。

駐屯地に、私の居場所はどこにもなくなった。



二年満期を目前に控えたある日、兄から継続について尋ねられた。


「辞めたい」


私はそう応えた。

「そんな中途半端な精神で入ったのか? 馬鹿野郎!」

兄から一喝された。


辞めたい理由は「人間関係」としか言葉にできなかった。自分が「ホモ」などと言われているなど、到底口にはできない。

私たちは母子家庭で、暮らしは貧しかった。

その貧乏な家計を支えてくれたのが中学卒業後に自衛隊に入り、仕送りをしてくれた兄だった。

陸上自衛隊高等工科学校。

兄は学校にて数々の歴史を塗り替えた努力の人であり、実力派だった。

兄ほど優秀な人間に、私は後にも先にも会ったことがない。

私にとって兄は、時に父であり、一生涯尊敬し続ける唯一無二の目標だった。


兄の言葉は絶対だった。


「……俺も、もう一度頑張ってみよう」


自分を失わず、実直に勤務に励めば、ホモだのといった馬鹿げた噂など、いつか消えるのではないか。私はそう自分を諭し、気持ちを一新して自衛官継続を決断した。


決めた以上、もう逃げられない。


こうして、地獄への第二幕が幕を開けた。


誰にも相談できぬまま、継続を決めた営内。惨めな自分。

営内班の隊員たちは、普段と変わらぬ様子で接してくれている。

(こいつらは、自分が同性愛者ではないと分かってくれているはずだ……)

そう信じたい自分と、拭い去れない不安の間で、私は立ち尽くしていた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


そう信じて訓練を耐えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ