第13話『理由』
毎週月、金曜日の20時投稿予定です。
町へ戻る頃には、空はすっかり暗くなっていた。火災対応を終えた兵士たちは、それぞれ報告や片づけに回っている。教会の周囲にもまだ人の出入りはあったが、昼間の騒がしさに比べればずっと静かだ。
レオンは建物の脇を歩くアルトを見つけた。
「アルト。少しいいか」
アルトが足を止める。
「うん」
人の通りから少し外れた場所まで移動し、レオンは向き直った。何から聞くかは決めていたはずなのに、いざ顔を見ると言葉が一度喉につかえる。
昼間の光景がまだ残っている。暴れる魔物。そこへ飛び込んできた竜人。そして、命令も待たずに前へ出たアルト。
「今日、なんであの魔物を倒そうとしなかった?」
アルトはすぐには答えなかった。
「剣は使ってた。でも、ずっと逸らしてただろ。倒せるかどうかは別として、仕留めようとはしてなかった」
「……うん」
「うん、じゃない」
思ったより強い声が出た。レオンは一度息を吐く。
「責めたいだけじゃない。理由を聞いてるんだ」
アルトは視線を落とした。少し待っても、続きはない。
「竜人も同じだった」
その言葉に、アルトの目がわずかに動く。
「あれだけ魔物とやり合ってたのに、仕留めようとしてるようには見えなかった。近づいた兵士まで弾き飛ばして、結局何をしたかったのかも分からない」
レオンはそこで言葉を切った。火事の時もそうだ。子どもを連れ去ったように見えて、戻ってきた子どもは無事だった。火の中で木を倒し続けた理由も、まだ分からない。そして竜人が絡むたび、アルトの行動も引っかかる。
「お前は何を知ってる」
アルトが顔を上げる。
「何を見てるんだ?」
しばらく、風の音だけがした。
「……うまく言えない」
「言えない?」
「でも、このままじゃ駄目なんだ」
レオンの眉が寄る。
「何が駄目なんだ」
アルトは答えない。
「言わなきゃ分からないだろ」
「……間に合わない」
レオンは一瞬、その言葉の意味を取り損ねた。
「何にだよ」
アルトの口がわずかに開く。だが、声は出ない。
「何に間に合わないんだ。今日の魔物か? あの竜人か? それとも別の何かなのか?」
「……」
「アルト」
返事はない。目の前にいるのに、肝心なところだけが何も見えない。昼間から押さえていたものが、また胸の奥で膨らんだ。
「理由があるんだろ」
アルトがこちらを見る。
「だったら教えてくれよ。何も言わないで勝手に動かれたら、こっちはどうすればいいんだ」
声が大きくなった。
「お前が何か知ってるなら、それを言ってくれ。危ないなら止める。任せられるなら任せる。こっちだって判断しなきゃならないんだ」
アルトは何も言わない。
「分からないまま動かれたら、守れるものも守れない」
その言葉を最後に、レオンも黙った。アルトはしばらくその場に立ったまま、やがて小さく口を開く。
「……ごめん」
それだけだった。謝ってほしかったわけではない。もう一度問い詰めても、同じところを回るだけなのだろう。レオンは言い返しかけた言葉を飲み込む。
「……もういい」
アルトは少しだけ顔を伏せ、それ以上は何も言わずにその場を離れていった。レオンは追わない。
「このままじゃ駄目だ」
「間に合わない」
何も考えずに動いている人間の言葉には聞こえない。それなのに、肝心なところは何一つ分からなかった。
*
デュオを見つけたのは、それから少し後だった。教会の入口近くで、手にしていた紙をまとめているところへ声をかける。
「デュオ」
「あれ、レオン。まだ終わってなかったの?」
「頼みがある」
デュオが手を止めた。
「もう一回、アルトを調べてくれ」
「もう一回?」
「ああ」
デュオは少し考えるようにレオンを見る。
「……前と同じ、不穏分子として?」
レオンはすぐには答えなかった。
今日までに見たことを、そのまま報告すればいい。命令より先に動く。魔物を仕留めようとしない。竜人と妙に重なる動きをする。それなのに、何を知っているのか聞いても説明しない。立場上、見なかったことにはできない。
「……そういう扱いになる」
「なるほどね」
「でも、前と同じ調べ方じゃ駄目だ」
デュオが眉を上げた。
「前はあいつ自身を見てもらった。記録も、話も、実際に一緒に動いた時のこともある。それでも分からない」
「じゃあ、今度は?」
レオンは少し考えてから答える。
「アルト本人から離れて見てくれ」
「離れて?」
「兵士だけじゃなく、町の方も見てくれ。普段あいつと関わってるやつに聞いてほしい。あいつ本人を追うんじゃなくて、その周りを調べてほしい」
デュオは黙って聞いている。
「あいつが何を知ってるのかは、それでも分からないかもしれない。でも、どうしてああ動くのか……何か残ってるものくらいは見えるかもしれない」
「本人には聞いた?」
「ああ」
「それで?」
レオンは短く息を吐いた。
「分からなかった」
デュオはそれ以上、何があったのかを聞かない。レオンは続ける。
「やったことだけ並べれば、報告はできる。けど、それだけで決めていいのか、俺にはまだ分からない」
「だから、もう一回か」
「ああ」
しばらく考えるようにしてから、デュオは手にしていた紙を揃えた。
「分かった。もう一回、見てくるよ」




