エピソード16:廃都の残照、偽りの王座(中編)
エピソード16:廃都の残照、偽りの玉座(中編)
~旧貴族街の捜査、牙城の特定~
1. 幽霊たちの迷宮
帝都の北端に位置する「旧貴族居住区」は、帝国の拡大とともに見捨てられた、いわば歴史の掃き溜めだった。かつての名門の紋章が刻まれた門は錆びつき、石造りの屋敷は蔦に覆われ、静まり返っている。
「……ここでは、帝国の『法』も風化しているようですね。精霊たちも、過去の嘆きに囚われて、出口を見失っています」
砂漠半島の巫女が、横笛を握りしめながら呟く。彼女の[妖精の瞳]には、廃墟の至る所に漂う淀んだ気が、霧のように重く見えていた。
2. 痕跡の収集
一行は、足音を殺して荒れ果てた通りを進む。職人組合の伝令員は、道端に落ちている微かな「違和感」を拾い上げていった。
「見てな。このあたりの連中は日々の食い物にも困っているはずだが……この路地の泥には、高級な馬車の轍と、輸入物の靴底の跡が残っている。それも、新しいやつだ」
さらに、大学院の女性学者が廃屋の壁を指先でなぞり、微かに付着していた粉末を採取した。
「……銀腐れ草の残滓ね。学術都市の温室で嗅いだものと同じ。あいつは、この朽ち果てた街のどこかを、魔薬の最終精製所と、再興のための『司令部』に作り替えているわ」
3. 執念が選んだ「城」
捜査を進めること数刻。一行は、居住区の中でも最も高く、威容を誇る「黒鷲の館」の前に辿り着いた。かつて没落貴族が帝都における拠点としていた屋
敷であり、現在は公的には封鎖されているはずの場所だ。
「……ここだけ、空気の流れが不自然です。地下から、大量の熱気と土の精霊の脈動が伝わってきます」
巫女の報告に、火山島の戦士が静かに[湾刀]の鯉口を切った。
「鼠の巣を見つけたようですね。……門には警報が組まれている。表から入れば、即座に逃げられるか、あるいは建物ごと自壊させられる恐れがあります」
4. 決戦前夜の静寂
「……強行突破は避けましょう。スカウト、裏の排気口か、地下水路からの侵入ルートを探れますか?」
一神教の司祭の問いに、職人組合の伝令員は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「任せろ。あの没落貴族様は、プライドが高すぎて『汚物』の流れる場所まで頭が回っていないはずだ」
館の窓からは、微かに青白い光が漏れている。それは魔薬の精製を急ぐ、狂気じみた情熱の灯火だった。男は、明日の夜に行われる帝都の裏市場での大取引に向け、最後の準備を整えているに違いない。
「……明日の夜明け前。奴が最も油断する瞬間に、この『偽りの玉座』を崩します」
一神教の司祭の言葉に、仲間たちは深く、静かに頷いた。帝国の影に潜む毒の根を断つための、本当の戦いがすぐそこに迫っていた。
(後編と続く)




