エピソード14:枯れた温室の決戦
エピソード14:枯れた温室の決戦
~逃亡の残影、帝都への道標~
1. 静寂を破る踏み込み
学術都市の端、廃墟と化した旧植物園の温室。職人組合の伝令員が、錆びついた扉の隙間に指をかけ、音もなく押し開けた。
「……作戦通りに。派手な音は立てるな」
その言葉を合図に、一行は一斉に内部へ滑り込んだ。火山島の戦士が影のように走り、驚愕に目を見開く作業員たちの背後に回り込む。抜刀はしない。鞘に収まったままの[湾刀]が、正確に急所を突き、男たちを次々と昏倒させていく。
「な、なんだ、貴様らは!?」
奥の作業台で指揮を執っていた没落貴族の末裔が叫んだ。
2. 執念の煙幕
「そこまでです。貴族殿」
一神教の司祭が聖印を掲げ、静かに告げた。
「過去を取り戻すために、今を生きる人々を毒に染める……その行い、主も、そして帝国の法も許しはしません」
「貴様らに何がわかる! 我らの一族がどれほどの屈辱を舐めてきたか……!」
男は震える手で懐から小さな魔力結晶を取り出した。
「ここを渡すわけにはいかん。帝都の『奴』との約束が……!」
男が床に結晶を叩きつけると、不気味な紫色の煙が爆発的に広がった。砂漠半島の巫女が即座に占星術の[風壁]唱えて視界を確保したが、煙が晴れた時、そこには男の姿も、机の上に置かれていた重要な資料も消えていた。
「……床に隠し通路が。用意周到なことね」
学者が、作業台の下に口を開けた暗い穴を指差して苦々しく呟いた。
3. 遺された手がかり
が、男の消えた穴に大学院の女性学者が錬金術の[視聴覚拡大]唱え、視線と聴覚を向ける。
「……追うのは危険だわ。通路の奥に、いくつかの罠が仕掛けられているかも。それに、彼の『足音』はもう遠くへ……馬のような速さで離れているわ」
職人組合の伝令員は周囲を見渡し、逃げ遅れた作業員たちが隠そうとしていた紙片を拾い上げた。そこには、走り書きの地図と、特定の時刻が記された馬車の運行予定表があった。
「行き先は一つだな」
職人組合の伝令員がその紙を仲間に見せる。
「帝都。……奴は、そこで行われる大規模な商談に、この魔薬を持ち込むつもりだ」
4. 次なる舞台へ
温室に残された魔薬の原液を、司祭の祈りと学者の薬液によって無力化し、一行は学術都市の静かな夜気の中へと戻った。
「権力者ではないと思っていましたが、帝都に協力者がいるようですね。……奴、と言っていました」
一神教の司祭の言葉に、火山島の戦士が静かに頷く。
「独りの妄執ではなかった、ということですね。ならば、その『根』を断たねば終ら無いですね」
「決まりね。帝都に向かいましょう。あそこは法と秩序の街。……同時に、過去の亡霊が最も潜みやすい場所でもあるわ」
大学院の女性学者の言葉を合図に、一行は夜明けを待たずに出発の準備を始めた。
背後に残された学術都市は、何事もなかったかのように静まり返っている。しかし、一行の視線はすでに、地平線の向こう、帝国の心臓部である帝都へと向けられていた。
エピソード14:了




