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美容系アイドルは、甘い吐息で私を溺愛する♡ 推しの秘密は蜜の味〈dulcisシリーズ×アラタ編〉  作者: はなたろう
Episode2 推しの過去

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#9 ドレスを脱がせるのは俺

エントランスを抜け、エレベーターで最上階へ上がる。

アラタの部屋の前に立ち、一呼吸してからインターフォンを鳴らした。



「おかえり」



最近のアラタはいつもそう。「いらっしゃい」とか「よく来たね」ではなく、「おかえり」といって出迎えてくれる。


でもそれは、この部屋に来たことを示すのではなく、『俺の元に帰って来た』ことに対する、歓迎の意味らしい。ちょっとくすぐったいけど、悪い気はしない。



「アラタ、帰るの早かったね」


「長居しても、いいことないからな」



アラタはジャケットを脱いだだけで、まだパーティー会場のときと同じ姿だった。

固めたヘアスタイル、目元にはまだアイシャドウとラインが引かれている。


華やかな色香が残っていて、思わずドキリとする。



「少し飲もうか。疲れただろ?」



アラタはそう言って笑うと、私の手を引いてリビングへと連れていく。

部屋の明かりは少し落とされていて、ガラス窓の向こうには東京の夜景が煌めいていた。



「せっかく、俺も愛香もドレスアップしているんだ。少しだけ、ふたりだけのパーティーとしよう」



まるで、ファンサービスをするみたいにほほ笑む。

軽やかな手つきでシャンパンを開けると、細いグラスへと注いだ。



「乾杯」


「美容液の完成、おめでとうございます。アラタさん」


「おたくの優秀な院長のおかげですよ」



かしこまった会話のあと、ふたりで笑いあう。


緊張して疲れた体に、冷えたシャンパンが心地よく沁みていく。



「言った通りだっただろ?」


「え?」


「番犬、役に立ったな」


「ああ、そのことね。まぁ、ちょっといやらしい目で見られたかも」


「ちょっとじゃないだろ」



アラタの熱を帯びた視線が、私の淡いブルーのドレスを上から下へとゆっくり舐めるように動く。



「綺麗だよ」



アラタが私の背後に回り込む。

長い指先が、露出した私の背中の素肌に触れる。



「ずっと、会場でも愛香のこと見てた」



アラタの声が、微かに低くなる。



「このドレス、脱がせるのが俺で嬉しい」


「あっ……」



私は小さく吐息を漏らした。


ドレスのファスナーに指がかかった、そのときだ。



カタンッ――。



ソファへ置いていた私の小さなパーティーバッグが落ちてしまった。

バッグのファスナーが開いていて、大理石の床に中身が飛び出した。コロコロとリップグロスが転がっていく。



「あ、ごめん」


「いいよ、そんなの」


「でも……」



バッグを拾い上げたとき、1枚の名刺がひらりと舞い落ちた。



私より早く、アラタの長い指がそれを拾い上げた。



「これって……」



アラタの指先も表情も、すべてがピタリと止まって見えた。



「――果恋?」



それは、あの女性編集者の名刺だった。



「アラタ、どうしたの?」



さっきまで私を甘く見つめていた熱が、音もなく冷えていく。



「この名刺の……どんな人だった?」


「え、どんなって、すごくキレイな人だったよ」


「たとえば、姉さんみたいな感じの?」



会場で見た彼女を思い出す。

腰まである長い黒髪、ベリーみたいな赤い口紅。大人の女性の姿。



アラタの姉、百合さんも魅力的な大人の色気があるから、言われてみれば同じタイプだと思えた。



「うん、そうだね。タイプは似ていると思う」


「そう」



強く握りしめられた名刺が、彼の指の中で無惨にクシャリと折れ曲がる。



「あ、ちょっと」



私がもらった名刺でもないのに……。



「愛香」



アラタの腕の中にすっぽりと抱き上げられた。

ゆっくりと身体がソファに沈められていく。



「さぁ、ドレスを脱がそうね」



私の耳元で囁くアラタの言葉は、いつもと変わらない。


けれど、私を見つめるその瞳の奥はどこか虚ろで、凍りついたような暗い光が宿っている。

私は胸の奥がゾワリとするような、奇妙な違和感があった。



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