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エルフの里の盗難事件


 オートシャットダウンで昨日の話が全く耳にも頭にも入ってなかったので、改めてマシュさんから事情を聞く。

 話持ってきた、例の二人のお笑いエルフコンビもいる。もう来とるんかい。


「妙な野菜盗難事件が、彼らの知り合いの家で起きたそうでね」


 揺さぶりエルフちゃんはエイリーア(エリー)、ハリセンエルフ君はグラスカナン(グラス)といって、マシュさんの最後の塾生だったそうな。見た目俺らと同じぐらいだけど、もう十数年前のことで……えーとこの二人、53歳に58歳? JJIとBBAやんけ! 「エルフは見かけによらない」ってのは解ってたけどさ……エルフ的にはまだまだ子供ですかそうですか。モラトリアまってやがんな……働け!


 それはそうと、野菜盗難?

 そんなもん治安兵にでも言うたらええ話ちゃいますのん?


「そこで解決しなかったからこっちに来たんだよ」


 マシュさんに促され、二人が事件の経緯を話し始めた。


 事件は、エルフ側の隣町・ササルーディアで起きた。

 野菜栽培の農村が大きくなった町で、大量の野菜を栽培している、食料供給地の一つ。

 そこではタマネギ・ニンジン・ジャガイモ等のどこでも食べられているような野菜を多く栽培していて、国内に出荷している。年二回収穫できるんですってー。まあこっちの気候は基本、春の海ひねもすのたりくたりだからなあ。夏と冬が微妙に感じられるぐらいで。

 収穫された野菜は一時倉庫に保管され、出荷を待つのだが……野菜農家の宿命というか、ネズミ・虫等々、小動物の食害がどうしても起こるのだそうだ。さらには時々飢えた盗人も入り込み、倉庫の食料を盗んでいくのだという。

 で、それを防ぐために、地元魔導士が「野菜の防護魔法」を考案して、食害や盗難対策をしよう、としたわけだが。


「最初は上手くいってたんです。食害もほぼなくなり、盗賊も入った形跡がなくて、これはいいんじゃないかと」


 ……件の魔法を開発したのは、グラス君の地元先輩グループなのだとか。

 グラス君もササルーディア出身で、地元でそんな事件が起きたとあって気にはしてたし、治安部の調査でも「犯人不明」という結果が出て、防護魔法も効果がないんじゃないのか?とか言われている。

 先輩の作った魔法がそのような評価をされるのも不本意だが、地元で起きた事件を迷宮入りで終わりにしたくはない。

 犯人が判らなければ、また同じ事件が起きる可能性がある。


「……というわけで、師匠の協力を仰ぎに来たわけです」

「うーん……」


 マシュさんは難しい顔をしている。


 そりゃそうだ、マシュさんは冒険者であって、治安兵や探偵ではない。

 こういうややこしい事件調査は治安部の担当であり、そこが「判らん!」と投げたら、解決は事実上放棄されたようなもの。そこはエルフの国でも変わらないらしい。

 まあエルフの国は、人間の国よりもよっぽど治安も良く、こんな事件は起きないものだそうで、それだけにこんな大掛かりな盗難事件が起きたことでササルーディア中が注目していたのだが――この結論には、住民も納得はしてないという。

 そりゃまあそうだ、盗難に遭った野菜の補償は誰がしてくれるのか? 保険があるわけでもなく、公的社会保障制度があるわけでもなく、自分で備えなければならない。盗難も、治安部という組織はあるものの、ややこしい知能犯罪になると手が出ないのが実情。詐欺とか高利貸しとか、お上に目をつけられない限りやり放題。さすがにマルチ商法は買う奴が少なくて成り立たないらしいが。


 治安部だって、やることは基本的に「盗賊デター!」「よっしゃ退治したろかー!(ゴルァ!バキー!)」「ケンカだー!」「ケンカすんなゴルァー!」ぐらいの大雑把な組織。居住部担当の調査官だって、「何があった」「どうなってる」を調査するだけで、現代の鑑識作業みたいなことをするわけではない。裁判だって、判決は領主もしくは直属の文官の判断で出されるのが封建社会、専制政治というもの。そりゃまあ、担当者レベルではできるだけの聞き込みやら裏取りぐらいはするでしょうがね。

 ましてや、この世界では推理小説とか出版されたり、探偵ドラマとかが放送されているわけでもない。住民たちは「犯罪」というものに免疫がない。こちらの世界での犯罪とは「殺人」「傷害」「強盗」「器物損壊」のような解りやすい暴力的犯罪や空き巣・引ったくりのような明確な「窃盗」であり、「トリックを使った盗難事件」ではないのだ。


 まあ、お貴族様絡みの事件ともなると、脱税とか密輸とか贈収賄とか横領とかいろいろあるんで、経済事件の専従捜査員がいるらしいけど、そういうのは「上の人」の役目で、庶民の治安部にはそこまでは要求されない。対応したとしても、それは治安部員の個人的な資質によるものになるので、一定以上の捜査は望めないのが普通だ。

 そして、少年探偵も安楽椅子探偵も灰色の脳細胞の持ち主もこちらには生まれていない。候補者はいるかもしれないが、事件に遭遇して能力を発揮する場がなければ、卵は孵化しないまま腐って死んでしまう。探偵業を趣味でやるような奴はいるのかもしれないが、少なくともどの町にでもいるような存在ではない。ほぼ金持ちの道楽だ。


 そんな世界であるために、ちょーっとトリックを使った犯罪者がいれば、すぐに「怪盗なんたら」とか「連続殺人鬼カンタラ」として有名になること請け合いだ。

 トリックなんか使わなくても、こちらの世界には「魔法」という、ノックスやヴァン・ダインが「魔法はダメ。ゼッタイ。常識だろ?」って法則に書き加えるようなチート技術があるため、創作物としての推理小説が多分成り立たないんじゃないかと思われる。

 何にせよ、現実の事件で創作物担当のノックスさんやヴァン・ダインさんの出番はないので、お引取り願うだけなのだが。


 ……そこでマシュさんに協力を依頼、ということは。


「もしかして:魔法が原因、って考えてる?」


 俺が当事者二人に問うてみると。


「……先輩のこと、悪く言うつもりはないんだけど……」


 どうやら、この二人も自分なりに少しは調べてみたらしい。

 その結果――状況証拠から可能性を潰していったら、先輩の魔法が原因ではないか? と思い始めたのだと。

 ただ、後輩の立場としてはそれを指摘するわけにはいかず、師匠であるマシュさんならそれを指摘できるから……と、それでこっちに話を持ってきたそうだ。

 んじゃ、俺がどうこう言う話じゃねーな。

 あとはマシュさんに任せて、俺は二度寝しよ……。


「まぁまぁまぁ待ちぃ待ちぃやー」

「そうだよ、ちょっと面白……興味深い話になってきたところだし」


 ちょっとシェラちん? 本音が漏れてたよ? あんたこういうの好きよねー。

 ナオさん、あんたこういうややこしい話には興味ないんじゃないですか?


「何言うとんの、こんな事件なんて滅多にあらへんやんか」


 あー……野次馬根性丸出しですな。

 でもこれ、事件であってイベントじゃないんですよ? 火事の野次馬と同じ思考じゃねーですか。

 第三者が下手に首突っ込んだって、火消しの邪魔になるだけですよ?


「まぁまぁ、あちらさんも困ってるんだから、協力してあげるのもいいんじゃない?」


 面白がってそういうこと無責任に言うのよしましょうよシェラ君。

 あんたそういうヤヤコシイ事件、昔散々やったでしょ?


「いやあ、だから懐かしくなってさあ……」


 厄介事を懐かしがらなくていいの!

 君らねえ、もうちょっと平穏無事な生活を尊ぼうよ……。


「そんな一ゴネルにもならん生活なんか、糞食らえやで? 人生、波乱万丈の方がおもろいんやで」


 ナオちゃーん、嬉しそうに言いなさんな。

 あんた、ツン子さんにケンカ売られたときも、嬉々として買ってたよね?

 そんなんばっか買ってもロクなことにならんよ?


「ナニ言ってるのさ、そういうのに適当に首突っ込まないと、波に乗るような人生は送れないよ?」


 乗らなくていいビッグウェーブもあるんですよ世の中! サーファー人生ちゃうねんから!

 俺はそういうのは間に合っとんの!

 乗るのは儲かるとか、「時代の波が俺を呼んでる!」って感じたときだけでいいんじゃ!

 俺はもう魔法イベントで波は終わったの! 今は浜で焚火に当たってるとこや!


「そらーあんたはええよなー。オーガとおもろい体験しとったりしとるしなー」


 ナオさんよ、あれは好きでやったんちゃうんやで?

 そしておもろくなんかなかったわ! メンドクセーことの方が多かったよ確実に!

 そりゃまあね、冒険者としての格付けは上がりましたけど……ええことばっかちゃうで?

 道場破りみたいな挑戦者も来るし……。


「ナニ、道場破り来たんか!」


 眼ェ輝かせて嬉しそうにいいなさんな。第一俺、道場持ってないし。「俺破り」や。


「そんでそんで、どないしたん?」


 もちろん叩きのめしましたよ。ヒキョーな手も使って。フヒ。

 どんな手を使っても、勝てばよかろうなのだァァ!

 あんな連中、正面から付き合ってやる必要ないし。

 そうやってドギタナイ手も平気で使うと判れば、挑んでくる奴もいねーでしょ。


「それはそうだけど……そういうことするとケンの個人的評判が落ちるよ?」


 ……迂闊!


「迂闊やあれへんわ……アホやなこいつ」


 アホちゃうわ。お前には言われたーないわ。面倒だからテキトーに相手しだだけや。

 勝ち易きに勝つ、それの何が悪いー! 勝ちにキレイもキタナイもあるかー!

 魔法でも必殺技でも何でも使うたるでぇー! 勝てばよかろうなのだァ!


「こいつ開き直りよった」

「開き直らないと心の安寧が保てないんだよ……そっとしてやろう」


 その評判がすでに大概だわ。

 キミらの中で俺の評価がどんなんか、一度じっくり話し合おうじゃないか、ええ?


「まぁそんなんはええから、とりあえず詳しい状況聞いとこやないの」

「そうだね。些細なことから全容が掴める、なんてのはよくあることだよ」


 無視か!

 しかもなんか事件調査が前提になっとる……「揺さぶりハリセン」の二人に聞き込み始めとるやん。

 「揺さぶりハリセン」てお笑いコンビみたいじゃね? 二人まとめてそれでいいかー。どうせお笑いスキル持っとんのやろこいつら。


『※ミッション:野菜泥棒を追え!を開始します』


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