アークゥエスミィ・ニュースターズ・フェスティバル 2
会場入り口から外を見てみると――一般参加者だろう、人が集まり始めていた。スタッフが列を作り始めている。
へー、そこそこ盛況みたいだな。一般人にはあんまり関心ないイベントかと思ったが、さすがに何回もやってると人もそれなりに来るようになるらしい。お子様厳禁なエロス魔法があるわけでも、そもそもそういうのに対するレーティングがあるわけでもないしな。
地方零細イベントなんて、お寂しい仲間内イベントになったりすることもあるけど、百サークルも出てればそれなりの規模なんだろうか? こっちのイベント感覚がよーわからんわ。
すると、ホール内に声が響く。
「拡声魔法」ってのがそういやあったな……風、流法系統だっけ。ちょっと覚えようかな。
『えー、間もなく開場、イベント開始となります。受付がお済みでない団体は、速やかに受付を済ませてください。受付を終えていない団体の販売はできません。
会場内は火気厳禁です。炎系、雷撃系など、燃焼効果のある魔法の実演は、屋外実演スペースをご利用ください。また、水系統などの大量の水を発生させる魔法、その他会場を汚損させる行為、他の団体や参加者に迷惑となる行為も、魔法を含めて禁止となっています。禁止行為については各団体に配布した説明書をご覧ください。
違反者は警備スタッフが会場から連れ出すこともありますのでご了承ください』
おおう……まあ当然っちゃ当然だな。「会場内焼肉禁止」みたいなもんだ。いや、テロ行為だな。
実演スペースなんてのもあるのか……そりゃーそうだな、説明されただけじゃなくて実際に見てみないとどんなのかわからんし。ディスプレイ魔法みたいに目の前で実演できる程度のものならいいが、俺らのみたいに広さがあって初めて効果が判る魔法も多そうだしな。
てか、炎系とか雷撃系って、こんなとこで攻撃魔法みたいなの売ってええんか……ヤバくね?
しかし大量の水出す魔法って、どうやんの? 空気中の水蒸気集めるったって限度あるよな? 周辺の水分根こそぎ持っていかれるとか? それって乾燥機代わりに使えるかもしらんね。
「戦闘用魔法はさすがに売っちゃダメって言われたよ? そういうのはギルド通せって」
あー、そりゃそうか……てか申し込み行って参加要項確認したのってシェラちんだったねー。俺、追い込みでそれどころじゃなかったし。
「だから別の用途に使うやつだね。料理用とか、陶磁器焼成用とか」
ほーん。強力な〈加熱〉みたいなやつか?
「まぁそういうのは表向きだと思うよ? 主催者の匙加減で戦闘系魔法でも条件付きでギリOKなイベントもあるみたいだし。ここはそうじゃないみたいだけど、表向き別の用途です、って申請しとけば、ヤバくなけりゃ通るんだって」
なーんやそれー。
……いやそれって、魔導士に変な武装渡してるようなもんじゃね?
「大丈夫だと思うよ。所詮俄か造りの攻撃魔法だし、威力・使い勝手・汎用性・オプション機能でも、《光弾》系に勝る攻撃魔法ってそうはないと思うよ。むしろあれを越える魔法創れたら、ギルドが黙ってないよ。文句は言わずに、抱え込みに来る才能だから」
……あー、それもそうだな。
何百年も使われてきたスーパーベーシックスペルだもんな。
「だからこういうところで売ってる魔法って、一発芸みたいな魔法が多いんだってさ」
一発芸?
「さっき言ってた炎系の魔法でさ、《ファイヤーダンサー》ってのがあってね」
〈ファイヤーダンサー〉?
あの炎振り回して踊るやつ?
「よく知ってるね。
火の玉を魔法の糸の先に発生させて、自在に振り回すことができる魔法なんだけどね。
最初にそれを販売したとき、会場内で火の玉振り回して、隣の団体の参加者にぶつけたことがあったらしくてねー。説明書も燃えてボヤ出して」
……そらーそんなもん会場内で振り回す方がどうかしとるわ。
まあ来るのはアホばっかだからなー。
「本人は、ブライト・ワルダーに聞いたファイヤーダンスっていうのを魔法で実現したって言ってたけどね。
機能よりも、注意事項に引用されるようなモノってことで有名になってね。それでそこそこ売れはしたらしいけど」
そんな注目のされかたはちょっとなー。これがほんとの炎上商法ってやつか。
だが一発芸魔法か……そういうネタ魔法も惹かれるっちゃ惹かれるな。
面白そうなのあったら買ってこかなー。ディスプレイ魔法は買い。
すると、再びアナウンスが入る。
『お待たせ致しました。
ニュースターズ・フェスティバル13、只今より開始です!』
会場から拍手が巻き起こる。
サークルやスタッフとして入っている三百人弱に、外で待っていたのがその十倍ほど……うお、三千人ぐらいが一斉に入ると結構盛況だな!
やっぱり壁際の大手に真っ先に人が向かうのは、イベントの常ってやつだな……まあこっちに来るのはもうちょっと後か。
今のうちにちょっとぐるり見てきていい?
「アカンて。ケンおらんかったら誰が説明すんの」
えー……ちょっと代わりにやっといてくれんー?
「共同開発者たるマシュさんいないんだから……ケンはここにいてくれないと。ボクら、細かいことまで説明できないからさ」
えー……しゃーないなー。
薄い本みたいに値札で判るから! 一冊五百円な! みたいなわけにはいかんのか……。
とかなんとか考えて欠伸をしたところへ。
「すんません、見せてもらっていいですか」
客が来た。年の頃は二十代後半ぐらいの、多分魔導士の青年。
「へいらっしゃい! どぞ!」
と八百屋みたいに説明書を渡す。
説明書はフリーペーパーみたいなものとして渡してもええんちゃうかなーと思ったが、こっちでは紙が高いので、そうそうホイホイ渡してしまえるものではない。
なので、購入者にのみ渡し、立ち読みだけならそこで回収、というのが普通だそうだ。
と、読んでるのを待っていたら、質問がきた。バッチコーイ!
「……これって、どこにでもくっつくんですか?」
「あーはい、どこにでも、どんなものでも。液体とか、気体でなければ」
「……それ、どうやって実現したんですか?」
こういう情報はペラペラ喋るものではないが……まあこれは喋ったところで、そう簡単に実装できるもんではない。
「これね、物質の分子の間に魔力を浸透させて、くっつくっていうより細かく引っかかってるって感じなんですよ。粘着系の魔法に使われる手法でしてね」
これは、〈シールド〉の応用である。
〈シールド〉は、高度オプションに「対象の表面」に沿って展開できるオプションがある。つまり、不定形で対象の表面を覆うことができる。
その機能を、「物体レベル」から「分子レベル」にまで細かく対応させた(マシュさんのノウハウをパクったw)ところ――対象物質内に〈シールド〉を浸透させることができるようになることが判明した。正確には「物質の分子レベル」の表面に〈シールド〉を展開している状態なのだが、そのおかげで「分子の隙間」に入り込んだ〈シールド〉が、一見して「接着している」ように見える。接着剤ていうところの「投錨効果」ってやつの応用だ。接着剤と違うところは、金属やガラスみたいな分子レベルでも平らな平面にもくっつくところ。表面に〈シールド〉を相対位置固定で展開するって感じ? 魔法万歳!だね。
保持強度がその対象の物体強度に拠るので、できるだけ広範囲に深く〈粘着シールド〉を展開し、十分な保持強度を持たせている。細かく根を張っているような感じ。生物に応用すると、「硬化」っていう魔法になるんだそうで……まあそれはいいや。
「……分子の間に魔力を浸透? そんなのどうやって……」
「おっと、そいつぁ企業秘密ってやつですよお客さん」
一度は言ってみたいセリフベスト20ぐらいに入りそうな答えを返して、ニヤリ。マシュさんが魔導塾で専門的に教えるような内容なので、実は俺もよく知らんし。
「細かいところはともかく、こうしておけば実現できる」って言われたんで、原理考証は後回しにして実現させたからだ。
「むむ……それじゃ、実演見せてもらっていいかな」
お、実演販売キタ――!
〈シールド〉応用案はこんな形で採用されました(´・ω・`)




