同人魔法即売会
……まさかと思って、念のために帰ってきたマシュさんに聞いてみたら……ナンテコッタイ。
「私たちが自主製作したものも、そこでまず売ってみようかと思っていてね。言うのが遅れたけど」
……ギルド組合員が自主製作した魔法というのは、本部で審査を行って、合格したものだけが全ギルド支部へ配布、販売という形になる。
審査の段階で安全性や安定性に問題があったり、同様の魔法がすでに登録されていたりすれば、そこで弾かれ、申請した支部へ連絡がいく。
……だが、その時間が長い。支部からも遠い場所に住んでいると、支部へ行って何日、審査で一ヶ月から三ヶ月、支部へ合否連絡がいくまで合計で最長半年ぐらいかかるとか。
現代日本みたいに翌日「お祈りメール」が届いて死亡、みたいな結果即判明みたいな利便性は誰もが持てるわけではない。ここにはネットもケータイも限られた人間しか使えないのだから、個人が高速情報網を持っているわけではない。
それでなくても、魔導士ギルドは毎日のように何十という新魔法の申請が上がって来る。その審査部門は常に人手不足で、審査にも時間がかかる。アイディアの段階でハネられるならまだしも、そこそこアイディアはいいのだが完成度が残念、というケースも少なくはない。そうなると、実際に起動して審査してみないと、設計書のような効果が発揮されるかどうか判らない。
その段階で、思わぬ「バグ」が潜んでいることもあり、合否ラインギリギリのものほど審査が長引く。むしろ一見してダメな方がすぐ終了なので手間がかからない。もちろん十分に出来が良いならそれに越したことはないが、軽微なバグ程度なら、「ここ直せば採用です」みたいな返答で仮採用ってこともある。
申請に地方ギルドの支部長推薦書が付属していれば、ほぼそのまま通る。支部でバグチェックを行って、機能検証まで済んでいるからだ。
だが、こういう自主製作魔法の申請は八割方、個人で「こんなん創りましたけどどうっすかー!」みたいな勢いだけで持ってくる。自信過剰な製作者が非常に多いのだそうだ。
もちろん、こういった申請の半分は「ゴミ」である。パクリである、アイディアはいいが出来が悪すぎる、使途が狭すぎて職能ギルドでも需要が見込めない――そういったものは審査で即ハネられる。
だが、審査を通らなくても、人によっては「これ使えるんじゃね?」と思うものもないではない。
また、申請する側にも「これの売上がないとヤバい!」といった事情もあることも少なくはない。
新魔法は、一発当てればリターンは大きい。だが、製作には少なからぬ手間がかかる。少なくとも、個人でフリーソフトを作るよりは難易度は高い。特に「検証」に時間がかかる。
その検証で手抜きをして申請する輩が多いため、ギルドの検査が長引くのだが――結果「ダメ」だった、ではそれまでの苦労が完全に無駄になる。
そこで考え出されたのが、「自主製作魔法即売会」である。
考え出した、というか、ブライト・ワルダーが「こういう形で非公認魔法売ったらいんじゃね?」というアイディアを提供し、ファース・エミュールの魔導士ギルドが乗っかって始めたところ、魔導士からの評判がすごく良かったらしい。
特に一番良かった点が「これで当座の生活費が入った……」という切実なものだったりする。
地方の魔導士なんて、ギルドに属しているからといって、そこで仕事を持っている魔導士ばかりではなく、自分で魔導士という「資格」を生かして就職しなくてはならない。
魔導士といっても、BCを得て技術・能力を持ったとしても、それだけで安泰ではない。
冒険者になったり、貴族様に雇われたり、魔法学院講師になったり、私塾を開いたり、魔導工房に入ったり、役人を目指したり、軍人になったり、というルートもあるが、相応の能力がなければどんな就職先でも上手くいかないのは、地球の現代社会と変わらない。
……実家に戻って、家業の狩人になったり農夫になったり商人になったりで、そこで魔法を生かせるのならまだいい。
そういう伝もコネも何もなくて、魔導という技能をただ持ち腐らせてしまう者も、どうしても出てくる。
魔導士という能力は、決して「万能就職技能」というわけではなく、地域で余剰人員となることもある。
特に貴族の子弟で、家を継げない次男以降の男子に、そういう「無職」は多い。娘なら政略結婚やらなんやらで外に出したり、男子のいない家なら婿を取ったりでどうにかなるが、家を継げない男子は長男が家を継いだら、家臣として役立つか、でなければ追い出されるのが普通。兄弟で協力して家を盛り上げていこう!なんて仲の良い関係ならいいが、貴族の家がそのようないい関係の家ばかりでもない。大抵は後継問題で家臣が分裂したりするので、次男は長男の予備として家臣に残すが、三男以降はそうならないように家を出て、貴族籍をなくして長男の家臣になったり、位の落ちる貴族として分家を創設したり、平民になって自力で商売を始めたり農業を始めたりするのが普通である。
……で、そういう余剰人員が全て相応の能力を持って、自活できるならいいが。
現代地球でも問題になっていた「ニート」というやつが、そこで生まれてくる。困ったものである。
働き口がないのなら冒険者になれ、といわれるこの世界であるが、日本でいうなら、その気さえあればほぼ誰でもなれる警備員みたいな職に相当するのであろうか? それとも自営業者、ネットで起業した社長相当か?
だが冒険者というのは、生き死にがかかることも多く、非常に厳しい。そんな仕事を、ニートもどきの覚悟のない奴がやっていけるわけがない。最初から「冒険者で一旗上げるぜ!」と意気込んでいる奴らですら、初年度に三割が脱落、五年以内に七割が脱落するという驚異の危険職。3Kどころではない、キツイ・汚い・危険・金がない・ケガする・食えないに加え、底辺では「カッコワルイ」だの「キモイ」だのがついて、4K8Kは当たり前、という高解像度ならぬ高危険度が冒険者の実情だったりする。その割に「将来こう(うまい具合に成り上がり冒険者に)なりたい」というくっきりはっきりの高いビジョンは皆装備している。
家を追い出された元貴族のボンボンは、家を出る際に多少の当座の生活費を受け取って、それがある間に就職活動を行うのが普通。役人とか商人とか軍とか、宗教関係とか。
だが、親がコネでどこかに押し込んでくれるならいいが、そういうコネも何もなく、あっても人付き合いができなくてドロップアウトしてしまうとか、そういう奴がどうしてもいる。特に魔導士になるような連中は、どうも「魔法で身を立てる」ことに拘泥する者が多いらしく、それ以外の職に就きたがらない。
……結果、都市部では「ニート魔導士」がボロいシェアハウスなどに集まって、「夢」を語るだけの無為な時間を過ごしている姿がよくみられる。
楽をして生活したい、働きたくないでござる! というのはどんな世界でも変わらんらしい。
そこに「自主製作魔法即売会」という、「救いの手」が差し伸べられた。
出来の悪い自作魔法でも、ギルドを通さず、その場で売れれば少しだが即金になる。
相場単価はぐっと安くなるが、数が売れればそれなりに当座の金が入る。
もちろん出来のいいものなら、ギルドを通すより儲けが大きい――等々、製作サイドにとっては非常にいい場所である。
だがもちろん、魔導士ギルドが黙っているわけがない。
主導したファース・エミュールのギルドはともかく、他国では事情が違った。特に本部があるライ・マーストでは。
魔導士ギルドは、商売の邪魔になるというので、あの手この手でこの即売会を潰そうとした。だが、地方都市でゲリラ的に行われるこの即売会を全て発見し、潰すのは容易ではなかった。特に支部のない町でやられると、気がつけば終わっている、ということもしばしば。
「ここで魔法売らないと生活費が稼げないんだよ!」というアマチュア無職魔導士の強力な後押しが、即売会をギルドから守り抜いたそうだ。
おまえら、その努力を職探しに生かせよ……。
……結局、魔導士ギルドは規制を諦めた。
即売会を執り行う「準備会」の中には頭が働く者もいて、「即売会参加費からいくらか上納金出しますから、容認か、でなきゃ黙認してくださいよ~」と、ギルド内のコネを利用して訴えて、「ギルド黙認即売会」という立場を勝ち得た者が出てきた。
結果、支部のある街で行われる大きな即売会では参加費がちょっとお高めだが、「ギルド公認」で開催できるようになった。相変わらず小さな町や村の小さな即売会は非公認のままだが、公認即売会がどんどん拡大して、ギルドへの上納金が増えているので、小さいものはこの際無視でいい、というスタンスを現在は取っている。
そして、公認即売会で売られた魔法は全てギルドでも審査して、「これは売れそうだ」と思うような良品は、あとでギルドの方から「お声がけ」があったりする。そういう即売会では、「ギルド事前審査会」という席まで設けられ、その場で「審査を通りそうか、ダメならどこがダメか」というのを簡単無料審査してくれるという。今や壁の最大手スペースとも言われるほどの人気っぷりだ。
そうやって正規販売ルートに自作魔法が入れば、堂々と「プロの魔法研究者」を名乗り、実績として「開発した魔法がギルドに採用されました!」ってアピールもできる。そこまでやれれば、ギルドの開発部門や貴族の私設魔法研究所なんかにも売り込むことができるのだ。
なので、最近は公認即売会では「出張ギルド鑑定所」設置が当たり前になってきたようだ。新作だけでなく、過去に登録を却下された魔法を改造して持ち込んだり、却下されたヘタッピ魔法のどこがいけなかったとか、どこをどうすれば採用されやすいとか、そういう失敗例を改善する講義もやっているとか。
……というような経緯もあり、ライ・マーストやアークゥエスミィでは、月に一度はあちこちで「魔法即売会」というやつが行われていたりする。
(ノ∀`)




