トラップ対応要員
「……で、対策はあるんでしょうね」
一応脳に筋以外に味噌も詰まっているビュスナが、なんとか問いを発する。
すると、シェラも笑顔で「いい質問ですねー」と返す……お前もそのネタ知ってんの? それとも流行ってんの?
「もちろん、今のトラップのほとんどは、突破できます。
一つは、力ずくで突破する方法」
「力ずく? とは?」
サガからの質問。
まさか、全部無視して突破できるぐらいの奴を差し向けるとかそういうの……か?
「もっとハイレベルな人なら可能ですが、ボクらには無理です」
もっとハイレベルってーと……あ、いたわ。ベレー・レイヴァークラスの。あれくらいなら無視して突破できるわ。
だけど俺らにはムーッリーッ。リーッムーッ。
「ボクらのとりうる手段としては、爆発系の魔法で全部吹っ飛ばす、というのが考えられます」
あー……そういうのね。
「少なくとも、進路上を薙ぎ払うレベルの魔法攻撃ができるなら、進路上の安全だけは確保できるでしょう。
ですが、その場合は相手に確実に気取られるので、これは敵のアジト突入直前に行うべき話となります」
……つまりそこまでは、罠を自力で発見して静かに接近しなきゃいかん、と。
……これなら「ゴブリンキングのいる群れ掃除に行くぞー」って言われた方がナンボかマシやで……。
人間相手ってほんと厄介だな……殲滅したくなるわ。殲滅しに行くんだけど。
「えー、これらの罠対策は、ボクらスカウト連が中心になって発見・解除していきますが……同時に皆さんは、『待ち伏せ』対策をして頂きます」
……またザワついとるで。これ以上まだ何やらせんのや!ってな……。
「待ち伏せ、もしくは不意打ち。これによって、相手は陽動を仕掛けてくるものと考えられます。
少しでも開けた場所であれば、遠距離からの魔法狙撃もありえます。森の中でも、相手から直線で発見されれば、その時点で狙撃されると思って行動しなければなりません。
相手の使える魔法は《光弾》程度と推測されますが、直撃されれば、悪くすればその場で失神、下手に頭に直撃されれば」
シェラは目を隠し、
「失明、または鼻とか顔の一部を吹き飛ばされて、見られた顔ではなくなる可能性もあります。それだけならまだしも、脳にまで直撃ダメージがいけば、人として死んだも同然になる可能性も、ないではありません。あくまで最悪、ですが」
……シェラちんとこは魔法対策まで教えとったんか……どんな連中相手にしとったんや。おおこわいこわい。
だからって、そこまで脅すことはないんちゃうかな……ほら、みんな顔にタテ線垂らして黙りこくっちゃってるしー。
「……なので、そういった魔法狙撃対策は、こちらのケン君と、探索能力に優れた先輩冒険者であるリリエラ氏、マシュミーヤ氏が指示してくれることになっています」
……あんですと? 聞いてないよー!
リリエラさんは俺に気付くとさっと目を逸らしてる……謀ったなシャア!
「このお三方は、気功術による気配探知ができるとのことで、スカウト以上の広範囲にわたり、こちらに向けられる敵意の察知が可能だそうです。
なので、安全進路確保中、我々はこの三人の指示に従って行動、特に回避・防御を行うことを推奨します」
……うぉい。俺は坑道のカナリアか。
まあカナリアみたいに叫んで死ぬだけの存在じゃねーけどさ。ピヨ。
「それと魔導士の方々には、対魔法防御をお願いすることになります。そちらはマシュミーヤ氏が中心になって、対応方法を検討して頂くことになっていますので、ここでは省略します」
そしてシェラは俺をチラリ見て。
「――えー、それでは一応ですね、最後にケン君とリリエラさんに、どれくらいの気配感知ができるか、ちょっと見せて頂きましょう」
どんな危険が近づいてるか察知できる――とか触れ込まれてるので、俺とリリエラさんが実演してみせると安心できるという……まあ今日のこれだけで散々心労増やしたからな。少しは安心要素欲しいわ。
〈森の疾走者〉のスカウト、ドルーゴ氏にも協力してもらい、まずはリリエラさんが実演。
パーティションみたいな目隠し板を用意してもらい、それを挟んでリリエラさん、ドルーゴ氏が立つ。双方の姿は互いに見えないように。
それを横から、一同が見守る。
「では、ドルーゴさんお願いします」
ドルーゴさんは、板の向こうで武器を持って構えるだけなのだが、その持った武器をリリエラさんが板の向こうで、気配を感知して言い当てる――というもの。
用意された武器は、片手剣、弓、短剣、槍。
「弓」
ドルーゴさんが弓を引いたポーズをとると、リリエラさんが答える。
その後も、剣に持ち替えたり、槍を持ったり、短剣に持ち替えたり、剣と短剣二本持ちにしてみたり、弓を剣みたいに構えてみたりしたが、全て正解。
最後に素手の状態でポーズだけ、というのも試したが、「今は持ってないんじゃない?」と見事に言い当てられた。
「すげえ!」とリリエラさんには賞賛の拍手。
「じゃ、こんなのはどっすかね」
と、俺がもう一つ提案。
リリエラさんには適当な木の切れ端をいくつか渡し、部屋の壁際に立ってもらい、三方をパーティション板で隠して周囲を封鎖、部屋の中の様子を判らないようにする。
そして新人から五人、部屋の中に立ってもらう。リリエラさんからの距離は適当。近づいてても離れててもいい。だができるだけ静かに、位置が悟られないようにしてもらい、音を立てないよう裸足で動いてもらって、息を殺し、潜んでいるように振舞ってもらう。スカウト少年はリリエラさんの板のすぐ横までこっそり近づき、一人は部屋反対側の端で待機。残りも適当に移動して待機。うち一人は、こっそり部屋の外にまで出て行った。
「これでどないすんの?」
ナオが訊ねてきたので。
「ではリリエラさん、さっき渡した木切れを、人の気配のする方向へ投げてください」
「わかったー」
と答えた直後、まずは板のすぐそばのスカウトの頭の上にポトン。
「いてっ」
頭の上に落されたスカウトが「えっ?」って顔になる。
続いて、木切れが板の向こうからポイ、ポイと続けて投げられる――それも、「そこにいるのが見えている」かのように、正確にその人物に向けて。部屋の外にいる少女魔導士に向けても、正確にその方向へ投げられ、壁にペコンと当たる。
「つまり、近くにいても遠くにいても、障害物の向こうでも判るってわけ」
おおー、と一同のどよめき&さっきより盛大な拍手。
板の陰から……すぐに出られないリリエラさんは、手だけ振って応え、失笑を招く。
「ケンはなんかやらへんの?」
……おっとナオさん、俺はパフォーマーじゃないんだが。見せるなら金取るよ?
「それじゃ、一つ特技を見せてもらおうかな」
シェラ君、余計なことは言わないでくれたまえ。「アレ」は俺の隠し玉なんだから。キ○タマみたいなもんだからそうそう人には見せられないよ! 見えないけど!
「まあまあそう言わずに。君だけ何もしてないように思われるよ?」
……わかったよ。どうせ見えないんだから関係ないっちゃないんだが……気分的にな。




