遭遇
……翌朝、宿で目覚めた俺は、記憶が途中でなくなっていることに気がついた。
……あっれー、記憶が飛ぶほど飲んだっけか?
それとも飲むと記憶なくすタイプ? だったらこえー。何しでかしたか覚えてねーのはこえー。
えーと、確か他の三人の酒癖悪いなー、って思って見てたのは覚えてるけど……その後から覚えてねえ……その後そんなに飲んだっけか?
……痛った! 頭、痛ぇ……表面が。二日酔いのじゃねえぞこれ?
コブ? なんじゃこりゃ?
……あー、あの後、またリリエラさんに絡まれたんだっけか……そこへ〈森の疾走者〉のおっちゃんらと、ナオもやってきて……なんか飲まされて……あー! ナオに頭ブン殴られたわ! あンのアマ! せめて乳ビンタにせんかい!
そこから後、覚えてないわ……殴られて意識トバされたか……するってーと誰が運んでくれたんだ?
――ふと、隣を見ると。
あれ?……ここ、俺の部屋だよね?
なんで、ビュスナさんが一緒に寝てるのかな?
……
…………
……
誰じゃ――――――!!
いらんことする悪い子は誰じゃ――――――――!!!!
……うん、心は叫びたがっているが、声に出して読みたくない日本語を叫びそうなので、自重。
……幸いにも、ビュスナは服は着ている。ということは……よかった。まだセーフ。
両方とも服脱いでたら……多分、いや確実にアウト。レッドカード。殴られるだけで済めばいい。
それで冒険者退場から、最悪人生退場までありうる。チームメイトからチェックメイトに。ハハッ。
ここは撤退作戦だな。静かに、粛々とこの場を離れる。部屋を出た段階で作戦は成功だ。
荷物は……うん、荷馬車に突っ込んだままだから、俺だけ脱出できればいいんだな。
……あのー、ビュスナさん、俺の服の裾、ぎゅーって握ってるのはなんでなんだぜ?
離してくれませんかね……離せばわかる。うん、てか離して。
でないと俺のメンタルポイントがぐんぐん減っていくんですが。今も尚減少中。
……仕方ない、俺が脱ぐしかないのか……起こさないように……
……おい。ドアのとこで覗いてるのは誰だ。
目が笑ってんぞ。
「いや、お構いなく」
お構いなくじゃねえよ!
ナオ! リリエラ! お前らか!
「……ゆうべはおたのしみでしたか?」
おたのしみでしたか、じゃねーよ! 楽しんでねーわ!
起きた瞬間、心臓が俺の身体から脱出しようとしとったわ!
それより俺が脱出するのが先だ!
……あれ?
ビュスナさん、寝てたんじゃありませんでしたっけ?
なんで目、開けてるんですかね……いや、そんな目で睨まれても。
言い訳させてもらっていいですかね、あいやその前にまずその手を離してもらっていいですかね?
うん、そうです、その俺の服の裾握ってるその手。それを離して……はい、ありがとうございます。
ちなみにここ、俺の部屋ですけど、解ってますかね?
解ってない。
ですよねー。
えーと……〈光弾〉発動させるのやめてくれませんかね。
逃げないとマジで死にますので逃げますね。
……ダ――――ッシュ!
その後、ギルドの宿担当者にものっそい怒られた。
〈森の疾走者〉のリーダーにも怒られた。もうバカかと。アホかと。
そりゃまあ、宿の一部屋ぶっ飛ばして、火事になりかけたからな。
ギルドマスターらしき人は笑ってた。大物だなぁ。
そして俺の責任じゃないことだけは解ってもらえた。よかった。
でも俺も弁償しろって、それおかしくない?
連帯責任? いや俺、純粋に被害者なんですけど……リーダーとしてパーティメンバーをしっかり教育しろと?
えーと。そのリーダーが〈光弾〉ぶっ放したんですけど。
……実質リーダーは俺? いつ決まったの? え? 常識担当? ナニソレ? シェラとナオがそう言ってた? 多数決? その二人はどこ行ったんです? いない? 逃げた?
いやそれって俺にメンバーがやらかした責任だけ取れって言ってるようなもんじゃ……イヤでゲスよ、責任だけ取らされるのなんて。
……男なら責任とれ? いやいや、男として責任とるようなことなんもしてないデス! しててもデス! 生物的に! 精神的にも! 社会的にもデス判定!
ほんと、言いがかりはよしてください。てか勘弁してください。
……ちょっとリリエラさん、あんた何ニヤニヤしてんですか。あんたのせいでしょうが! 他人事じゃねーだろ! そしらぬ顔してもダメじゃ!
マシュさん、お仕置きしといてくださいよその人!
そんなこともあって、俺は今日、単独行動。
ビュスナとナオとリリエラさんは外出禁止。俺の言い分が理解された結果だ。仕置きもされた。まあ当たり前だ、反省しときんさい。
ただしパーティとして弁償はしろ、といわれた……それは仕方ないか。プール金から五万出した。だが文句は出させん。
俺のせいじゃないんだけど、他にもアホガールが二人いたし。あとで仕置きだな……俺のバナナ食わすぞ?
今日は、久々にやんちゃボウズどもから解放された母親気分だ。
さて、それはそれとして――首都なんて滅多に来られないから、ちょっといろいろ見ておきたい。特に食材。俺のために。
市場はギルドから見える場所でやっているし、市の立ってる広場からもギルド会館が見えるので、迷うことはまあなかろう。
というわけで、今日は市巡り。資金は多少ある。めぼしい食材を発掘しておきたい。特に調味料系。
醤油っぽいモノとか味噌っぽいモノがあればベストなんだが……発酵系はあんまり期待はしないでおこう。前に謎調味料売ってるの見たことあるが、アレはダメだ……発酵ってより「腐ってる」風だったし。いやまあ発酵調味料なんてああいうクセあるもんだけどさ……アレはダメよ。うん。ダメ、ゼッタイ。
あとは胡椒みたいなスパイスやハーブ系。ニンニクっぽいの、生姜っぽいのは普通にあるが、ニラとかパクチーとかバジルとかパセリとかローリエとか、種類があると幅が広がるんだよな。特にスパイスシード系のがあると……高いんだけど。なんとかならんかな? なんとかしてこの値段。むむう。
……昼前までに、「米っぽい麦」とか、「パセリっぽいハーブ」とか香草何種類かは発見できた。あと大豆っぽい豆も。ハーブと乾燥豆はいくらか買った。これは探せば地方でも見つかるらしい。地方独自のもあるらしいから、これからも遠出したら探しておこう。
大豆っぽい豆があるなら醤油と味噌も……と思ったが、発酵食品製造は専門職だからなあ。麹なんてどうすりゃいいのよ……俺の個人的嗜好の範囲でどうこうってレベルじゃない。もうちょっと南へ行けば海があって、魚介が広く食べられているそうだから、魚醤の類なら手に入るかもしれんが、それはちょっと違うんだよな。
いずれ、もっと農業の盛んな国で調査しなきゃな……趣味の範囲でな。
発酵魔法とかないのかね……よくあるじゃん、こういう世界で魔法使いになったら、発酵促進して味噌やら醤油作るって展開がさー。そういうのないのかねー。
ありませんかそうですか……マシュさんも「ちょっとそういう魔法は聞いたことないなあ……」って言ってたし。
まあなければ「造る」のも手ですがね。魔法技術の進化ってそういうもんですよ。
それとは別に、「甘味」が見つかったのは僥倖。ちょっと高いが、砂糖も多少流通している。黒糖精製途中、という感じで、真っ白い砂糖ではない。茶色が残った未精製糖だけど、これはこれでよし。
あと、蜂蜜。蜂はこっちにもいるそうだ。まあ地球のとは種類は違うだろうけど。こっちは一メートルぐらいの「殺人蜂」がいるぐらいだからな。こっちは種類によって……殺人蜂の蜜もあるのか。キラービーハニー? クッソ高ぇじゃねぇか。買えるかこんなん。なんか厳重に保管してるけど、売る気あるのかこれ。胡椒より高えじゃねえか。これって味云々より珍しいってだけの珍品価格だよな? 普通の蜂蜜でいいよ。百分の一ぐらいの値段だし。
こういうのがあるので、デザートも種類あるか……と思ったが、お高いデザートは王侯貴族の御用達。お値段もそれなり。今の所持金じゃ一つ買ったらスッカラカンだ。
庶民用の菓子もあるにはある。ほんのり甘いビスケットとかそんな感じの。果実を砂糖で煮詰めたジャムみたいなのが乗ってるのもある。だが全般に甘ったるい。砂糖味と蜂蜜味の二種類があるが、どっちも総じて甘すぎる。そしてお高い。
まあ甘味が庶民向けにあるだけマシか……とりあえず安い砂糖と普通の蜂蜜はゲット。こっちは首都圏以外では手に入りにくいらしいので、ちょっと多めに。
大豆っぽいの挽いて粉にして砂糖と塩混ぜたら黄粉になるし、すり鉢買ってこないと。どっかででんぷん手に入れてワラビ餅作ろう! 葛みたいなの生えてねーかな……って処理メンドクチャイわ! ジャガイモっぽいのがあるからそれ煮て作ろう。黒糖でカラメルっぽいの作れば糖蜜みたいになるか? それとも蜂蜜混ぜればいいのか?
……すり鉢はないかいなー。こっちじゃなくてもう一方の……い!
「騒ぐな。殺すぞ」
――背後に突然現れた、「殺気」。
何か「尖ったもの」が背中に押し付けられている。
こいつ――気配に覚えがある。
「シェラの……弟か」
確か、ミューラザッドとか……。
「聞いていたか。なら話は早い」
ミューラザッドが「歩け」と押し当てた刃で押す。
痛いわコラ! ……ハイすみません。従います。
てれれれってってってー♪
『スキル:リーダー→レベル1を押し付けられた!(えぇ……)』




