モブとデートに行きます
真っ青な空。時折吹く風も冷たさは感じず、気温もちょうどいい。絶好のお出かけ日和。
最高のコンディションのなか、商人や街で暮らす国民の活気づいた声をBGMにエディにアピールを開始する。
「きゃあっ! このままじゃ転んじゃう! エディ、手を――」
「うわぁぁっ!」
転んだふりをしてエディに抱き着こうとしたらエディが先になにもないところで躓いて転んだ。
「わ。素敵。ねぇエディ、私とおそろいでブレスレット買わない?」
「あ、僕は腕に時計以外のものはつけないので」
綺麗な色をした石で作られたきらびやかなブレスレットは壊れている時計に負けた。
「エディがいつも行くところに行きたいわ。エディの好きなものを私も好きになりたいし。案内して?」
「じゃあ美味しい手作りお菓子のお店に行きましょう。お城にたまに置いてある動物の形をしたクッキーは、そこで買ってるものなんですよ!」
「そうなの!? 私もあのクッキー可愛いし美味しくて大好きなの! エディが調達していたのね」
「はいっ! ここで――あ。すみません。お休みでした」
エディのテリトリーに入れてエディのテンションをあげようと試みたら店は閉まっていた。挙句私の期待に応えられなかったエディのテンションはだだ下がりした。
――ことごとく作戦が失敗で終わる。くそう! こうなったら街で同世代くらいの男を見つけるっていうもうひとつの目的を達成するしかないようね!
フードで見えづらい視界の中、私は必死で街中を見渡す。しかしいくら街を回っても、お年寄りやおじさんはいるが少年と青年はひとりもいなかった。
「女おんなオンナ女ぁぁぁ!」
休憩がてら入ったカフェで席に着くなり、私は背もたれに思い切りもたれ、店の天井を仰ぎながら叫んだ。ついでに暑苦しいフードもばさっと脱いでやった。
「ちょっ! リオナ様! 大きな声出さないで! あと勝手にフード脱がない」
「平気よ。ほら、少なくともここにいる人には誰もバレてないじゃない。すっぴんだし、着飾ってなければ誰も私が王女なんて気づかないわ」
どんどん口うるさい姑のようになるエディを他所に、私は運ばれてきたチェリーが添えられたバニラアイスが浮かんでいるメロンソーダをストローで飲む。エディはというと、小さくため息をついた後、紅茶にこれでもかというくらい砂糖とミルクを入れて飲み始めた。……さっきのクッキーの話もあったし、エディはどうやら甘党のようだ。
「……にしても、本当に若い男がいないのね。実際目の当たりにすると、どれだけクリシュナが危機的状況下にあるのかがよく理解できたわ。エディはどうしてこうなったんだと思う? 」
「クリシュナは閉鎖的であまり他所から人を招いたりしていないイメージがあるので……。この男性不足を改善するにはもっと外から人を受け入れるしかないというか」
「……そもそも不思議なのは、どうしてこの国で男が産まれなくなったのか。さすがに異常よね」
「確かに。国にかけられた呪いなのか、定めなのか。……クリシュナ七不思議のひとつですね」
「残りの六つはなに?」
「うーん。ひとつは王女の豹変とかですかね!」
自分で言ってエディは笑いだす。せっかく真面目な話してたのに、と思ったが、エディが笑ったところを初めて見た気がする。
暗くて地味な自虐男のイメージが強かったけど……なんだ。ちゃんと冗談も言うし笑ったりもする普通の男じゃない。おもわず私にも笑みがこぼれる。
「お味はいかがですか?」
すると、お水を持ったウェイトレスが私達のテーブルへやって来てた。
そのタイミングでひとりの若い男性が店の奥から出て来て、カウンターでなにか作業をしている。街へ出てから、初めて見る若い男の姿だ。
「あ、すっごく美味しいです! 特にこのバニラアイスが!」
「嬉しいです。そのアイスはあそこにいる主人自慢のお手製アイスクリームなんですよ」
ふふふ、と上品に笑うウェイトレス。……主人ということは、夫婦でこのカフェを営んでいるのか。
「お兄さんも、お味はいかかですか?」
「へっ、あ、はい。すごく甘くて美味しいです」
それは自分でそういう味付けにしたからでしょ、と私が心の中で呟いていると、また新しいお客さんがやって来た。……若い男女のカップルだ。これで若い男を見たのは二度目。このカフェは若い男の行きつけなのだろうか。
「まぁ珍しい! 男女のお客さんが二組も来るなんて!」
「……普段はこんな状況ないんですか?」
驚きの声を上げるウェイトレスにすかさずそう聞けば、ウェイトレスはうんうんと頷いた。
「クリシュナはもう何年も男の子がほとんど生まれていないでしょう? ご年配のカップルはいても、若い男女のカップルはほとんど見ることないんです。主人との結婚も争奪戦だったんですよ。選んでもらえたときは、天にも昇る気持ちでした」
ウェイトレスはカップルを案内している主人のほうを見ながら、幸せそうに笑っている。案内され席に着いたカップルもまた、幸せそうにお互いを見つめながら笑い合っている。
「おふたりも、今日はデートですよね? 邪魔してごめんなさい! ゆっくりして行ってくださいね!」
ぺこりと頭を下げ、ウェイトレスは愛しい主人の待つカウンターへと軽やかな足取りで戻って行った。
「……エディ。私たち、カップルに見えてるみたいよ」
デート、という言葉に肩を跳ね上げ大袈裟に反応していた初心なエディを私が見逃すはずがない。にんまり笑ってエディに言えば、エディは顔を真っ赤にしている。
「きょ、恐縮です……。で、でも僕がリオナ様の相手だと勘違いされたままではまずいので、今すぐ訂正を――」
「しなくていいから! あと大きな声でリオナ様って言ったらバレるでしょ」
「……すみません」
「謝らないの。もう、エディってば慌てすぎ! それに今日は本当にデートのつもりで来たんだから、もっとエディも楽しんでよ」
「……無茶言わないでください。緊張でどうにかなりそうですよ。さっきから」
初デートで、エディが飲んでいる紅茶のように甘い展開に持ち込むのはどうやら無理そうだ。でも、エディとまったり過ごす時間は、なんだか嫌なことも全部忘れられる――そんな安らぎの時間だった。




