いいから黙って結婚しなさい
「ってことで、今日から無事にあなたは私の専属付き人よ」
「だからどうして僕なんですか!? リオナ様専属の付き人なんて僕には無理です!」
エディに父からの許可を得たことを伝えると、エディは首を横に振りながら慌てて私に訴えかける。しかし、何度彼が「無理」と言おうと――
「拒否権ないから!」
「なっ……! リオナ様横暴ですよ! 独裁者!」
なんとでも言いなさい。ていうか地味なくせに結構言うわね。
「……僕がリオナ様のそばにいたって、できることなんかないです」
そう言って肩を落とし、大きなため息を吐くエディ。私は手を伸ばしエディの頭をぽんぽんと撫でる。
「別になにもしなくていいの。一緒にいてくれるだけでいい」
「えっ……?」
エディは口をぽかんと開けて私の方を見た。相変わらず大きな眼鏡が邪魔で表情がわかりづらい。
「遊び相手っていうか、話し相手になってよ。王女っていうのも堅苦しくてストレス溜まるのよ」
「……なんだか今のリオナ様は、前までのリオナ様と雰囲気が違うように感じます」
「そうかしら? 元々こんな感じじゃない?」
「いえ……なんというか、話しやすくなったというか」
ああ。確かにリオナって結構ツンケンしたキャラだったものね。前世の記憶が戻ったから、キャラ設定にブレが生じてるんだわ。
今の私はリオナであって――リオナじゃないともいえるもの。
「で、エディには早速お願いがあるんだけど」
「えっ! 話し相手になるだけでいいんじゃ!?」
「すっごーく簡単なお願いだから大丈夫よ」
「……なんでしょうか」
私はエディの正面に立ち、とびきりの笑顔ではっきりとエディに告げる。
「結婚して」
「は」
「だから、私と結婚して」
「けっ……!? む、無理ですよ! なにを言い出すんですかリオナ様! 冗談はやめて下さい!」
「冗談じゃないわ。私と結婚しなさい」
「無理無理無理!」
何度言ってもエディは「無理」としか言わず、私が近づくと離れていく。仮にも王女なのに、こんなあからさまに拒否されるなんて……ちょっと切ない。
こんな突然求婚したって、引きこもりだったエディがオーケーするわけないか。モブキャラを攻略するのなんて、メインキャラに比べたら朝飯前だと思っていたけど――さすがに私の考えが甘かった。
「リ、リオナ様にはアラン様がいらっしゃるじゃないですか」
今度は私が肩を落としていると、エディが私にそんなことを言ってきた。まるで慰めの言葉をかけるように。
「……どこをどう見たらそう思うのよ。眼鏡の奥にある目は節穴?」
「え、い、いや……。だって、普通に考えたらアラン様は王女のリオナ様を最終的に選ぶんじゃ……」
「エディ。あなた、アランとそこそこ仲良いわよね?」
「まぁ……普通くらいと思いますけど。アラン様は僕を見つけるのがうまくて」
少し嬉しそうにぽりぽりと頬を掻きながら言うエディ。
あんなアホに気にかけてもらって喜んでるのが気にくわない。それよりもっと気にくわないのは――アランと仲が良いのになんにもわかっていないことだ。
「エディってばモブな上に馬鹿なの!? アランを見てたらわかるでしょ!? ネルルートに一直線ってことくらい!」
「ルート……? ちょ、ちょっと難しい言葉が多くて僕にはなにがなんだか」
「だから私はあいつのことは諦めたの! ていうかこっちから願い下げよ。……運命の人もちゃんと見つけられないマヌケ男なんて」
自分でプレイしてるときですら、リオナルート以外のアランが能天気すぎていらついたことを思い出し、更に怒りが湧いてくる。
エディは私が言ってることが当たり前に理解できないようで黙り込んでしまった。少し気まずい空気が城の廊下に流れる。
「お、エディじゃねーか! なにしてんだよ。こんなとこで」
噂をすればなんとやら。気まずい空気を一気に変える能天気な声が響いた。
やって来たのは言うまでもなくアランだ。どうやら隣にいる私が柱に隠れてまだ見えていないらしい。
「アラン様。えっと、ちょっと今は取込み中でして」
「って……リオナも一緒だったのか! 珍しい組み合わせだな」
近くまで来て私に気づいたアランが、むかつくほど爽やかな笑顔を私に向ける。
「彼は今日から私専属の付き人になったの。アラン王子はエディになにか用?」
「付き人!? エディが!? 一体なにがあってそうなったんだよ」
「別にあなたには関係のないことよ。用がないなら、私たちは大切な話があるのでもういいかしら。行きましょ、エディ」
「あ、は、はい。リオナ様」
私は無表情に加えかなり冷めた口調でアランに言うと、エディの手を引いてその場を足早に去った。
エディは後ろを振り返り何度もアランに頭を下げていたが、私は一度もアランの方を振り返らなかったので、彼がどんな顔で去り行く私たちを見ていたかはわからない。
歩き出したものの特に行く当てもないので、適当にまた人気のない廊下で足を止めると、エディは不安そうに私を見ていた。
「いいんですか? アラン様にあんな態度をとって。これじゃ、アラン様のリオナ様に対する印象が悪くなってしまうのでは……」
まだそんな心配をしているなんて。エディは物分かりが悪いのか、ただ優しすぎるのか――。きっと後者だろうけど。
「いいの。私、アランとはもう結婚したいと思ってないから」
「そんなっ……! どうしてです?」
「だってあなたと結婚したいんだもの。ねぇエディ、結婚して?」
「っ……! む、無理です!」
「ちぇーっ。どうしたら頷いてくれるのよ」
出逢って数時間では心の距離が遠すぎる。
エディともっと仲良くなるにはなにをすれば――あ。
「エディ! 一緒に街にでかけましょうよ! エディは仕事で街によく行っているんでしょう? 私、ここ最近はずっと城にいたから、よかったらエディに街を案内してほしいわ」
と、いう口実で私はエディに街デートを持ちかけることにした。
城にいるとできることが限られているし周りの目も気になる。もっと開放的な場所に行けば、エディも心を開いてくれるかもしれない。――ついでに運がよければ未婚の他の男に出会えるかもしれないし。
「リオナ様が急に街へ出かけると、王女様が来たってちょっとした騒ぎになるのでは……」
「大丈夫。変装していくから。エディみたいに地味な格好をするわ」
「……そうですか。わかりました。でもいくらなんでも急すぎるので、できればそれは明日にしませんか? リオナ様も変装の準備とかあるでしょうし」
急いでる私にとってそれはあまり受け入れたくない提案だ。しかし、せっかく了承してくれたのだから、ここは一旦エディに要求を呑むことにしよう。
あんまり王女権限を使ってわがままを言いエディを困らせていると、それこそ本物の独裁者になりかねない。
「わかったわ。そのかわり絶対に明日決行よ。約束」
私は小指を立ててエディに差し出すと、エディはそれを見て首を傾げた。
――あ、指切りげんまんを知らないのか。
「エディの小指を、私の小指に引っ掛けて」
「こう、でしょうか? ……一体、なんの意味が?」
「ふふ。約束を守るためのおまじないみたいなものよ」
針千本飲ますなんて言ったら本気で怖がりそうだから、今は小指を絡めるだけにしておこう。
――そして明日の街デートで、絶対にエディを頷かせてやるんだから。




