Act.51
「ククク……。魔力を見せびらかして、お前は何をするというのだ?」
クロウドは不敵に笑い、俺に問いかける。
神通力を使えば、以前と同じように俺に負けることはない、などと考えているのだろうか。
「アンタが俺に見せたリヴァイアサン。それを再現してやるだけだ」
足元に落ちていた魔剣カタストロフの折れた刃先を拾いながら、俺は問いかけに答える。
クロウドが魔剣カタストロフを見せた時から、頭の中で構築していた魔法を、俺は無詠唱で発動した。
すると、俺が持ってる刃先に魔法陣が浮かび上がった。
「創造魔法か!?」
クロウドは俺の言葉と、刃先に浮かぶ魔方陣で勘付いたのか、こちらを睨みながら言った。
「ああ、そうだ。アンタのように、人を触媒にはしないがな」
俺はそう言いながら、刃先を触媒に創造魔法の魔力と、ミーシャに付与された破滅の力を、流すように送り込む。
「させるか!!」
クロウドは創造魔法の完成を阻止するため、再び地を蹴り俺に迫ってくる。
だが、遅過ぎる。学園に居た頃の俺にとっては、目にも止まらぬと形容するほどの速さなのだが、今は違うのだ。
クロウドは魔剣カタストロフを、横一閃に振るうが、それがコマ送りのように見えてしまう。
俺は魔剣カタストロフを躱しつつ、創造魔法を完全に向かわせる。
「何度も言うが、遅すぎる動きだな。アンタは俺には勝てない」
俺はクロウドを挑発しながら、大きく欠伸をする。
「この私をコケにするとは……許さんぞぉぉぉぉぉぉ!!」
そう叫んだクロウドの身体から、さらに強い金色の光が浮かび上がってきた。
「サクヤ、気をつけて! あの男は今、時の神そのものになっているわ!!」
クロームが俺に向かって叫んだ。
「もう遅い!! 魔王サクヤ、これで終わりだ!!」
クロウドは叫びながら、俺の心臓に向けて魔剣カタストロフを突き出す。
その刹那、眩い閃光が周囲を包み込み、一面が真っ白になった。
「サクヤ──────!!」
ミーシャは悲鳴にも似た声で、俺の名前を呼んだ。
「閃光で見えなくとも、お前の心臓を貫く感覚が伝わるぞ!! 魔剣カタストロフと共に、魔王サクヤを葬ったのだ!!」
クロウドは俺の死を確信して、高らかに叫んだ。
「誰を葬ったと言っているのだ?」
周囲から眩い閃光が消えかかる頃。俺は魔剣カタストロフを掴んだまま、クロウドに問う。
「何故生きている……。それに、魔剣を掴む……だと!? そんな馬鹿な……」
クロウドは状況が掴めていないようだった。
「サクヤ! 無事だったのね!!」
ミーシャは、俺が生きていた事に安堵して言った。
「俺が魔剣を掴んでいるのが不思議なのか? ……それとも、魔剣を掴んでいるこの手が、無傷だという事が不思議なのか?」
俺はニヤリと笑い、クロウドに問いかける。
「ば、化物かお前は……」
クロウドは面白みの無い言葉を吐いた。
「化物とは心外だな。リヴァイアサンを創造したアンタには、言われたくないものだ」
俺はそう言い、魔剣カタストロフを握る力を強める。
そして、魔剣カタストロフを破壊すると、頭の中で想像するのではなく、心の中で念じた。
その直後、魔剣カタストロフは砂のような粒子になり、崩れ始めた。
「ちょっと待って! あれって……破滅の力だわ。あれだけの力が出せるほど、徳を積んでない筈なのに……」
ミーシャは驚きながら言う。静寂に包まれる中で、その声は俺にも聞こえた。
『まさか、魔法と同じ感覚で使える……なんて考えてないでしょうね!?』
ボルドーの宿でミーシャが言った言葉が浮かんでくる。
あの時、俺はその通りだと答えた。俺は魔法と同じような感覚で、ミーシャに付与された破滅の力を使ってみせたのだ。
「融合すること無く、神通力が使えたと言うのか!? 神力も無いというのに……」
クロウドは、ミーシャの言葉に反応して声を上げる。
その反応は至極当然だ。俺は少しばかり、常識の枠から外れているのかもしれないな。
「どうやら、そのようだ。そして、俺はこの僅かな間に、また新しい魔法を開発してしまったようだ」
俺はクロウドに告げると、ニヤリと笑った。
前世で魔法の研究を重ね、開発ばかりしていた事が、ここに来て役に立つとはな。
神通力を使うために必要な力、神力。魔法で例えるなら魔力。
神人には神力が生まれつき、ある程度備わっているが、俺は徳を積む事で、一時的に神力を手に入れていたのだ。
遡行夢を初めて使った後に、ミーシャと会話をしていた時、神力の存在に気付いていた。
それから俺は、頭の片隅で常に考えていたのだ。
魔力を神力に変えられないものなのか……とな。
「サクヤ……まさか、神通力を使うために、魔法を開発したの?」
ミーシャは恐る恐る、俺に尋ねた。
「その通りだ。それより、何を恐れているのだ? 俺は何も変わってはいないぞ」
俺はそう言って、ミーシャの方をチラッと見た。
「神通力を使える魔法など、創造できる筈が無いだろう? 私を動揺させるのなら、もう少しマシな嘘を吐くのだな!!」
クロウドはそう言った瞬間、俺の周囲の景色が歪んで、視界が暗くなり始めた。
この感覚に、俺は既視感を覚える。
「マズイわ! あのままだと時間が遡って、サクヤが消滅するわ!!」
クロームはミーシャに叫ぶように言った。
「えっ……? そんな……。サクヤ、私を一人にしないで……消えないで!!」
ミーシャは俺に向かって、泣きそうな声で叫んだ。
「無駄だ。時の流れる摂理、それの操作は時の神のみ許される特権なのだ! 私の神通力の許す限り、お前の時を遡らせてやろう!! クハハハハハハハハハ────」
クロウドの高笑いが周囲に響き渡る。
そして、静寂が訪れたかと思うと、俺の周りの景色の歪みが収まった。
「クロウド……アンタは破滅の力を甘く見過ぎたな」
俺が何事も無かったかのように、その場に立っているのを見て、クロウドは膝から崩れ落ちる。
「何故だ!? 私の時の力は、鍛錬でも強くならなかったというのか……?」
「それは違うぞ。俺がこの世界に転移してから、強くなり過ぎたのだ。クフフ……ハハハハハ────」
俺はクロウドの言葉に対して、そう言って笑った。
「サクヤ! あなたは時の力を受けたのに、何故平気なの!?」
クロームも不思議に思ったのか、俺を見て問いかける。
「簡単な事だ。クロウドが神通力を使い始めた段階で、俺の身体の表面に破滅の力を纏わせたのだ」
だから、この身体は消滅する事を避けられた。
俺は、時の力の概念を破滅させたのだ。
時の力を防ぐ事ができたのは、あくまで俺の身体だけだ。クロウドが時を遡らせてくれたおかげで、俺は魔族として生きた前世よりも、さらに前の記憶を取り戻した。
つまり、外見を残したまま、根源に残る全ての過去の情報を得ることができたのだ。
俺自身が忘れていた……いや、意図的に消し去った記憶。
それさえも、思い出させてくれたのだ。





