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商人と傭兵と殺し屋 完結篇


 *


 とある街の大衆酒場。

 荒地の果ての街にあるこの酒場は決して治安のいいものではなく、各地の傭兵上がりや裏ギルドに関わる人間が身を寄せ合って楽しむ無法の街。

 このご時世、こういった裏舞台で活躍する悪人達が群れる街など珍しいものではないのだが、今日の荒地の果ての街はいつにも増して治安が悪い。


 それもそのはず、この大衆酒場を貸し切って盛り上がるのはウルカ率いる傭兵団。

 一時は寄生先を失ったが、今となってはこれから成り上がっていくのが確定しているハインツという寄生先を手に入れた祝いの宴でもやっているのだろう。

 一つ一つのテーブルに大量の酒が運ばれ、大いに盛り上がっていた傭兵団だったが、酒場の木の扉が開いた途端に彼らの笑い声も止まった。


「おたくらがハインツのケツ持ちになった傭兵団ね」


 傭兵団で貸し切っていたはずの酒場に入ってきたのは、彼らと無関係のアンソニー。

 しかもその背後には、醜く顔を腫れ上がらせた傭兵団の一員がヘルの小さな手に引きずられている。


「こいつが全部吐いたぜ、真ん中で猿共のボス気取ってるテメェがウルカだよな」


 相当痛い目にあったのだろう、既に意識を失っている男を酒場に投げ捨てたヘル。

 彼女の鋭い視線が中央でジョッキを手にしていたウルカを貫く。


「そうだが、おたくらは?」


 おそらく、ウルカも彼を慕う傭兵団の男共も穏便に済ませる気はない。

 敵意に満ち溢れた視線を一点に集めながら、酒場の中へ入ってくるアンソニーとヘルにウルカが問いかける。


「歪み天秤の会、そういえば分かるんじゃないかな」


 ウルカの問いに答えたのは、アンソニーだった。


「なるほど、じゃあこっちが寄越した奴らは皆殺しにされたわけだ」


「悪いがこっちもナメられたら終わりの職業なんでね、同じ裏の業界にいる人間なら分かるだろう?」


「それで報復に来たってわけか、そりゃ傑作だ……。

 コソコソしながら人殺しすることしかできない殺し屋風情が、俺達とやり合う気かよ」


 楽しく飲んでいた男達の目の色が変貌を遂げ、一人一人が先から立ち上がる。

 酒場にいる傭兵の数は、大方二十から三十といったところ。


「外国じゃ、さぞ成果をあげたらしいじゃねえか……テメェらのいた国にネクロマンサーはいたか?」


 首の骨をバキバキ鳴らし、不敵な笑みを浮かべたヘルが問いかけた。


「ネクロマンサー? さあ、魔術師の親戚か何かか?」


 しかしそんな言葉に聞き覚えはなかったらしく、ウルカも周りの男達もまともに取り合いはしなかった。


「そりゃそうだよな、ネクロマンサーってのは大昔から国連の指示で狩り尽くされてきたからなぁ……。

 なんで魔術師はよくて、死霊術を使うネクロマンサーが狩られたか答えられたら、今日のところは見逃してやってもいいぜ」


 鋭利な八重歯をチラリと見せて笑うヘル。


「答えられなかったら、どうしてくれるんだ」


 だが、彼らに答えようとする意思は毛頭ないらしい。

 たった二人の殺し屋風情が、何をやったところで怖くなどないという圧倒的な自信が、彼らの顔に笑みを貼り付けた。


「そいつぁ、回答権放棄でいいな? いいよなぁ……。

 そんじゃあ、団体様のお入りだぜ!」


 刹那、酒場の窓が一気に全て叩き割られ、無数の屍達が入店するや否や、傭兵団を襲い始めた。


「なっ、なんだこいつら!」


 突然の出来事に慌てふためく傭兵達。


「ネクロマンサーって奴は、すげぇ奴なら個人で国家規模の軍隊を持てんだよ」


 ヘルによって呼び出された屍は窓から、そして入り口からと増える一方で、瞬く間に酒場を腐った肉厚と悲鳴で埋め尽くした。



 *



 片腕には大成功を収めた商人の愛娘、もう片腕には金持ちに寄生する娼婦上がりの美女。

 麗しく着飾った若い女を両脇にしたハインツの顔は、綻んでいた。


 それもそのはず、貿易ラインの権利はもう勝ち取ったも同然で、後は国の評議会と国連が羊皮紙に判子を押せば彼は晴れて勝ち組の仲間入りなのだから。

 爵位を持つ者達が度々開く舞踏会も、今日ばかりはハインツの爵位授与の前祝いパーティーと化していた。


「ハインツ君、君にはこれからも期待しているよ」


 両脇の美女達と楽しく戯れるハインツのもとへ、一人の貴族の男が顔を出す。

 そして、彼がいなくなればまた別の貴族が挨拶にくる。


「ハインツさん顔広ーい」


 代わる代わる挨拶にくる貴族達を前に、娼婦上がりの女が嬉々として声をあげた。


「まあな、なんたって俺はあと少しで伯爵なんだから」


 そう言って高笑いをあげるハインツにつられて、両脇の女も嬉しそうに笑う。

 爵位を手に入れ、優秀なケツ持ちを手に入れ、もう何も恐れるものはない。

 後は、勝ち組の階段を駆け上がっていくだけ――――。


 そう思っていた矢先、豪華な装飾に彩られた会場の扉が音を立てて開かれた。


「ん?」


 既にパーティーが始まってからはかなりの時間が経過していて、酒で顔を赤く染める者も少なくはない。

 こんなタイミングに一体誰が……。

 そう思った扉近くの参加者達の視線が、ブーツの厚底で赤い絨毯を汚しながら足を進める黒い少女・クロウの姿を捉えた。


「誰だ? 誰かの知り合いか?」


「まさか、あんな小汚い娘知りませんわ」


 舞踏会にそぐわぬ小汚い黒衣を纏うクロウ。

 あまりにも浮いているその姿に、会場がいちどざわめいた。


「おやおや、娘さん道を間違えたのかな?

 ここは君のような小汚い下民が来るような場所ではないのだよ」


 クロウの前に立ち、優しい口調で皮肉を放った男の言葉に周囲の者達は笑い声をあげる。


「お前に用はない」


 ただ、そう言ってクロウは自身の前に立つ男を無いもののように素通りし、嘲笑う人々の群れを掻き分けた。

 レッドカーペットを土だらけの靴底で汚しながら、クロウが一心不乱に向かった先にいたのは、両脇に女を抱えて下衆な笑みを浮かべるハインツのもと。

 とはいえ、見覚えのあるクロウの姿を視界の隅に入れた瞬間から笑みは消え去り、額から顎まで顔を真っ青に染め上げてしまっているのだが――。


「お、お前……」


 自分よりも背丈の低いクロウの顔に視線を下ろし、先ほどまでの嬉々とした口調から一転、ハインツの口から出てきたのは怯えを隠しきれない震えた声。


「誰? この汚い娘、ハインツ様の知り合い?」


「うわ、なんかこの娘生臭いよ」


 放っておけば好き勝手に口を開く両脇の女達だったが、中央にいるハインツの口は鉛のように重たくなって開かない。


「ハーネス・クロイツ、報酬の回収に来た」


「な、な、な、なんで俺の名前……」


 凄まじく鋭利な刃に似たクロウの視線がハインツの体に突き刺さる。


「お前が身を置いてた隠れ家は調べた……あれじゃ最初の提示額も払えないよ」


 彼女達、歪み天秤の会の始末は傭兵団に高い金を払って頼んだはず。

 本来、いるはずのないクロウの姿に怯えるばかりのハインツだったが、ざわめく周囲の人々の声にようやく我に返った。


「さあ、知らないな」


 蒼白の顔に血の気が通ったと思えば、今度は勝ち誇ったような笑みを浮かべて言い放つハインツ。


「ここはお前のような小汚くて生臭い女が来ていいような場所じゃないんだよ、さっさと帰れ!」


 そんな罵倒にも眉一つ動かさず、クロウは立ち止まってジッとハインツを凝視していた。

 瞬き一つしない無感情な視線はやはり気味悪いものだったが、何しろ今のハインツには大勢の仲間がいる。


 その証拠に、ハインツの帰れという声に合わせて、彼ら二人を取り囲んでいた野次馬の貴族達からクロウに「帰れ」コールが浴びせられた。


「衛兵は何をしている! この下民をさっさと連れ出せ!」


 絶え間なく浴びせられる「帰れ」コールの中、大声をあげたのはついさっきクロウに皮肉を言い放ったあの男。


「はっ!」


 彼もまた、身分の高い高貴な家の者なのだろう。

 言葉一つで衛兵達の尻を叩き、会場にいた大勢の衛兵を動かした。


「そういうことだ、これ以上無礼を働けば痛い目を見ることに――」


 が、勿論クロウが衛兵の言葉になど耳を傾けるはずもない。

 自分の肩を叩こうとした衛兵の手を払い、クロウは足を進め、固く握った右手の拳を思い切り振るった。


「うぶっ!」


 クロウの小さな拳は見事にハインツの顔面を捉える。


「きゃあああっ!」


 突如、目の前で起きた暴力沙汰に、ハインツの脇にいた女二人は金切り声のような悲鳴を響かせる。


 少女のものとは思えない強力な殴打に、ハインツの前歯は宙を舞い、情けない声と共に後方へ倒れ込んでしまった。


「貴様っ!」


 大慌てでクロウの身柄を抑えようと動き出す衛兵達だったが、彼もまたクロウの強力な蹴りで吹き飛ばされてしまう。


「最初の提示金に延滞料と違約金、足りない分はお前の身柄を炭鉱に引き渡した金でいただく。

 もう奴隷商と話はついてる、さっさと来い」


 殴り飛ばされ、流血する口を手で押さえて這いつくばるハインツのもとへ重たい足取りで歩み寄るクロウ。

 彼女の顔を見上げたハインツに、再び恐怖を具現化したような冷酷な視線が突き刺さった。


「どど、奴隷商!? 国連の奴隷禁止法を知らないのかよ!

 そんなことしてみろ、まごうことなき犯罪だぞ!」


「あっそ、それが」


 最早、犯罪の一つや二つ怖くはない。

 そんなことを考えでもしているのだろうか、ハインツの言葉に気のない返事をしたクロウ。

 顔を真っ青にするハインツの女共の間を通過し、クロウが足を進めたその時、彼女の前に複数名の衛兵が立ちはだかった。


「……邪魔なんだけど」


「貴様のような薄汚れた下民が、これから爵位を手にしようとする方を殴ったのだ。

 どうなるかは分かっているんだろうな」


 そう言う鎧の男が腰から銀色の剣を抜き取ると、つられて周りの鎧を纏った衛兵達も剣を引き抜く。


 今にも斬りかからんとする衛兵達を前にしても、クロウは腰にぶら下げた剣を抜こうともしない。

 それどころか、彼女の感情を伺えない瞳は衛兵の隙間から見えるハインツの姿を凝視していた。


「くそっ、くそっ……」


 衛兵の背に守られながら、そう言って立ち上がるハインツ。


「もう少しだ、もう少しで夢が叶うってのに……こんなクズに邪魔されてたまるか!」


 吐き捨てると、ハインツは慌てて駆け出す。

 それを追おうとクロウも足を進めるが、彼女の前には剣を構えた衛兵達。


「無抵抗な少女に剣を向けるのは、いささか気が引けるが……仕方なし!」


 そう言って向かってくるクロウへ衛兵の一人が剣を振り下ろした。

 振り下ろしたのだが、銀色の刃が引き裂いたのは空虚。


「何っ!?」


 さっきまでは確かに両目で捉えていたクロウの姿は、もうそこにない。

 刹那、背後から猛獣に突進されたような衝撃に襲われ、剣を振り下ろした衛兵は食事が並べられたテーブルまで吹き飛ばされてしまった。


 仲間が容易くやられたのを目の当たりにし、大慌てでクロウに襲いかかる衛兵達だったが、何人かかろうと同じこと。

 剣も抜いていない、たった一人の少女に衛兵達は軽くあしらわれるばかりだった。


 足をかけ、地面に倒した衛兵の手から剣を奪い取ったクロウは、腕を大きく振るって剣をハインツの方へ投げつける。

 空気を貫き、凄まじい速度で直進する剣は一瞬にしてハインツに追いつき、彼の頭のすぐ隣を通過。

 そのまま、あと数歩先という白い木製の扉に音を立てて突き刺さった。


「ひぃっ!」


 耳元で鈍い音を立てて通過していった剣にハインツは思わず腰を抜かし、その場に尻餅をつく。


「果たした仕事の報酬は……きっちり全額いただく」


 抑揚のない声と共に、厚底ブーツのコンコンという足音が静まり返った会場に響き渡った。

 華奢な体一つで、複数の衛兵をあしらう彼女はまるで人の形をした怪物。

 その姿を前に、さっきまでは強気で「帰れ」コールを浴びせていた貴族達も恐怖にかられて黙り込んでしまったんだろう。


「ま、待てよ……頼む、待ってくれ……」


 ハインツが尻餅をついたまま振り返ると、既にクロウは目の前。


「俺はこれから貿易ラインの権利を丸々手にすんだ、爵位だって手に入れる」


 縮まる喉から必死に出す声はか細く、そして震えていた。


「金なら幾らでも払える、今の額より水増ししてくれたって構わない」


 一生懸命に訴えかけるハインツを見下ろすクロウの視線はやはり冷たい。


「だから待ってくれ! 頼むっ!」


 小刻みに震える体に鞭を打ち、二十歳も後半を迎えようとする男が、十八の少女に土下座して頼み込む。


「一度逃げた奴の言葉は信じない」


 しかし、クロウは彼の頼みを拒絶した。


「俺の生まれた田舎じゃ、一生土まみれになりながら畑仕事して死んでく。

 親父も、隣の家のおっさんも、皆馬鹿みたいに汚れて……最後には墓もまともに作ってもらえない!」


 額を地面にこすりつけたまま、小刻みに震える声で何やらハインツが訴え始める。

 彼の手は絨毯を強くつかみ、悔しそうに噛んだ唇から血が溢れた。


「今の世の中、田舎で生まれた俺みてぇな奴は一生勝者から奪われ続ける。

 だけど俺はそんな人生嫌だった! 勝者になりたかった! その夢がようやく叶うんだよ!」


 顔を真っ赤にして、みっともないほど必死に叫び散らかすハインツ。

 あまりにも醜いその姿に、先ほどまでチヤホヤしていた女共ですら、不快そうに顔を歪める。


「金なら絶対に払う、約束する!」


 クロウの一切表情が変わらない顔を見上げたハインツは、もう一度額を絨毯にこすりつける。


「貿易ラインが手に入れば、俺はもう伯爵だ。逃げも隠れもしない、だから頼む……俺に最後のチャンスをくれ……」


 ハインツの瞳からこぼれる涙は自分の醜さが原因か。それとも、クロウへの恐怖が原因か。

 必死の訴えから暫くの間、周囲を包み込んだ静寂にハインツは心のどこかで期待する。

 心というものが一切無いような、この少女にも自分の気持ちが通じたと、ほんの少しだけ安寧の息を漏らした。


 ――――刹那、絨毯の上で丸くなるハインツの高価そうなローブを掴んだクロウの手が、彼を強引に持ち上げる。


「調子に乗るな」


「え?」


 無理やり立たされたかと思えば、次はクロウの細い腕の一振りで容易く投げ飛ばされ、食事の並んだテーブルに激突。

 酒の入った瓶は割れ、皿に盛られていた肉と共に酒も飛散。

 汚れたテーブルクロスに絡まりながらハインツは痛みに悶え、再び地面に身を転がした。


 恐怖に悲鳴をあげる野次馬をかき分け、まだ手の付けられていない酒瓶を手にしたクロウ。

 その足が、一歩ずつゆっくりとハインツを目指し始めた。


「くそ……くそがぁぁぁっ」


 割れた瓶の破片が腕に刺さり、足は投げられた衝撃で打撲。

 満足に立ち上がることもできないハインツは、ただただ悔しさを口から吐き出す。


「殺し屋なんかに、お前みたいな世の中のゴミクズに!」


 邪魔だったのだろう、クロウは道中転がっていたテーブルを蹴飛ばす。


「どうせお前らなんか、死体に群がるカラス共と同じだろうがっ!

 世間から疎まれるクズなんかに、俺の夢を潰されてたまるかぁぁぁぁ!」


 今にも喉が枯れてしまいそうな勢いで叫ぶハインツの声は、クロウに届かない。

 悲鳴とか、絶叫とか、断末魔とか、そういう類のものは聞き慣れているのだろう。

 ハインツのもとまで歩み寄ったクロウは足を止め、眉一つ動かさず手に持っていた酒瓶を反対に傾けた。


 ドクドクと、凄まじい勢いで落下する酒はハインツの頭から背中、尻までまんべんなく濡らす。


「……お前みたいな世の中の負け組は、夢を見る前に現実を見ろ」


「負け……組……」


 ハインツが見上げたクロウは酒瓶をその辺に投げ捨て、いつの間にか手にしていたマッチに火をつけていた。

 無論、酒をかけられた自分がこれから何をされるのかは、たとえ馬鹿だったとしてもわかる。


「さっき言ってたね……あげるよ、最後のチャンス」


 右手の指先でゆらゆら揺れるマッチの火の向こう側、クロウの口がゆっくり動いた。


「選んで……ここで焼かれて死ぬか、私についてくるか」


「分かった、分かった……早まるな」


 おそらく、クロウはやると言ったらやる。

 彼女におおよそ人間らしい慈悲などない。ハインツにもそれは理解できたのだろう、滴る酒に混ざって冷や汗が額からあふれ出した。


「何が? 燃えてもいいってこと?」


 そう言ってクロウがマッチ棒をつまむ指の力を緩めた瞬間、


「待った! 金は払います、ついていきますからっ! だから命だけは」


 ハインツが大声で叫んで彼女の手を止める。


「最初からそう言えばいいのに」


 右手の指先につまんだマッチの火を一息で吹き消したクロウ。

 黒い手袋に覆われた彼女の手が、再びハインツの襟をつかんで持ち上げる。


「さっさと来い」


 クロウに引っ張られてようやく立ち上がったハインツに気力なんてものは微塵も残されてない。

 生気すら失った顔付きでクロウに引きずられ、そのままハインツは会場から姿を消してしまった。


 豪華な装飾に彩られた廊下を抜けて、夜空の下に出てきたクロウと彼女に引きずられるハインツ。

 彼女達二人の到着を待っていたのは、やたらガラの悪い男が三人ほど周りを取り囲んだ馬車だった。


「クロウさん、遅かったじゃないすか」


 中でも一番大柄なスキンヘッドの男が、クロウを見るなり近付いてくる。


「金は後日、アンソニーが受け取りに来る」


 投げ捨てるようにハインツの身柄をスキンヘッドの男に引き渡すと、クロウはくるりと彼らに背を向けた。


「はいよ、そんじゃあ今後ともよろしく頼むぜ」


 言葉を口にする気力もないハインツを馬車の中に押し込んだ男の声を聞いているのか、聞いていないのか。

 何の返答もしないクロウは、一人でさっさと夜道を歩いていってしまった。



 *



 同じく夜も更けてきた荒野の果ての街。

 夕方くらいまではワイワイ騒がしい酒場も今や静まり返っていて、ボロボロの店内からヘルとアンソニーが夜空の下に出てくる。


「クロウの方はもう終わってっかな」


「報酬の回収だろ? 心配するほどじゃないさ」


 大きなあくびをする二人の背後で店内は血の海と化し、そこに生きている人間は一人たりともいなかった。

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