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4・死地

 ビュオウオウオウ。

 雲一つないほど晴れ渡る空の下、一陣の風が無人の荒野をビュオばしる。


 ここが決戦のフィールドだ。

 誰にも迷惑がかからない場所をチョイスさせてもらった。


「準備はいいか?」

「ああ」


 俺の問いに、シュさんはハッピーシャーラを煌めかせながら首肯した。

 声の抑揚からいって身を強張らせるほどの恐れは感じていないようだ。

 ようし。


「じゃあ竜を召喚するぜ。マロゾロンド、飛翔!」


 フォースの気流操作でフワッと宙に飛び、そのまま上昇する。

 俺たちは元から無自覚に浮いてたけど、力を自覚した今は空だって飛べる。


 ドラゴンボールファンが夢見た舞空術が、今ここにある。

 それにボールを七つ集めなくたって神龍を呼べるんだ。


「出でよシェンローン!」


 神龍は現れなかった。でも竜はきっと現れるはずだ。

 どういった理由で一部の竜が空を監視しているのか、俺たちには分からない。だが、領空侵犯した者にはドラゴン警察のお世話になる特権が与えられるのだ。

 女魔術師レストロオセ(俺命名)はその特権を使い、胴体真っ二つの目に遭ってたが、俺たちはそうならないよう気をつけないとな!


 む、この感覚は……‼


「フォースを感じる! 巨大なエネルギーが近づいてくるぞ!」


 俺の真面目な叫びに、地上にいるシュさんはゴクリと唾を飲み込んだ(多分)。

 場の緊張が高まる……。

 さあ、どんな竜が来る――見えた! 十時の方向! 


「……ん?」


 遠近感がおかしい。遠方に見える点は少しずつ大きくなっていくのに、一向に距離が縮まっている気がしない。


 ありゃあ相当デカイな。まだ遠くて、しかも飛行体勢で全身が見えないからおおよそになるが、そうだな……パシフィック・リムの主人公機、ジプシー・デンジャーの三倍はありそうだ。

 つまり全長237mってことだな。山が動いているようなモンだ。


 …………。

 どの竜が来たのかなんとなく分かったが、確信が持てなくて少し待った。


 ――そして露わになる。

 俺のイメージしたドラゴン像に忠実なシルエットが。

 竜っぽくない竜がいる中でどこまでも竜っぽい輪郭をしていて、それでいて桁外れの巨躯――間違いない、奴だ――チクショウめ!


 SSR! 天空竜様ラスカリオンのご登場だ!


「「逃げるぞぉおオーーーー‼」」


 叫びがハモった。

 俺は空を、シュさんは地上を、脱兎の如く逃走!


 あの巨体だ、仮に攻撃し続けることができても倒すまで何日かかるか分かったもんじゃない。スコップで山の土を延々と掘り出して、山を無くせますかって話だ。

 戦闘は現実的ではない!

 ここは逃げるしか……だが!


「は、速いっ! 逃げ切れるのか――あっ」


 ラスカリオンはなぜか地上のシュさんの方に舵を取り、必死の形相で逃げているだろう彼に悠々と追いついた。


「あ、アカン。やられる」


 ペシ!

 巨大な手で払いのけられたシュさん、ギャグみたいな勢いで遥か彼方へ。

 遠ざかる断末魔の叫びが「ああアあああぁぁぁぁ」と聞こえる。


「シュさーーーん!」


 シュさん、敵の協力のもと豪快に離脱……‼

 普通なら潰れていたろうに、竜鱗鎧が功を奏したのか生きて死地を脱しやがった。運の良い奴め。俺たちも上手いこと吹っ飛ばされたいものだ。


「今のはなれの仲間か? 猫の気配がしたので条件反射で遠ざけてしまったが」


 ああっ、背後からの重低音ボイスが豆腐ボディに響いてる。

 こちとら高速飛行してるのに、追いつかれるの早すぎィ!


 まずいマズイ俺は奴の注目の的だ。そうだ、襲い掛かられる前に!

 俺は必死に逃げつつも後ろを振り返って乞うた。


「話を! 話を聞いてくれェ!」

「拒否する。二度と空に上がることのないよう疾く沈め」


 クソ竜はクソデカイ腕を振りかぶり、


「 L̹͉̖͔͙̝̲̍ͪ߮͐̄߮ͥ̅͑ͨ߳̅̌̋̇҆᷅̾͗͝͞҈̣̪̃̋᷁̂͘͝Ì̠͍̣̙͒̂̓̌҉゚̨̡̨̗̱̩͔̆̉᷅᷁͛͆҆ͧ߰̽ͦ᷁ͦͮͪͭ̍̕͠҈ 」


 謎の言語を発しながら薙ぎ払うように鋭い爪を振るった。ブン!


「「何ィッ⁉」」


 両者ビックリ。

 見当外れのトコ攻撃して目ん玉大丈夫かよと思ってたら、グサッと刺された感触があって、でもそれは錯覚で、結局ヤツの攻撃はただの空振りだった。何なんだ。


「効かぬかッ! ならば直接叩き落してくれる!」


 今度は当てにきた。逃がさぬよう手のひらを広げてのはたき落としだ。

 学校のグラウンド並みの面積を誇る手のひらが押し寄せる!

 範囲が広すぎて躱すのは無理だ。滑折歪曲スペリオルワルツの全力展開しかない!


「ウワーーーーッ!」


 ドガッ‼


「ぎゃっ」


 俺の体から雑魚っぽい悲鳴が。滑折歪曲で和らげてもなお、凄まじい衝撃!


「ぎゃっ」


 ヤバイ勢いで地面に叩きつけられ、またも雑魚っぽい悲鳴が。だが、無傷だ! みんなにも負傷は無い。やはりこの全周防御は無敵カッコイイぜ!

 相手が竜といえど十分耐えられそうだ。貫通力の高そうな爪や牙による攻撃は危なそうだが、そこはかいくぐればいい。


 さて、少し余裕を取り戻したところで。


「逃げるんだよォ~~!」


 マロゾロンド、全力で地上を遁走(スイ~)。

 追いかけてくンなよ頼むから!


「今の障壁――――キッサマ!」


 ラスカリオンはGANTZに出てくるオニ星人のボスのように怒り出した。


「キサマ! ユーゼス=アルスタ!」


 地上スレスレの高度で猛追してきた。

 ユーゼス=アルスタだぁ? なぜに冒険王の名前が今出てくる!

 知らん、逃げる!


「またも我を愚弄するか。姿を変えようとお見通しだぞ、ユーゼスアルスタ‼」

「人違いだ! むしろ捜してるくらいだっつーの!」

「貴様との契約は守っている……これ以上何を望むというのか!」


 話が通じてねぇ。かなりキレてるわ。『汝』と呼んでたのが『貴様』になっちゃってるよ。俺を冒険王だと思ってやがるせいだ。


 実は俺は元冒険王で、死んで記憶を失って豆腐に転生したのさ! なんつー衝撃の真実とか無いから。

 もし俺が冒険王だったら豆腐嫌いの獅子王とつるむわけがないし、今ハイダルマリクと呼ばれている場所は豆腐王国になってるっつーの。


 いや、それじゃ話があべこべか。

 俺が豆腐になる前の話なのに豆腐の価値観を持ってくるのは間違ってた。


 でも……豆腐バリアーで俺を冒険王と断定したんだろ?

 それだと冒険王=豆腐ってことになるけど、冒険王がれっきとした人間なのは、つい最近姫さんに見せてもらった人物画からも明らかだ。全身を隠しているなんて話も聞いたことがないしな。


 頭がこんがらがってきたが、ひとつだけ言えることがある。


「やっぱりテメーの勘違いだこのボケ竜が!」

「GURUAAAAAAA!!!!」


 駄目だ止まりゃしねぇや。

 また余裕で追いつかれた俺たち、今度は尻尾の薙ぎ払いを食らう。


「ぎゃっ」


 根っからの雑魚気質なのか、悲鳴を抑えようとしても抑えられず。

 蹴鞠のごとくポーンと空に投げ出された。

 マズいっ! 空は奴のフィールド!


「GAAAAAAA――‼」


 憎しみまじりの血走った目で、口を大きく開けながら迫るラスカリオン。

 噛まれてたまるかと必死に逃げても、奴のスピードが速すぎて逃げられそうにない。


 そもそも巨体のクセにどうやって飛んでんだよ、物理法則無視すんなや!


「――ハッ⁉」


 俺はハッとした。

 奴が空を素早く移動している理由が分かった!

 奴は明らかに戦闘機並みの速さで動いてる。なのに空気の壁ができてないように見えた。十中八九、空気抵抗を無視しているのだ。だから速い!


 どうやって奴がそれを可能にしているのかは分からないが、俺なりの方法で現象を模倣できれば、俺はもっと速くなれる!


「――こうすれば!」


 空中を高速飛行する中、バサァ、黒衣を脱ぎ捨てた!

 空気抵抗が大幅に減り、グッと負荷が軽くなる。速度上昇‼


 ――が、まだ奴の方が速い!


 脱ぎ捨てた黒衣が獰猛な口の中に飲み込まれる中、必死に空を駆ける。

 まだだ。まだ諦めちゃいない。まだできることはある!


「みんな、やるぞ! うおおおおお!!!」


 マロゾロンドの人型が崩れ、新しい形へと作り替わっていく。

 縦に、ひたすらに縦に繋がれたそれは、一本の真っ直ぐな棒だ。

 これこそが空気抵抗を極限まで減らした究極の形!


「マロゾロンド・フォーム=スカイフィッシュ‼」


 ぶっつけ本番だったが、無事変形できたぞ! よし逃げるぜみんな!


「うおおおおおお!!!!」

「GURUAAAAAAA!!!!」


 ひ、引き離せな――クソッ、まだ足りないのか⁉


「駄目だッ、まだ空気抵抗が!」


 その時だった。


「「(ぷる‼)」」


 先頭にいる俺めがけ、後ろから二丁の豆腐が棒を登ってくる。

 お前ら、どうした⁉ あっ、そういうことか!!


「登れェーーーー!!!!!!」


 奴の牙はすぐそこ、噛み砕かんと口が閉じられようとしている絶体絶命の中、俺は力いっぱいに叫んだ。二丁も吠える。


「「(ぷるォオオ!!!)」」


 吹き荒れる強風の中、どうにか棒の先端に到着!


「矢印だ!」


 先端についた二丁が逆Vの字になり、俺たちは『↑』の形となった。

 今だ!


「マロゾドライブ、起動!!!」


 先端の二丁に刻まれしルーンとオガムが青く輝く!

 メテとユンデの切断角ソードエッジが、衝突する空気をいとも容易く切り裂いてゆく!


 俺たちはこの姿を知っていた。

 ついぞ放たれることはなかった、魔剣メテスカテスの最終形態。


「フォーム=トントロポロランス!」


 体に重くのしかかっていた負荷はもう感じない。空気抵抗はゼロだ!


「行っけえエェーーーーーッ!!!!!!」


 音速を突き破り、亜光速の世界へ。

 後背の牙の噛み合う音をも置き去りにして――。













「速さで我と勝負する気か?」


 まだついてきてるゥううう!!

 そりゃそうだ。奴も空気抵抗を無視しているんだ。条件は互角イーブン


 ラスカリオンは若干理性を取り戻した様子だが、それでも追いかけてくる。

 そして俺たちに語りかけた。


「ではこうしよう。我と汝で競争だ。このまま真っ直ぐ進めば、ハザアレのいる海域に出る。我らはハザアレの背を旋回し、汝が我を呼び出した場所に先に戻った方が勝ちだ。敗者は勝者の願いを一つ叶える……どうだ‼」


 向こうから決闘の申し出がくるとはな。

 そうだな。どうせコイツをくのは変わらんし、何より――面白そうだ!


「その勝負、ノッた!」

「GUAHA! では始めよう。命を賭した戦いを!」


 決闘の種目はレース。

 最速の生物は何か? 異世界に生きる者たちは未だ知らない。

 ならば教えてやろう。我々豆腐なのだと!!!

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