3・超絶Aランク冒険者、やらかした責任を超絶とらされる
模擬戦の後、ギルドにギルドカードを預けて、その翌日。
「はい、どうぞ。Aランク冒険者さん」
「どーもッス!」
ギルドに咲く一輪の花、今日も可愛いマイカさんからギルドカードを受け取ると、なんとカードが金ぴかになっていた。なにこの高級感。冒険者ギルド分かってるゥ! 一応と文字の羅列に目を通すと、そこには確かに『冒険者ランクA マロゾロンド』と書かれている。へへっ、これで俺たちも晴れて一流冒険者だぜ!
2ヶ月でもうAランクとか冒険者のランク軽くね?って感じなんだが、俺たちは100倍速モードで動いてるしな。普通のヒューマンなら200ヶ月――ざっと20年はかかると見ていい。それも俺たちぐらい実力あることが前提だから、割と無理ゲー感あるわ。うおおおおお、豆腐戦士団サイッキョ!
「フフ、嬉しそうですね」
「! 分かりますか!」
「はい、震えてますので」
嬉しさに震えちゃってた(照れ)
「マロゾロンド君。Aランクに昇格されたことですし、恒例の……お聞きになりますか?」
恒例のあれですね。答えは決まってる。
「「モチのロンです!」」
マイカさんの声とハモった。
マイカさん(お茶目可愛い)がハモらせてきた⁉
やれやれ、答えどころか口調まで把握されてしまってらあ。
「アッハッハッハ」
「フフフ」
おいおい、ここはキャバクラか? 最高かよ。
さてと、めっちゃ癒されたところで早速恒例の……ランクアップによる開示情報がどんなもんかを聞くとするぜ。
ランクが上がれば受けられる依頼の幅が増える他に、街では聞けない耳寄りな情報が手に入る。一般人じゃ知りえない情報をギルドが提供してくれるってワケよ。この世界のことについて色々と学べて結構ワクワクすんだよね。まあ俺たちが一番欲している魔術関連についちゃまだ聞けないけど、それはSランクになってからのお楽しみってことで。
マイカさんの手引きでカウンター奥の執務室に通されると、中に男が二人。一人は昇格試験で試験官やってたギルド職員。名前覚えてない。もう一人はここハリケーンウインド支部のトップ、支部長である。名前覚えてない。
てかこの支部長、ホントずっとこの部屋にいるな。マジで謎なくらい引きこもっている。一時期は手っ取り早く魔術情報を手に入れようと、何かありそうなこの部屋にコッソリ忍び込もうとしてたんだが、毎日毎日、朝昼夜 いついかなる時も支部長が陣取っているせいで諦めざるをえなかった。
なんでそんなに引きこもってんのか知らねーが、とりあえずいい加減ヒゲ剃れや。ホグワーツの森番ハグリッドみたいになってんぞ。
「ルバンさん、カウンターお願いできますか?」
「ああ、分かりました」
マイカさんの頼みを引き受けて元試験官殿が退室していく。途中、俺を視線が合うと何やら変な表情になっていた。よく分からんお人である。
扉が閉まると、部屋の奥に座る支部長が笑った。
「あいつ、チビに期待しててな。だからこそ負けを知ってほしかったんだとよ。なのに結果がまさかのあれじゃあ、あんな顔もする」
チビってのは俺たちのことだが、負けを知ってほしかった? どういうこと? マロゾロンドに首をかしげさせると、マイカさんのキューティクルなお口が開いた。
「模擬戦の相手を手配したのはルバンさんなんです。ほら、マロゾロンド君っていつもソロで活動してパーティを組まないじゃないですか。だから一流パーティの強さを知ってもらって仲間の重要性を感じてほしかったんだと思います」
へえ、そんな経緯が……。
「だからってあの姫さんをぶつけるかあ?」
片眉を吊り上げて笑う支部長。
「ルバンさんなりの愛ですよ」
いい迷惑だったが、愛なら仕方ない。
てか俺パーティ組んでるけどな、豆腐戦士団。俺ほど仲間の重要性感じてる奴はそうはいまいよ。元試験官殿、あなたの計らいは完全に無駄でしたが、愛だけは確かに受け取りました。
「支部長、ここお借りしますね」
マイカさんが話すためのスペースを確保してくれたので、ポスンと長椅子に腰を下ろす。マイカさんも隣に座った。そう、向かい合わせではなく同じ椅子に隣合わせで。キャバクラかよ(歓喜)
まあ実際は俺を異性として見てないからこそこうしてもらえるわけで、こっちも豆腐だから劣情を催したりしないし、なんというか姉弟みたいなね、関係にまでなってるわけよ。羨ましいだろ‼
俺の無言のアピールを察した支部長は、「ぬぅ」と嫉妬交じりの唸りをあげた。
格の違いを思い知ったんなら、俺とマイカさんの二人の時間を邪魔してくれるなよ。頼むから。さあ、楽しい授業の始まりだァ!
***
「え、亜大陸に住んでる連中は自分トコの大陸を『本大陸』、俺らんトコの大陸を『亜大陸』って言い張ってるんスか? 言ってること真逆ですね。それ、どっちの言い分が正しいんです?」
「どうでしょう? 両大陸とも大きさは同じぐらいと言われていますし、文化や技術にも大きな差は無いので、どちらに正当性があるかは答えかねますね。大陸で呼び方が逆転すると覚えていただければ十分です」
マイカ先生の話によると、この大地は植物の根でできているそうで、昔その根が裂けたんだと。んで、元々ひとつだった大陸がパッカンと二つに割れたらしい。その後、どちらの大陸とも己の立っている大陸を本大陸と主張していると。
西大陸と東大陸でいいじゃんって思うけど野暮だから言わんとこ。
てか今更不思議に思ったんだが、二大陸は海を挟んで離れてるのにどうして向こうの事情が分かるんだろうか。交流しようにも物理的に不可能じゃんね。
大陸間の海峡に【大いなる者】の名を冠したハザアレとかいうトンデモ生物がいるせいで海路使えないみたいなこと、前回教えてもらったような……。
どういうことです? マイカさんに聞いてみた。
「良い質問です。それが今回の話の肝なんです。今から話すことは下位ランクの人にはこれでお願いしますね」
人指し指を唇に立てるマイカさん。キャワワ!
しかし外面は硬派な俺、コクコクと頷いて続きを促す。
「陸路は海に、海路はハザアレに閉ざされていますが、実は移動手段があるんです。それは【扉】と呼ばれる、遠く離れた場所と場所とが繋がった空間を利用する方法です」
ワープ。ドラクエの『旅の扉』ですね分かります。
「たくさんの【扉】が世界中のいたるところで自然発生しているようで、中には入口が本大陸、出口が亜大陸に繋がったものも現れます。そこを通れさえすれば移動は可能というワケです。ただし、【扉】は常人には見えません。【扉】を知覚できる才能を生まれつき持っている者でしか、発見することができないんです」
生まれつきかぁ。【俺にも才能ありますように】。
まあ多分無いだろうけど。そんな変な空間はとんと目にしたことがない。
ん? なんか急に体に違和感が。たまになるやつだ。感じるたびにどんどん違和感デカくなってるよーな気がしないでもない。ま、大丈夫だろ(適当)
「あのぉ、その才能はどれくらいの割合で持ってるんスかね? 10人に1人くらいとか……」
「いえ、本大陸で確認されているのはたったの二人です」
「少なッ!」
絶滅危惧種やんけ。才能っつーよりもはや異能と呼んだ方がいいな。やっぱり俺は才能無さそうだが、いいもんいいもん。スイ~って移動するほうが楽しいもん! 超!エキサイティン!!
あ、でもでも。
「見える人がここに【扉】ありますよって教えてくれたら普通の人も通れるんスよね? てことは――」
「いえ、それなんですけど、通れはしますが普通の人が使うには問題が多すぎるらしくて。【扉】はとても流動的なもので、時間経過で消滅しますし、それならまだしも途中で出口が変わって生存不能な場所と繋がったりもするそうです……」
興味本位で【扉】通りたかった俺おる? 死ぬで。
「とまあ、そうした理由から才所有者でさえ【扉】を利用することは滅多にありません。ところがですよ? 運が良いのか悪いのか、才能の無い者が偶然【扉】に入ってしまい、亜大陸から本大陸に移ってくることがあるんです」
「そうした人たちから向こうの大陸事情を聞いたんですね」
「その通りです。マロゾロンド君は賢いですね」
褒められちったエヘヘ。
その後も【扉】についての話は続いた。
ハリケーンウインド西方――大陸最西端にあたる場所に、鰭耳人が集落を築いているんだが、そいつらの先祖が過去に扉を渡ってきた奴ららしい。偶然じゃ無い。才所有者が同族を引き連れて本大陸に侵攻したんだってよ。
ハイダルマリクの獅子王キャカラノートがまだ王でなかった時代に、そのキャカラノート氏と平原を争ってドンパチ! カッカッ! フルコンボだドン! ボロ負けして泣いて帰ったそうだが、不運にも【扉】が途中で閉じて帰れなかった人多数。その人たちは大陸の端に逃げてったっつーストーリー。
OH...歴史。俺は授業内容が歴史科目的な感じになると頭が働かなくなる。明日には諸々忘れていることだろう。話題を変えましょマイカさん、ねっ!
このあと滅茶苦茶お話しした。
***
「マロゾロンドさん」
執務室から出たばかりの俺たちにかかる声。なんだい元試験官殿?
「お話されている間に指名依頼が入りました」
「ほ?」
指名依頼? マロゾロンドに? こいつは……困ったぜ。ちょいと前なら功績ポイント割増されるから嬉しかったんだけどね。でもAランクからSランクになるのにポイントいらねーんだよな。下位ランクの教導と何かしらのビッグな偉業、この二つを達成すればそれで昇格なんだよ。まずは偉業からっつーことで人類に迷惑かけてらっしゃる八王竜ロワスカーグ氏討伐の旅に出かけようとしてたんだが。
うむ、決めた! 拒否だな。
ま、依頼内容は好奇心のおもむくまま聞いちゃうけど。
「依頼内容はこちらでも伺っておりますが、クライアントは自身の口でお伝えしたいとのことです。あちらでお待ちになられていますよ」
試験官殿の目線を追うと、そこにいたのは――――うわあ、めっちゃ見覚えあるわあ。ファック!こっち見てやがる! 逃げらんねェか、仕方ない……。
「ちょっくら行って聞いてきま~ッス」
スイ~。食堂で待っている奴の元へスイ~。
はい到着。
「随分と待たされたが、ギルドの人間と何をそんなに話すことがあるんだ?」
ご挨拶だなぁ。てか何でコイツ俺に依頼してんだ? 何か企んでやがるなッ。
「護衛A……‼」
「なんだ、その呼び方は」
名前分かんねーんだからしょうがない。チームライオネスのポジションFW、護衛A氏よ。
「なんて呼べばいい?」
「シュテュルムだ」
なんて噛みそうな名前なんだ。まあ俺は豆腐だから大丈夫だが。
「シュチュ……シュチュ……」
「テールでいい」
「テールさんよぉ、お姫サマほっぽって一体なんの用だ?」
俺はハキハキとたずねた。
「肋……」
ん?
「私は肋だ。ピスタレッロ殿も肋。ドレイク隊長代理殿は肋に鎖骨。ローエン殿は特に酷かった……全身だ。アシュレイは左肩と両足両手首で完治は程遠いな。ツィルクスは……――」
こ、コイツ⁉ 俺の罪状を読み上げてやがる! 何を考えて……クソ、表情が読めない。チィッ、体から変な汁が出やがる。
いや、待て。落ち着け。あれは正当防衛だった。責められるいわれは無い。
「――そして最後はアールだ。直接の暴行は加えられていないので五体無事だったが、自分ひとりだけ放置されて精神的に傷つけられたと証言している」
本当に精神的に傷つけられた人はそんな証言しません!
最後の奴ふざけてるだろ絶対!
「昨晩のことだ……」
「?」
急に話変わったな。
「昨晩、姫殿下の暗殺を目論む手勢から襲撃があった。普段であれば容易く退けていたものを、我々の体調不良のせいで大変苦労する羽目になった。思えば奴らも我々の体調不良を知って狙ったのだろうか。いや、危うかったな」
「なんか……すみません」
謝る以外なくねコレ⁉ 俺悪くねーけどよ!
「いや、何を謝罪することがあるだろう冒険者マロゾロンド。それより私から君に依頼したいことがあってね」
「は。何でありましょう」
「姫殿下の護衛を頼みたい。無論、我々も尽力するつもりだが、いかんせん今は体調が芳しくなくてね。君の強さが欲しいのだ。どうだろうか?」
「は。此度の指名依頼、喜んで承ります」
「それは良かった。よろしく頼むよ、冒険者マロゾロンド」
二コリと笑みを浮かべた護衛A改めシュなんとかさんは、隊の所在を告げるとひとり去っていった。
…………。
なんかそういうことになった。




