2・恐るべき粉
俺たちの体にパラパラと火薬らしき粉が振り撒かれている。
クソヤバい状況なのに打開策が何ひとつ思い浮かばん。つまり、爆死、待ったなし‼
爆死て……爆死て何やねん。
ドカーンて、ギャグマンガかよ………ふむ? んん!!!?
うお、マジか。頭の中で全てが繋がった。世界の真実に気づいてしまったかもしれん。
もしかしてこの世界……ギャグマンガの中の世界なのでは?
だとしたら……合点がいくことが多い。
まず豆腐が動くなんて普通じゃなさすぎるもんな。あり得ないだろ、常識的に考えて。
何より今日は、あまりにもくだらないギャグが俺や俺の周囲で頻出していた。
全てはこの爆発オチのための伏線だったんだ……‼
クソ、伏線が秀逸すぎる。こんなもん俺ぐらいしか気づかねーっつーの!
……なんつってね、はいはい、現実逃避ってのは分かってますよ。
はぁ、マジどうしよ。天才的ひらめきがなかなか降りてこない。ファック‼
もういっそのことフザけ倒してみるか?
窮地に窮地をぶつけてやれば好機に変わるかもしれない。
マイナスかけるマイナスはプラス的な感じで。
やぶれかぶれだ。いっとけいっとけ!
「うぽぽぽ、うぽ。オイラはうぽ星人だよー」
「――ッ‼」
いきなり話しかけたらビックリして後ずさった悪魔。
即爆破されなくて良かったぜ。謎宇宙人のロールプレイ、続行!
「オイラはうぽ星からこの星にやってきた監察官だよ。オイラを殺したら、宇宙から怖い人たちがやってくるよ」
「……正体はヴィジターだったわけね。道理で無軌道な力の使い方をする……」
俺の虚言にマジメな顔で返答する悪魔。
言っていることはよく分からないが、奇跡的に会話が成立している気がする。
ダメでもともと、この調子で押せ押せ!!
会話を広げて情報を集め、何かドラマを生み出してやるぜ……‼
「うぽー。無軌道な力の使い方? オイラの力を本当に理解しているの?」
「甘く見ないで。あなたが既知の言語を改竄したり、未知の言語を創り出していることは知っているわ。だから、今こうしてここにいるのよ」
随分と大仰に言われたが、もしかして『チッス』のことか?
門番さんに教えた前世の挨拶、『こんにちは』の改変の『チッス』。
文化侵略じゃね?って確かに思ってたけど、殺されるほど重大な事だったのか‼
豆腐戦士が討伐対象だからじゃなくて、文化侵略の罪でこんな目に遭わされてんだな。
すまない団員諸君。俺の都合に巻き込んじまったみたいだ。
「……あなたは自分の正体を隠すために、ハーフリングという種族を創り出したでしょう。まんまと引っかかって見過ごしてしまうところだったけれど、あなた自身が出した話題で記憶のねじれに気づいたのよ……そんな種族はいなかったと」
へ? ハーフリングを創り出した?
ハーフリングってあれだろ、ファンタジー小説に出てくる小人のことだろ?
ハーフリングのことなんて、そもそも誰にも話してないんだけど。
何がどうして正体を隠すことにつながったのだろうか。
ヤッベ、マジで何言ってるか分かんね。でも口を動かす。
「うぽぽ。よく気づいたね。そういえば診療所でさ、オイラをおいて急に去っていったよね? あれはどうして?」
「あなたたちの魔術神経が未使用同然だったから、本当に術者なのか疑わしかったの。一旦離れて遠くから様子を覗くことにしたのよ。そしてハッキリと見せてもらったわ、あなたが馬脚をあらわすところをね」
「ウポ、なるほど……」
いや、何も分からねーけど。コッチが宇宙人と会話してる気分だわ。
「ところで、オイラたちにふりかけたこの粉は?」
「サツマイモ粉よ。つまり……フフ、そういうことよ」
どういうことだよ。
サツマイモ粉? サツマイモってあのサツマイモだよな。
サツマイモのふりかけだったのか……え、何、もしかして食べてくれんの⁉
「私の仕事は終わったわ。本当は殺す予定だったけれど、ヴィジターを呼び込んでまで殺す理由は無い。じゃあね」
「え? ちょ、食べ――」
「あ、そうそう。私も体をやられたんだから、あなたたちの体を潰したことは帳消しよ。変に恨んでヴィジターを呼ばないで頂戴ね。じゃ」
え、おい、え? あ……あー。
なんか、勝手に納得して勝手に帰っちまったよ。
サツマイモのふりかけはなんだったんだ。
豆腐戦士用の免罪符か? 文化侵略罪はもう許された感じ?
でも本当は殺す予定だったってさっき言ってたよな。
『俺たち殺したら宇宙戦争』作戦がハマってなかったらマジでヤバかったかもしれない。
窮地にアホな事やったらむしろ助かってしまうという逆転現象のおかげだ。これからもあやかろう。
なにはともあれ。
「みんな……勝った。勝ったぞ‼ 生存だァーーー!!!」
「「「(ぷ、る、ぷ、る!)」」」
「ウワハハハ! フーハハハ! って、笑ってる場合じゃあねぇやな。みんな……申し訳ない! 今回こうなったのは俺のせいなんだ。迷惑かけちまった……ッ」
「(ぷ)」「(る)」「(ぷ、る!)」
「ブハハッ! おいおい、痛くもかゆくもないから大丈夫だって? 最高だなそのギャグ……へへ、そういってくれるの、有難いぜ」
良い奴らに囲まれてるな、俺は。でも、実際問題この体どうなるんだろ。
グッチャグチャに砕かれてますけど、こんな重体でも治るのか?
* * * * * * * * * *
そして二時間後(体感)。
微妙に、本当に微妙にだ。
変わってるか変わってないか見た目では分からないくらいだが、治っていっていることが判明した。
それは嬉しいんだが、内心複雑ではある。
食べ物がこんな不死身体質では食べても食べきれない。
いや、まだ食べ物じゃないんだけど、食べ物になったときのことを考えるとね。
おっと、今のは捕らぬタヌキのなんとやらだな。
どれくらいの時間で完治できるかは分からないが、回復に専念するとしよう。
幸いここは街道から外れている。人間族がトドメを刺しに来る心配はないし、荒野をさまよう異形の者たちも食べ物ではない俺たちをどうこうしたりしない。
敵対生物が近づく恐れはあまり無いから、じっと待つことができる。
再起の時を迎えるまで、戦士団はしばしの休息か。
でもじっと待つって退屈なんだよなあ。
【空からゲームでも降ってきたらいいのに】。
*****
〖三人称一元視点〗
帰り道の途中。
「そんな馬鹿な……どうして……」
ラ・ダは驚愕した。たった今、概念魔術を発動されたことに。
あり得ないことだった。
概念魔術師である特異点の体には、しっかりとサツマイモ粉を撒いておいたはずだ。
サツマイモ粉とは、殺魔芋を粉状に砕いた物である。
殺魔芋を体内に摂取すると、魔術神経が燃え朽ちて魔術が扱えなくなる。
(――はずなのにッ!)
殺魔の力 宿りし、魔術師殺しのサツマイモ粉。
魔力を有する全ての生物に効果を発揮する。例外は無い。
そもそも効いたことは確認したはずだった。
【鑑定】で特異点の魔術神経が燃え朽ちているのをしかと視た。
サツマイモ粉は確実に効いている。魔術は確実に封印できているはずなのだ。
(じゃあ何? 私が概念魔術だと思っていたものは魔術では無かったというの?)
魔術でないとすれば何だというのか。心当たりは無いでも無かった。
だが、ことの真実など今はどうだって良かった。
ラ・ダは覚悟を決めた。特異点をすぐにも斃す覚悟を。
ほんの一時でも放置すれば、在来宇宙生物を呼ばれるより深刻な事態になることは目に見えているため、すぐにも対処しなくてはならない。
(<視る>三重加-空間置換/座標変換/偏光干渉――【遠視】)
【遠視】で視界を切り替えると、トントロポロンの残骸が映った。
特異点が今も同じ場所で潰れていることを確認すると、ラ・ダは、
(今度こそ潰しきる。
<握る>三重加-強化/空間置換/座標変換――【遠握】!)
距離を無視しての遠隔魔術攻撃を 特異点に放った。
*****
「あひんっ⁉ だ、誰だよ、今俺の体を突ついたの……今はじっとしてようぜ?」
ったく、どいつだか分からんがお茶目な豆腐戦士だな。ハハッ!
*****
「しまったわ……サツマイモ粉……」
ラ・ダは己の失策に気づいた。
サツマイモ粉を摂取した生物は魔術を扱えなくなるだけではない。
殺魔の力が宿り、魔術に対してすさまじい耐性を得られるのだった。
恐るべき 魔術師殺しの サツマイモ。
もはや魔術攻撃は効かず、物理攻撃を以って挑むしかなくなってしまった。
(仕方ない。魔術師だけれど物理でいくわ)
特異点のいる現地におもむき直接潰すと決めたラ・ダは、【滑走】の魔術を行使して移動を始めた。
本当は【飛行】の魔術を使いたかったが、使えなかった。
どんなところであろうと、どんなに低空飛行であろうと、飛べばたちまち竜がやってくるからだ。
瞬時に地上に降りれば興味をなくして追ってこないが、そんなことを繰り返すより【滑走】の方が断然早い。
そんなわけで、来た道を逆戻りして滑っていると、
「あっ⁉」
またもや世界の書き換えが起こった。あの特異点がひき起こしたのだ。
なにが起こったのか、調べるまでもなくそれは目の前で発生した。
「道が……なくなった⁉」
厳密には、ラ・ダの前方に続いていた荒野の風景が『海』に変わっていた。
どこか別の場所に移されたのかと思い周囲を見回すと、後ろには先ほどまで進んできた景色があった。
つまり、ラ・ダが別の場所に追いやられたわけではないらしい。
目の前に広がっていた荒野だけが忽然と消えたのだ。
状況を把握するため、彼女は【遠視】で超上空から地形を確認する。
(…………ウソでしょ……)
大陸が、ふたつに割られていたのだった。
ひとつだったはずの大陸が、海を境にふたつの大陸となっている。
ラ・ダのいる場所がちょうど切れ目となっており、
行く先に見えていた荒野は遥か彼方、海を越えた向こう側に離れてしまったのである。
つまり特異点は今、ラ・ダとは反対側の大陸にいるということになる。
追おうにも――追えるはずが無い。
(やられた! 空を封じられた今、向こうの大陸には渡れないわ……‼)
再会の時は、すぐには訪れそうになかった。
第二章、完
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