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第2話。 プロローグ 過去。

お引越しなので9話まで内容は変わりません。

 時は悠斗が異世界へと降り立つ半年ほど前にまで遡る。

 フレイヤ歴5328年  ロシナンテ王国歴482年 1月初旬


 ―――鎮魂の森某所。






「シエラ!!早く!」


「分かっています!ですがどうしてもやっておかなければ成らない事があるのです!」


「あぁああ……それは分かってるけど!でも恐らくあと数分しか有余は無い!!だから兎に角急いで!」


「私を捨てても構いません。だから私に構わずアヤノは先に逃げると良い……いえ、逃げなさい!」


「そんな事出来る訳が無いだろう!私が何故ここに居るかシエラだって知っているだろう?!だから四の五の言わず兎に角さっさと終わらせる!いいか?あと数分だから!数分経てば敵が来る!そこから私が相対したとしても、貴様と同族の奴が二人なのだから、そう長くはもたない!」


 シエラよりも遥かに幼いとはいえ、相応の戦力は有しているだろう。

 しかもそれが二人ともなれば、やはり長くは持たない。


「わかりました……出来る限り急ぐ……完成すれば信号魔法を打ち上げましょう。ゆえにそれを見たら直ぐにアヤノも逃げなさい」


「分かった、では私は表で迎え撃つ!」


「絶対に死んではだめ……死んでしまったら私は私で彼に顔向けが出来ない……ゆえに死なないでください、アヤノ……」


 悲痛な表情でそう訴える女性を見やり、私は大きく頷く。


「……大丈夫、絶対に私は死なない。死ねる訳がないじゃないか」


 そう、私は絶対に死ぬわけにはいかない。

 今なおも作業を続けるシエラから別れ、地上へと続く階段を上りながらそう呟いた。




 私は今、人が居なくなってから1000年は経つと言われる、廃墟と化したとある塔に居る。

 勿論私一人では無く、もう一人耳の尖った人族の女性と一緒に居るのだけれど。


 その人族はエルフ種……それも超希少種族でもあるハイエルフ種の女性。


 彼女は400年以上を生きていると言った。


 無論それが本当ならいい加減にお婆ちゃんも良い処……というか白骨死体……もしくはリビングデッドだとしても何ら不思議では無いのだけれど、どういう訳か生きてもいるしお婆ちゃんでもなく、更には見た目は今年23歳になった私よりも幼く見えなくもない。



 この世界へ着床して既に一年半が経過しようとしているのだけれど、私が今ここに居る目的……それは2年半前の出来事にまで遡る。



 その時に何が起こったのかどうかなど、この際どうでもよくも有るけれど、その時の影響で、私は自分の意志で地球では無い別の異世界へと2年半前に旅立った。私が愛する彼に見守られながら。


 結果的にみれば、彼には大変申し訳ない事をした……彼の為だとはいえども大変迷惑もかけたし、大変な重荷を背負わせてしまったかもしれない。……自惚れなどでは無く、間違いなく彼は私に好意を向けてくれていたし、私も彼をこよなく愛していたのだから。


 だが、私は彼に優しく包まれる生活よりも、彼を助ける路を選んだ……彼の助けに成る路を選択した。



 ……そうする事が彼の為になると思ったのだから。



 転移を完了して既に1年半……最初はどこをどう行けば良いのかすら分からなかったのだけれど、微かな導きによってようやく目的の地まで辿り付き、そして保護する対象を見つけ、その結果今のこの切羽詰まった状況に繋がって居る。


 別段シエラというハイエルフの女性が、我儘を言って居るから切羽詰まって居るというわけではなく、単に私が異世界へ来た理由にもつながる話。



 私は未来を知る事が出来る。



 いえ……厳密に言えば、2年半前までは知る事が出来た……が正解だろう。だから、今はそういうステキな能力は持ち合わせてはいない。



 こちらへ転移してくる途中で消え失せてしまったのか、もしくは別の何かが働いて居るのか、それすら分からないのだけれど、兎に角私は私の目的の為にこの一年半を費やした。


 探して……探して……漸く……




 目的の女性に出会ったのはつい10日前になる。その時、私は心の中で小躍りをするほどに喜んだものだが、目の前に現れた耳の尖った白金髪の女性は、冷たい瞳を私に向け、こういった。


『私に影響を及ぼせる者は私の人生においてただ一人だけ……それは貴方では無いのは確か。ゆえに早急に立ち去るが良いでしょう……さもなくば……』


 問答無用とばかりにロッドを持った左手を振りかざしたシエラは、すぐさま見た事も無い程の業火を生み出し、私に向かって投げつけた。


 勿論、私は『話がある!貴方にとって大切な話が!』というのだけれど、相手は全く聞く耳を持たない。


 あらゆる魔法を駆使して攻撃して来るシエラを、あらゆる言葉を並べながら説得しつつ回避に専念をする事6時間あまり。


 漸く彼女は私の話を聞く用意がある状態までに落ち着いた……


『では何ですか?貴方は私が出会うべき方の親族だというのですか?』


『ええ、その通りよ』


『だがその方がこの世界へと訪れるのは5カ月も先では無いのですか?』


 やはり……ちゃんとこの人は知って居るんだな……

 彼が来ると言う事を……


『私には……今は視れないけど、未来を視る事が出来る<予知夢>という能力があったの……信用してくれなければ始まらないけどね……』


『それはよいでしょう、何故ならば5カ月後に訪れる者の名を知る人族は、この世界に私以外一人として居ないのですから、その名を知りえた貴方の言は正しいということでもあるのですから』



 目の前に立つこの世の物とは思えない程の優雅さを兼ね備えた白金髪の女性。

 その名をシエラスフィール=グレイシア=ドゥ=アウレシウスという。


 私もそこそこの容姿を持つ女性だと自負しては居るのだけれど、目の前の女性からしてみれば全く持って取るに足りない程で、ごめんなさい自惚れですと謝ってしまう程だと感じた。……それほどまでに女性の私から見ても美しく、嫉妬も何も起こらないほどに、聡明で気高く高貴なハイエルフ。


 全ての女性を感嘆させ、全ての男性を跪かせるだけの美貌を兼ね備えているにも関わらず、私を問答無用で攻撃してきた時に見せた、膨大な質量を纏う大魔法の数々とともに、目的を達成する為の揺るぎない強い意志。


 もしも私が能力的に”彼”の加護を受けて居なければ、今こうして言葉を交わす事など出来ようはずも無かっただろう……それほどまでに圧倒的な能力……そしてこの世界の理ことわりにも通じる<鍵>に成りうる程に重要な人物の中の一人……


 彼女がこの地へ来たのは一月前だと言った。

 追われて、逃走し、そして最後の手段しかなくなり、それを行うためにこの場へと逃げて来た。

 それから今日の今まで最後の手段を行使すべく時間をかけて準備を行い、今日あとわずかで完成を見る。


 だから私はそれを全力で守らなければ成らない。

 例えこの命に代えても……


 ……私はどうしてもこの美しい女性、シエラスフィールを護らなければ成らない。



 それが私の運命なのだから。




「あぁまずいよね……気合いを入れなきゃ……」


 ふと10日前の事を思い出し、一瞬これから起こるであろう出来事に対して警戒心が薄れる。

 あと数分もすればこの塔を目掛けて敵が訪れ、間違いなくここは戦場になるだろう。


 そういう予感もするし、実際に2年半前に見た予知夢ではそうだった……


 私が来たから大丈夫……だとは100%言いきれないのが、何とも歯がゆい処なのだけれど、それでも彼女を逃がす時間くらいは稼ぐことが出来るだろう。


「さてっと……どんな敵が現れるのか。……2年半前に見た夢では、ゴスロリっぽい衣装を身に纏った中学生くらいの娘たちだったけれど、果たして同じなのか……違うのか……」


 私が来た事で未来が既に変わった可能性は十分にある。

 だけれど、変わった未来を視る事が出来ない以上、例え変わって居たとしても今更どうしようも無いのも事実……



「まぁ……何とかなるよね……」


 その言葉が気休めでしか無い事は自分でも十分理解している。


「どうしても無理なら……<リーブの翼>を使うしかないかな……でもシエラの信号魔法を確認するまでは……やっぱり使えないよ……じゃないと来た意味がないもん……」


 10日前のシエラとの戦闘を思い出して、これから訪れる招かれざる来訪者の力量を推し量る。


 シエラ程の戦闘力を今から訪れる者達が持つかどうかは定かでは無い……だが、その招かれざる客人は間違っても弱い筈が無い、何せ、シエラと同種……ハイエルフなのだから。


「1人ならね……何とか時間稼ぎは出来るかもだけれど……二人だもの……ちょっと無理かな……怖いなぁ」


 弱気の虫が思わず発動してしまった。


 普段の私は今みたいに小心者で心が弱い。おっとりとしすぎて居るとまで言われる程にのんびり屋さんでもある。

 だが、私は得物を持つと人が変わったかのような言葉遣いとキツイ性格に成る。まるでジキルとハイドのように。


 なぜそうなってしまったのか。……それは幼少の頃に祖母から教えられたある種の暗示のようなモノ。


 気の弱い私を見かねた親戚のお婆ちゃんは、『どうしてもあの子の後ろをついて行きたいなら、あの子の役に立ちたいなら、もう一人の貴方ではないけれど、それに似たような貴方を創るしか道は無いわ。……貴方は優しすぎるから……』そう言われて創り出したもう一人の私。


 人格を創り出したわけではないので入れ替わるという事もないのだけれど、暗示ではあるのでどうしても言葉遣いは違ってしまう。


 それを彼は何も言わず受け入れてくれたのだけれど、やっぱり私自身に最初は違和感もあった。本当はこんなガサツでキツイ性格じゃあ嫌われてしまうのではないかと。

 でも彼はちゃんと行動で示してくれた。

 あの夏の暑い日に。


 思い出してしまえば赤面してしまうその出来事。

 もう遠い昔のような出来事だけれど、私にとっては一生の思い出。だから――


「大丈夫よ。うん」


 そう思いつつ、塔の手すり部分に立てかけてある、私の愛槍に目を移す。

 天照様がわざわざくれた私の愛槍。


 これがあるおかげで、シエラの攻撃を6時間も耐えられたともいえる程の槍。

 全てを薙ぎ払い、全てを滅する事が可能な程の槍。


 その槍の名は……神槍 グングニル。


 この世界ヴァルフレイヤを作り上げた神の一人だという今は無き大神オーディンが持っていた槍なのだそうだ。

 そんな大層なものをと最初は思ったが、逆を言えばそれが無ければ話にならないともとれる。


 それは即ち彼が授けてくれた力だけでは足りないと言われたも同じ。

 彼に申し訳なく、私はなんて弱いのだろうと嘆いたりもしたが、それでも目的の為にと受け取った神槍グングニル。


 そしてそれを握りしめた瞬間に、意識がカチリと切り替わる。


「流石に慣れたけどな、この感情にも、この槍にも……っと、また気が緩んで居る……どうもダメだな……」


 今日で目的の一つを達成できる……私が来た理由を一つ達成できるはず……そう思うと何故か体の中から高揚感のようなものまで湧き上がる。

 緊張感も恐怖感も当然あるのだけれど、やはり彼の役に立てる……そう思えるだけで私は前を向ける。


「一つ私がここへ来た証でも刻んでおこうか……」


 そう言いながら塔の屋上の手すり部分に神話級の槍で、自身の名を連想できる漢字を彫る。


 綾……と。


 直接綾乃と書くともしかしたら今から来る奴等に私の名前が気づかれて、今後何かと面倒な事にもなりかねない。だから[名古屋]とか[うい〇う]とか[七〇ゃん人形]とかでも恐らく彼は気付いてくれるだろうけれど、やはり自分の名前に近い名で刻んで置きたかった。


「とは言ってもこの塔がこれから破壊されてしまわないとも限らないな……でも……まあ、一つくらいは残して置いてもいいだろう。あ、家に落書きをして済まないシエラ]


 謝罪をした対象の人物はここには居ないのだけれど、ガリガリと削りながら口から謝罪の弁がでてしまう。


「これでよし……っと。もう……来る頃だな]


 掘り記した後、再度周囲を見渡す。


 森は相変わらず静まり返っては居るけれど、先ほどまでは感じる事もなかった威圧感を、薄くではあるが肌で感じ取れる。


 未だそれが招かれざる双子のものだと感じる事は叶わないけれど、それでもそれは徐々に近づいてきているのは分かる。


 ゆっくりと散歩でもしているかのように。




「来たか……やはり二人……他は……居ない……」


 塔の屋上で周囲を警戒して居た私は二つの気配を感じた。


 距離にして100m……まだ魔法のレンジでは無い筈だ。


 シエラは今私が立って居る塔の真下に居る筈だから、彼女にも危害は及ばない。



「さて……招かれざる客人をお迎えしますか」


 そう言って塔から一足飛びに飛びおり、入口付近まで来ていた双子のゴスロリハイエルフの前に立つ。


 行き成り頭上から現れた私を見ても、目の前の双子は微動だにもせず驚いても居ない。


 既に遠巻きから私の存在を知って居たのかもしれないし、余程自分達の力を確信しているのか……それとも……私なんて本当に取るに足らない程だと思って居るのかもしれない。



「おやぁ……あなたどなたかしら?」


「数分前から塔の上に立ってたね……気付いて居たよ」


「わたくしは気付かなかったですわ……」


「お姉がにぶいだけ……」


「んまぁあああああ……っと……そのような事はどうでもよろしくてよ?今わたくし達はここの主にご用があるのだから……さっさと用事を済まして帰りましょ?……という訳であなた取り次いでくださる?」


「ねぇねぇ……貴方って転移者よね?よね?違う?」


「そのような事はどうでもよいのですから、早く用事を済ませて帰りましょ?」


「あ、ねぇねぇ、その槍って凄いね!ちょうだい!売るといくらかなあ……」


「ですからそのような事などどうでもよいのですわ。あなた早く取り次いでくださいませ」


 まるで二人ではなく3人も4人も居るかのように、コロコロと会話が変わって行く。


 ……どういう事だろうなどと不思議に思う暇なんて無い。


 目の前の双子は明らかな殺意を私に向けて居るのだから。

 常人ならばそれだけで腰が砕けてしまう程の殺意を。


 だが……だからと言って怯むわけにはいかない。


「何も言わず引き返してはくれないか?」


 無理と分かりつつも聞いてみるが……


 私の言葉を聞いても、全く聞こえて居ないかのように、双子のハイエルフは尚も続けて口を開く。


「ねぇねぇ……貴方って転移者よね?よね?でしょ?」


「この方は耳が聞こえない方なのではないでしょうか……先ほどから取り次いで頂けないでしょうかと……丁寧に申しておりますのに……」


「だーかーらー……転移者よね?そうでしょ?あ、槍ちょうだいね?嫌だといっても貰うけど」



 もしかしてこのまま時間を引き延ばせる?……なんてことはないだろうな。

 私が1歩でも動けば、二人どちらからともなく速射魔法が飛び出して来るのは間違いは無い。


 少し近づきすぎたか……



 そうは言っても双子は自身の魔法レンジ内に必ず踏み込んで話をしただろうから、結局のところ同じ事。


 即回避が出来るような態勢をとりつつ、私は戦闘開始の言葉を敵に向かって告げる。



「取り継ぎは出来ないし、ここも……通さない」


 その言葉に双子から人懐っこい笑顔が消える。


「そう……では申し訳ございません……死んでくださいな」


「転移者はしねーーーっきゃはははははは!!」


 私の拒否を受け、口の端を吊り上げる程の不敵な笑みを更に歪めた双子の姉妹は、次の瞬間容赦のない質量を纏った大魔法を、私に目掛けて二人同時に発射してきた。


 はッ、躊躇なしか。


 そもそも躊躇をするようならばこの場に来ては居ないだろう。

 誰の命令でここに来たのかは知らないけれど、それでも私は初撃を余裕を持って回避した。


 見れば先ほどまで私が立っていた場所は、石畳の上だったのにも関わらず深く抉れている。


 それを見て、ああ、これはあっさりと塔なんて崩れるだろうな。

 などと思いながらも距離をとり、魔法が僅かに掠りチリチリと焦げた肩当てを見やる。

 大丈夫だ、シエラよりかは劣る。


 だがその事で双子の瞳から色が消えた。


「……貴方、何者ですの?」

「ただの転移者じゃないね?その槍といい。ねえ、誰?君、誰?誰?どこの誰?」


 避けられた事に不満と驚きが沸き上がっているようだ。


「答える義理はない」


「あ、そう、じゃあやっぱ死んで」

「そうですわね。目障りですから死んで頂きましょう」


 その言葉の刹那、更に質量を増した大魔法が私を襲う為に射出された。


 その時私は確信した。


 唯では済まないだろうな、と。

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