第3話。 出発。
どこで覚えたのか経験がないとは思えない程のバキュームフ〇ラを堪能し終え、それからは簡単なチュートリアル的な説明をシャルルにしてもらった。
簡単とはいえ、殆ど知らないも同然なのだからそれなりに時間を要したけれど、話も終わり、あとは移動しながらでもとなった所で、何時までも明けない夜に気付き、ふと気になったので聞いてみる。
「ところで、今何時くらいか分かる?」
1回で良いと言って居たのに5回も搾り取られ、次元酔いのおかげ様もあってか若干ふらつきながらも、シャルルと一緒に精霊の泉を発つ準備をしている。
尤も、シャルルに準備などは必要なく、既に擬態を解いて元の小さな精霊に戻って近くをふわふわと飛んでいるだけだが。
そして時間を聞いたのは、僕が天照様から聞いていた時間と異なる気がしたからなのだが……
「んー……いまはまだ日付が変わって一刻しか経っていないですの!」
「……へ?2時?午前2時過ぎ?」
ハイですのー!と元気よく返事を返すシャルルを後目に天照様から聞いていた時差に関する話を思い出す。
確か朝の5時にこちらへ到着するとかどうとか……という事は……そういう事なわけで。
その時僕は女神に嵌められたのだと悟った。
「やられた……」
「どうしたですの?」
「いや、なんでもない」
とはいえまあ、僕の性格を考えれば仕方が無いか。
その時になればあっさりと決断できるが、事前に知るとあれこれ悩む面倒くさい性格なのは僕も天照様も十分理解をしている。
ゆえにそれを見越しての事だろうから、有り難い嘘ではあった。
「さてっと、少し腰のあたりが重いけど、そろそろ行こうか。」
「大変ですのね。あ、ユトにプレゼントがあるですのよ」
腰が重い原因は君にもあるんだけどなと思いながらも、気持ちよかったのでスルーをしつつ話を合わせる。
「ああ、そんな事を聞いていたよ」
実は先に異世界へと飛んだ綾乃と同じように、僕が飛んだ時にも何かを事前に渡しておくと天照様には言われていた。勿論事前に持ち込んだ愛刀の村雨はそのままあるが、それとは別に用意しておくと。
僕の言葉を受け、もったい付けるかのようにニマニマと笑いながらシャルルはクルクルと回転しているが……目がまわらないのだろうか?
そんな心配をしていたら、じゃじゃーーん!と擬音を発し、彼女はボックスのようなものを目の前に出現させた。
「な……なにそれ……」
箱に対してもだが、それはもういきなり現れたのだから、その事に驚きもする。
「まじっくきゅうぶううう!」
「……それどうやってそのネタ仕入れた?」
明らかに昔馴染みの猫型ロボットアニメのパクリだろう。
ワザとだみ声を作ろうと試行錯誤しているあたり。
「おでこに手をあてたとき、ユトの記憶と一部リンクしたですの!だからですの!」
無駄な知識をリンクしてからに。
「喜んでもらえないですの?」
「いや、和むからそれはそれでありかも……」
「うふふぅ~♪」
むしろ機械的に無機質的に言われるよりかは余程嬉しい。
そう思い直しながら出現した箱をまじまじと見やる。
大きさは10センチ四方の立方体で、切れ目があればルービックキューブのようにも見えるけれど、切れ目などどこにも無い。
「これがマジックキューブ?」
「ですの!ユトはもうアクセプトの魔法を使える筈ですから、それを握ってアクセプト!と唱えるといいですのよ」
<アクセプト> 魔法で作られた装備品を自身の持ち物とする場合に使う魔法。
シャルルが口にした通り既に僕はその魔法が使える。
「わかった、じゃあ唱えてみる」
そう口にし、草の上に置かれた青白い金属のような物体を持ち上げ、手のひらに置き、<アクセプト>と唱える。
すると――
正立方体のキューブが淡い光を放ったかと思いきや、自身の中に吸い込まれるような感覚と共に、ゆっくりと消えて行った。
あ、しまった。
僕ってレアギフトの<鑑識>を持って居るんだから、一応見ておけばよかったかも。
消えたあとに思い出しても後の祭りである。
「それでもうユトのマジックキューブになりましたですの!」
「面白いな。使うには……ああ、分かった」
僕の言葉にニコニコと相槌を打ちつつふわふわと飛んでいたかと思いきや、近寄って肩に座って僕の耳を手すり替わりに掴む。
その行為になんだかほっこりとしつつ、先ほどのは夢だったんじゃないか?とすら。
それだけ小さく儚く見える精霊ではあるが、どうやらあの行為には続きがあって、月に一度補充をしなきゃならないらしい。
なにを?精〇を。いや、唾液でもry
とにかく、これからずっと毎月決まった日付で擬態をするんだそうな。
っと。
別の事を考えてしまい目的を危うく忘れるところだった。
そう思いなおし、マジックキューブを使用してみる。
「――マジックキューブ・オープン!」
すると――
目の前50センチ程先の何もない空間に半透明なシートのようなものが突如現れた。
それは例えるならばSF映画でよく見るようなホログラフそのままだった。
「なんじゃこれ!……すげ……」
「見れたですのね。中の物は持ち主しか見えないですので、覗かれる心配はしないでいいですの!」
どうやらシャルルにはこのシートが見えないらしい。
「魔法ってげに恐ろしや……間違いなく化学なんて超越してるぞ……」
先ほどのキューブが体内に吸い込まれるようにして消えた現象にしろ、今目の前に見える現象にしろ、間違いなく元世界の化学を遥かに凌駕している。
「魔法は、不可能なことはないくらい可能性が広がっているですの。今現在も魔法院では新しい魔法が作られているですし、ギフトを持った人族ちゃまが新しい便利な魔道具を発明しているですの」
「進歩してるってことか……追いつけるだろうか……」
「大丈夫ですの!そのためにシャルルがいるですし、巫女ちゃまが来ればユトより優秀だと天照様が言って居たですの!なのでユトはユトで出来る事をやるといいですのよ」
「気にしている事をズバッと言いますね……」
「事実で真実で現実ですの!」
「うぐ。でもまあそうする。頼りにするよ。……でもこれは凄いや」
そう口にしつつ中に物が入っているかどうか見てみる。
中は10×10のマスで区切られ、それが3ページ。ということは合計300個の収納場所があるらしい。
そして殆どのマスに物は入って居ないけれど、3ページ目の一番隅っこの方に服らしきものが2着と巾着のようなものが2個入っていた事に気付く。
「あ、服が入ってる。それから巾着?みたいなのも二つ」
「このキューブ自体と巾着2個の中身はシャルルが住んでたところから、長おさちゃまが持っていけと言われたので持ってきたですが、服は天照ちゃまがくれたですの。ささっ、ユトの恰好はちょと目立つですから着替えるですよ」
「へぇ……あ、そうだね」
「取り出したい物を指定したあと、取り出す場所を意識しつつ<プット>と唱えると取り出せるですの。でもでも意識した場所が遠すぎたり近すぎたりしたら出ないですからね」
「わかった」
有り難いなと思いつつ、ローブらしき形状をした服の上下を選択し、取り出す為の魔法を唱える。
「――プット!」
すると――
キューブの中にあった物が消え、指定した場所にちゃんと現物が現れる。
「おおっ!出来た」
なんというか、童心に還ったかのような心境だ。
たったこれだけの作業ですら胸が躍る。
「できたですの!ではそれを着てみるですのよ!」
現在僕が着ている服装は、ラフなものでジーンズとTシャツ。その下にボクサーパンツを履いているけれど、あとは靴下とお気に入りのバスケットシューズのみ。
バッシュはまあそのままでも良いだろうが、流石にこのジーンズという恰好はこの世界にはそぐわず、不審がられてしまうだろうとの事で着替える事に。
したのだが――
「これ……目立たない?」
着て見て思ったのだが、明らかに目立つ。
どういう恰好になったかと言えば、まあ、凄くアバウトに言うとすれば、フードがついていないけれど、ファンタジー的な魔法使いが着るローブそのまま。しかもところどころで刺繍は施されているけれど色は殆ど真っ白。腰が絞れている形状だから寸胴ではないが……
ああ、あれだ、もっと分かりやすく言えば昔懐かしのヤンキーさん達が好んで着ていたであろう長ラン。うん、詰襟じゃないし、中央部分で止めるわけではないけど形状的にはそれに近い。ボトムスは流石にドカンではなく少し緩めのチノパン程度だが。
「そうでもないですのよ?」
「もしかしてこっちの世界の人って皆こんな格好?」
だとするならば総コスプレ世界だ。
「いいえ?ちがうですが、ユトは武骨なフルプレートアーマーよりもローブの方が似合うですの!」
えっへんと無い胸を逸らしながらそう断言する。
だがその言葉に少しだけ違和感が。
「もしかしてもしかしてこれってシャルルの趣味を天照様に言った?」
「はいですの!ローブでこーんなのをくださいって言ったらそれをくれたですの!」
まじか……まあ、確かにプレートアーマーとかもらってもなあとは思っていたし、でも結局僕は魔法よりも剣の方に適性があるみたいだったし、どうするかなと思ってはいた。
3年前に分からなかった僕のギフト適性と魔法適正。
結局天照様が僕から抜け出てようやく分かる様になったのだが、なんていうか……魔法の才能はあるけど、ノエルや琴音程の適性は無かった。
二人は下手をすれば全属性操る事が可能かもと言われたけれど、僕は、なんていうか、魔法の基本中の基本である4大元素の内、水と風を持って居ない。いや、風の方は不得手だが何とか補助魔法としてなら使えるだろうが、水は壊滅的だと。生活魔法程度しか扱えないと言われ。それなのにも関わらず水と風の上位派生である氷と雷の適性は何故か持って居ると。
なので天照様がその時言った『へんてこなのじゃ。ちんちくりんなのじゃ』という言葉がどういう意味なのかはその時には分からなかったけれど、先ほどシャルルに聞いた話によれば、どうやら僕は高級魔法は得意だけど初級と中級がからっきしという事に。
しかも高級魔法にしても、水と風をメインで使用するような高級魔法は扱えない。風魔法は補助でなら使えるのだから、火と土と氷と雷の大魔法は使えるらしいが、それはある意味大魔法しか使えないとも言え、ゆえにヘンテコな適性を持って居ると言われても当然だろう。
因みに召喚魔法というものもあるらしいが、水と風の召喚魔法はいくら低級のものでも呼び出せないのだとか。
しかもしかも氷と雷の単体魔法は、現時点で使えない。
何故かと言えば、中級魔法に属する為、黒魔法ギルドでスクロールを買って覚えなさいらしいのだから、実質今使える攻撃魔法とは火と土の単体魔法と小範囲魔法、それから使用すれば目立つこと間違いなしで自重しなさい状態の大魔法3個しかない。
ただ、4大プラス2大元素とは違い、気を練りそれを魔力と結合させて使用する<念魔法>に関しては、僕は気を練る事が得意なので、全て覚える事は可能で既に2種類は持って居るのだが……そもそも念魔法なんて生身の人か闇属性か念属性にしか殆ど利かないのだから、非常に使う場所は限られるらしい。
あと、何個かの回復魔法と、それからこれまた使いどころが限られる変な高位魔法もあるが、やはりちんちくりんなのは僕が見てもそうだなと。
可哀そうですのなどとシャルルに言われつつ、小さな手で頭をなで慰められてちょっと嬉しかったけど。
その代わりといってはなんだが魔力自体は非常に高い。
魔法というものは魔力の大きさと消費魔力量によってその結果が変わる。
なので同じ魔法を別々の人が唱えても、相手に与えられるダメージはイコールではないという。
同じ魔法なので魔力消費量は当然同じなのではあるけれど、魔力が大きい小さいでダメージが全く違うのだそうだ。だから僕は使える魔法に関してだけをいえば、それはもう驚きを通り越す程の威力を出せるらしい。んが、思うように僕は魔法を扱えないというオチ。
それらを踏まえると、僕は宝の持ち腐れ主人公という事になってしまったという、非常に恐ろしい結果だった。
なので当分は剣に生きると決めた。
でも魔法は使いたい。でも大魔法なんてめったに人前で使うもんじゃない。
更には人前ではもっと使いづらい<古代魔法>なるものも何個か持って居るのだから、一体どうすれば。
その辺りのジレンマを今後どうするべきか。きっと壁にぶち当たるような気がしなくも。
まあ、最強の火と土とそこそこの聖と念と光だけでも十分といえば十分なんだよ。きっと十分なんだよ。
そう自分に言い聞かせつつ、出発の準備を終えた。
因みに巾着袋2個の中身。一つはゴルドでもう一つは何だか金色と銀色のパチンコ玉のような玉がごっそり入っていた。ゴルドはお金で間違いなかったが、金玉と銀玉はどうも精力剤?なのか?よくわからなかった。
そして転移した時に持って来ていた村雨。
これを出発前に<鑑識>してみたのだけれど、名前が変わって居た。
その時のステータスをペタリ。
【名称:ムラサメブレード】
【所有者:ユウト=カミキ】
【分類:片刃 片手剣】
【ランク:幻想級】
【属性:水属性】
【ATK:500】
【耐久値:無限】
【特殊効果:ATK+100・一撃毎にHPMP-10・常時自動修復】
【備考:扱いが非常に難しい幻想級武器ではあるが、手懐ける事が出来るなら幻想級武器の中でも最大級の攻撃力を出せる】
このATKとかHPとかMPとかがいまいち良くわからなかったのだが、シャルル先生曰くATKは攻撃力の事でこの世界の公式によって数値化されたものらしく、同じくHPが生命力を数値化したものでMPが魔力量を数値化したものらしい。
とはいえ攻撃力に関してはその数値が必ず相手に対して有効ではないそうで、相手の防具だったり刃の入り角度であったりで減算される。要するにMAX攻撃力が500というだけでそのままの数値はそのままでは決して出ないらしい。その辺りの詳しい説明ははおいおい聞けるだろう。
ただ、他人はおろか自分のそういった数値がさっぱり見えないのだから怖いなんてもんじゃない訳で、特に一振り事に10ずつ減っていくと言われたら、恐怖以外のなにものでもないだろう。どうすんの?僕のHPが10だったら使った瞬間に死んじゃうじゃないかと。
そんな風に言うと「大丈夫ですの!ユトはシャルルが見たところ700回切っても無くならないですの!」だそうだ。
とはいえこの世界の男性の平均値が数百HP程度らしいので、シャルルの言葉通りならば7000HPは有るという計算になり、さっそく頭おかしいレベル。
しかもHPは時間と共に回復をし、さらにヒールという回復魔法でも回復し、さらにさらに回復ポーションなどというものでも回復するそうなので、案外と心配するような事ではなかった。
因みに、レアギフトの<鑑識>では人を数値化した状態で見る事は出来ないけれど、その上位である<鑑定>というユニークギフトがあれば、人を疑似的に数値化できるのだとか。
すなわち唯奈さんは来て早々人を丸裸に出来るんだなと。流石エロいですよ唯奈さん。
そして人族では現時点で誰も持って居ない<鑑定>をシャルルは使えるらしい。シャルルに限らず精霊族は殆どが<鑑定>を持って居るそうだから羨ましい限りだ。まあ、神の僕っていうくらいだから当然っちゃー当然だろうなと。この世界に今は神様居ないけど。
とはいえ、人間族の平均が数百HPだとすれば、このATK500なんて数値は化け物でしかないわけで、シャルル的に見てもそれは同感のようで「ちっちゃなおこちゃまが装備しちゃっても屈強な獣人を切れちゃいますの、怖いですの!」とブルっと小さな体を震わせた。おっぱいは無いに等しいのでおっぱいは揺れないが。
そして人間族の成人男性の平均ATKは50程度らしく、僕のATKは500近いと聞かされATKも10倍かよ……と顎が外れる程だった。
その他のステータスINTであるとかDEXであるとかも同時に説明を受けたけれど、長くなるのでシャルルに1冊のノートに纏めて貰った。
なので興味があればそれを見ればいいだろう。
ただ、この村雨改めムラサメブレード。
特筆すべきは水属性を最初から保持している。
それは即ち僕が扱えない水魔法の代わりに成るという意味でもあり、これで少しは弱点を補えるのではないかなと淡い期待を抱かざるを得なかった。
さて、その辺りどうなる事やら。
因みに既に着たローブとボトムスも鑑識してみたのでそれもペタリ。
【名称:オーディンローブ】
【所有者:ユウト=カミキ】
【分類:防具・上半身】
【グレード:神話級】
【防御属性:聖属性】
【DEF:195】
【MDEF:510】
【耐久値:40000/40000】
【特殊効果:耐久値自動修復・全属性50%減少・聖属性攻撃吸収・闇属性攻撃完全耐性・破壊不可】
【備考:主神オーディン自らが纏ったとされる法衣。物理防御耐性は左程特筆すべきものは無いが、魔法防御耐性においてオーディン法衣に並ぶものは存在しないという。】
【セット効果:オーディンボトムスと同時着用時MP+1000・INT+50】
【名称:オーディンボトムス】
【所有者:ユウト=カミキ】
【分類:防具・下半身】
【グレード:神話級】
【属性:聖属性】
【DEF:105】
【MDEF:385】
【耐久値:30000/30000】
【特殊効果:耐久値自動修復・全属性50%減少・聖属性攻撃吸収・闇属性攻撃完全耐性・破壊不可】
【備考:主神オーディン自らが纏ったとされる法衣。物理防御耐性は左程特筆すべきものは無いが、魔法防御耐性においてオーディン法衣に並ぶものは存在しないという。】
【セット効果:オーディンローブと同時着用時MP+1000・INT+50】
まあ、予想はしていたけれど、とんでもない代物だった。
オーディンってあのオーディン?と聞くと『あのオーディンちゃまですの!この世界を創造した神様の一柱ですのよ!』と。
今は既にもう一柱のフレイヤ共々消滅してしまっているらしいが、そんな神の法衣を受け取ってもいいのかと。
ていうか天照様って何者?と今頃になってそこが気になりだした。
が、それよりも何よりも、出発をし、途中の雑談でこの国の貨幣価値と元世界の貨幣価値が凡そ同じだと知ってしまった僕は、マジックキューブに入っていたゴルドを思い出し、その金額の大きさに思わずひっくり返ってしまったのだった。
『多分1億ごるどは入って居る筈ですの!』だったのだから。




