プロローグ
『太平洋で行われた日米共同訓練に参加していた自衛隊の艦、一隻が沈没しました』
そんなニュースが流れたのが半年前。一部の過激派がこれを機会にと散々騒ぎ立てたが、平和ボケした一般庶民には芸能ゴシップと大した差はなかった。
平和にぬくぬくとあぐらで座り続けた報いか、突如として日本を、世界を驚愕させるような事件が起こった。
その日も特に変わらぬ日であった。強いて上げるならば少し風が強いかというくらい。隕石のニュースが日本全国を沸かせた。だがそれはすぐに悲報へと変わった。
日本上空で空中分解したその破片は日本を囲うように落ち、その直後日本を覆うようにバリアが現れた。戦闘機、潜水艦、全てが阻まれ通信も繋がらず、日本は世界から完全に孤立してしまった。
だが悲劇はそこで終わらなかった。バリアの次に現れたのは機械の軍団であった。東京湾から上がった軍団は東京を蹂躙。銃等の遠距離武器を持たない軍団を警察、自衛隊は混乱したもののすぐに鎮圧したが、再び機械軍団は現れた。倒しても倒しても現れる機械軍団に自衛隊は撤退を余儀なくされ、これを好機と見たのか機械軍団はその数を一気に増やした。太平洋沖に母艦と見られる物体が浮上し、それを撃破しにかかるも軍艦、戦闘機はことごとく撃墜され、エイリアン・ガジェットと名付けられたこの機械に日本は為す術もなく、国土は首都圏近郊。そして国民の半数以上を奪われた日本は壊滅状態と言えた。
そして再び半年後……
荒れ果てた道路。崩れかかったビル。半年前には人で溢れていたであろうここに、現在見えるのは十数人の男女のみ。その全員がセーラー服やブレザー、学ランといった制服を着て、腰に刀を下げていた。
近距離武器しか持たないエイリアン・ガジェットに対して銃器は距離的アドバンテージを稼げる物であった。しかし、他国からの援助も望めず、次から次へと現れる敵に対して弾薬に限りある銃器は、積極的に使われる武器ではなくなった。
そして、簡単に援助を望めないのは人員も同じ。各避難所で募集が行われ、その年齢も引き下げられ、血気盛んな若者達が多く集まった。
「本当にこんな所に避難所があるんですか?」
セーラー服にベージュのカーディガンを羽織りマフラーを巻いた少女、横瀬莉緒が前を歩く少年に声をかける。
「そうらしいな」
話しかけられた少年、菅原一丈はそれだけを素っ気なく返す。同年代に見えるが、二人の雰囲気はまったく違っていた。
場所は茨城県。エイリアン・ガジェットの蔓延る最前線に近い所に避難所があるのは信じにくいが、この集団は何度もそういう所に足を運んでその度に避難民を探した。故に最初の莉緒の質問も、歩き続けたことへの不満でもあった。
「これだけ歩いたんだからもうそろそろのはずよ、莉緒ちゃん」
それをわかっていてかフォローを入れるのは、一丈と同じブレザー制服を着た久住果穂。カールのかかった茶髪をサイドで結わえる莉緒に比べると、艶のある黒髪を腰まで伸ばした果穂はとても女らしく見えた。
「気を張れ。急ぐぞ」
一丈の言葉に、寸前までだらけていた莉緒も顔を引き締める。遠くから聞こえる金属の駆動音、瓦礫の崩れる音。この先に避難所があったはずだ。今回も間に合わないな、と誰もが感じていた。